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18 勘違い事件のお話合い
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空白が生まれた。
みんな、私の言葉の意味が分からなかったのかもしれない。
(いや、私もわかんないんだけど)
やがてエルシーが、肩をふるわせて笑い声を抑えようとする。
ルドヴィカやノエリアまで、うふふふと笑う。
ジェニスはこらえきれず、笑い声を吹き出した。
「そうしたらあの方、リリを男だと思ってらっしゃるの?」
「あれでしょ? 訓練に行くときに騎士の服を着てたから……」
すると皇太后が、意外と優しい表情で私に言った。
「不愉快な出来事があったけれど、あなたの御陰で滑稽な道化を見かけた位の軽い気分になれたわ、事情を話してちょうだい」
「はい……」
え、あれを説明しなきゃいけないのか……と、私は天を仰ぎたい気分になる。
しかし、騎士のふりをするのも訓練に参加するのも、提案されたことだけど了承したのは自分だ。
めぐりめぐってこんな事態を招くなんて思いもしなかったけど。
とにかく、あのセレーナという女性と会った事がもう運の尽きなのだ。
私は部屋に戻る皇太后に従い、改めてみんなで椅子に着席しなおした。
気を利かせたメイドがすでに片付けていたテーブルに、新しいお茶を置いてくれる。
そうして今朝の話をすると……皇太后がうなずく。
「状況はわかりました。でも困ったわね、私あの女性に探してあげると約束してしまったわ」
「そんな者はいなかったと、調べたふりをして返事をいたしましょうか?」
ルドヴィカの言葉に、ノエリアが首を横に振る。
「それでしらを切り通せるかしら? あんなに騒ぎになったのだから、他の者達が必ず探そうとするでしょうし、騎士の中に見慣れない人がいた……なんて話が出たら、殿下の近衛騎士内の問題にされかねないわ」
私はうなる。
「やっぱり、この姿であの女性にお断りを申し上げるしかないでしょうか」
ノエリアが同意した。
「それしかないでしょう。よろしいでしょうか、皇太后陛下?」
皇太后は小さくうなずいてみせた。彼女に任せるということだ。
「まず、リリと自然に引き合わせる場を設定して……後は騎士の服を着ていた事について、口止めもしなくては」
「それはそうと、カール小伯爵関連の接触はどうします?」
ジェニスの言葉に、ノエリアも思案顔になる。
そこで皇太后が言った。
「それについては、原因を作った本人になんとかさせましょう」
「本人?」
再びレゼクに考えさせるということだろうか。
と思ったら、そうではなかった。
「そうですね。今日も私が手伝いに行く予定でしたもの。リリが変わって頂戴。そして判断を直接仰いだ方がいいわ」
「あ、はい」
どうやら原因を作ったレゼクに、直談判することになったらしい。
まぁ、騎士の真似をしろと言ったのもレゼクだし。
責任をとっていただきましょう。
ということで、昼餐の後、私はてくてくとジェニスに連れられて皇子の執務室へ向かった。
場所は、執務室や謁見の間などがある、帝宮でも一番正面にあたる棟だ。
先日のサロンで使った広間もそこにある。
だから、帝宮へやってきている貴族も多く、仕事に来ているらしい使用人や官吏、侍従ともすれ違う。
ジェニスについて歩いていると、ちらほらとそういった人達の視線を感じた。
(レゼクとの噂が広まったから……)
たぶん私の容姿についても広まってるだろうし、とうとうあの女が、堂々と来たぐらいに思われているのかもしれない。
そういう状況になったことがないから、どうも落ち着かない気分だ。
思わずうつむきそうになり、早く通り過ぎたくて足が速まった。
すると横に並んだジェニスにささやかれる。
「堂々として。悪いことをしているような態度をすると、下に見られるわよ。あの人は、陰口をささやけば泣いて帰るような弱い人間だって。そうしたら、少しいじめれば帝宮から出て行くかもしれないって、妙な気を起こす人も出てくるわ」
ジェニスの言葉に、はっと気づかされる。
そうだ、自信がない様子を見せてはいけない。
噂が嘘だから、後ろめたいような、違うと言えないせいで変に怖気づいていたけれど。
「勝手に噂を信じる人が悪いんですよね」
つぶやくと、ジェニスがニヤッと口の端を上げる。
「それと、勘違いされるような行動をした殿下がいけないわ」
「そういえば、そうでした」
私は顔を上げて、ずんずんと進む。
階段を上がり、二階へ。
その先にレゼクの執務室があった。
在室なのは、部屋の前に二人、兵士が立っているのですぐわかる。
「皇太后陛下の言伝を届けに参りましたの」
ジェニスが言うと、兵士がノックをして扉の向こう側の人間に合図した。
ゆっくりと、大きな木製の扉が開かれる。
中は書類と本と机が複数と、人が三人ほどいた。
正面の黒い彫刻までほどこされた高級そうな机には、レゼク。
右側の端には二人、おそらく仕事を手伝う官吏だろう。
「要件を」
レゼクに言われ、中に入ったジェニスが言う。
「皇太后陛下より、侍女に関することについての対応の変更を言付かって参りました。詳細はお人払いの後で」
「少し待て」
短い返答に、ジェニスは私を左側に置いてあるソファへ連れて行く。
「座って待ちましょう」
なるほど。
ひと段落つかないと、手が離せないと判断したんだろう。
それまで時間がかかるので座っているように、ということだと思う。
(そうよね。洗濯物を半分干したところで、今すぐ出て行ってと言われても困るし)
干さないまま時間が経てば、雑菌のせいで臭いが発生することもある。
できれば干し終わってから話とやらをしたい。
だから待て、というのと同じだろう。
そうして部屋の中にいる官吏の姿を見て、ふっと前世のことを思い出す。
相手はパソコンだったけれど、死ぬ前はあんな風に真面目に仕事をしていたな、と。
やがて官吏が何かの書類をレゼクに提出した後、「少し休んでいろ」と言われて退室。
そこでようやくレゼクがこちらに来た。
みんな、私の言葉の意味が分からなかったのかもしれない。
(いや、私もわかんないんだけど)
やがてエルシーが、肩をふるわせて笑い声を抑えようとする。
ルドヴィカやノエリアまで、うふふふと笑う。
ジェニスはこらえきれず、笑い声を吹き出した。
「そうしたらあの方、リリを男だと思ってらっしゃるの?」
「あれでしょ? 訓練に行くときに騎士の服を着てたから……」
すると皇太后が、意外と優しい表情で私に言った。
「不愉快な出来事があったけれど、あなたの御陰で滑稽な道化を見かけた位の軽い気分になれたわ、事情を話してちょうだい」
「はい……」
え、あれを説明しなきゃいけないのか……と、私は天を仰ぎたい気分になる。
しかし、騎士のふりをするのも訓練に参加するのも、提案されたことだけど了承したのは自分だ。
めぐりめぐってこんな事態を招くなんて思いもしなかったけど。
とにかく、あのセレーナという女性と会った事がもう運の尽きなのだ。
私は部屋に戻る皇太后に従い、改めてみんなで椅子に着席しなおした。
気を利かせたメイドがすでに片付けていたテーブルに、新しいお茶を置いてくれる。
そうして今朝の話をすると……皇太后がうなずく。
「状況はわかりました。でも困ったわね、私あの女性に探してあげると約束してしまったわ」
「そんな者はいなかったと、調べたふりをして返事をいたしましょうか?」
ルドヴィカの言葉に、ノエリアが首を横に振る。
「それでしらを切り通せるかしら? あんなに騒ぎになったのだから、他の者達が必ず探そうとするでしょうし、騎士の中に見慣れない人がいた……なんて話が出たら、殿下の近衛騎士内の問題にされかねないわ」
私はうなる。
「やっぱり、この姿であの女性にお断りを申し上げるしかないでしょうか」
ノエリアが同意した。
「それしかないでしょう。よろしいでしょうか、皇太后陛下?」
皇太后は小さくうなずいてみせた。彼女に任せるということだ。
「まず、リリと自然に引き合わせる場を設定して……後は騎士の服を着ていた事について、口止めもしなくては」
「それはそうと、カール小伯爵関連の接触はどうします?」
ジェニスの言葉に、ノエリアも思案顔になる。
そこで皇太后が言った。
「それについては、原因を作った本人になんとかさせましょう」
「本人?」
再びレゼクに考えさせるということだろうか。
と思ったら、そうではなかった。
「そうですね。今日も私が手伝いに行く予定でしたもの。リリが変わって頂戴。そして判断を直接仰いだ方がいいわ」
「あ、はい」
どうやら原因を作ったレゼクに、直談判することになったらしい。
まぁ、騎士の真似をしろと言ったのもレゼクだし。
責任をとっていただきましょう。
ということで、昼餐の後、私はてくてくとジェニスに連れられて皇子の執務室へ向かった。
場所は、執務室や謁見の間などがある、帝宮でも一番正面にあたる棟だ。
先日のサロンで使った広間もそこにある。
だから、帝宮へやってきている貴族も多く、仕事に来ているらしい使用人や官吏、侍従ともすれ違う。
ジェニスについて歩いていると、ちらほらとそういった人達の視線を感じた。
(レゼクとの噂が広まったから……)
たぶん私の容姿についても広まってるだろうし、とうとうあの女が、堂々と来たぐらいに思われているのかもしれない。
そういう状況になったことがないから、どうも落ち着かない気分だ。
思わずうつむきそうになり、早く通り過ぎたくて足が速まった。
すると横に並んだジェニスにささやかれる。
「堂々として。悪いことをしているような態度をすると、下に見られるわよ。あの人は、陰口をささやけば泣いて帰るような弱い人間だって。そうしたら、少しいじめれば帝宮から出て行くかもしれないって、妙な気を起こす人も出てくるわ」
ジェニスの言葉に、はっと気づかされる。
そうだ、自信がない様子を見せてはいけない。
噂が嘘だから、後ろめたいような、違うと言えないせいで変に怖気づいていたけれど。
「勝手に噂を信じる人が悪いんですよね」
つぶやくと、ジェニスがニヤッと口の端を上げる。
「それと、勘違いされるような行動をした殿下がいけないわ」
「そういえば、そうでした」
私は顔を上げて、ずんずんと進む。
階段を上がり、二階へ。
その先にレゼクの執務室があった。
在室なのは、部屋の前に二人、兵士が立っているのですぐわかる。
「皇太后陛下の言伝を届けに参りましたの」
ジェニスが言うと、兵士がノックをして扉の向こう側の人間に合図した。
ゆっくりと、大きな木製の扉が開かれる。
中は書類と本と机が複数と、人が三人ほどいた。
正面の黒い彫刻までほどこされた高級そうな机には、レゼク。
右側の端には二人、おそらく仕事を手伝う官吏だろう。
「要件を」
レゼクに言われ、中に入ったジェニスが言う。
「皇太后陛下より、侍女に関することについての対応の変更を言付かって参りました。詳細はお人払いの後で」
「少し待て」
短い返答に、ジェニスは私を左側に置いてあるソファへ連れて行く。
「座って待ちましょう」
なるほど。
ひと段落つかないと、手が離せないと判断したんだろう。
それまで時間がかかるので座っているように、ということだと思う。
(そうよね。洗濯物を半分干したところで、今すぐ出て行ってと言われても困るし)
干さないまま時間が経てば、雑菌のせいで臭いが発生することもある。
できれば干し終わってから話とやらをしたい。
だから待て、というのと同じだろう。
そうして部屋の中にいる官吏の姿を見て、ふっと前世のことを思い出す。
相手はパソコンだったけれど、死ぬ前はあんな風に真面目に仕事をしていたな、と。
やがて官吏が何かの書類をレゼクに提出した後、「少し休んでいろ」と言われて退室。
そこでようやくレゼクがこちらに来た。
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