私、ニセモノ令嬢から帝国皇子の愛され侍女になったようです

奏多

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19 おかしなことに気づきました

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 向かい側のソファに座ったレゼクに、ジェニスが状況を話す。
 聞いていたレゼクは、最初こそ無表情だったが、やがてふっと笑いを含んだ息をついた。

「男に間違われたのか。よほどうまく化けたとは聞いていたが、まさかそこまではっきりと間違われるほどとはな」

 上手く化けたとは聞いていた?

「……え、騎士のふりをしていた件について、どなたからか報告があったのですか?」

「トールがわざわざ聞かせに来た」

 考えてみれば、あの人達はこの皇子の近衛騎士だった。
 だけど私の変装状況までわざわざ話すなんて。暇? 仲良しなの?

「とりあえず、上手く化けすぎて問題が起きたことは承知した」

 レゼクが言うと、ジェニスが提案する。

「皇子殿下、これは私の意見なのですが、いっそお側に置いてはいかがでしょうか?」

 私は「えっ!?」と声を上げそうになって、寸前で飲み込んだ。
 側に置くって、わざとレゼクとの噂を盛り上げようとしてる?
 レゼクもその意図がわからなかったようだ。

「どういうことだ?」

 冷たい口調で聞き返すが、ジェニスは慣れているのか気にせず自分の意見を述べた。

「執務室でのお手伝いを、私ではなくリリにしてもらいましょう。書類の受け渡しや整理、手紙の代筆などでしたら、十分にリリでもできるはずです。それに皇太后様の側に置くと殿下が決めた人ですから、機密なども問題ないのですよね?」

「……まぁ、そうだが」

 レゼクが不承不承という表情で肯定した。

(皇子としての機密以上の秘密も、お互い知っているわけだし、信用してないわけじゃないと思うのよね……)

 だからレゼクも、大丈夫だと言うのだろう。

(ゲームの通りなら、私、レゼクのことを操れるわけだし……)

 まだちゃんと使えてないけど。
 使えるようになったら、間違いなく、自分が何かしたいとなれば周囲の人の意志を操れてしまうわけで。
 そんな相手なら信用するしかないだろう。

(正直、私なら近づくことも警戒するけど……。うっかりすると自分を滅ぼしかねないのに、どうして私がこの人を傷つけないなんて思うのかしら? それとも、何か考えがあるのかな)

 どうにもよくわからない。
 ゲームでわかる範囲以外に、何かがあるのかもしれない。

 ジェニスは、レゼクの側に私を置くのが一番だと説得できそうで、表情が明るくなっている。

「元はノエリア様とも噂があったわけですし。だからその対象が変わること自体は問題ないと思うのです」

 まぁたしかに。ノエリア様から私に変わるだけで。
 次こそ本命が噂されるようになったら、私のことは勘違いか、本命隠しのためにわざと目立たせたのだとでも思われるだろう。

「それに特別に寵愛があるとわかった方が、皇子殿下のお味方や、皇子殿下におもねりたい方などがリリを気を付けて見守るでしょう。その方が安全なように思うのです。あと……」

 一度言葉を切ったジェニスが、にっこりと微笑んだ。

「皇太后陛下が、本人に責任を取らせるのが筋、と」

 レゼクは渋い表情をする。
 とはいえ、原因を作ったのは自分だとわかっているからか、文句は言わなかった。

「承知した。そなたの提案も受けよう。今日より執務室にはリリ・クラウスを置くように。送りと迎えは騎士を寄越す」

 我が意をえたりとばかりにジェニスは微笑み、その場に立ち上がって優雅に一礼する。

「それでは、報告もかねて私はここで退室させていただきます」

 そう言って、ジェニスは部屋から立ち去った。
 というわけで……私の仕事は、どうやらレゼクの補佐になったようだが。

(とりあえず仕事の指示を仰げばいいかな)

 と思ったところで、レゼクがソファの背にもたれかかってため息をつく。

(う、迷惑だったかな……)

 秘密を共有してる気安さで、レゼクは嫌だったことを素直に表したのかな? と思ってしまったのだ。 
 うっかりだったとはいえ、あの時のレゼクの表情は真剣だった。
 彼にとっては、噂になることよりずっと重要だったんだろう。
 その結果の対策をしたものの、今度は私のせいでダメにされたわけで……。

「あの、すいません」

 つい謝ると、レゼクは不思議そうな顔をする。

「謝る必要はない。厄介なことにはなったが」

「でも私が彼女と関わらなければ……」

 他の方法で助ければ良かったのだ。
 遠くから石を投げるとか。
 でもレゼクは否定する。

「それは問題ではないだろう。……君は、変だと思わなかったのか?」

「?」

「確かに君は変装していた。だが、骨格や背の高さや顔立ちからして、遠目ならまだしも至近で見つめ合っても男に見えるわけがない。肩幅一つとっても女性らしい体格だ」

「…………」

 私は少し悩んだ。
 素直に女らしく見えると受け取るべき?

「ま、まぁそうかもしれません」

 曖昧な相づちをうったのだが、レゼクはそれを気にせず続けた。

「それなのに、相手の女は君の事を男だと思った。その女と君の身長差はどうだった?」

「そんなに変わらなかったような気が……」

 セレーナは踵の高い靴を履いてた気がする。
 その分もあって、ほぼ同じくらいだった。
 それを思い出した私は、ようやく不自然さに気付いた。

「え? あれっ? どうして彼女、私のこと男だと思ったんでしょう。あ、でも年下の少年だと思ったから……とかどうでしょう?」

「話をしたのではないのか? 声で誤認するのは難しいはずだ」

 更に追求されて、私は思わず自分の口を手で塞ぐ。
 そうだ。
 私の声は、とうてい他の騎士達みたいに低くはない。聞き間違えようもなく女性のものだとわかるはず。

「しゃべったのに……なんで男かどうか疑問に思わなかったんでしょうか。まさか、女性が実は好きだったとか両刀とか?」

「それなら本人も騎士の服を着ていた女性を捜してくれと言うはずだ。その方が早く見つけられる」

「え、じゃあ……どうしてでしょう?」

 何か不気味な物を感じる。
 不安になる私に、レゼクは言う。

「しばらくはジェニスの代理として仕事の手伝いに来るといい。騎士が一緒に来るようにするなら、先方の接触も防げる。あと……」

 さらにとんでもないことを告げた。

「次のパーティーでは、君に同伴してもらいたい」
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