剣術だけでギルドの魔法使いたちをぶった斬る -禁欲の呪いのせいで世界唯一の魔法が斬れる剣術を覚えました-

座佑紀

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第30話 - 地下迷宮 決意

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 今日は悪夢を見なかった。

 昨日はきっと、いつになく疲れ果てていたから、心の蓋が緩んでしまっていたのだろう。体力が戻ってきたら、あの光景はもう蘇ってこないのだ。
 それにいつもよりも暖かいような気がする。そして、気持ちがいい眠りだったとも思う。

 レウは目を覚まし、ベッドから起き上がりゆっくりと伸びをしようとした。
 その、ベッドの毛布の中に。
 白髪の少女が潜り込んでいるのを見つけた。
 彼女は薄着になっていて、柔らかな肌を密着させている。
 純白の肌が、ほんのりとピンク色に染まっていて、
 
 レウは固まった。まさかの景色に、思考がオーバーヒートした。
 そしてレウの上で眠っていたシャロが、ゆっくりと目を覚ます。
 寝ぼけた目をこすりながら、超至近距離で、二人は見つめあった。
 何の間違いでこんなところに潜り込んできたか知らないが、この数秒後にはきっと大騒ぎして数発のビンタは食らうだろう。
 それを覚悟しレウはぐっと緊張の面持ちになるが。
 
 シャロはなんと、逆にレウにぎゅっと抱き着いた。
 混乱がピークに達するレウ。彼の頭は混乱で満たされていた。
 様々な困惑でいっぱいだったが、肌と肌が触れる柔らかさと温かさがとんでもなく官能的であり、レウの鼓動は早鐘を打つ。
 そしてシャロは、レウの耳元で囁く。

「レウ……いいから、わ、わたしのこと……好きなように、して」
「は、は? おいおい、シャロ、何が一体」
「何されても、怒らない、から……! 私も一緒に、背負って、戦う……! それだけ……だから……!」

 シャロはそう言うと、細くすべすべとした白指を、レウと指と絡めた。
 
「昨日、ハーヴィスから……《水平線》のことを聞いた」
「……シャロ」
「あなたが、どんな目に遭ったのかを、知った。私にはわからない苦悩なのだろうけど、それが原因で、あなたは自分の命を、重く見ないんだね。全てを理解することはできないかも、だけど」

 シャロは言葉を選びながら、真剣な眼差しで、しかし、異様に紅潮した面持ちで、レウの手を掴んだ。

「私は、あなたと一緒に、戦いたい。同じ荷物を背負って、一緒に、歩みたい。一人だけ命を賭ければいい、なんて考えは、やめて……」

 そしてシャロは、しばらく口をぱくぱくさせて、決然と言い放った。

「だから、これくらい……! ど、どうってことないんだから! す、好きなようにして、それで、その…………修行、してよ!」

 そしてシャロは思い切って、レウの首筋に口を近づけ、ぺろぺろと舐め上げた。
 その舌の動きがあまりに拙く、こそばゆく。
 レウは思わず、笑ってしまう。それを受けてシャロは、怒った。

「な、なによ! わ、わたしがどれだけ必死に……!」
「いやいや! ははは! 笑うでしょうよ、こりゃ!」

 レウは首筋に食らいつくシャロを引き剥がし、お腹を抱えて笑った。
 そして、レウもじっとシャロの目を見つめて、真剣に答えた。

「ハーヴィスは余計な事喋ったな。そうだよ。僕ァ、あの時死んでるようなもんだ。たまたま生きてるだけで、いつ死んでもいい人間なんだよ。だからこそ無茶ができる。これは僕の勝手な考えだ。シャロまでが、こっちの荷物を背負う必要はない」
「違う。それは、違う、レウ」

 シャロはぶんぶんと頭を振った。

「今、レウは生きてる。死んでいいなんてことはない。あなたが全ての痛みを引き受けるのであれば、私も同じ痛みを背負う。そうやって――私はあなたと、水平になりたい」

 心の蓋を掛けたばっかりの言葉が、また目の前で聞こえた。
 でも、その言葉は、同じ単語なのに、あの日に塗れた残酷さは無く、懐かしいほど暖かな言葉であった。
 レウは、くつくつを喉を鳴らして、笑っていた。

「覚えたての言葉を、無理に使ってもしょうがないだろう」
「な、なによ……これでも一晩、一生懸命考えたんだから」
「いや。きっと、間違ってない。水平だから、僕もシャロの決意を尊重しなければいけないだろうな」

 そしてレウは、シャロの肩を掴み、彼女の露わとなった肢体を見つめた。
 シャロはごくりと喉を鳴らす。これからなにが始まるのか、その期待や恐怖が無い混じった時間に、心臓が次第に早く鳴っていき――

「おーーーい。お二人さん、《魔法卿》が来てやったぞ~? どこいった」

 全く空気の読めないハーヴィスがやってきた。
 白けた目で、互いを見るレウとシャロ。
 そしてシャロは、己の今の恰好をもう一度見て、はぁと大きなため息を吐いた。

「いつもの部屋行ってて! ちょっと着替えるから! そこから動かないでね!」

 彼女は慌ただしくレウのベッドから立ち退き、自分の部屋へと駆けて行った。
 この気恥ずかしさを誤魔化すように、レウと目を合わせることもせず。
 レウは、やれやれ、なんて表情をしながら、二人分の温もりが残ったベッドに、残っていた。

『ねーねー、レウさぁ』

 そこで久方ぶりに、小悪魔リーリスが、不思議そうに声をかけた。

『最近、今のやつ、けっこー興奮してるのに、修行するつもりないの? なんで』

 レウはその言葉に答えず、虚空を手でしっしと払った。

-----------------------------------------------------------------

「いようお二人さん。今日はなんだか待たせるなぁ。で、なにかいい案は思いついたか? 俺? 俺はさっぱりさ」

 レウとシャロは、先ほどの甘い寝覚めを意識しないように、互いにほんのり距離を取っていた。
 ハーヴィスは知ってか知らずか、気楽に二人に問いかける。
 そんなのぽんぽん出てくるわけがないだろうと、レウが呆れた反論をしようとしたその時。
 意外にも、シャロがその問いに対して答えを出した。

「私に、考えがある。考えというより、決意、というようなところ、だけど」

 そして彼女は、少し離れた隣に座るレウを、見た。

「私も彼と一緒に、戦う」
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