剣術だけでギルドの魔法使いたちをぶった斬る -禁欲の呪いのせいで世界唯一の魔法が斬れる剣術を覚えました-

座佑紀

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第17話 - 労働街エナハ 英雄三傑

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「アルス……?」「なんで、そんな奴が、ここに?」「《星崩し》だ、本物だ」「あ、あれ、本物だ。俺、見たことあるんだ。あの伝説を、見たんだ」「あり得ねえだろ。アルスって、おい、Sランク冒険者の、アルスか?」

 冒険者たちが、金髪の少年を見て、次第に騒ぎ出した。
 天に浮かぶ巨大な船を斬り。宝石のような剣を持ち。朝日に映える海のような美しい金髪を靡かせる。
 それは疑いようもなく《星崩し》アルスであった。

 世界に七人しかいない、Sランク冒険者。最強の星剣を持つ男。
 国家規模の案件しか関わらない、生きる伝説。
 彼はギルドのランクの最高まで上り詰めた男だ。無条件の一ランク昇格など、なんのメリットでもないだろう。
 そんな者が、二人を追うために、この街にやってきている。

 アルスの存在ただ一つで、ここに集う冒険者たちは、これは果たして自分たちが手を出すべき案件では無かったのではないかと、急激な不安に襲われるのであった。

 だが、そんな不安に怯えている場合ではない。
 アルスは無造作に天空船を斬ったのである。
 その後の顛末は自明だ。即ち落下。

 船は木片を撒き散らしながら、天地海賊の乗る船は真っすぐ、街に向かって落ちる。
 船から放り出された人間たちが、わぁわぁと大きな声で喚いているが、船底に大きな傷を負った以上、再び浮かび上がることはあり得ない。

 船は落ちる。このままだと衝突し、多くの死者を伴いながら、街を一つ潰すであろう。
 冒険者たちは心の底から絶叫をしながら、船の下敷きになるまいと走り回っていた。

 そんな中で。街中央の、比較的背の高い建物の上に。
 金色の甲冑を身に纏った者が、一人、落ち行く船を見上げていた。
 その甲冑は、籠手に力を込め、魔法の力を回す。
 籠手が黄金に発光した。そして甲冑は、思い切り振り被り。
 拳を、船に向かって放った。

 半透明の、拳の姿をした強大なエネルギー塊が、船に激突する。あまりの力を真に受けた船は、その衝撃のあまり、一瞬浮かび上がる。
 そして、破壊が来た。光の後を追い音がやってくる雷のように。
 轟音と共に船全体に罅が走り、粉々に砕け散り、無数の木片となって、バラバラに弾けた。

「王国騎士、だ」「はは、ははははは!」「なんだ、これ! こんな街に、なんで」「王国騎士団長だ。《黄金騎士》の、エルセイドだ!」

 王国騎士とは、ギルドに登録されている冒険者ではない。王国が保有する戦力である。国家に深く食い込むギルドに対抗するために組織された精鋭。ギルドではなく王に忠誠を誓う、忠犬である。
 その中でも最強の騎士、騎士団長に任命された《黄金騎士》は、Sランク冒険者に迫るほどだと、噂されている。

 黄金騎士は、拳を振り上げたまま、眼下で騒ぐ者を見つめていた。
 否。有象無象に興味などなく。この中に目標が紛れていないかを、静かに観察しているのであった。
 だが彼の目は、逃げ惑う有象無象の中に一人、余裕綽々で、いつもの通り道を散歩するかのように、悠然と歩く、中年の男を見つけていた。

 彼は、ゆったりとした服に、若者が付けるような豪奢な飾り物を至るところに付けている。洒脱な顔の中年が、いたずらっ子のような笑みを、頭上に向けた。
 空からは、騎士が破砕した無数の木片が、雨のように降り注がんとしている。

「アルスも、エルちゃんも、派手にやんのはいいけどさぁ。後始末も考えなよ。結局、片付けるの、おじさんの役目になっちゃうんだから」

 そして男は両手を広げる。彼の右手の人差し指には、大きな宝石が嵌った指輪が輝いていた。
 そして、その両手から、ぶわりと、魔力そのものとでも言うべきエネルギーが放出された。
 そのエネルギーは泉のように湧き出す。尽きることなく。空に向かって浮かび上がり、街の上全てを覆う、巨大な魔力の膜となった。
 その膜が、降り注がんとした木片全てを、余すことなく受け止める。
 ――それは、魔法ですらなかった。
 妖精との契約により支給される魔力を、限りなく精緻に動かしただけである。
 どれほどの妖精と契約しようが、こんな無尽蔵の魔力を垂れ流し、コントロールすることなぞできはしないだろう。そんなことができるのは、世界でも数人もいないはずである。
 つまり必然的に、その中年は、その数人の誰かであった。

「《魔法卿》」「俺は今日、来るべきじゃなかった」「なんだ今日は。戦争でも起こるのか? こんな、こんな」「“最も妖精に近い男”だ」「ハーヴィスだ」「ギルドの大幹部が来るのは、反則だろ」「《星崩し》と《黄金騎士》と《魔法卿》が同時に揃うなんて、はは、夢だよ、こんなの、現実なわけがない」

 混乱は極限に達した。
 じょり、と顎髭を撫で、軽く大魔法を行使した男こそ、ハーヴィス。《魔法卿》。ギルドの大幹部である。別名、最も妖精に近い男。Sランク冒険者の証たるバッチが、きらりと光る。
 それを《黄金騎士》が睨む。《魔法卿》は視線に気づき、にやりとほくそ笑む。
 そんな中年の笑い顔を、別の方向から、実に嫌そうに、苦々しい表情で《星崩し》が見つめている。

 異常事態であった。
 最高峰の中の最高峰が、同時に三人。
 レウとシャロのために、現れた。

 阿鼻叫喚の様相となった街の中で、《黄金騎士》は《魔法卿》から視線を外し、遠くまでじっくりと眺める。
 そして、何かを見つけたのだろうか。すくりと立ち上がると、目に見えぬ速度でどこかに駆けだした。
 その後を追うように、《星崩し》もふらふらとした足取りで、ゆっくりと歩く
《魔法卿》は、じょり、と顎髭を撫でながら。

「こりゃ、面倒なことになっちゃったねぇ」

 などと嘯き、右手を掲げた。すると、男の体はすぅ、と透明になり、その場から忽然と姿を消すのであった。
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