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第2話 - ウルダンの夜
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夜が訪れたウルダンの街は、活気付いていた。
各地の酒場から大きな笑い声や嬌声が聞こえ、そこら中の通りから酒の匂いが漂ってくる。
昼間の仕事を労うように、彼らは顔を赤らめたながら、ひたすらにバカ騒ぎをしているのだ。
だが、その街の様子を注意深く見ていると、能天気に騒いでいる者たちとは対照に、沈鬱な顔をしながら、俯き、足早に酒屋を通り過ぎる人々がいることに気が付くだろう。
沈鬱な表情の彼らこそ、ウルダンに根付き、生活をしている、本来の街の住人だ。
顔を赤らめ、酔いに任せるがまま、我が物顔で大騒ぎしている奴らのほとんどが、ギルドに属する「冒険者」である。
冒険者たちは、がなるように酒場の店主を怒鳴りつけ、次から次へと酒とつまみを持ってこさせる。
それに感謝をするそぶりもなく、彼らは仲間と共に、下世話な話に興じるのであった。
ギルド。世界中に根を張り巡らせる巨大な組織。
依頼主と冒険者を繋ぐ、仲介所である。
ここに世界中から依頼が舞い込み、それらを受ける者たちが冒険者と呼ばれる。
ギルドへの登録が認められることで冒険者として初めて認定され、様々な仕事を斡旋、紹介してもらうことができる。
そして、それらの仕事をこなし、一定の評価を重ねることによって冒険者ランクを上げることができる。
そして重要なのが、この高ランクに達すると、ギルドが妖精との契約を介助してくれるようになるのだ。
妖精と契約すると、魔法が使えるようになる。
妖精との契約なんて、通常の人間には到底できるものではない、奇跡である。
ギルドの仲介があってようやくできるものだ。
つまり、魔法を覚えたければ、ギルドに登録するしかない。
魔法を使えるような強者へ依頼したければ、ギルドに依頼するしかない。
故にギルドは世界中の依頼や仕事を独占するようになる。
この循環は続き、気が付けば、どの国も無視できないほど巨大な組織となったのだ。
だから、ギルドに属する冒険者がどれだけ大きな顔をしようが、真正面からそれを非難することは困難である。彼らが言うことを聞く道理がないのだ。
特に、ギルドの「支部」がある街なんかは、より支配が強力である。
ウルダンは、そんなギルドの支部がある街の一つである。
事実上の権力は、ギルドが握っているといっても過言ではないであろう。そこに集う冒険者たちの無法には、目をつむり耐えるしかない。
だから、こんな酒場の狼藉くらいは、日常茶飯事なのである。
「大将。この女、ちょっと借りていくぜ」
大男がそう叫び、女の店員の手を掴んだ。大男の吐息全てが、濃厚な酒気を帯びている。
女の店員は反射的に嫌がり、身をよじるが、男の膂力がそれを許さない。
酒場には大男以外に大勢の客がいる。だが、その乱暴を咎める者は誰もいない。
指笛を吹き囃したてる者か、俯き、目を合わせないようにする者の二種類しかいないのだ。
「いや、いや、いや……!」
「がはっ! ま、ま、とりあえず、俺の部屋まで行こうや。嫌がってるのも今のうち。ひいひい叫んでるうちに全部、忘れられるからよォ……」
「や、やめろあんた!」
大男が女の店員に顔を近づける。女の店員は涙を流し、恐怖に震えながら拒否をするが、逆らえるはずもない。
店主は叫び、止めようと大男に走り寄るが、大男は片腕をぶん、と振って、彼を弾き飛ばした。
「がははははっ! 逆らうんじゃねえ、弱者! この世は弱肉強食よぉ。俺みたいな高ランク冒険者が強者、お前ら酒汲みが弱者! こんなに明確なことはねえよなぁ!」
「そりゃ、変だよ。僕の知ってる弱肉強食と違うね」
その瞬間、しん、と、酒場が静まり返った。
誰もが顔を背けていた乱暴に、異を唱える声があったのだ。
大男がギロリと、声のする方を睨んだ。
そいつは、海藻類のような、もじゃもじゃした髪の毛の、陰鬱な顔をした少年だった。
腰に佩いている剣は、粗末な板切れみたいな鞘をしている。
少年は小さなテーブルにつき、一人で杯を煽っていた。
「あ? 何、お前、今、文句言ったか? 弱肉強食が、なんだって?」
「いや、簡単なことだよ。僕が知ってる弱肉強食ってのは、殺し合って死んだほうが弱者、立ってるほうが強者、ってことでね」
少年は、すく、と立ち上がり――大男に対面した。
「誰だって死んだら弱者なんですよ。平等に、水平に。冒険者だから強者ってのは、思い上がりってやつでしょうよ」
「……てめえ、殺すぞ」
大男は女店員を投げ捨て、底冷えするような眼光を、少年に向ける。
そして静かに、分厚い鉄のナックルダスターを装着した。
怒りのあまり見開いた目には、いっぱいの殺意が充満している。
「俺は、Cランク冒険者、ロック様だ。手前らみたいな跳ね返りを何人も殺してきたから強者だってのが、わからねえか小僧」
そんな力強い恫喝に屈することもなく、少年は肩を竦め苦笑した。
「そうなんだ。でも、僕ァまだ、殺されてないからね」
『わーっ! かーっこいい、レウ! 好き好き、だいすきーっ! うふふっ!』
少年は脳内に響く小悪魔の戯言に耳も貸さず、大男ロックと対峙する。
ロックはすうと息を吸い込み、言い放った。
「【衝撃魔法】発動」
各地の酒場から大きな笑い声や嬌声が聞こえ、そこら中の通りから酒の匂いが漂ってくる。
昼間の仕事を労うように、彼らは顔を赤らめたながら、ひたすらにバカ騒ぎをしているのだ。
だが、その街の様子を注意深く見ていると、能天気に騒いでいる者たちとは対照に、沈鬱な顔をしながら、俯き、足早に酒屋を通り過ぎる人々がいることに気が付くだろう。
沈鬱な表情の彼らこそ、ウルダンに根付き、生活をしている、本来の街の住人だ。
顔を赤らめ、酔いに任せるがまま、我が物顔で大騒ぎしている奴らのほとんどが、ギルドに属する「冒険者」である。
冒険者たちは、がなるように酒場の店主を怒鳴りつけ、次から次へと酒とつまみを持ってこさせる。
それに感謝をするそぶりもなく、彼らは仲間と共に、下世話な話に興じるのであった。
ギルド。世界中に根を張り巡らせる巨大な組織。
依頼主と冒険者を繋ぐ、仲介所である。
ここに世界中から依頼が舞い込み、それらを受ける者たちが冒険者と呼ばれる。
ギルドへの登録が認められることで冒険者として初めて認定され、様々な仕事を斡旋、紹介してもらうことができる。
そして、それらの仕事をこなし、一定の評価を重ねることによって冒険者ランクを上げることができる。
そして重要なのが、この高ランクに達すると、ギルドが妖精との契約を介助してくれるようになるのだ。
妖精と契約すると、魔法が使えるようになる。
妖精との契約なんて、通常の人間には到底できるものではない、奇跡である。
ギルドの仲介があってようやくできるものだ。
つまり、魔法を覚えたければ、ギルドに登録するしかない。
魔法を使えるような強者へ依頼したければ、ギルドに依頼するしかない。
故にギルドは世界中の依頼や仕事を独占するようになる。
この循環は続き、気が付けば、どの国も無視できないほど巨大な組織となったのだ。
だから、ギルドに属する冒険者がどれだけ大きな顔をしようが、真正面からそれを非難することは困難である。彼らが言うことを聞く道理がないのだ。
特に、ギルドの「支部」がある街なんかは、より支配が強力である。
ウルダンは、そんなギルドの支部がある街の一つである。
事実上の権力は、ギルドが握っているといっても過言ではないであろう。そこに集う冒険者たちの無法には、目をつむり耐えるしかない。
だから、こんな酒場の狼藉くらいは、日常茶飯事なのである。
「大将。この女、ちょっと借りていくぜ」
大男がそう叫び、女の店員の手を掴んだ。大男の吐息全てが、濃厚な酒気を帯びている。
女の店員は反射的に嫌がり、身をよじるが、男の膂力がそれを許さない。
酒場には大男以外に大勢の客がいる。だが、その乱暴を咎める者は誰もいない。
指笛を吹き囃したてる者か、俯き、目を合わせないようにする者の二種類しかいないのだ。
「いや、いや、いや……!」
「がはっ! ま、ま、とりあえず、俺の部屋まで行こうや。嫌がってるのも今のうち。ひいひい叫んでるうちに全部、忘れられるからよォ……」
「や、やめろあんた!」
大男が女の店員に顔を近づける。女の店員は涙を流し、恐怖に震えながら拒否をするが、逆らえるはずもない。
店主は叫び、止めようと大男に走り寄るが、大男は片腕をぶん、と振って、彼を弾き飛ばした。
「がははははっ! 逆らうんじゃねえ、弱者! この世は弱肉強食よぉ。俺みたいな高ランク冒険者が強者、お前ら酒汲みが弱者! こんなに明確なことはねえよなぁ!」
「そりゃ、変だよ。僕の知ってる弱肉強食と違うね」
その瞬間、しん、と、酒場が静まり返った。
誰もが顔を背けていた乱暴に、異を唱える声があったのだ。
大男がギロリと、声のする方を睨んだ。
そいつは、海藻類のような、もじゃもじゃした髪の毛の、陰鬱な顔をした少年だった。
腰に佩いている剣は、粗末な板切れみたいな鞘をしている。
少年は小さなテーブルにつき、一人で杯を煽っていた。
「あ? 何、お前、今、文句言ったか? 弱肉強食が、なんだって?」
「いや、簡単なことだよ。僕が知ってる弱肉強食ってのは、殺し合って死んだほうが弱者、立ってるほうが強者、ってことでね」
少年は、すく、と立ち上がり――大男に対面した。
「誰だって死んだら弱者なんですよ。平等に、水平に。冒険者だから強者ってのは、思い上がりってやつでしょうよ」
「……てめえ、殺すぞ」
大男は女店員を投げ捨て、底冷えするような眼光を、少年に向ける。
そして静かに、分厚い鉄のナックルダスターを装着した。
怒りのあまり見開いた目には、いっぱいの殺意が充満している。
「俺は、Cランク冒険者、ロック様だ。手前らみたいな跳ね返りを何人も殺してきたから強者だってのが、わからねえか小僧」
そんな力強い恫喝に屈することもなく、少年は肩を竦め苦笑した。
「そうなんだ。でも、僕ァまだ、殺されてないからね」
『わーっ! かーっこいい、レウ! 好き好き、だいすきーっ! うふふっ!』
少年は脳内に響く小悪魔の戯言に耳も貸さず、大男ロックと対峙する。
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「【衝撃魔法】発動」
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