私、ニセモノ令嬢から帝国皇子の愛され侍女になったようです

奏多

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9 帝宮生活のはじまり

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 その日は旅の疲れもあるので、皇太后とその侍女が使う棟についての説明だけを受けて、休むことになった。
 そうして、帝宮のリリに与えられた部屋に案内されたのだが。

「あ、かわいい」

 柱は石膏の装飾がほどこされて豪華な雰囲気だけど、壁はベージュ字に植物模様の布を張ったパネル貼りで、可愛く仕上げられている。
 石造りの建物は、ゲーム世界でも寒いんだろう。
 だから部屋の内側を木や布で覆って、暖気を逃さないようにされているんだと思う。

 そして白いストーブ。
 耐火粘土で作られ、美しい装飾模様が描かれているので、家具の一つとしても綺麗だ。
 リリの記憶によると、貴族にはこの耐火粘土のストーブが流行っていて、暖炉よりも効率良く暖かくできるらしい。

 椅子に書き物机は、ブラウンの落ち着いた色合いで使いやすそう。
 クローゼットは小さな小部屋のようになっていて、沢山のドレスがすでに収められていた。
 棟内の見学をしている間に、帝宮のメイド達が荷物を納めておいてくれたんだろう。

(あー、見覚えがあるドレスがいっぱい……)

 確か十度ぐらい、私は伯爵令嬢のふりをしてお茶会に出ていた。
 たいてい嫌味な令嬢ばかりの会なので、伯爵令嬢は行きたがらなかったのだ。
 私もさんざん嫌味を言われつつ、でもしゃべるとボロが出るから、大人しく黙って時間が過ぎるのを待つのが常だった。

(今度は、本当の伯爵令嬢か……)

 名前も、リリ・クラウス伯爵令嬢となってしまった。
 病気で死んで異世界に来たとわかった時も、すごく遠くへ来た気分になったけど、さらに遠い場所へ連れて来られた感がある。
 そんな私に声をかける人がいた。

「お嬢様、お持ちになられた宝石の点検はなさいますか?」

 私付きにと手配された、帝宮のメイドだ。
 高貴な女性の侍女というのは、基本的に貴族令嬢がするもの。
 自分で服も着ないし、食事もお茶も用意してもらうし、掃除も洗濯も全部メイドがやってくれる。

(てか、この手動でなんでもやる世界で、それを自分でやって、皇太后様の話し相手までしてたら一日が暮れてしまうのよね)

 以前はメイドとして仕事をしていたのでよくわかる。
 小間使いという着替えや装飾品の管理とかをする役目とはいえ、手が空けば掃除もしていたのだ。

 何もかも、とにかく時間がかかるのだ。
 食事を作るなら、まず薪に火をつけるところから。
 洗濯もお湯を沸かして足踏みや手押しを何度も繰り返すし、洗濯機に任せておけばいい前世がとても懐かしくなるぐらい。
 掃除機がないので、埃を払って箒で掃くけど、靴を履いたままで動き回る文化だからこそ、なかなか面倒。

 とてもじゃないけど、王宮の陰謀とかやってる場合じゃない。
 毎日疲れ果てて、夜は横たわった瞬間にすこーんと意識がなくなる。
 だからこそメイドがついてくれるの、ありがたい。

 そうそう、装飾品。
 伯爵令嬢らしくする衣装のために、伯爵が持たせてくれたんだっけ。
 旅の途中で一部は見た。
 帝宮に入る時、それなりの見栄えがするようにネックレスとかも身に着けるために。

 だけど荷物の奥にしっかりと入れておいた分は、まだ何があるか知らないなーと思い出す。

「ええ、一応見ておくわ」

 というわけで、メイドさんがクローゼットの奥にある棚から、宝石箱をいくつも持ち出して、部屋の居間にあたる部分のテーブルに広げてくれる。
 ていうか、宝石箱そのものが金銀宝石で装飾されてて、ひと財産だよ……。

 そして出て来る装飾品がすっごい。
 ガラス玉で作ってもそれなりの値段になりそうな、大粒の宝石が使われたネックレスとかがいっぱい。
 色とりどり。
 そして伯爵令嬢の持ち物と、伯爵家で所蔵してた見たことがない宝石が贈られたんだなと思う。
 伯爵令嬢の持っていた宝飾品は、見たことあるし、管理してたし。

 貴重品確認が終わったら、もう夕食の時間だ。
 皇太后が静かに過ごしたい人なので、わりとこちらの侍女達も夕食は自室でゆっくりすごすらしい。
 おかげでゆっくりと鶏肉の甘じょっぱいソースの料理やふわふわのパン、うらごしがしっかりしてあるポタージュに、焼き菓子なんかを沢山食べて満足満足。

 旅の埃を落とすための沐浴を簡単にさせてもらったら、天蓋付きの布団へ直行だ。

「あーこれ鳥の羽使ってるわねきっと」

 伯爵令嬢が使っていた布団みたいに、ふわふわだ。
 前世でこの感触にはおぼえがある。
 羽毛布団だ。
 さすがは帝宮……と思った瞬間、私は眠りの中へ落ちて行った。

 ***

 翌日。
 皇太后の着替えを見守ったりしつつ、手順を学習。
 一気に覚えられるわけがないので、こっそりメモをとる。
 ただし皇太后の衣服は、相変わらず灰色か薄墨色とか、黒が多い。

「どなたかの喪に服していらっしゃるんですか?」

 隣の先輩侍女、くるくるした赤金の髪のエルシーにこっそり尋ねる。
 すると首を横に振った。

「明るい色はお好みではないらしいの。だから前皇帝陛下が亡くなった時から、ずっとそれで通していらっしゃるんですって」

 快く教えてくれた。
 なるほど。
 皇太后は話口調も穏やかだし、活発ではないものの、特に規律に厳しいわけでもないのに、どうして修道女みたいに暗い色の服を着ているんだと思っていたのだ。
 旅の間は、それが旅装なのかと思っていたけど、違うらしい。

(うん、選ぶのって面倒だし、汚れも目立ちにくいものね……)

 ものぐさな私は少し共感する。
 今朝もドレス選びで、何も知らないメイドに「さぁお選びくださいませ」と言われて言葉に詰まったばかりだ。
 ドレスを選ぶセンスなんて自信がない。
 だけど侍女なら選べるだろうと、安心して見守るメイドの視線が辛かった……。

 しかも似合う宝石を選べと言われて、二度「うっ」となった。
 私、あんまりセンスないんだよなぁ。
 だから宝石だけは、伯爵令嬢が自分で選んでいた。

 でもここで、できないと言うのは……。
 苦悩した末に思い出したのが、前世のファッション雑誌とか、ドレスの本。
 宝石を身に着けるのがなんか怖くて、こんなのつけてたよなぁと、首にリボンと花飾りをつけてチョーカーみたいにして結んでみたら。

「まぁ素敵でございますわ。朝の装いとしても華美すぎなくて良いかとおもいます」

 そうメイドさんに及第点をもらえて一安心だ。
 思い出していたら、エルシーに腕をつつかれる。

「その首飾り素敵ね。昔の絵画で似たような装飾品を見たことがあるわ。あっちはもっと派手だったけど、それぐらいの感じだと使いやすそう」

 昔は、花冠でぐるりと巻くみたいな首飾りがあったらしい。
 たしかにそれだとかさばりそうだ。

「宝石の方が格が上がるからって一時の流行りで終わったみたいだけど、パーティーのない、内輪だけの場所ならこちらの方が清楚ね」

 なるほど。そんな歴史があったのか。
 
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