剣術だけでギルドの魔法使いたちをぶった斬る -禁欲の呪いのせいで世界唯一の魔法が斬れる剣術を覚えました-

座佑紀

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第16話 - 労働街エナハ 英雄燦然

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「レウ。少しだけ聞いて」

 手を繋ぎながら、通りを走るレウとシャロ。
 見過ごしてくれることを願い、小競り合いを起こしているグループの横を通り抜けるが、その瞬間彼らの目線がこちらに向かうことを知覚する。
 
「あの、飯場まで、どうにかして戻って欲しい。私は今、ある魔法を発動させた。それの効果が現れるまでは時間がかかる。その間に、どうにか飯場まで戻って」
「……そりゃあ、いいが。そっからどうするよ。あそこから逃げ場なんて、ないぞ」
「私の魔法が発動して、上手くいけば、多分大丈夫。私がここに来たのは、目的があったから。数少ない協力者と、この街で落ち合うことになっていたの」

 その情報は、初耳だった。だが、この状況で、協力者一人と会ったところで、何になるだろうか。
 だがシャロは、その協力者に、絶対の自信を持っているようであった。

「お願い、信じて。彼と落ち合えれば、とりあえずなんとかなる。無茶を言ってるのはわかってる。だけど」

 その言葉の続きを聞く暇もなく。
 二人の目の前に、巨大な人影が飛び込んだ。
 それは獣の仮面を付け、厚い体毛と分厚い筋肉を有する、さながら肉食獣であった。
 肉食獣の男は、ぎらりと光る目で睨みつけ、うおお、と叫ぶ。

「ようやく会えたな、獲物共! 《獣面武闘会《マスカレード》》が、お前らを食らう!」

 獣の男は雄叫びを上げながら、鋭利な爪を立てて襲い掛かってくる。
 剣を受けても折れないくらい、丈夫な爪であった。が。
 獣であろうと、近接戦を挑んだ時点で彼の負けである。
 獣の男が放った両手の攻撃が、レウの二振りの攻撃により、綺麗に弾かれた。――跳ね返しの絶技、である。
 無防備となった男の胸に、二つの深い傷が、走る。
 痛みに叫ぶ肉食獣にそれ以上構う暇もなく、さっさとそこを通り過ぎようとするが。

 光の弾が飛んできた。それに素早く反応し斬り捨てる。
 その横合いから電気を纏った拳が顔面に飛び込む。光弾を斬った直後なので剣は間に合わない。背を思い切り逸らし、拳を避ける。
 その反対方向から、岩がバキリと砕けるような音がしたかと思えば、無数の結晶が霰の如く降り注いだ。
 
 レウは、シャロの手を強く握り、剣を掴んだままの手で彼女の背中を支え、不器用なダンスをするように回りながら、その結晶の弾雨からとにかく逃げた。

「はっ。これだから獣人如きは。我ら《総武》の拳にて、殺しを完遂しよう」
「仲良くしようぜ~、オタクら。こんな機会滅多にねえんだ。俺ら《結晶戦線》が、リードしてやるからよぉ」

 一人を倒しても、またすぐに違うパーティーに囲まれる。
 しかも、どれもが高ランクパーティーである。

 高額の報酬、そして、無条件の一ランク昇格。
 それがギルドが出した条件だという。報酬の方ではない。無条件の昇格、があまりに破格なのだ。
 それだけを求めて、これほどのパーティーが、こんな英雄たちが、捨てられた辺鄙な街に集まった。
 これは、シャロも予想外のことであろう。
 ダイオンを倒した、という代償は、あまりにも大きかったのだ。
 誰も注意を払わない、ギルドの目から逃れていた街にも、多くの強者が集結してしまうほどに。

 立ちはだかるパーティーたちの手が、青白く光っていく。魔法を発動させる前兆だ。
 レウは、剣を握り直し、あらゆる可能性を視野に入れながら、迫りくる攻撃に備える。

 その時。突然、夜になった。
 否。夜になったのではない。巨大な何かが空に浮かび、日の光を遮ったのだ。
 思わず見上げるレウ。そこに浮かんでいたのは、大きな船であった。
 そんなもので浮き上がるとは思えないプロペラが申し訳程度に回っており、しかしその巨大な船体は、事実空に浮かんでいる。
 その船から、尊大な笑い声が聞こえた。

「はーっはっはっは! ヨーソロー、皆の者! 俺様が来てやったぞ! それじゃあ早速、祝砲を授けよう! お前ら、砲撃用意!」

 船首に立ち上がり、下界を見下ろす男が一人。
 髑髏が描かれた眼帯を付け、高らかに笑っている。
 男の命を受け、仲間と思しき、褐色の女が応じた。

「せんちょ~それやばくね~? 下の奴らめっちゃ巻き込まれまっせ~」
「はっはっはっは! まだまだだな、お前! 見ろ、あそこは既に混沌だ! いいか? 混沌には、混沌を! そのほうが、より面白くなる! わかったらさっさと、撃ち込め野郎共!」
「は~い、了解~。ヨーソロ~」

 そしてその船に取り付け垂れた幾門もの砲が、街を向き、容赦なく砲撃が開始された。
 空を割らんばかりの轟音が幾つも重なり、途端に火薬の匂いで満たされる。
 あちこちが爆ぜ、衝撃が広がる。混乱はピークに達し、冒険者たちが叫び声を上げる。

「あいつら! 《天地海賊エルドノート》だ! くそ、めちゃくちゃやりやがる!」
「盗人の集団が、調子に乗りおって……! 逃げろ、逃げろ!」

 街はいよいよ狂乱に包まれた。ただただ逃げ惑う者。どうにかしてあの船を落とせないか睨み上げる者。この混乱の隙にレウ達を殺せないかと狙いを澄ます者。
 天空からの砲撃が近辺に着弾したのもあり、目の前の二つのパーティーはレウどころではなくなった。その隙に二人は、ここから逃れることができた。
 しかし、今度は遥か高みからの砲撃という艱難に襲われている。シャロの手を引いて、とにかく砲撃が当たらないように、駆けまわることで精一杯であった。

 そんな、時に。
 更なる英雄が、姿を現すのであった。

「――邪魔」

 天空に、斬撃が走った。
 白く弧を描いた、波濤のようなエネルギーが、斬撃の跡を残す。
 まるで、巨人が剣を振るったかのような、巨大な円弧は。

 天空に浮かぶその船を、真っ二つに切り裂いていた。

 その光景を見て、冒険者たちは――言葉を失った。
 まさかあの巨大船が斬り落とされる、だなんて。

 否。そんなことは、最早些末な問題ですらある。

 知らないはずがない。そして間違いであってほしい。
 そんなクラスの冒険者までが来るとは、聞いていないのだから。

「《星崩し》……アルス……?」

 街の中央に、一人。
 金髪の少年が、佇んでいた。
 剣、というより、宝石を無理やり剣の形に叩き上げたかのような、原始的で神秘的な剣を片手に、彼は落とした船を見上げている。
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