図書室でのエトセトラ

*kei

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Dirty Little Secret

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 あたしがよく読む小説のヒロインは、可愛くて、ちょっとドジで、性格も良く。
 腹黒いところなんてなくて、天然で、素直で、皆から愛されていて。
 それでいて自分に向けられる恋愛感情には超鈍感だったりする。

 すごく好きな相手には嫌われていると思い込んでいて、だけど実は両思いだったり。
 気になる男の子が自分のことも気になっていたり。
 でもヒロインが余りにも鈍いから、彼のそんな視線にも気づかない。

 でもね、現実の女の子は違うんだよ。



 ――放課後、学校の図書室。
 制服を着た男女が肩を並べて勉強する風景はごく普通だけど、漂う雰囲気の機微は当事者二人にしか解らない。

 あたしは、彼と二人きりになった時の、張り詰めた緊張感が好き。
 見えない赤い糸がピンと張ってあって、今にも切れそうだけど決して切れない。
 清んでいて鋭い糸。
 その糸が鋭利になり、刺されているかのようにチリチリと指先が痛い。
 胸はドキドキして、首筋の辺りが酷く熱い。

 いよいよそれに耐え切れなくて、熱の元を辿ると……彼の瞳にぶつかる。
 感情を余り表に出さない彼。
 でもね、あたしは知ってる。
 結構長い付き合いだから。
 だてに3年近くもそばにいるわけじゃない。
 視線がぶつかって動揺しているのが手に取るようにわかる。

 だけど、あたしは決してその様子に笑わない。
 反対にね、あたしは――。

 「高橋くん、どうかしたの?」

 少し首を傾けて、きょとんとしたような表情を作る。
 そうするとね、彼は、

 「…何でもない」

 決まったセリフのように、毎度同じコトを言って視線を反らす。
 あたしに向かう熱がなくなって、少しだけ寂しさを感じるんだけど、すぐにまたその熱を感じるようになる。


 ――彼があたしを見ている。


 そう思うと、再び首筋のあたりが疼く。
 ジリジリと焼けそうなほどの熱。

 この均衡を崩す方法をあたしは知っている。
 彼が行動を起こさないのなら、あたしから動けばいいだけ。

 だけどね、それじゃつまらないでしょう?
 この緊張感はきっと、関係が変わったら味わえないもの。

 今だけ。
 今だからこそ楽しめる。

 じれったい彼。
 だからね、つい、いぢわるもしたくなるのよ。

 「ね、高橋くん」
 「何?」
 「ここの計算なんだけど…」

 机の上にあるノートをトントンと指差す。
 彼の顔が近づき、あたしの髪を揺らす。
 息が掛かるほど近い距離で、彼の名を呟く。
 すると、あからさまに走り抜ける緊張感。

 彼の匂いが鼻腔をくすぐる。
 と言うことは、彼もあたしを感じとっているわけで。
 最近気に入って使っているヘアオイルの匂いを彼は掴んでいるはず。

 お互いがお互いを意識する瞬間。

 二人の間にあるのは、薄くて、とても脆い硝子板。
 こちら側から、少し力を加えるだけでヒビが入る、儚い硝子。
 簡単に割れることを知っているのにそうしないあたしは、天邪鬼なのかもしれない。



 あたしがよく読む小説のヒロインは、可愛くて、ちょっとドジで、性格も良く。
 腹黒いところなんてなくて、天然で、素直で、皆から愛されていて。
 それでいて自分に向けられる恋愛感情には超鈍感だったりする。

 すごく好きな相手には嫌われていると思い込んでいて、だけど実は両思いだったり。
 気になる男の子が自分のことも気になっていたり。
 でもヒロインが余りにも鈍いから、彼のそんな視線にも気づかない。

 でもね、それはフィクションでの世界の話。

 リアル世界のあたしたちは、可愛くて、ちょっとドジ。
 それはある程度当たっているけど、性格も良くいようと努力しているし、勘も立つし、人の感情の起伏に鋭く気づく。

 「オンナの勘」って言うくらいだもの。

 意外と計算高くて、腹黒だったりする。
 ズルくて、嘘も吐くし、嫌われ要素も持ち合わせている。
 わざと嫉妬を煽ってみたり、解からないフリしたり、駆け引きを楽しんだりもする。

 彼はこんなあたしを知らない。
 あたしの、決して綺麗じゃない、この小さな秘密を。

 再び彼の視線を感じで、伏せていた目を上げる。
 目線が絡み、微笑む。
 そして少しグロスで潤んだ唇を開く。
 熱が篭った彼の瞳があたしの唇を捉えた瞬間、再び口を開く。

 「高橋くん?」

 ハッとしたように、視線をそらす彼。
 耳が少し赤い。
 それがわかると、自然とあたしの口角が上がる。

 いつかは気づいて欲しい。
 だけど、それは今じゃない。

 もう少しだけ。
 あたしを楽しませて欲しい。

 これ以上ないってくらい、限度が来たら――。
 あたしも覚悟を決めるから。

 だから、もう少しだけ……ね。



 
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