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盲目的な好意
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「猛従兄さんってば、娘の成長に感動してる父親みたい」
「そうだな。俺はお前を、赤ん坊の頃から知っているから」
従兄さんが感慨深げに言った。
「私の事を赤ん坊の頃から知ってるのに、好きになれたの?」
私の疑問に、従兄さんは少しだけ顔をしかめた。
「おかしいか?」
「おかしいかどうかはわからないけど……。ねえ、いつから私の事が好きなの?」
気になっていた事を訊ねた。すると従兄さんは、少しだけ躊躇ってから口を開いた。
「……不謹慎だと罵られるかもしれないが、秋雄叔父さんの四十九日の法要の時からだ」
結構、最近からなんだ。赤ちゃんの時から好きだったと言われたらちょっと嫌だったから、安心した。
それにしても具体的な返答だ。私は気になって、理由を訊ねた。
「どうしてその時から、私の事を好きになったの?」
私の質問に、従兄さんは優しく目を細めた。右手が伸びてきて、そっと私の髪を撫でる。
「叔父さんの葬式の時には泣いてばかりだったお前が、四十九日の時はしっかりと背筋を伸ばして叔母さんを手伝っていた。甘えん坊でお転婆で、泣き虫だったお前は、すっかり大人に近づいてしまったんだとその時思った。少し寂しいとも思ったが、同時に意識もした。お前は俺が気付かない内に成長していたんだと」
お父さんの四十九日の法要の時。本家の皆がたくさん手伝ってくれたから、やることも多くはなくてそんなに大変じゃなかったけど、私は私よりも元気のないお母さんを支えてあげたくて、少しだけお手伝いをした事は覚えてる。
法要に必要な物を前日に買い揃えたり、当日にそれをお寺まで運んだり、法要の後の会食で親戚たちにお酒を注いで回ったりもした。
「でも、あの時は本家の皆が手伝ってくれたから、私は大した事してないよ」
「お前は十分手伝っていた。中学生の娘がやるには十分過ぎるくらい、お前はしっかりやっていた。お父さんもお母さんも、そしてお祖父様もお前を褒めていた」
そう言って、えらいえらいと小さい子供を褒めるように頭の上の手が往復する。くすぐったい。
「私、そこまで褒められるようなことしてないよ。皆、私に甘いんだね」
「そうだな。特にお母さんは息子だけじゃなく、椿のような娘も欲しかったと以前言っていたから、お前に対しては甘いかもしれない」
「そうなんだ。知らなかった」
たしかに伯母様は、私にいつも優しくしてくださる。それにはそういう理由があったのか。
伯母様に限らず、お祖父様も伯父様も優しいけど。
「でも私、皆が……従兄さんが思ってるほど大人じゃないよ。だって、まだまだお母さんに甘えたいもの。お母さんは普段お仕事で忙しいから、あんまり甘えられないけど」
私はつい、本音を漏らしてしまった。でも従兄さんは私を大人扱いしようとしてるから、私がもっと子供だって事を知っておいて欲しかったし、逆によかったのかもしれない。
急に大人扱いされるのは、なんだか心が追いつかなくて苦しいというのが正直な気持ちだった。私の事を、立派な女だなんて言わないで欲しい。「まだまだ子供なんだな」と笑って欲しい。
だけど従兄さんの反応は、私の思惑から外れたものだった。
「それなら、俺に甘えればいい。俺がいつだって、お前を甘やかしてやる」
なんて気障な台詞。だけどその声音はすごく優しくて、胸の奥がざわめいた。どきどきする。
私が思わず俯くと、髪を撫でていた従兄さんの右手が私の頬に触れてきた。優しく愛おしむように大きな手が動く。くすぐったい。でも、不思議と嫌じゃなかった。
「やだ。従兄さんに甘えたら、エッチな事されそうだもの」
「お前が嫌がる事はしない」
「さっきはしたじゃない」
「悪かった。もうしない」
殊更真面目な声が上から振ってきて、私は思わず吹き出してしまった。
「ふふ。従兄さんって、相変わらず誠実だね」
「誠実な訳じゃない。お前に嫌われたくないだけだ」
そう話す従兄さんの好意が、少しだけ怖いと思った。私みたいな中学生と将来結婚してもいいと思っている猛従兄さんは、きっと世の中では変人に分類されるはずだ。たとえ変人だとしても、従兄さんが真面目でいい人だということは揺るぎない事実だけど。
「ねえ、猛従兄さん。従兄さんが私の事を本当に好きなんだっていうのは理解したけど、だからって、私と結婚してもいいって考えるのは早計だと思う」
「なぜだ?」
従兄さんが不思議そうに訊いてくる。
「なぜって……私が大人になる前に、私よりも好きだと思う人が現れるかもしれないじゃない」
「こんなにも可愛いお前を差し置いてか?」
…………。
「そ、それに、付き合ってもいないのに結婚してもいいと思うのも、よくないよ」
「だめなのか?」
「だめっていうか、結婚してから後悔するかもしれないでしょう? 椿がこんなヤツだったなんてーって」
「後悔なんてしない。お前の事は、俺なりによくわかっているつもりだ」
…………。
「従兄さんって、私に対して盲目的すぎない?」
「そうか?」
「そうだよ。私のどこがそんなにいいの?」
ボインボインでセクシーなお姉さんが相手ならまだわかるけど、従兄さんは私のどこにそんなに惹かれてるの?
「そうだな。素直でしっかりしていて、言いたい事は遠慮なく言うところも好きだし、外見も好きだ」
「外見って、顔も身体も?」
「もちろん」
そう言って頷く。中学生の身体が好きだとはっきり答えるだなんて、従兄さんはやっぱり変態だ。私は従兄さんの胸を押して突き放した。
「私の身体が好きだなんて、変態!」
「お前が訊いてきたから素直に答えただけだろうが。これじゃ誘導尋問じゃないか」
「知らないっ!」
私は叫びながら、早歩きで玄関に向かった。お庭へと逃げるためだ。
「そうだな。俺はお前を、赤ん坊の頃から知っているから」
従兄さんが感慨深げに言った。
「私の事を赤ん坊の頃から知ってるのに、好きになれたの?」
私の疑問に、従兄さんは少しだけ顔をしかめた。
「おかしいか?」
「おかしいかどうかはわからないけど……。ねえ、いつから私の事が好きなの?」
気になっていた事を訊ねた。すると従兄さんは、少しだけ躊躇ってから口を開いた。
「……不謹慎だと罵られるかもしれないが、秋雄叔父さんの四十九日の法要の時からだ」
結構、最近からなんだ。赤ちゃんの時から好きだったと言われたらちょっと嫌だったから、安心した。
それにしても具体的な返答だ。私は気になって、理由を訊ねた。
「どうしてその時から、私の事を好きになったの?」
私の質問に、従兄さんは優しく目を細めた。右手が伸びてきて、そっと私の髪を撫でる。
「叔父さんの葬式の時には泣いてばかりだったお前が、四十九日の時はしっかりと背筋を伸ばして叔母さんを手伝っていた。甘えん坊でお転婆で、泣き虫だったお前は、すっかり大人に近づいてしまったんだとその時思った。少し寂しいとも思ったが、同時に意識もした。お前は俺が気付かない内に成長していたんだと」
お父さんの四十九日の法要の時。本家の皆がたくさん手伝ってくれたから、やることも多くはなくてそんなに大変じゃなかったけど、私は私よりも元気のないお母さんを支えてあげたくて、少しだけお手伝いをした事は覚えてる。
法要に必要な物を前日に買い揃えたり、当日にそれをお寺まで運んだり、法要の後の会食で親戚たちにお酒を注いで回ったりもした。
「でも、あの時は本家の皆が手伝ってくれたから、私は大した事してないよ」
「お前は十分手伝っていた。中学生の娘がやるには十分過ぎるくらい、お前はしっかりやっていた。お父さんもお母さんも、そしてお祖父様もお前を褒めていた」
そう言って、えらいえらいと小さい子供を褒めるように頭の上の手が往復する。くすぐったい。
「私、そこまで褒められるようなことしてないよ。皆、私に甘いんだね」
「そうだな。特にお母さんは息子だけじゃなく、椿のような娘も欲しかったと以前言っていたから、お前に対しては甘いかもしれない」
「そうなんだ。知らなかった」
たしかに伯母様は、私にいつも優しくしてくださる。それにはそういう理由があったのか。
伯母様に限らず、お祖父様も伯父様も優しいけど。
「でも私、皆が……従兄さんが思ってるほど大人じゃないよ。だって、まだまだお母さんに甘えたいもの。お母さんは普段お仕事で忙しいから、あんまり甘えられないけど」
私はつい、本音を漏らしてしまった。でも従兄さんは私を大人扱いしようとしてるから、私がもっと子供だって事を知っておいて欲しかったし、逆によかったのかもしれない。
急に大人扱いされるのは、なんだか心が追いつかなくて苦しいというのが正直な気持ちだった。私の事を、立派な女だなんて言わないで欲しい。「まだまだ子供なんだな」と笑って欲しい。
だけど従兄さんの反応は、私の思惑から外れたものだった。
「それなら、俺に甘えればいい。俺がいつだって、お前を甘やかしてやる」
なんて気障な台詞。だけどその声音はすごく優しくて、胸の奥がざわめいた。どきどきする。
私が思わず俯くと、髪を撫でていた従兄さんの右手が私の頬に触れてきた。優しく愛おしむように大きな手が動く。くすぐったい。でも、不思議と嫌じゃなかった。
「やだ。従兄さんに甘えたら、エッチな事されそうだもの」
「お前が嫌がる事はしない」
「さっきはしたじゃない」
「悪かった。もうしない」
殊更真面目な声が上から振ってきて、私は思わず吹き出してしまった。
「ふふ。従兄さんって、相変わらず誠実だね」
「誠実な訳じゃない。お前に嫌われたくないだけだ」
そう話す従兄さんの好意が、少しだけ怖いと思った。私みたいな中学生と将来結婚してもいいと思っている猛従兄さんは、きっと世の中では変人に分類されるはずだ。たとえ変人だとしても、従兄さんが真面目でいい人だということは揺るぎない事実だけど。
「ねえ、猛従兄さん。従兄さんが私の事を本当に好きなんだっていうのは理解したけど、だからって、私と結婚してもいいって考えるのは早計だと思う」
「なぜだ?」
従兄さんが不思議そうに訊いてくる。
「なぜって……私が大人になる前に、私よりも好きだと思う人が現れるかもしれないじゃない」
「こんなにも可愛いお前を差し置いてか?」
…………。
「そ、それに、付き合ってもいないのに結婚してもいいと思うのも、よくないよ」
「だめなのか?」
「だめっていうか、結婚してから後悔するかもしれないでしょう? 椿がこんなヤツだったなんてーって」
「後悔なんてしない。お前の事は、俺なりによくわかっているつもりだ」
…………。
「従兄さんって、私に対して盲目的すぎない?」
「そうか?」
「そうだよ。私のどこがそんなにいいの?」
ボインボインでセクシーなお姉さんが相手ならまだわかるけど、従兄さんは私のどこにそんなに惹かれてるの?
「そうだな。素直でしっかりしていて、言いたい事は遠慮なく言うところも好きだし、外見も好きだ」
「外見って、顔も身体も?」
「もちろん」
そう言って頷く。中学生の身体が好きだとはっきり答えるだなんて、従兄さんはやっぱり変態だ。私は従兄さんの胸を押して突き放した。
「私の身体が好きだなんて、変態!」
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