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10 帝宮のサロンへ 1
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その後の朝食は、侍女達と皇太后のみんなでとった。
女性ばかりの場なので、雰囲気は華やいでいる。
ただし話の内容は、食後のお茶の時間にがらりと変わる。
「それで、今日は皇子殿下のお手伝いはどなた?」
皇太后が促せば、ブルネットの真っすぐな髪のジェニスが挙手する。
「私です、皇太后陛下。本日は書類のお仕事だけだということなので」
どうやらレゼクに侍女をいつも貸し出している話は本当らしい。
書類仕事をさせているとは思わなかったけど。
「よろしくねジェニス。他は?」
「私は皇太后陛下の側に、エルシーはピゼン侯爵様のお茶会へ行く用事があったわね?」
銀の髪のルドヴィカ嬢が言うと、エルシーが口元をハンカチで拭きながらうなずいた。
「私とリリはサロンへ参ります」
ノエリアの言葉に、内心で(え、そういう予定?)と初耳の私は驚いた。
「ちょうど今日、主要な貴族子女が多いサロンがありますので」
「ベラ伯爵夫人のお菓子の会だったかしら? 私もそっちにしたら良かった」
エルシーが頬に手を当てて言う。
お菓子……ということは、食べて帰るだけで済むのかな?
「でも、たまに外れがあるって文句言ってたのはあなたではないの? エルシー」
ルドヴィカが澄まし顔でお茶に口をつける。
「ピゼン侯爵夫妻の話って長くって……。勝手にしゃべってくれるから、返事はほとんどしなくていいんだけど。それならお菓子の当たり外れにワクワクする方がマシっていうか」
「でも夫人のお気に入りですもの、エルシーは。しっかり情報収集してきて」
「はぁい」
ルドヴィカはエルシーのお姉さんみたいな感じだな、と思う。
そしてお菓子、美味しいといいな……。
「さ、リリは私と準備をしましょうか」
ノエリアに促されて退出し、私は再びドレス選びをすることになった。
自室へ一緒に付き添ったノエリアが、手早く選んだのは例のオレンジ色のドレスだ。
「これ、遠目で見ていたけど、あなたに合ってたのよね。王太后陛下にお会いする時に着ていたドレスだから、格も十分に合うわ」
そのままノエリアは身に着ける装飾品も選んでくれて、後はメイドに着替えを手伝ってもらう。
出来栄えを鏡で確認した後、こちらも着替えたノエリアが再び顔を出してくれた。
リリの服を点検したノエリアは、鶯のように美しい発色の緑色のドレスだ。彼女の金の髪がよく映えている。
「さ、行きましょう」
メイドに見送られ、私は人生始まって以来のサロンへと出発した。
サロンとは、同じ趣味の人間が集まる社交の場や、小さな団欒会みたいな物も含まれる、まぁみんなで集まりましょうという場だ。
今回はお菓子を食べる会みたいな感じらしいが……。
「場所は帝宮の噴水の間よ」
帝宮の中庭を中心と考えて、北の棟。
噴水の間は、北側の庭にある噴水が見えるので、そう名付けられた。
実に単純で覚えやすくていい。
「今日はそこをベラ伯爵夫人が借りて、お菓子を振舞ってくださるの。あちこちの国の珍しいお菓子を食べるのが好きな人で、他国の人を招いては料理人にそのお菓子の調理法を覚えさせる人なのよ」
「今日はどんなお菓子が出るんでしょう」
「行ってみないとわからないわ。それと……」
ノエリアが声を潜めて教えてくれる。
「ウルスラ妃の親族とか、つながりのある方々もいらっしゃるわ。もちろん皇太后陛下や皇子殿下に好意的な方々も。一度では難しいでしょうけれど、なるべく顔を覚えてね」
「うっ……」
人の顔を覚えるのって苦手な私は、黙ってうなずいた。
がんばるしかない。
お菓子の味と紐づけたりしたら、なんとかならないだろうか?
「あと、音楽の得意な方が、余興で演奏なさったりするの。そういう方は覚えやすいと思うわ」
「はい。それならなんとか」
とにかく特徴。これがあると覚えやすさが違う。
バラバラの楽器を演奏してくれないかな、と願いながら、私は噴水の間へやってきた。
入り口にいるのは、主催者のベラ伯爵夫人だ。
年齢は四十代ぐらいだろう。
この世界の人の顔って、日本人よりも彫りが深い感じでありながら、変に濃くないという感じなのだけど、老け方は少しだけ日本人より早く感じる。
目じりのしわが目立ちはじめながらも、全盛期はさぞかし明るい美女だったのだろうなと思うベラ夫人は、白の地に茶の紗を重ねて金の刺繍を入れたドレスを着ている。
「いらっしゃいデジェー侯爵令嬢、相変わらずお美しいわ。今でもうちの息子の花嫁になっていただきたいほどよ。でも皇子殿下がまだお相手をお決めになっていらっしゃらないし……席が空いたらすぐにお知らせくださいね?」
ノエリアと目が合った瞬間、歩み寄って手を取りながら、立て板に水のごとくしゃべり出すベラ夫人。
ところでノエリアって、あのレゼクと婚約関係とかがあるってこと?
それとも「決めてない」ってことは、お相手の候補に挙がってるとか、そんな感じなんだろうか?
首をかしげている間に、ベラ夫人の視線が私に向いた。
「まぁまぁ、こちらは可愛いひな鳥のような方ね。初めましてクラウス伯爵令嬢」
「は、はい。お会いできてとても嬉しいで……」
「皇太后陛下が、お墓参りに行った帰りにお会いして、侍女としての採用をお決めになったそうですけど、きっと素晴らしいお嬢さんなんでしょうね。これからよろしくね」
「はい、こちらこそ……」
「ではまた後でね」
ベラ伯爵夫人は、しゃべるだけしゃべると嵐のように立ち去った。
次の来客の挨拶に行ってしまったのだ。
まぁ、次々来ている客に対応するには、ああなってしまうのだろう。
挨拶しないのも失礼だから、一人ひとりとゆっくり話すなんて無理だし。
ただ挨拶の途中で遮られ続けて呆然としてしまう。
するとノエリアが横で笑った。
「元気な方でしょう。さ、席へ行きましょうリリ」
女性ばかりの場なので、雰囲気は華やいでいる。
ただし話の内容は、食後のお茶の時間にがらりと変わる。
「それで、今日は皇子殿下のお手伝いはどなた?」
皇太后が促せば、ブルネットの真っすぐな髪のジェニスが挙手する。
「私です、皇太后陛下。本日は書類のお仕事だけだということなので」
どうやらレゼクに侍女をいつも貸し出している話は本当らしい。
書類仕事をさせているとは思わなかったけど。
「よろしくねジェニス。他は?」
「私は皇太后陛下の側に、エルシーはピゼン侯爵様のお茶会へ行く用事があったわね?」
銀の髪のルドヴィカ嬢が言うと、エルシーが口元をハンカチで拭きながらうなずいた。
「私とリリはサロンへ参ります」
ノエリアの言葉に、内心で(え、そういう予定?)と初耳の私は驚いた。
「ちょうど今日、主要な貴族子女が多いサロンがありますので」
「ベラ伯爵夫人のお菓子の会だったかしら? 私もそっちにしたら良かった」
エルシーが頬に手を当てて言う。
お菓子……ということは、食べて帰るだけで済むのかな?
「でも、たまに外れがあるって文句言ってたのはあなたではないの? エルシー」
ルドヴィカが澄まし顔でお茶に口をつける。
「ピゼン侯爵夫妻の話って長くって……。勝手にしゃべってくれるから、返事はほとんどしなくていいんだけど。それならお菓子の当たり外れにワクワクする方がマシっていうか」
「でも夫人のお気に入りですもの、エルシーは。しっかり情報収集してきて」
「はぁい」
ルドヴィカはエルシーのお姉さんみたいな感じだな、と思う。
そしてお菓子、美味しいといいな……。
「さ、リリは私と準備をしましょうか」
ノエリアに促されて退出し、私は再びドレス選びをすることになった。
自室へ一緒に付き添ったノエリアが、手早く選んだのは例のオレンジ色のドレスだ。
「これ、遠目で見ていたけど、あなたに合ってたのよね。王太后陛下にお会いする時に着ていたドレスだから、格も十分に合うわ」
そのままノエリアは身に着ける装飾品も選んでくれて、後はメイドに着替えを手伝ってもらう。
出来栄えを鏡で確認した後、こちらも着替えたノエリアが再び顔を出してくれた。
リリの服を点検したノエリアは、鶯のように美しい発色の緑色のドレスだ。彼女の金の髪がよく映えている。
「さ、行きましょう」
メイドに見送られ、私は人生始まって以来のサロンへと出発した。
サロンとは、同じ趣味の人間が集まる社交の場や、小さな団欒会みたいな物も含まれる、まぁみんなで集まりましょうという場だ。
今回はお菓子を食べる会みたいな感じらしいが……。
「場所は帝宮の噴水の間よ」
帝宮の中庭を中心と考えて、北の棟。
噴水の間は、北側の庭にある噴水が見えるので、そう名付けられた。
実に単純で覚えやすくていい。
「今日はそこをベラ伯爵夫人が借りて、お菓子を振舞ってくださるの。あちこちの国の珍しいお菓子を食べるのが好きな人で、他国の人を招いては料理人にそのお菓子の調理法を覚えさせる人なのよ」
「今日はどんなお菓子が出るんでしょう」
「行ってみないとわからないわ。それと……」
ノエリアが声を潜めて教えてくれる。
「ウルスラ妃の親族とか、つながりのある方々もいらっしゃるわ。もちろん皇太后陛下や皇子殿下に好意的な方々も。一度では難しいでしょうけれど、なるべく顔を覚えてね」
「うっ……」
人の顔を覚えるのって苦手な私は、黙ってうなずいた。
がんばるしかない。
お菓子の味と紐づけたりしたら、なんとかならないだろうか?
「あと、音楽の得意な方が、余興で演奏なさったりするの。そういう方は覚えやすいと思うわ」
「はい。それならなんとか」
とにかく特徴。これがあると覚えやすさが違う。
バラバラの楽器を演奏してくれないかな、と願いながら、私は噴水の間へやってきた。
入り口にいるのは、主催者のベラ伯爵夫人だ。
年齢は四十代ぐらいだろう。
この世界の人の顔って、日本人よりも彫りが深い感じでありながら、変に濃くないという感じなのだけど、老け方は少しだけ日本人より早く感じる。
目じりのしわが目立ちはじめながらも、全盛期はさぞかし明るい美女だったのだろうなと思うベラ夫人は、白の地に茶の紗を重ねて金の刺繍を入れたドレスを着ている。
「いらっしゃいデジェー侯爵令嬢、相変わらずお美しいわ。今でもうちの息子の花嫁になっていただきたいほどよ。でも皇子殿下がまだお相手をお決めになっていらっしゃらないし……席が空いたらすぐにお知らせくださいね?」
ノエリアと目が合った瞬間、歩み寄って手を取りながら、立て板に水のごとくしゃべり出すベラ夫人。
ところでノエリアって、あのレゼクと婚約関係とかがあるってこと?
それとも「決めてない」ってことは、お相手の候補に挙がってるとか、そんな感じなんだろうか?
首をかしげている間に、ベラ夫人の視線が私に向いた。
「まぁまぁ、こちらは可愛いひな鳥のような方ね。初めましてクラウス伯爵令嬢」
「は、はい。お会いできてとても嬉しいで……」
「皇太后陛下が、お墓参りに行った帰りにお会いして、侍女としての採用をお決めになったそうですけど、きっと素晴らしいお嬢さんなんでしょうね。これからよろしくね」
「はい、こちらこそ……」
「ではまた後でね」
ベラ伯爵夫人は、しゃべるだけしゃべると嵐のように立ち去った。
次の来客の挨拶に行ってしまったのだ。
まぁ、次々来ている客に対応するには、ああなってしまうのだろう。
挨拶しないのも失礼だから、一人ひとりとゆっくり話すなんて無理だし。
ただ挨拶の途中で遮られ続けて呆然としてしまう。
するとノエリアが横で笑った。
「元気な方でしょう。さ、席へ行きましょうリリ」
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