私、ニセモノ令嬢から帝国皇子の愛され侍女になったようです

奏多

文字の大きさ
19 / 20

20 パーティー出席の依頼

しおりを挟む
「ぱぱぱパーティーの同伴ですか!?」

 おどろくのも仕方ないと思う。
 だって普通、パーティーに貴族が異性の同伴を連れて行くなんて、婚約を考えてます! という間柄じゃないとしない。

 しかも相手がレゼクだ。
 彼はずっと、誰とも婚約もしない。
 そのせいで、皇太后の侍女が側にいると、その人が恋人だと思われて毒を盛られたりされるという被害があったわけで……。

「あの、私をパーティーに同伴なんてしたら、もう言い訳が効かないのでは?」

 質問すると、レゼクはなんてことないように言う。

「今更だろう。こちらがどうこう言っても、あちらは自分の信じたいことだけ信じるのだからな。そして、大騒ぎを起こしそうなその女は、皇子の恋人となればあきらめるしかなくなると思うんだが」

 その女。

(あああ、父親の愛人だとそういう言い方になるよねぇ)

 そういえば、レゼクが微妙な気分になるだろうという視点が抜けていたかもしれない。
 うん、なんかほんとに可哀想だなこの人。
 自分に関心ない父親が、愛人をこさえたあげくに味方に迷惑をかけたんだから、名前も呼びたくないのは当然か。

 それに、顔で覚えていて私のことをどうこう言おうとも、皇子の恋人(かも?)という立場の時に突撃したら、堂々と排除できる。
 本人も、突撃前に引いてくれるかもしれない。

「ところで私、ダンスはほぼできないのですが?」

 付け焼刃令嬢で、代理出席はお茶会ばかり。
 ダンスを習ったことなどない。
 そんな私がパーティーに呼ばれて、ダンスをしろと言われたらこっそり逃げるしか方法がないのだけど。
 するとレゼクがにやりと笑う。

「大丈夫だ。今回は舞踏会ではない。楽団を呼びはするが、踊ることはない」

「それを聞いて安心しました……」

 レゼクの隣で音楽を聴いたり、食事をするだけでいいらしい。
 それならなんとかなるかも。

「お話はあまりしなくても大丈夫ですか? 私がしゃべるとボロが出ますし、公の場でしゃべるのって得意ではなくて」

 残る不安要素はそれだけ。
 なにせ平民人生と騎士の娘だなんていう平民と変わらない経験ぐらいしかない私だ。
 公的な場で相手とおほほと営業会話をする技術はほとんど期待できない。
 正直にそう申告すると、レゼクが目をまたたいた。

「いや、いいが……」

「それなら喉が痛いことにでもしようと思います」

 それならあまりしゃべらなくても不自然ではない。
 ニコニコと発言すると、レゼクがふっと笑った。

「聖女の血族は、そんなに正直に言う者ばかりなのかな……」

 私はその言葉に引っ掛かりを感じた。

「他にも、聖女か聖者と会ったことがあるんですか?」

「……そうだな」

 ややためらった後、レゼクはうなずいた。

「基本的に、誰かを悪意から騙そうとすることはなかったと思う。人の心を操る力を得る人間というのは、無意識にでも誰かを陥れることをしないのかもしれない、と思ったな」

 話を聞いていると、なんだか私はそんな大層な人間ではないから……違うのでは? なんて気持ちになる。

 ただ、まさにこの世界の母は、そのような気質だったかもしれない。
 自分の力を試したくて旅に出て、故郷を離れた土地で病気にかかっても、まぁ、誰しもそういうことはあるからという、あっけらかんとした感想を口にしていた。

 父の方が諦めきれずに、もっと良い薬を手に入れられる力があれば、良い医者を知っていたらと嘆いていた。

 私は……。
 自分の身かわいさに、身代わりを受けたりもしてしまったし。
 逃げるために兵士を倒したりしてることを思い出すと、なんだか後ろめたい。

「もちろん、必要があれば戦うし、一度決めれば誰かを害することもいとわないが」

 それを察しているわけでもないだろうに、レゼクがそう続ける。

「君の祖母か曾祖母にあたるだろう人は、おそらくヴァールの聖女だ。彼女は何千ものランヴェール帝国兵を倒している。ヴァール王国を守ろうと決めたからこそ、敵を殺すと決めて実行したんだろう」

「私、本当に聖女の血を引いているんでしょうか……」

 不安になってつい言ってしまう。
 いまだ、はっきりと聖女の力を発揮できていない。
 不思議なことは起こっているから、完全に違うとは言えないけど。

「大丈夫だ。聖女の力があることは、俺がわかっている」

 レゼクの力強い言葉に、なんだか私は照れ臭い気分になる。

「そうだといいと、思います」

 だからそんな風に答えていた。

 ※※※

 とにかく私は、ジェニスの代わりにレゼクの手伝いをすることになった。
 皇子の仕事というのが何をしているのかわからなかったけど、それほど忙しくしているわけではなさそうだ。

(そういえば、前世の中世の王様だって、一日中書類仕事してたわけじゃないし。違うのは明かりを魔法で作れる使用人が帝宮にはいることと、紙がそれなりに作られてることかしら)

 とはいえ、紙だって前世で使っていたようにはホイホイ買えない。
 書類を積み上げるような贅沢は、帝宮ならできるだろうけど、各地方領地や、そのまた末端の村なんかだと難しいはずだ。

 そもそも細かな部分まで、上が決裁をするようなこともない。
 それを処理するために官吏がいるし、その処理についての報告が、まとめられてレゼクや皇帝に渡されるという感じみたいだ。

 というのを、この日書類を見て思った。

 私の仕事というのは、書類の整理と簡単な代筆。
 レゼクの代わりに、渡された物に署名していき、代筆だけど皇子の指示によるものだという証明になる印を押す。

 と、その途中でふいに数字の間違いを見つけてしまった。

「この数字……合いませんね」

 ぽつりとつぶやいたところで、レゼクと戻ってきていた官吏がどやどやとやってくる。
 私が気づいたのは、報告書の一つにやたらと数字が並んでいる代物だ。
 合計が微妙に合わない。

(たぶん、わざと誤魔化そうと思ったんだろうなって数字の羅列だもんね、この書類)

 他の報告書では、こんな物は見かけない。
 大枠の、さらに下から上がって来た数字を書いた物はあるけど、それはぱっとわかりやすい物ばかり。
 でもこの報告書だけは、注釈として細かく数字を沢山羅列しているのに、それと注釈がついている合計との数字が違う。

「本当だ。数字にお強いのですね、クラウス伯爵令嬢は」

 官吏の一人が、そろばんのような物で計算し直し、うなずく。
 レゼクがうなずいた。

「ジェニスの代わりに来てもらって良かったようだ。今度はこういった数字に関しても、検算を命じる」

(あ、しまった。仕事増やしちゃった)

 と思ったがもう遅い。
 うっかり前世の仕事以来の書類を見て、雰囲気とか違うけど、なんか懐かしいなぁなんてつい暗算したのが悪かったようだ。

 結局、私用の算盤を渡され、報告書の数字の検算も任されることになった。

 が……これのおかげで、どうやら間違いを指摘されて叱責された部署から、私が見つけたということが広まったらしく。
 数字に強いので、皇子の補佐の仕事を任されたらしいという話が広まった。
 おかげで、急にジェニスから交代したことを不審に思われることはなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

虐げられた私、ずっと一緒にいた精霊たちの王に愛される〜私が愛し子だなんて知りませんでした〜

ボタニカルseven
恋愛
「今までお世話になりました」 あぁ、これでやっとこの人たちから解放されるんだ。 「セレス様、行きましょう」 「ありがとう、リリ」 私はセレス・バートレイ。四歳の頃に母親がなくなり父がしばらく家を留守にしたかと思えば愛人とその子供を連れてきた。私はそれから今までその愛人と子供に虐げられてきた。心が折れそうになった時だってあったが、いつも隣で見守ってきてくれた精霊たちが支えてくれた。 ある日精霊たちはいった。 「あの方が迎えに来る」 カクヨム/なろう様でも連載させていただいております

義妹に苛められているらしいのですが・・・

天海月
恋愛
穏やかだった男爵令嬢エレーヌの日常は、崩れ去ってしまった。 その原因は、最近屋敷にやってきた義妹のカノンだった。 彼女は遠縁の娘で、両親を亡くした後、親類中をたらい回しにされていたという。 それを不憫に思ったエレーヌの父が、彼女を引き取ると申し出たらしい。 儚げな美しさを持ち、常に柔和な笑みを湛えているカノンに、いつしか皆エレーヌのことなど忘れ、夢中になってしまい、気が付くと、婚約者までも彼女の虜だった。 そして、エレーヌが持っていた高価なドレスや宝飾品の殆どもカノンのものになってしまい、彼女の侍女だけはあんな義妹は許せないと憤慨するが・・・。

「股ゆる令嬢」の幸せな白い結婚

ウサギテイマーTK
恋愛
公爵令嬢のフェミニム・インテラは、保持する特異能力のために、第一王子のアージノスと婚約していた。だが王子はフェミニムの行動を誤解し、別の少女と付き合うようになり、最終的にフェミニムとの婚約を破棄する。そしてフェミニムを、子どもを作ることが出来ない男性の元へと嫁がせるのである。それが王子とその周囲の者たちの、破滅への序章となることも知らずに。 ※タイトルは下品ですが、R15範囲だと思います。完結保証。

天才手芸家としての功績を嘘吐きな公爵令嬢に奪われました

サイコちゃん
恋愛
ビルンナ小国には、幸運を運ぶ手芸品を作る<謎の天才手芸家>が存在する。公爵令嬢モニカは自分が天才手芸家だと嘘の申し出をして、ビルンナ国王に認められた。しかし天才手芸家の正体は伯爵ヴィオラだったのだ。 「嘘吐きモニカ様も、それを認める国王陛下も、大嫌いです。私は隣国へ渡り、今度は素性を隠さずに手芸家として活動します。さようなら」 やがてヴィオラは仕事で大成功する。美貌の王子エヴァンから愛され、自作の手芸品には小国が買えるほどの値段が付いた。それを知ったビルンナ国王とモニカは隣国を訪れ、ヴィオラに雑な謝罪と最低最悪なプレゼントをする。その行為が破滅を呼ぶとも知らずに――

【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……

buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。 みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

無口な婚約者に「愛してる」を言わせたい!

四折 柊
恋愛
『月の妖精』と美貌を謳われるマルティナは、一年後の結婚式までに無口で無表情の婚約者トリスタンに「愛してる」を言わせたい。「そのためにわたくしは今、誘拐されています!」

骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方

ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。 注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。

悪役令嬢は死んで生き返ってついでに中身も入れ替えました

蒼黒せい
恋愛
侯爵令嬢ミリアはその性格の悪さと家の権威散らし、散財から学園内では大層嫌われていた。しかし、突如不治の病にかかった彼女は5年という長い年月苦しみ続け、そして治療の甲斐もなく亡くなってしまう。しかし、直後に彼女は息を吹き返す。病を克服して。 だが、その中身は全くの別人であった。かつて『日本人』として生きていた女性は、異世界という新たな世界で二度目の生を謳歌する… ※同名アカウントでなろう・カクヨムにも投稿しています

処理中です...