クラスに異世界の王子達がいるんだけど

奏多

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第一部 ガーランド転生騒動

キースに見せつけるイベントです

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 しかし私の元気は、昼休みに復活する。
 アンドリューと笹原さんのイベントがあるのだ!

 つきあっているなら当然、お昼を一緒に食べるべしという私の指導により、アンドリューと笹原さんは目立つ中庭にてお食事をするのだ。
 その時のキースの様子を見れば、これで一件落着にできるかどうかが判定できるはず。

 私はスキップしながらアンドリューのことが見える場所へ配置につく。
 クラスに誘いに来られるのは恥ずかしいという笹原さんの頼みにより、現地集合である。

 笹原さんは、既に待ち合わせているベンチに場所取りをしており、遅れてアンドリューが現れて隣に座る。
 恥ずかしそうはにかみながらアンドリューにうなずく笹原さん。優しげな笑みを浮かべて何かを話すアンドリュー。

 見てるこっちまで、かゆくなってきそうな光景だ。
 それなのになんだか……胃の中が重苦しい。
 人の恋愛模様は見ていて楽しいはずなのに。だから喜んで観察しに来たのに。

「長く一緒にいすぎたのかな……。でも友達ってそういうものだよね」

 友達に男女の別がないのなら、これがヴィラマインでも私は複雑な気持ちを抱くのだろうか。
 だからヴィラマインの隣に男子がいる図を想像してみた。

「師匠、ご要望の品です」

 そこにエドがやってきたので、ついフルーツ牛乳を受け取りながら、ヴィラマインの隣にエドがいる姿を思い描いてしまう。……だめだ。ヴィラマインが怯えて気の毒にしか思えない。

 ちなみにこの作戦のため、私はエドとランチということになったが、これはやむをえまい。
 腹が減っては万が一に対応できない。そしてキースが予想外な行動にでた時のために、押さえのエドが必要で、彼も配備する必要があったのだ。

 とにかく、こんな変な事を考えてしまうのは、お腹が空きすぎてるせいに違いない。
 私はえいやっとヤキソバパンにかぶりついた。うん、このソースがうまい。炭水化物×炭水化物で太りそうなパンだけど、大好きだ。
 そして心の中も幸せがふわりと体積を増して埋めてくれる。
 すると同じように生け垣の影に体育座りをしたエドが質問してきた。

「師匠、あれこそが恋人同士のあるべき姿という奴ですか?」

「え、見たことあるでしょ?」

 いくらなんでもと思ったが、エドは眉間にしわを寄せる。恋愛の話をしているはずなのに、なんて形相をしているんだ君は。

「見たこと……あるんでしょうか。あまり記憶にないような」

「え! だってほら、故郷でも同じ騎士団に似た年の男子とかいるでしょ! 思春期を越えて異性への情熱に目覚めてるだろう年頃だらけのはず! 一緒に女の子をナンパしにいくとかなかったの?」

 男が集まれば、一度は下ネタの話が出てくるはず。
 そう思っていた私はエドにそう言ったが、彼は渋面のまま曖昧に首をかしげる。

「ナンパとは女性を誘うという意味でしたよね? それはありませんでした。確か皆が言っていました『一匹魔物を仕留めるだけで女が寄って来るんだから、わざわざ誘いに行く必要はない』と」

「……半端ないわー」

 さすがファンタジックな異世界。魔物を一匹倒せば『なんで強い人なの! 惚れちゃう!』という感じで女の子が寄って来るらしい。魔物退治は命がけの作業だが、成功すると金銭以外の実入りが大きいようだ。

 思えばフェリシアの話でも、キースが名声を上げるために魔物退治をしていたと書いていた。
 なるほど、強ければいろいろな名声が一気にあがるのだから、オディール王女を振り向かせたかったキースがすぐに討伐に向かったのもうなずける。

 しかし待て。確かアンドリューはエドがルーヴェステイン最強と言っていなかっただろうか。
 てことは、エドは両手に花束状態を経験していてもおかしくないはずだ。

「まさかエド。あなたってば他人がモテる姿は見たことないけど、魔物を討伐した後はいつも自分はウハウハだったとか言わない!?」

「ウハウハとは?」

「女の子がエドに殺到して『素敵ー』とか叫ぶこと」

 端的に言うとそんな感じだと思う。
 しかしエドは首を横に振った。

「いや……むしろ、討伐に出た後は先輩達に囲まれて護送された上、王宮内で丁重にもてなされた後、人目を忍ぶように布をかぶせられ、馬車にて家へ帰還していますが」

「は?」

 なんだそれ! 料理が無ければ犯罪者のような扱いじゃないか。
 討伐した功労者としての扱いが一部『もてなし』であるものの、世を忍ばなくちゃいけない行程は一体なんなのだろう。
 するとうーと唸っていたエドが、はっとしたように何かを思い出した。

「いえ、確かそのウハウハに近いものが、うっすら記憶にあります」

「え! やっぱり両手に花!? 囲まれてキスの嵐みたいな?」

 訳の分からない犯罪者扱いだけじゃなく、ちゃんとエドにはご褒美があったのか!
 ほっとした私だったが、エドは首を横に振った。

「確かあれは十歳になった頃でしょうか。初めての討伐に参加して、戻ってきた時のことです。子供から成人過ぎの女性まですごい人数が我が騎士隊めがけて走ってきて、そのまま前にいた先輩騎士と共に踏みつぶされそうになったのです。
 きっとあれは、誰かを目当てにした人の群だったのでしょうが、巻き込まれた私は心底怖ろしかったのを覚えています。なにせ相手は人ですので、反撃するわけにいかないのですから」

「…………」

 絶句した。
 そしてなぜ世を忍んでエドが帰還するのかを私は正確に理解したと思う。
 ようするに、エドを保護する為なのだ。十歳にして女性達の『将来の有望株』と思われたエドを守るため、仕方なく人の目を避ける措置がとられたのだろう。

 しかしそのおかげで、エドは普通に女の子に騒がれる経験ができなかったようだ。
 それでは、先輩達やらに女性が殺到するのを眺めている場合ではない。おそらくエドがいれば、ミーハーな人達はエドに突撃を行うだろう。ゆえに先輩達も話はするものの、女性をエドがいる場所へは連れて来られないのだ。
 万が一に備えて。

「てことは、人工純粋培養か……」

 身の危険を優先した結果、エドは女性との接触が少なくなったのだろう。そうして彼は……思春期男子が経験する男女の機微を学び損ねたのだ。
 だんだんエドがかわいそうになってきた。
 思わずマヨネーズパンを口に入れたエドの肩にぽんと手を置き、つぶやいた。

「せめて留学中ぐらいは、女の子と交流できるようにしてあげるからね……」

「? はいありがとうございます?」

 意味がわからなかったものの、アンドリューの花嫁獲得のための勉強だと思ったのだろう。エドは素直に礼を言ってくれた。そこがまた不憫だ。
 と、そこでエドが私の注意をアンドリューへと向けさせる。

「師匠、敵がやって参りました」

 私は生け垣にはりつくようにして向こう側を伺う。
 アンドリューはこのイベントを成功させるため、笹原さんが作ってきたお弁当のおかずを分けてもらったようだ。
 それだけでも仲が良さそうに見えるが、笹原さんがハッとした表情になる。
 視線の先、遠くではあるがキースが通りがかったのだ。
 それは作戦実行の合図でもある。

 笹原さんの様子に、それを悟ったのだろうアンドリューが小さくうなずく。
 笹原さんは決意を固めたように、ぎゅっと一度目を閉じてからお弁当箱の厚焼き卵を箸の後ろで取り上げ、アンドリューに差し出した。

 これぞ恋人達のイベント。お昼時にあーん作戦だ。
 実行したら、まず間違いなく恋人同士だと認定される代物である。
 案の定キースはぎょっとした表情で目を見開いている。

 しかし箸が震えてる、震えてるよ笹原さん! しかも手の動きがスローモーションのごとくゆっくりすぎる!
 それに表情が結構必死だ。これでだませるのか不安で、こっちがハラハラする。
 このままでは、先に箸から卵が落っこちそうだと思った時、アンドリューがさっさとお迎えに行ってくれた。
 箸の先を加えた瞬間は、なんでか私まで恥ずかしくて顔を背けてしまった。

「おいしいよ」

 と感想を言うアンドリュー。
 もう一度そちらに目を向けると、そこには顔を真っ赤にしてうつむいちゃう笹原さんがいた。
 よし、と思いながらも、まだ胃の中がもやもやしてきた私は、残りの焼きそばパンを無理矢理口の中に詰め込んだ。

 そしてキースは――。

 顎が外れるかと思うほど口を縦に開き、頬に手を当てていた。
 君はムンクか。

 しかし次の瞬間、口をへの字にぐっと引き結び、ハンカチを噛みしめそうな表情に変わる。
 まるで、浮気現場を見た妻のような有様だったが、笹原さんは君の夫じゃないんだと言いたい。
 そしてキースはふるふると肩をふるわせた後、だっとその場から走り去った。

「……よし」

 見ていたこちらは「してやったり」とばかりに胸がすっとした。食べても解消しなかった胃の異変も、どこかへ飛んでいく。

 私は機嫌良く生け垣から顔を出し、二人に手を振って成功を伝えた。
 笹原さんはまだ顔が紅潮してるものの、ほっとしたようにほほえみ、アンドリューは小さくうなずいてみせてくれた。

 後ろではエドが「人に物を食べさせると恋人認定される……」とメモしている。

 そして翌日、笹原さんからキースがお葬式のような表情で哀しそうに見つめてきてはため息をついていたと報告が来た。
 けれど笹原さんに接触しようとはしなかったらしい。
 五組のキースを囲んでいる女子達はとても喜んでいたし、敵ではなくなったせいか、彼女達の中から更に数人が、この間のようなエド交流会は再度開催されないかと笹原さんに打診があったらしい。

「まぁ……これで一件落着?」

 携帯画面を閉じながら呟く。
 しかし今まで変に苦労したせいか、あっさりと決着がつくと拍子抜けしてしまう。
 だからアンドリューには予定通り一週間の間、計画を続行してもらうことにした。
 笹原さんには、妹扱いしてこないことを毎日確認した。

 そうして日々が過ぎていき、四日目。
 変態はやはり想定外な人間だったと私は思い知るのだった。
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