16 / 43
第一部 ガーランド転生騒動
対策を考えましょう
しおりを挟む
翌日、私はまたも早朝の学校へやってきた。
北庭で待っていると、笹原さんも遅れてやってきてくれる。昨日のうちに、メールでここへ来てくれるように頼んでおいたのだ。
「待たせてごめんなさい」
「ううん、私もついさっき来たばかりだから」
彼女と一緒にベンチに腰掛ける。
笹原さんは、完全に手帳を読み尽くしただろう私と会うことに、緊張を感じているようだ。笑顔がどことなくぎこちない。
そんな彼女に、私は手帳を差し出す。
「まずはこれ、返すね」
手帳を返された笹原さんは、ほんの少しだけ頬のこわばりを解いた。手帳を読んでも、まだ私が妄想だと考えて、病気の人扱いされてしまうのではないかと心配していたのだろう。
大丈夫だよと言ってあげたい。黒歴史保持者な私も、妄想ノートの生産履歴はあるのだ。
でも笹原さんのは妄想ではない。
私のは本物の妄想で……。ちょっと寂しい。
「読んで……どう?」
「うん。読んだ上でキース君を避ける方法を考えてみたんだけど……聴いてくれる?」
あまり間を置かないようにそう問いかければ、笹原さんは目に見えて安堵した表情に変わる。
「まず、笹原さんは昔の自分を忘れて生きていきたいんだよね?」
笹原さんはしっかりとうなずく。
「うん」
「だとすると、今まで以上にがっちりと『こいつ絶対妹に似てない』とキース君が思うような行動をするべきだと思うの。一言『キモイ』って言うとか。もちろんキース君と二人だけの時に、だけど」
「ううぅ……」
良い案だと思ったのだが、笹原さんは渋い表情でうめく。
「言いにくい……」
「だからこそよ。こっちは異世界の人間なんだから、堂々とこっちの価値観を見せつけないと」
「でも直接言ったら、あの国の人のことだから、激怒しそうで……」
今や別人とはいえ、記憶に残るかの国の慣習が心に染みこんでいる笹原さんは、キースが怒ることに怯えているようだ。
まぁ確かに、失礼な人じゃないと他人に「キモイ」と堂々と言うものでもないか。私もエドくらいにしか言わない。
ただ、妹であることを完全否定するには、大好きとは180度反対の態度をとるべきだ。
「昔は不愉快なんだと言えなかったかもしれないけど、むしろそういう行動をした方が、キース君に見知らぬ人間につきまとってるんだ、って気づかせることができるでしょ」
私は一生懸命笹原さんの背中を押した。
それにキースが本当に妹の死にショックを受けて、ちょっと似てそうな人にそう言って回ってるのなら、これで終わりになるのは間違いない。
そうなら多少可哀想な手段だが、見知らぬ他人に妹代わりを強要するのも問題がある。なので彼が落ち込むようなら、カウンセリングを受けられる病院を紹介する所存だ。
それでも笹原さんは不安をぬぐえないようだ。
「あと、キース君の取り巻きが、怖いことしそうで」
そう言われると、私もなんかだんだんと不安になってくる。
確かにクラス内に憎まれるほどの敵を生産するのはよろしくない。うっかり今後の笹原さんの人生がセピアに染まりかねないだろう。
「ええと、そしたらもうちょっとマイルドに行く? 本人に言うんじゃなくて、ぽっと心の声が漏れた感じで『親しくない人に妹みたいとか、気持ち悪い』みたいにつぶやいちゃうなら、反論しにくいだろうし」
「気持ち悪いは絶対なの……?」
「そりゃもう。全然親しくない人から突然『君は妹に似てるんだ、お話したい』って言われて、気持ち悪くないわけないでしょ」
私が言うと、笹原さんはちょっと戸惑う表情になる。
「そう……よね。見知らぬ他人ならそうなのかも。どうしても私、前世……って言っていいのか、フェリシアの時のイメージで兄として見てしまうから」
笹原さんは妹呼びされたことに衝撃を受けて、妹呼びはナチュラルに受け取ってしまったようだ。
手帳の中でも「兄が来た!」と意識していたのだから、兄という認識が強くなっていたに違いない。
「怖いなら、フォロー役用意する? またエドになると思うけど」
補助案を提示すると、笹原さんはやや考え込んだ後でキッと強い瞳で前を見た。
「あの……やってみる! そうよね。きっとあの国の人なら、酷い言葉で罵られた方が、こっちを嫌悪して近寄らなくなるかもしれないし。せっかく案まで出してもらったんだから、がんばる!」
「がんばって!」
私は決意してくれた笹原さんの勇気をたたえた。
そして私たちは――計画を実行に移す時を待った。
なにせフォロー役を投入するためには、決行は休み時間でなければならない。
そしてキースが笹原さんに接触してくる可能性が高いのは、昼休みなのだそうだ。
キースは常に、ファンの女の子に囲まれているからだ。けれどキースも、昼にはクラスの男子とも会話をする。
昼休みには、そんな双方を上手く会話させるように仕向けて、するりと一人で抜け出すらしい。
驚くべき社交術だが、まぁ、女王の摂政になりたいと望んだほどなのだから、それぐらいできてしまうのだろう。
そうして一人で購買などに行こうとする笹原さんに接触してくるようだ。
笹原さんと私は、そこを狙うことにしていた。
できるだけ大ごとにならないようにと、笹原さんには人が少ない場所を目指して歩いてもらう。キースが追いかけて来ないようなら、そのまま自由にしてもらう事になっていた。
しかし、事態は急変した。
北庭で待っていると、笹原さんも遅れてやってきてくれる。昨日のうちに、メールでここへ来てくれるように頼んでおいたのだ。
「待たせてごめんなさい」
「ううん、私もついさっき来たばかりだから」
彼女と一緒にベンチに腰掛ける。
笹原さんは、完全に手帳を読み尽くしただろう私と会うことに、緊張を感じているようだ。笑顔がどことなくぎこちない。
そんな彼女に、私は手帳を差し出す。
「まずはこれ、返すね」
手帳を返された笹原さんは、ほんの少しだけ頬のこわばりを解いた。手帳を読んでも、まだ私が妄想だと考えて、病気の人扱いされてしまうのではないかと心配していたのだろう。
大丈夫だよと言ってあげたい。黒歴史保持者な私も、妄想ノートの生産履歴はあるのだ。
でも笹原さんのは妄想ではない。
私のは本物の妄想で……。ちょっと寂しい。
「読んで……どう?」
「うん。読んだ上でキース君を避ける方法を考えてみたんだけど……聴いてくれる?」
あまり間を置かないようにそう問いかければ、笹原さんは目に見えて安堵した表情に変わる。
「まず、笹原さんは昔の自分を忘れて生きていきたいんだよね?」
笹原さんはしっかりとうなずく。
「うん」
「だとすると、今まで以上にがっちりと『こいつ絶対妹に似てない』とキース君が思うような行動をするべきだと思うの。一言『キモイ』って言うとか。もちろんキース君と二人だけの時に、だけど」
「ううぅ……」
良い案だと思ったのだが、笹原さんは渋い表情でうめく。
「言いにくい……」
「だからこそよ。こっちは異世界の人間なんだから、堂々とこっちの価値観を見せつけないと」
「でも直接言ったら、あの国の人のことだから、激怒しそうで……」
今や別人とはいえ、記憶に残るかの国の慣習が心に染みこんでいる笹原さんは、キースが怒ることに怯えているようだ。
まぁ確かに、失礼な人じゃないと他人に「キモイ」と堂々と言うものでもないか。私もエドくらいにしか言わない。
ただ、妹であることを完全否定するには、大好きとは180度反対の態度をとるべきだ。
「昔は不愉快なんだと言えなかったかもしれないけど、むしろそういう行動をした方が、キース君に見知らぬ人間につきまとってるんだ、って気づかせることができるでしょ」
私は一生懸命笹原さんの背中を押した。
それにキースが本当に妹の死にショックを受けて、ちょっと似てそうな人にそう言って回ってるのなら、これで終わりになるのは間違いない。
そうなら多少可哀想な手段だが、見知らぬ他人に妹代わりを強要するのも問題がある。なので彼が落ち込むようなら、カウンセリングを受けられる病院を紹介する所存だ。
それでも笹原さんは不安をぬぐえないようだ。
「あと、キース君の取り巻きが、怖いことしそうで」
そう言われると、私もなんかだんだんと不安になってくる。
確かにクラス内に憎まれるほどの敵を生産するのはよろしくない。うっかり今後の笹原さんの人生がセピアに染まりかねないだろう。
「ええと、そしたらもうちょっとマイルドに行く? 本人に言うんじゃなくて、ぽっと心の声が漏れた感じで『親しくない人に妹みたいとか、気持ち悪い』みたいにつぶやいちゃうなら、反論しにくいだろうし」
「気持ち悪いは絶対なの……?」
「そりゃもう。全然親しくない人から突然『君は妹に似てるんだ、お話したい』って言われて、気持ち悪くないわけないでしょ」
私が言うと、笹原さんはちょっと戸惑う表情になる。
「そう……よね。見知らぬ他人ならそうなのかも。どうしても私、前世……って言っていいのか、フェリシアの時のイメージで兄として見てしまうから」
笹原さんは妹呼びされたことに衝撃を受けて、妹呼びはナチュラルに受け取ってしまったようだ。
手帳の中でも「兄が来た!」と意識していたのだから、兄という認識が強くなっていたに違いない。
「怖いなら、フォロー役用意する? またエドになると思うけど」
補助案を提示すると、笹原さんはやや考え込んだ後でキッと強い瞳で前を見た。
「あの……やってみる! そうよね。きっとあの国の人なら、酷い言葉で罵られた方が、こっちを嫌悪して近寄らなくなるかもしれないし。せっかく案まで出してもらったんだから、がんばる!」
「がんばって!」
私は決意してくれた笹原さんの勇気をたたえた。
そして私たちは――計画を実行に移す時を待った。
なにせフォロー役を投入するためには、決行は休み時間でなければならない。
そしてキースが笹原さんに接触してくる可能性が高いのは、昼休みなのだそうだ。
キースは常に、ファンの女の子に囲まれているからだ。けれどキースも、昼にはクラスの男子とも会話をする。
昼休みには、そんな双方を上手く会話させるように仕向けて、するりと一人で抜け出すらしい。
驚くべき社交術だが、まぁ、女王の摂政になりたいと望んだほどなのだから、それぐらいできてしまうのだろう。
そうして一人で購買などに行こうとする笹原さんに接触してくるようだ。
笹原さんと私は、そこを狙うことにしていた。
できるだけ大ごとにならないようにと、笹原さんには人が少ない場所を目指して歩いてもらう。キースが追いかけて来ないようなら、そのまま自由にしてもらう事になっていた。
しかし、事態は急変した。
1
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』
透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。
「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」
そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが!
突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!?
気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態!
けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で――
「なんて可憐な子なんだ……!」
……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!?
これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!?
ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆
疎遠だった叔父の遺産が500億円分のビットコインだった件。使い道がないので、隣の部屋の塩対応な美少女に赤スパ投げまくってる件
月下花音
恋愛
貧乏大学生の成瀬翔は、疎遠だった叔父から500億円相当のビットコインが入ったUSBメモリを相続する。使い道に困った彼が目をつけたのは、ボロアパートの薄い壁の向こうから聞こえる「声」だった。隣人は、大学で「氷の令嬢」と呼ばれる塩対応な美少女・如月玲奈。しかしその正体は、同接15人の極貧底辺VTuber「ルナ・ナイトメア」だったのだ!
『今月ももやし生活だよぉ……ひもじい……』
壁越しに聞こえる悲痛な叫び。翔は決意する。この500億で、彼女を最強の配信者に育て上げようと。謎の大富豪アカウント『Apollo(アポロ)』として、5万円の赤スパを投げ、高級機材を即配し、彼女の生活を神の視点で「最適化」していく。しかし彼はまだ知らなかった。「金で買えるのは生活水準だけで、孤独は埋められない」ということに。500億を持った「見えない神様」が、神の座を捨てて、地上の女の子の手を握るまでの救済ラブコメディ。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました
もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる