18 / 20
19 おかしなことに気づきました
しおりを挟む
向かい側のソファに座ったレゼクに、ジェニスが状況を話す。
聞いていたレゼクは、最初こそ無表情だったが、やがてふっと笑いを含んだ息をついた。
「男に間違われたのか。よほどうまく化けたとは聞いていたが、まさかそこまではっきりと間違われるほどとはな」
上手く化けたとは聞いていた?
「……え、騎士のふりをしていた件について、どなたからか報告があったのですか?」
「トールがわざわざ聞かせに来た」
考えてみれば、あの人達はこの皇子の近衛騎士だった。
だけど私の変装状況までわざわざ話すなんて。暇? 仲良しなの?
「とりあえず、上手く化けすぎて問題が起きたことは承知した」
レゼクが言うと、ジェニスが提案する。
「皇子殿下、これは私の意見なのですが、いっそお側に置いてはいかがでしょうか?」
私は「えっ!?」と声を上げそうになって、寸前で飲み込んだ。
側に置くって、わざとレゼクとの噂を盛り上げようとしてる?
レゼクもその意図がわからなかったようだ。
「どういうことだ?」
冷たい口調で聞き返すが、ジェニスは慣れているのか気にせず自分の意見を述べた。
「執務室でのお手伝いを、私ではなくリリにしてもらいましょう。書類の受け渡しや整理、手紙の代筆などでしたら、十分にリリでもできるはずです。それに皇太后様の側に置くと殿下が決めた人ですから、機密なども問題ないのですよね?」
「……まぁ、そうだが」
レゼクが不承不承という表情で肯定した。
(皇子としての機密以上の秘密も、お互い知っているわけだし、信用してないわけじゃないと思うのよね……)
だからレゼクも、大丈夫だと言うのだろう。
(ゲームの通りなら、私、レゼクのことを操れるわけだし……)
まだちゃんと使えてないけど。
使えるようになったら、間違いなく、自分が何かしたいとなれば周囲の人の意志を操れてしまうわけで。
そんな相手なら信用するしかないだろう。
(正直、私なら近づくことも警戒するけど……。うっかりすると自分を滅ぼしかねないのに、どうして私がこの人を傷つけないなんて思うのかしら? それとも、何か考えがあるのかな)
どうにもよくわからない。
ゲームでわかる範囲以外に、何かがあるのかもしれない。
ジェニスは、レゼクの側に私を置くのが一番だと説得できそうで、表情が明るくなっている。
「元はノエリア様とも噂があったわけですし。だからその対象が変わること自体は問題ないと思うのです」
まぁたしかに。ノエリア様から私に変わるだけで。
次こそ本命が噂されるようになったら、私のことは勘違いか、本命隠しのためにわざと目立たせたのだとでも思われるだろう。
「それに特別に寵愛があるとわかった方が、皇子殿下のお味方や、皇子殿下におもねりたい方などがリリを気を付けて見守るでしょう。その方が安全なように思うのです。あと……」
一度言葉を切ったジェニスが、にっこりと微笑んだ。
「皇太后陛下が、本人に責任を取らせるのが筋、と」
レゼクは渋い表情をする。
とはいえ、原因を作ったのは自分だとわかっているからか、文句は言わなかった。
「承知した。そなたの提案も受けよう。今日より執務室にはリリ・クラウスを置くように。送りと迎えは騎士を寄越す」
我が意をえたりとばかりにジェニスは微笑み、その場に立ち上がって優雅に一礼する。
「それでは、報告もかねて私はここで退室させていただきます」
そう言って、ジェニスは部屋から立ち去った。
というわけで……私の仕事は、どうやらレゼクの補佐になったようだが。
(とりあえず仕事の指示を仰げばいいかな)
と思ったところで、レゼクがソファの背にもたれかかってため息をつく。
(う、迷惑だったかな……)
秘密を共有してる気安さで、レゼクは嫌だったことを素直に表したのかな? と思ってしまったのだ。
うっかりだったとはいえ、あの時のレゼクの表情は真剣だった。
彼にとっては、噂になることよりずっと重要だったんだろう。
その結果の対策をしたものの、今度は私のせいでダメにされたわけで……。
「あの、すいません」
つい謝ると、レゼクは不思議そうな顔をする。
「謝る必要はない。厄介なことにはなったが」
「でも私が彼女と関わらなければ……」
他の方法で助ければ良かったのだ。
遠くから石を投げるとか。
でもレゼクは否定する。
「それは問題ではないだろう。……君は、変だと思わなかったのか?」
「?」
「確かに君は変装していた。だが、骨格や背の高さや顔立ちからして、遠目ならまだしも至近で見つめ合っても男に見えるわけがない。肩幅一つとっても女性らしい体格だ」
「…………」
私は少し悩んだ。
素直に女らしく見えると受け取るべき?
「ま、まぁそうかもしれません」
曖昧な相づちをうったのだが、レゼクはそれを気にせず続けた。
「それなのに、相手の女は君の事を男だと思った。その女と君の身長差はどうだった?」
「そんなに変わらなかったような気が……」
セレーナは踵の高い靴を履いてた気がする。
その分もあって、ほぼ同じくらいだった。
それを思い出した私は、ようやく不自然さに気付いた。
「え? あれっ? どうして彼女、私のこと男だと思ったんでしょう。あ、でも年下の少年だと思ったから……とかどうでしょう?」
「話をしたのではないのか? 声で誤認するのは難しいはずだ」
更に追求されて、私は思わず自分の口を手で塞ぐ。
そうだ。
私の声は、とうてい他の騎士達みたいに低くはない。聞き間違えようもなく女性のものだとわかるはず。
「しゃべったのに……なんで男かどうか疑問に思わなかったんでしょうか。まさか、女性が実は好きだったとか両刀とか?」
「それなら本人も騎士の服を着ていた女性を捜してくれと言うはずだ。その方が早く見つけられる」
「え、じゃあ……どうしてでしょう?」
何か不気味な物を感じる。
不安になる私に、レゼクは言う。
「しばらくはジェニスの代理として仕事の手伝いに来るといい。騎士が一緒に来るようにするなら、先方の接触も防げる。あと……」
さらにとんでもないことを告げた。
「次のパーティーでは、君に同伴してもらいたい」
聞いていたレゼクは、最初こそ無表情だったが、やがてふっと笑いを含んだ息をついた。
「男に間違われたのか。よほどうまく化けたとは聞いていたが、まさかそこまではっきりと間違われるほどとはな」
上手く化けたとは聞いていた?
「……え、騎士のふりをしていた件について、どなたからか報告があったのですか?」
「トールがわざわざ聞かせに来た」
考えてみれば、あの人達はこの皇子の近衛騎士だった。
だけど私の変装状況までわざわざ話すなんて。暇? 仲良しなの?
「とりあえず、上手く化けすぎて問題が起きたことは承知した」
レゼクが言うと、ジェニスが提案する。
「皇子殿下、これは私の意見なのですが、いっそお側に置いてはいかがでしょうか?」
私は「えっ!?」と声を上げそうになって、寸前で飲み込んだ。
側に置くって、わざとレゼクとの噂を盛り上げようとしてる?
レゼクもその意図がわからなかったようだ。
「どういうことだ?」
冷たい口調で聞き返すが、ジェニスは慣れているのか気にせず自分の意見を述べた。
「執務室でのお手伝いを、私ではなくリリにしてもらいましょう。書類の受け渡しや整理、手紙の代筆などでしたら、十分にリリでもできるはずです。それに皇太后様の側に置くと殿下が決めた人ですから、機密なども問題ないのですよね?」
「……まぁ、そうだが」
レゼクが不承不承という表情で肯定した。
(皇子としての機密以上の秘密も、お互い知っているわけだし、信用してないわけじゃないと思うのよね……)
だからレゼクも、大丈夫だと言うのだろう。
(ゲームの通りなら、私、レゼクのことを操れるわけだし……)
まだちゃんと使えてないけど。
使えるようになったら、間違いなく、自分が何かしたいとなれば周囲の人の意志を操れてしまうわけで。
そんな相手なら信用するしかないだろう。
(正直、私なら近づくことも警戒するけど……。うっかりすると自分を滅ぼしかねないのに、どうして私がこの人を傷つけないなんて思うのかしら? それとも、何か考えがあるのかな)
どうにもよくわからない。
ゲームでわかる範囲以外に、何かがあるのかもしれない。
ジェニスは、レゼクの側に私を置くのが一番だと説得できそうで、表情が明るくなっている。
「元はノエリア様とも噂があったわけですし。だからその対象が変わること自体は問題ないと思うのです」
まぁたしかに。ノエリア様から私に変わるだけで。
次こそ本命が噂されるようになったら、私のことは勘違いか、本命隠しのためにわざと目立たせたのだとでも思われるだろう。
「それに特別に寵愛があるとわかった方が、皇子殿下のお味方や、皇子殿下におもねりたい方などがリリを気を付けて見守るでしょう。その方が安全なように思うのです。あと……」
一度言葉を切ったジェニスが、にっこりと微笑んだ。
「皇太后陛下が、本人に責任を取らせるのが筋、と」
レゼクは渋い表情をする。
とはいえ、原因を作ったのは自分だとわかっているからか、文句は言わなかった。
「承知した。そなたの提案も受けよう。今日より執務室にはリリ・クラウスを置くように。送りと迎えは騎士を寄越す」
我が意をえたりとばかりにジェニスは微笑み、その場に立ち上がって優雅に一礼する。
「それでは、報告もかねて私はここで退室させていただきます」
そう言って、ジェニスは部屋から立ち去った。
というわけで……私の仕事は、どうやらレゼクの補佐になったようだが。
(とりあえず仕事の指示を仰げばいいかな)
と思ったところで、レゼクがソファの背にもたれかかってため息をつく。
(う、迷惑だったかな……)
秘密を共有してる気安さで、レゼクは嫌だったことを素直に表したのかな? と思ってしまったのだ。
うっかりだったとはいえ、あの時のレゼクの表情は真剣だった。
彼にとっては、噂になることよりずっと重要だったんだろう。
その結果の対策をしたものの、今度は私のせいでダメにされたわけで……。
「あの、すいません」
つい謝ると、レゼクは不思議そうな顔をする。
「謝る必要はない。厄介なことにはなったが」
「でも私が彼女と関わらなければ……」
他の方法で助ければ良かったのだ。
遠くから石を投げるとか。
でもレゼクは否定する。
「それは問題ではないだろう。……君は、変だと思わなかったのか?」
「?」
「確かに君は変装していた。だが、骨格や背の高さや顔立ちからして、遠目ならまだしも至近で見つめ合っても男に見えるわけがない。肩幅一つとっても女性らしい体格だ」
「…………」
私は少し悩んだ。
素直に女らしく見えると受け取るべき?
「ま、まぁそうかもしれません」
曖昧な相づちをうったのだが、レゼクはそれを気にせず続けた。
「それなのに、相手の女は君の事を男だと思った。その女と君の身長差はどうだった?」
「そんなに変わらなかったような気が……」
セレーナは踵の高い靴を履いてた気がする。
その分もあって、ほぼ同じくらいだった。
それを思い出した私は、ようやく不自然さに気付いた。
「え? あれっ? どうして彼女、私のこと男だと思ったんでしょう。あ、でも年下の少年だと思ったから……とかどうでしょう?」
「話をしたのではないのか? 声で誤認するのは難しいはずだ」
更に追求されて、私は思わず自分の口を手で塞ぐ。
そうだ。
私の声は、とうてい他の騎士達みたいに低くはない。聞き間違えようもなく女性のものだとわかるはず。
「しゃべったのに……なんで男かどうか疑問に思わなかったんでしょうか。まさか、女性が実は好きだったとか両刀とか?」
「それなら本人も騎士の服を着ていた女性を捜してくれと言うはずだ。その方が早く見つけられる」
「え、じゃあ……どうしてでしょう?」
何か不気味な物を感じる。
不安になる私に、レゼクは言う。
「しばらくはジェニスの代理として仕事の手伝いに来るといい。騎士が一緒に来るようにするなら、先方の接触も防げる。あと……」
さらにとんでもないことを告げた。
「次のパーティーでは、君に同伴してもらいたい」
1
あなたにおすすめの小説
虐げられた私、ずっと一緒にいた精霊たちの王に愛される〜私が愛し子だなんて知りませんでした〜
ボタニカルseven
恋愛
「今までお世話になりました」
あぁ、これでやっとこの人たちから解放されるんだ。
「セレス様、行きましょう」
「ありがとう、リリ」
私はセレス・バートレイ。四歳の頃に母親がなくなり父がしばらく家を留守にしたかと思えば愛人とその子供を連れてきた。私はそれから今までその愛人と子供に虐げられてきた。心が折れそうになった時だってあったが、いつも隣で見守ってきてくれた精霊たちが支えてくれた。
ある日精霊たちはいった。
「あの方が迎えに来る」
カクヨム/なろう様でも連載させていただいております
義妹に苛められているらしいのですが・・・
天海月
恋愛
穏やかだった男爵令嬢エレーヌの日常は、崩れ去ってしまった。
その原因は、最近屋敷にやってきた義妹のカノンだった。
彼女は遠縁の娘で、両親を亡くした後、親類中をたらい回しにされていたという。
それを不憫に思ったエレーヌの父が、彼女を引き取ると申し出たらしい。
儚げな美しさを持ち、常に柔和な笑みを湛えているカノンに、いつしか皆エレーヌのことなど忘れ、夢中になってしまい、気が付くと、婚約者までも彼女の虜だった。
そして、エレーヌが持っていた高価なドレスや宝飾品の殆どもカノンのものになってしまい、彼女の侍女だけはあんな義妹は許せないと憤慨するが・・・。
「股ゆる令嬢」の幸せな白い結婚
ウサギテイマーTK
恋愛
公爵令嬢のフェミニム・インテラは、保持する特異能力のために、第一王子のアージノスと婚約していた。だが王子はフェミニムの行動を誤解し、別の少女と付き合うようになり、最終的にフェミニムとの婚約を破棄する。そしてフェミニムを、子どもを作ることが出来ない男性の元へと嫁がせるのである。それが王子とその周囲の者たちの、破滅への序章となることも知らずに。
※タイトルは下品ですが、R15範囲だと思います。完結保証。
天才手芸家としての功績を嘘吐きな公爵令嬢に奪われました
サイコちゃん
恋愛
ビルンナ小国には、幸運を運ぶ手芸品を作る<謎の天才手芸家>が存在する。公爵令嬢モニカは自分が天才手芸家だと嘘の申し出をして、ビルンナ国王に認められた。しかし天才手芸家の正体は伯爵ヴィオラだったのだ。
「嘘吐きモニカ様も、それを認める国王陛下も、大嫌いです。私は隣国へ渡り、今度は素性を隠さずに手芸家として活動します。さようなら」
やがてヴィオラは仕事で大成功する。美貌の王子エヴァンから愛され、自作の手芸品には小国が買えるほどの値段が付いた。それを知ったビルンナ国王とモニカは隣国を訪れ、ヴィオラに雑な謝罪と最低最悪なプレゼントをする。その行為が破滅を呼ぶとも知らずに――
【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……
buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。
みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……
無口な婚約者に「愛してる」を言わせたい!
四折 柊
恋愛
『月の妖精』と美貌を謳われるマルティナは、一年後の結婚式までに無口で無表情の婚約者トリスタンに「愛してる」を言わせたい。「そのためにわたくしは今、誘拐されています!」
骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方
ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。
注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。
悪役令嬢は死んで生き返ってついでに中身も入れ替えました
蒼黒せい
恋愛
侯爵令嬢ミリアはその性格の悪さと家の権威散らし、散財から学園内では大層嫌われていた。しかし、突如不治の病にかかった彼女は5年という長い年月苦しみ続け、そして治療の甲斐もなく亡くなってしまう。しかし、直後に彼女は息を吹き返す。病を克服して。
だが、その中身は全くの別人であった。かつて『日本人』として生きていた女性は、異世界という新たな世界で二度目の生を謳歌する… ※同名アカウントでなろう・カクヨムにも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる