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第一部 ガーランド転生騒動
エドの女子との交流会を開催してみた
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翌日の今日は、エドと女子との交流会である。
よくよく考えてみると、うちの学校は留学生の王子様やら騎士やらとミーハーめいた交流会はなかった。
入学時に『一般生徒と同じように』と言い聞かされているので、皆、なんとかその範疇からはみ出さないよう、影からそっと覗いて騒ぐだけで我慢していたのだ。
思えば去年、通称『騎士王様』というあだ名がついていた、伝説の先輩がいた頃はすごかった。
私は長い銀髪があれほど似合う男性というのを初めて見た。上背の高さや肩幅もあるのにごつい感じがしない清涼さを感じさせる立ち姿に美貌。
留学していた王子の騎士だったのだが、威厳すらあるその先輩のことを、誰ともなく『騎士王様』と呼び始めたのだ。
彼には追いかける大量のファンがいて、休み時間になると彼をひそかに追いかける静かな行進が行われていた。
決して彼に声をかけるわけでもない。交友の邪魔をするわけでもない。離れてひっそりと見守っていただけなのだが、それが数十人規模になるとさすがに怖い。
……実は二回ほど、私も混ざったのは内緒だ。だってかっこよかったんだもん。
そして騎士王先輩も、そういう集団がいるらしいことは認識していたけれど、校外でも追いかけてくるわけではないのでと、許容してくれていたらしい。
とにかく、留学生の側も進んでアイドル的な側面を満足させるような交流を行うことがなかったのだ。
けれど今回、女子たちの『お嬢様って呼ばれてみたい』という要求を満たすということは、エドによるアイドル握手会のようなものになるわけで。
「いや、すごいねこれ……」
私は笹原さんと一緒に、申込者に伝達した待ち合わせ場所へやってきていた。
昼間ならば、食事をとる人や立ち話をする人間でいっぱいのはずの中庭に、二十数人の女の子がたむろしている。
『友達を呼んでいい?』の一言がそれぞれから飛び出し、うなずいたらこの人数になっていたのだ。
誰かが指示したわけではないが、彼女達は一列に並んでいる。
そして彼女達の背後には、白い木香薔薇が植えられたアーチがあるのだが、近くには誰かが持ってきたらしい籐編みのバスケットが数個。芝の植えに座る気満々で敷かれた、クッション付きのシートまで何枚も広げられている。
会場を推薦してきた5組の女子曰く『これほどふさわしい場所は他にないわ!』ということだったが、なるほど、こういうことがしたかったのだとようやくわかった。
「エドさんて怖い人じゃないかな? ちょっとあの目が威圧感あって……」
「でも王子に仕えてる騎士っぽくない? あの尊大な感じとかがさー」
「やだー、そんな人にへりくだられるのとか素敵」
集まったお嬢さん達の会話がまたすごい。
エドの悪評もとい自らの行動の結果による評判に怯える人がいるのは当然として、騎士なら当然だと受け入れちゃってる人もいる。さすがは異世界の留学生を受け入れてる学校ならではの柔軟性だろう。
あげく、王子以外は皆下々、という扱いのエドが『お嬢様』とへりくだってくれることを楽しみにしている、ちょっと特殊な人もいる。
……ちょっとだけ、エドへの指導を代わってくれまいかと思ったのは秘密だ。
問題の交流する本人は、私の横で眉間に縦皺を作っている。
「師匠、伺っていたよりも敵の人数が多いようですが」
「敵って言っちゃだめエド。ご令嬢がひーふー……26人ほどいるだけよ」
「26って『だけ』っていう表現する数字じゃないような……」
笹原さんの言葉は聞かなかったことにしよう。
「自主的に並んでくれてるから、エドは順番に一人ずつ『お会い出来て光栄です、お嬢様』を26回繰り返すわけ。その後、たぶんお菓子とかジュースとかくれるから、それを食べたり飲んだりしつつ、質問に丁寧に答えるだけ」
簡単でしょ? と言っても、エドの渋面は晴れない。
おかしいな。結構簡単な任務に聞こえるように言ったはずなんだけど。
「……っていうか確認なんだけど、エドって沢山のご令嬢と会話する事とか、ルーヴェステインでは何度か経験あるの?」
「一応、殿下の警護の関係で、女性がその場にいることはあります。しかし『殿下がお通りになる』と言えば、海に道が出来るがごとく皆従ってましたので」
「ようするに、大量の女子にかこまれて質問攻めされたことはないってことね。じゃ、女の子の友達はいた?」
「…………」
居たら、異世界にまできて『道を開けよ』とか言わないか。
エドの黙秘を、私はそのように解釈した。
「仕方ない……」
なので私は、エドがわかりやすいようシンプルに事を進めることにした。
まず、並んだ女子達とは決めた台詞のみでエドに返事を返させる、挨拶方式で対応。
それでも『お嬢様』呼びされた女子達は満足げに頬を染めていた。よし。
次に質問タイムと称した交流会。エドが混乱しないよう、一人一つの質問でと集まった女子達に依頼した。
私は離れた所から、それを見守っていた。
……断じて怖くて近くにいるのが嫌だったわけではない。ほら、お目付け役みたいな仕切り婆が傍にいると話しにくいでしょ?
遠目に見ても、なぜかエドの顔色が悪くなっていくのがわかる。
とはいっても参加者は決めた通りに一人1質問を厳守してくれているようだ。ストップをかける必要があるほど、誰かが暴れているわけでもない。
やがて質問タイムは終了し、ほくほく顔の女子軍団はきちんと後片付けをはじめていた。
エドは……。
「ど、どうしたの!?」
よろついていた。顔色は青白く、その長身とあいまって山火事で白く燃え尽きた木のようだ。一体何を話したらそうなるのか。問いかけるとエドが話した。
「師匠……実は」
エドは告白した。
お菓子が苦手なことを。
少しずつではあるが、26人分も食べるとさすがにきつい量になる。クッキーでも一枚ずつつまみ食いしたとしても、最終的には一箱分食べたのと同じ量になったわけで。……そうならそうと言ってくれれば……。
「私はお優しい師匠に出会えて本当に幸運でした。師匠は甘いものを買って来るようお命じになっても、決して私に強要なさらない。これからもついていきます」
「いやそれはちょっと……」
珍しく泣き言を言うエドをかわいそうには思ったが、ずっと弟子のままでいられるのは困るのだ。
できれば早く女子の扱いに慣れて、卒業してほしい。
けれどそこまで言ってしまうと、エドに追い打ちをかけるみたいで良心の呵責をおぼえた。なので、口をつぐんでおくことにする。
どうしようかと視線をさまよわせたところで、私は見つけたくないものを発見してしまった。
中庭が見える校舎の角。
顔半分だけのぞかせてこちらを見ている人物がいた――キースだ。
その姿に既視感をおぼえる。そう、エドだ。
お姫様たちとのお茶会を除いていたエドも、たしかこんなことをしていた。異世界人の間で流行でもしているのだろうか。
しかしキースはハッとした表情になると、立ち去ってしまう。私と目が合ったわけではない。ちょっとずれたところを見てたと思えば、隣にいた笹原さんもまた、キースに気付いてそちらを見ていたようだ。
ほんの少し、切なそうな表情で。
「…………」
よくないなぁ。
今の人生を生きようとしているのに、記憶に引きずられていては、いつまでたっても抜け出せない。
正直なところ、本当にキースが死者を探し求めているのなら、それも良くないと思うのだ。
もしお互いの気持ちが合致しているのならば、運命の出会いとか、綺麗な言葉で飾ることだってできるだろう。
けれど、しょせんは違う人間として生きてきたのだ。
齟齬を見つけた時――同じ人間ではないと印象づけられた時、必ず幻滅する時が来るだろう。
その時『同じ人間』に恋した二人はどうするのか。
せめてもうちょっと冷静になって、齟齬すらも乗り越える気持ちが芽生えるほど本気で『今』の彼女を好きだというのなら……。
(そこまで第三者でしかない私が手を出していいんだろうか、とも思うし)
こうして引き離した後で、お互いにどうしても引き合うのなら私は放置するだろうけれど、今の周りすら見えていない状態は良くない。
だからまだ冷静そうな笹原さんの意向に従っているのだが、このままでは笹原さんも引きずられかねないなーと、そう思うのだ。
頭を悩ませつつ、私は片づけを終えた女子達と手を振り合って別れる。
キースもまだ隠れているということもなく、念のため笹原さんをバス停まで送って一日は平穏無事に終わったのだが。
「おい」
翌日の朝、普通に登校してきた私が校門に入ったところ、声をかけてきたのはキースだった。
「げ」
思わず逃げ腰になる私の足をとめさせたのは、キースの血迷ったとしか思えない一言だった。
「とことん俺と妹の仲邪魔をする気のようだな……この間女め」
「ま……!?」
思わず振り返った私の頭の中を?が乱れ飛んだ。
多分間男と言いたいのだろう。しかし私が女なので間女にしたのはわかる。わかるが、別に私は笹原さんともそっちとも交際した覚えはないんだが!?
「私は笹原さんと交際していないんだけど!?」
そもそもなんでまた人聞きの悪い単語を選ぶんだ!
しかしキースはこっちの話など聞いちゃいない。
「必ず、妹は奪い返してやる! 覚えていろ!」
「はぁっ!?」
そして言いっぱなしでキースは立ち去る。
気付けば、周囲にいたみんなが私を振り返っていた。しかも視線が合ったとたんに目を背けられた……。
「なん……なんで……ちょっと! なんで異世界の男どもは、羞恥心が欠けてるのよー!」
エドによる公開土下座ショーといい、昼日中に人を呼び止めて『この泥棒猫!』呼ばわりをしてみたり、なんで異世界の人間はこう。
「異世界人だからか……いやいや納得しちゃだめ! やつらのペースにのまれちゃだめ!」
そうよ落ち着け沙桐! 冷静になるのだ。そしてキースをもっと笹原さんに近づけない方法を考えるべき。
「あ、そーだ」
ぽんと手を打った私は、明日にも笹原さんと相談するべく、また昼休みにいつもの場所に来られないかをメールしたのだった。
送信ボタンを押してほくそ笑む。
「ふふふ……キースよ。覚悟したまえ。君の野望は私が打ち砕く!」
思わず漏れた心の声に、周囲の人が更にドン引きした表情になっていることに、私はややしばらくの間気付かなかったのだった。
よくよく考えてみると、うちの学校は留学生の王子様やら騎士やらとミーハーめいた交流会はなかった。
入学時に『一般生徒と同じように』と言い聞かされているので、皆、なんとかその範疇からはみ出さないよう、影からそっと覗いて騒ぐだけで我慢していたのだ。
思えば去年、通称『騎士王様』というあだ名がついていた、伝説の先輩がいた頃はすごかった。
私は長い銀髪があれほど似合う男性というのを初めて見た。上背の高さや肩幅もあるのにごつい感じがしない清涼さを感じさせる立ち姿に美貌。
留学していた王子の騎士だったのだが、威厳すらあるその先輩のことを、誰ともなく『騎士王様』と呼び始めたのだ。
彼には追いかける大量のファンがいて、休み時間になると彼をひそかに追いかける静かな行進が行われていた。
決して彼に声をかけるわけでもない。交友の邪魔をするわけでもない。離れてひっそりと見守っていただけなのだが、それが数十人規模になるとさすがに怖い。
……実は二回ほど、私も混ざったのは内緒だ。だってかっこよかったんだもん。
そして騎士王先輩も、そういう集団がいるらしいことは認識していたけれど、校外でも追いかけてくるわけではないのでと、許容してくれていたらしい。
とにかく、留学生の側も進んでアイドル的な側面を満足させるような交流を行うことがなかったのだ。
けれど今回、女子たちの『お嬢様って呼ばれてみたい』という要求を満たすということは、エドによるアイドル握手会のようなものになるわけで。
「いや、すごいねこれ……」
私は笹原さんと一緒に、申込者に伝達した待ち合わせ場所へやってきていた。
昼間ならば、食事をとる人や立ち話をする人間でいっぱいのはずの中庭に、二十数人の女の子がたむろしている。
『友達を呼んでいい?』の一言がそれぞれから飛び出し、うなずいたらこの人数になっていたのだ。
誰かが指示したわけではないが、彼女達は一列に並んでいる。
そして彼女達の背後には、白い木香薔薇が植えられたアーチがあるのだが、近くには誰かが持ってきたらしい籐編みのバスケットが数個。芝の植えに座る気満々で敷かれた、クッション付きのシートまで何枚も広げられている。
会場を推薦してきた5組の女子曰く『これほどふさわしい場所は他にないわ!』ということだったが、なるほど、こういうことがしたかったのだとようやくわかった。
「エドさんて怖い人じゃないかな? ちょっとあの目が威圧感あって……」
「でも王子に仕えてる騎士っぽくない? あの尊大な感じとかがさー」
「やだー、そんな人にへりくだられるのとか素敵」
集まったお嬢さん達の会話がまたすごい。
エドの悪評もとい自らの行動の結果による評判に怯える人がいるのは当然として、騎士なら当然だと受け入れちゃってる人もいる。さすがは異世界の留学生を受け入れてる学校ならではの柔軟性だろう。
あげく、王子以外は皆下々、という扱いのエドが『お嬢様』とへりくだってくれることを楽しみにしている、ちょっと特殊な人もいる。
……ちょっとだけ、エドへの指導を代わってくれまいかと思ったのは秘密だ。
問題の交流する本人は、私の横で眉間に縦皺を作っている。
「師匠、伺っていたよりも敵の人数が多いようですが」
「敵って言っちゃだめエド。ご令嬢がひーふー……26人ほどいるだけよ」
「26って『だけ』っていう表現する数字じゃないような……」
笹原さんの言葉は聞かなかったことにしよう。
「自主的に並んでくれてるから、エドは順番に一人ずつ『お会い出来て光栄です、お嬢様』を26回繰り返すわけ。その後、たぶんお菓子とかジュースとかくれるから、それを食べたり飲んだりしつつ、質問に丁寧に答えるだけ」
簡単でしょ? と言っても、エドの渋面は晴れない。
おかしいな。結構簡単な任務に聞こえるように言ったはずなんだけど。
「……っていうか確認なんだけど、エドって沢山のご令嬢と会話する事とか、ルーヴェステインでは何度か経験あるの?」
「一応、殿下の警護の関係で、女性がその場にいることはあります。しかし『殿下がお通りになる』と言えば、海に道が出来るがごとく皆従ってましたので」
「ようするに、大量の女子にかこまれて質問攻めされたことはないってことね。じゃ、女の子の友達はいた?」
「…………」
居たら、異世界にまできて『道を開けよ』とか言わないか。
エドの黙秘を、私はそのように解釈した。
「仕方ない……」
なので私は、エドがわかりやすいようシンプルに事を進めることにした。
まず、並んだ女子達とは決めた台詞のみでエドに返事を返させる、挨拶方式で対応。
それでも『お嬢様』呼びされた女子達は満足げに頬を染めていた。よし。
次に質問タイムと称した交流会。エドが混乱しないよう、一人一つの質問でと集まった女子達に依頼した。
私は離れた所から、それを見守っていた。
……断じて怖くて近くにいるのが嫌だったわけではない。ほら、お目付け役みたいな仕切り婆が傍にいると話しにくいでしょ?
遠目に見ても、なぜかエドの顔色が悪くなっていくのがわかる。
とはいっても参加者は決めた通りに一人1質問を厳守してくれているようだ。ストップをかける必要があるほど、誰かが暴れているわけでもない。
やがて質問タイムは終了し、ほくほく顔の女子軍団はきちんと後片付けをはじめていた。
エドは……。
「ど、どうしたの!?」
よろついていた。顔色は青白く、その長身とあいまって山火事で白く燃え尽きた木のようだ。一体何を話したらそうなるのか。問いかけるとエドが話した。
「師匠……実は」
エドは告白した。
お菓子が苦手なことを。
少しずつではあるが、26人分も食べるとさすがにきつい量になる。クッキーでも一枚ずつつまみ食いしたとしても、最終的には一箱分食べたのと同じ量になったわけで。……そうならそうと言ってくれれば……。
「私はお優しい師匠に出会えて本当に幸運でした。師匠は甘いものを買って来るようお命じになっても、決して私に強要なさらない。これからもついていきます」
「いやそれはちょっと……」
珍しく泣き言を言うエドをかわいそうには思ったが、ずっと弟子のままでいられるのは困るのだ。
できれば早く女子の扱いに慣れて、卒業してほしい。
けれどそこまで言ってしまうと、エドに追い打ちをかけるみたいで良心の呵責をおぼえた。なので、口をつぐんでおくことにする。
どうしようかと視線をさまよわせたところで、私は見つけたくないものを発見してしまった。
中庭が見える校舎の角。
顔半分だけのぞかせてこちらを見ている人物がいた――キースだ。
その姿に既視感をおぼえる。そう、エドだ。
お姫様たちとのお茶会を除いていたエドも、たしかこんなことをしていた。異世界人の間で流行でもしているのだろうか。
しかしキースはハッとした表情になると、立ち去ってしまう。私と目が合ったわけではない。ちょっとずれたところを見てたと思えば、隣にいた笹原さんもまた、キースに気付いてそちらを見ていたようだ。
ほんの少し、切なそうな表情で。
「…………」
よくないなぁ。
今の人生を生きようとしているのに、記憶に引きずられていては、いつまでたっても抜け出せない。
正直なところ、本当にキースが死者を探し求めているのなら、それも良くないと思うのだ。
もしお互いの気持ちが合致しているのならば、運命の出会いとか、綺麗な言葉で飾ることだってできるだろう。
けれど、しょせんは違う人間として生きてきたのだ。
齟齬を見つけた時――同じ人間ではないと印象づけられた時、必ず幻滅する時が来るだろう。
その時『同じ人間』に恋した二人はどうするのか。
せめてもうちょっと冷静になって、齟齬すらも乗り越える気持ちが芽生えるほど本気で『今』の彼女を好きだというのなら……。
(そこまで第三者でしかない私が手を出していいんだろうか、とも思うし)
こうして引き離した後で、お互いにどうしても引き合うのなら私は放置するだろうけれど、今の周りすら見えていない状態は良くない。
だからまだ冷静そうな笹原さんの意向に従っているのだが、このままでは笹原さんも引きずられかねないなーと、そう思うのだ。
頭を悩ませつつ、私は片づけを終えた女子達と手を振り合って別れる。
キースもまだ隠れているということもなく、念のため笹原さんをバス停まで送って一日は平穏無事に終わったのだが。
「おい」
翌日の朝、普通に登校してきた私が校門に入ったところ、声をかけてきたのはキースだった。
「げ」
思わず逃げ腰になる私の足をとめさせたのは、キースの血迷ったとしか思えない一言だった。
「とことん俺と妹の仲邪魔をする気のようだな……この間女め」
「ま……!?」
思わず振り返った私の頭の中を?が乱れ飛んだ。
多分間男と言いたいのだろう。しかし私が女なので間女にしたのはわかる。わかるが、別に私は笹原さんともそっちとも交際した覚えはないんだが!?
「私は笹原さんと交際していないんだけど!?」
そもそもなんでまた人聞きの悪い単語を選ぶんだ!
しかしキースはこっちの話など聞いちゃいない。
「必ず、妹は奪い返してやる! 覚えていろ!」
「はぁっ!?」
そして言いっぱなしでキースは立ち去る。
気付けば、周囲にいたみんなが私を振り返っていた。しかも視線が合ったとたんに目を背けられた……。
「なん……なんで……ちょっと! なんで異世界の男どもは、羞恥心が欠けてるのよー!」
エドによる公開土下座ショーといい、昼日中に人を呼び止めて『この泥棒猫!』呼ばわりをしてみたり、なんで異世界の人間はこう。
「異世界人だからか……いやいや納得しちゃだめ! やつらのペースにのまれちゃだめ!」
そうよ落ち着け沙桐! 冷静になるのだ。そしてキースをもっと笹原さんに近づけない方法を考えるべき。
「あ、そーだ」
ぽんと手を打った私は、明日にも笹原さんと相談するべく、また昼休みにいつもの場所に来られないかをメールしたのだった。
送信ボタンを押してほくそ笑む。
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