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第20話 焦燥
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────クウェール原野付近、Bエリア。
緑に覆われた広大な原野の中、草木の間を縫うように黒い影が疾風のごとく駆け抜ける。
その影が通り過ぎる瞬間、周囲の静寂を切り裂くかのように、魔物たちの首が一斉に宙を舞い、やがて地面に重々しい音を立てて落下した。血の雫が空中に舞い、刹那のうちに地面を赤く染める。
影の正体は、風を纏い、空気すらも引き裂くスピードで動く獣人族の戦士、クオラだった。
彼女の動きは、まるで洗練された舞のようであり、草木の隙間をすり抜けるたびに、周囲の風を巻き起こす。彼女の肌に触れる風は、心地よい冷たさをもたらし、その速さは時速80キロにも達する。魔物たちの目には、彼女の姿はただの影にしか映らず、気がつく頃には彼女の刃に切り裂かれているのだ。
クオラは風属性の戦士型魔術師。彼女のユニークスキル【かまいたち】は、空気を凶刃に変え、その鋭さを身に纏わせて敵を切り裂く。二本の鉈を手にする彼女は、その刃に強烈な風を宿し、魔物に襲いかかる。草原の静寂を打ち破るかのように、魔物たちが次々と倒れていく様子は、まるで自然の一部であるかのように、流れるような動きだった。
「オラ!おっせぇぞ、セシル!」
クオラの荒々しい声が荒野に響く。だが、その声はどこか焦燥感を含んでいた。彼女の背後にいるセシルは、戦闘の熱気に飲まれ、まるで戦う意思を失ったかのように縮こまっている。
セシルの細い体は、小刻みに震え、まるで戦場の悪夢に捕らえられたかのようだった。
「ク、クオラが速すぎるんだよ..... アカシ様ともはぐれちゃったし......ど、どうしよう、敵いっぱい......」
セシルの言葉は弱々しく、かすかな不安を漂わせていた。彼女の瞳の奥には恐怖が浮かび、状況を打破しようとする意志が見えなかった。クオラは眉をひそめ、苛立ちを隠しきれずに周囲を見回す。確かに、ここには無数の魔物がひしめいており、彼女の周囲を囲むように、その獰猛な目が光っていた。草木の隙間から顔を覗かせる魔物たちの姿は、彼女の心に冷や汗をかかせる。
「クソ、キリがねぇな......」
クオラは再び風を纏い、【かまいたち】を発動させた。体を包む風が一層強まると、彼女の脚は自然と駆け出した。その瞬間、彼女は一瞬にして魔物の群れへ突っ込んでいく。突き刺さるような鋭い風切り音が耳をつんざき、彼女の動きはまるで獲物を狙う猛禽のように見えた。
「なんや、なかなか速いやんけ。チビの癖に」
しかし、次の瞬間、横から稲妻のような光が駆け抜けた。クオラの目の前にいた魔物が、彼女の手が届く前に黒焦げとなって崩れ落ちた。魔物の体が焼け焦げ、黒い煙を上げながら崩れていく様子は、まるで自然の法則が破られたかのように、彼女の心に深い衝撃を与えた。
「なっ!」
クオラは驚愕し、思わず足を止めた。その瞬間、稲妻が周囲を走り、次々と魔物たちを灰にしていく。轟音と共に光が迸り、木々はまるで雷に打たれたかのように揺れ動く。焼け焦げた魔物たちは、苦しげな声を上げながら、力尽きて消え去っていく。草原には、一瞬のうちに焦げ臭い匂いが立ちこめ、その異様な状況にクオラの心は乱れた。
「な、なんだ!?」
周囲に不気味な静寂が訪れる中、彼女は慌てて振り返った。視界に入ったのは、雷鳴の中で踊るように現れた1人の男だった。
「ま、チビにしちゃ、やけんどな」
その声は軽い響きを持ちながら、同時に挑発的な威圧感を孕んでいた。クオラは驚き、身を守るように飛び退く。
彼の髪は黄色く尖り、雷光を宿したように輝いている。その表情は、無数の鋭い歯が笑みと共にむき出しになり、三白眼の猫目は、常に獲物を狙う肉食獣のように鋭く光っていた。上半身は裸で、肩には羽衣のような布を軽やかにまとっている。その姿はまさに雷神そのものであり、彼の手には電撃を帯びた太鼓の撥が握られている。それを振るうたびに、雷鳴が轟き、空気が震えた。周囲の木々は、その力によって揺れ動き、まるで彼の意志に従っているかのように見えた。
──ライジング・ステルバイ。
彼の名は、数多くある冒険者ギルドにおいて一目置かれる存在であり、急遽緊急クエストのために他のギルドから招集されたAランクの実力者だった。その風貌は、雷光のごとく圧倒的な威圧感を放っており、周囲の者たちは彼を一目見ただけで、その強さを直感的に理解する。しかし、クオラはその強さに対する畏敬よりも、彼の傲慢な態度に苛立ちを覚えていた。
「あ?んだテメェ。人のことチビだなんだ言いやがって」
その言葉は、クオラの心の奥深くに潜むコンプレックスを刺激する。小柄な体格を持つ彼女は、周囲の人々から常にその一言で評価されがちであった。だからこそ、彼の何気ない発言が、彼女には耐え難い侮辱となって突き刺さった。
「チビにチビっつって何が悪いんや。お前、ランクなんぼなん?」
ステルバイは、自信満々に言い放つ。その目は挑戦的に輝き、彼女を見下すように構えていた。クオラは、彼の言葉に反発しつつも、彼女の中で彼に対する不快感が膨らんでいくのを感じていた。
「聞いてなんになる?」
「なるほどね、言われへんのや。お前多分Cランクやろ」
からかうように笑うその言葉は、彼女の心をさらに逆撫でする。クオラは、目を鋭く細めながら、その言葉を飲み込んだ。
「居んねん居んねん、お前みたいなプライドが邪魔して自分のランク教えへん奴。こういうヤツ、大概Cランクやねん。もう分かんねんて」
「残念だったな、オレはCじゃねぇ。C-だ!」
「いやじゃあもっとダメやんけ。何でそんなふんぞりかえれるん。より恥とけよそれは」
ステルバイは、クオラの言葉を無視し、傲慢に振る舞い続けた。しかし、その瞬間、突如として異変が起こる。大地が揺れ、圧倒的な重圧がステルバイに襲いかかった。
「ん!?な、なんや!?」
彼の声は困惑に満ち、次の瞬間には地面に叩き付けられた。
「うぉぉぉぉ!?なんやこれ!?」
押しつぶされるような重圧が、まるで目に見えない巨人に押さえつけられているかのように彼を襲う。その様子に、クオラは驚愕の表情を浮かべるが、すぐにそれが誰の仕業かを理解した。
彼女はセシルに目を向けた。彼女の手には杖が握られ、目は驚愕と恐怖で揺れている。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!ま、魔物ぉぉぉぉ!!」
セシルの叫びは、パニックに満ちていた。彼女は魔物と間違えてステルバイを攻撃していたのだ。
地属性の魔道士型魔術師である彼女のユニークスキル【ブラッディ・グラヴィティ】が発動している。その力は、彼女の精神状態に大きく依存する。彼女の不安定な精神が、ストレスを重圧に変換し、無垢な戦士を押しつぶす強大な圧力を生み出していた。
「おっっっっも!!痛い痛い痛い痛い痛い!」
ステルバイは地面に押し付けられ、彼の表情は一瞬で恐怖に染まった。クオラは、その情けない姿を見下ろしながら、心の中で勝ち誇る気持ちが芽生える。
「コ、コレ、アイツのユニークスキルやろ!はよ止めさせろや!潰れてまうから!」
セシルの魔力が彼を圧迫し続けている。クオラは動かず、じっくりとステルバイに顔を近づけた。彼の表情は必死さを増し、息を呑みながら彼女の視線を受け止める。
「まず、オレにチビとか言ったこと謝れ」
その言葉は、彼女にとっての小さな復讐であり、心の中のコンプレックスを解消する一歩だった。
「謝る!謝る!謝る!だからちょっと待って!ガチで潰れるって!」
彼の焦りがヒートアップし、声が高くなる。クオラの表情には冷たい笑みが浮かんでいた。
「あ?なんて?聞こえねーぞ?」
「ちょ、ホンマにあかんてマジ!死ぬ!」
「え?何?死にたい?」
「ごめんなさい!本当にごめんなさい!もう二度と言わへんから!!」
彼の必死の懇願に、クオラの心が若干揺れた。クオラはため息を吐き、セシルに彼が人間であることを告げ、彼女のユニークスキルを解除させた。
「はぁ、はあ……。ホンマに、死ぬと思ったわ………」
重圧から解放されたステルバイは、地面にうずくまりながら、深い息を吐き出した。
「ん?」
────突如、地面が不気味な音を立てて、膨れ上がり始めた。まるで生き物がその下で蠢いているかのように、土が波打つ。その異様な動きに気づいたクオラは、即座に鉈を構え、身構えた。湿り気を含んだ風が頬を撫で、わずかな冷気が背筋を這う。彼女の足元では、小さな草が風に揺れては、次の瞬間、静かに凍りつくような緊張感が辺りを包み込む。
「なんだ?」
クオラは声を漏らす。その視線の先で、地面が大きく裂け、ひび割れた土の間から白骨化した手がゆっくりと現れる。真っ白な骨が薄暗い大地の中から浮かび上がり、次々と形を成していく。アンデッド───それは、死者が生者として蘇ったかのような、恐ろしい風貌をした魔物たちだ。彼らは、重力に逆らうように、地面から静かに這い上がり、静けさの中で不気味な存在感を放ち始めた。
骨がこすれ合うカリカリとした音が、薄暗い森の空気に溶け込み、どこか湿った恐怖を増幅させる。
「アンデッドか。面倒な相手だな」
クオラは低く咳き、冷たい目でアンデッドの動きを見据えた。彼女の眼光が一瞬だけ輝きを放ち、次の瞬間、鋭い斬撃がアンデッドの首を狙う。乾いた音を立て、アンデッドの首が無造作に飛び散り、地面に転がった。だが、その頭蓋骨はすぐに再生し、切断された部分が再びゆっくりと繋がり始めた。
「ダメか...」
クオラは、再び無言の重圧を感じつつ、その場を離れ、さらに距離を取る。
一方で、ステルバイも俊敏に体勢を整え、雷光の如き電撃を纏った撥で、アンデッドを殴り付けた。和妻が闇を裂き、アンデッドの体に直撃する。骨が一瞬、閃光の中で黒焦げになったように見えたが、直後にその肉体は元の形に戻り、再び動き出す。
「やっぱ相性悪いな。コイツら、骨まで砕かれへんとずっと再生すんねん」
ステルバイが歯を食いしばり、険しい表情でつぶやいた。彼の顔には焦りはないが、冷静に事態を分析する目が、事態の厳しさを物語っていた。二人は静かに動きを封じつつ、次の一手を考えていた。
その時、何の前触れもなく、黒い人影がアンデッドに飛びかかった。影はまるで液体のようにアンデッドの体にまとわりつき、足元には黒いぬかるんだ足跡を残していた。それは、まるで墨汁がそのまま人の形を成したかのような異形の存在。黒い人影はアンデッドを素早く捕え、その体に絡みついて動きを封じていく。骨の軋む音が、黒影の湿った動きと共鳴するように響き渡った。
「なんだ、あれは...?」
クオラは一瞬、目を見開く。彼女の瞳は、暗い森の中に不気味に広がる光景を映し出していた。そして、視線の先に現れたのは、道着を着た屈強な男───Aランク冒険者、ハイドロだった。
ハイドロは巨大な筆を握り、冷静に地面に紋様を描き続けていた。その筆からは、墨汁のような存在が次々と生まれ、アンデッドたちを縛りつけていく。墨の滴る音が、どこか乾いた風景に濡れた湿気を添えていく。
「動きを封じたぞ!やれ!」
ハイドロの低い声が響く。暗い森の中で、彼の声は確かに希望の一筋だった。しかし、それを聞いたセシルは恐怖に震えていた。彼女の顔は青白く、目は見開かれたままだ。手に握られた杖が、かすかに震えている。
「ひ、ひいいい...!」
セシルは、悲鳴のような声を上げながら魔法を放った。その瞬間、轟音が空気を切り裂き、炸裂音が辺りに響き渡る。重く響く衝撃が、森の中に広がり、骨が砕ける音と共に、アンデッドたちは次々と粉々になっていく。
砕けた骨の磯片が宙を舞い、地面に散らばる。その光景はまるで静かに崩れ落ちる砂時計のようだった。
セシルの魔法が発動した場所には、無数のクレーターが刻まれていた。地面が抉れ、粉々になったアンデッドの破片が、その痕跡を残すのみとなった。
「や、やるなお嬢ちゃん!」
ハイドロが、驚きと共にセシルに声をかける。彼の目には感嘆が浮かんでいた。
「そ、そうですか?えへ、えへへ...」
セシルは、恐怖と安堵が混じり合った奇妙な笑みを浮かべる。しかし、その笑みもすぐに掻き消された。
「えへへ~ちゃうわ!お前これ……、俺死んでたやんけ!」
ステルバイが怒りと呆れの入り混じった声で鋭くツッコミを入れた。その声が森の静寂に溶け込んでいく。ステルバイの声に反応した魔物達が、再び木々の隙間から目をギラつかせた。
「………チッ、まだおんのかい」
────戦いは、まだ始まったばかり。
緑に覆われた広大な原野の中、草木の間を縫うように黒い影が疾風のごとく駆け抜ける。
その影が通り過ぎる瞬間、周囲の静寂を切り裂くかのように、魔物たちの首が一斉に宙を舞い、やがて地面に重々しい音を立てて落下した。血の雫が空中に舞い、刹那のうちに地面を赤く染める。
影の正体は、風を纏い、空気すらも引き裂くスピードで動く獣人族の戦士、クオラだった。
彼女の動きは、まるで洗練された舞のようであり、草木の隙間をすり抜けるたびに、周囲の風を巻き起こす。彼女の肌に触れる風は、心地よい冷たさをもたらし、その速さは時速80キロにも達する。魔物たちの目には、彼女の姿はただの影にしか映らず、気がつく頃には彼女の刃に切り裂かれているのだ。
クオラは風属性の戦士型魔術師。彼女のユニークスキル【かまいたち】は、空気を凶刃に変え、その鋭さを身に纏わせて敵を切り裂く。二本の鉈を手にする彼女は、その刃に強烈な風を宿し、魔物に襲いかかる。草原の静寂を打ち破るかのように、魔物たちが次々と倒れていく様子は、まるで自然の一部であるかのように、流れるような動きだった。
「オラ!おっせぇぞ、セシル!」
クオラの荒々しい声が荒野に響く。だが、その声はどこか焦燥感を含んでいた。彼女の背後にいるセシルは、戦闘の熱気に飲まれ、まるで戦う意思を失ったかのように縮こまっている。
セシルの細い体は、小刻みに震え、まるで戦場の悪夢に捕らえられたかのようだった。
「ク、クオラが速すぎるんだよ..... アカシ様ともはぐれちゃったし......ど、どうしよう、敵いっぱい......」
セシルの言葉は弱々しく、かすかな不安を漂わせていた。彼女の瞳の奥には恐怖が浮かび、状況を打破しようとする意志が見えなかった。クオラは眉をひそめ、苛立ちを隠しきれずに周囲を見回す。確かに、ここには無数の魔物がひしめいており、彼女の周囲を囲むように、その獰猛な目が光っていた。草木の隙間から顔を覗かせる魔物たちの姿は、彼女の心に冷や汗をかかせる。
「クソ、キリがねぇな......」
クオラは再び風を纏い、【かまいたち】を発動させた。体を包む風が一層強まると、彼女の脚は自然と駆け出した。その瞬間、彼女は一瞬にして魔物の群れへ突っ込んでいく。突き刺さるような鋭い風切り音が耳をつんざき、彼女の動きはまるで獲物を狙う猛禽のように見えた。
「なんや、なかなか速いやんけ。チビの癖に」
しかし、次の瞬間、横から稲妻のような光が駆け抜けた。クオラの目の前にいた魔物が、彼女の手が届く前に黒焦げとなって崩れ落ちた。魔物の体が焼け焦げ、黒い煙を上げながら崩れていく様子は、まるで自然の法則が破られたかのように、彼女の心に深い衝撃を与えた。
「なっ!」
クオラは驚愕し、思わず足を止めた。その瞬間、稲妻が周囲を走り、次々と魔物たちを灰にしていく。轟音と共に光が迸り、木々はまるで雷に打たれたかのように揺れ動く。焼け焦げた魔物たちは、苦しげな声を上げながら、力尽きて消え去っていく。草原には、一瞬のうちに焦げ臭い匂いが立ちこめ、その異様な状況にクオラの心は乱れた。
「な、なんだ!?」
周囲に不気味な静寂が訪れる中、彼女は慌てて振り返った。視界に入ったのは、雷鳴の中で踊るように現れた1人の男だった。
「ま、チビにしちゃ、やけんどな」
その声は軽い響きを持ちながら、同時に挑発的な威圧感を孕んでいた。クオラは驚き、身を守るように飛び退く。
彼の髪は黄色く尖り、雷光を宿したように輝いている。その表情は、無数の鋭い歯が笑みと共にむき出しになり、三白眼の猫目は、常に獲物を狙う肉食獣のように鋭く光っていた。上半身は裸で、肩には羽衣のような布を軽やかにまとっている。その姿はまさに雷神そのものであり、彼の手には電撃を帯びた太鼓の撥が握られている。それを振るうたびに、雷鳴が轟き、空気が震えた。周囲の木々は、その力によって揺れ動き、まるで彼の意志に従っているかのように見えた。
──ライジング・ステルバイ。
彼の名は、数多くある冒険者ギルドにおいて一目置かれる存在であり、急遽緊急クエストのために他のギルドから招集されたAランクの実力者だった。その風貌は、雷光のごとく圧倒的な威圧感を放っており、周囲の者たちは彼を一目見ただけで、その強さを直感的に理解する。しかし、クオラはその強さに対する畏敬よりも、彼の傲慢な態度に苛立ちを覚えていた。
「あ?んだテメェ。人のことチビだなんだ言いやがって」
その言葉は、クオラの心の奥深くに潜むコンプレックスを刺激する。小柄な体格を持つ彼女は、周囲の人々から常にその一言で評価されがちであった。だからこそ、彼の何気ない発言が、彼女には耐え難い侮辱となって突き刺さった。
「チビにチビっつって何が悪いんや。お前、ランクなんぼなん?」
ステルバイは、自信満々に言い放つ。その目は挑戦的に輝き、彼女を見下すように構えていた。クオラは、彼の言葉に反発しつつも、彼女の中で彼に対する不快感が膨らんでいくのを感じていた。
「聞いてなんになる?」
「なるほどね、言われへんのや。お前多分Cランクやろ」
からかうように笑うその言葉は、彼女の心をさらに逆撫でする。クオラは、目を鋭く細めながら、その言葉を飲み込んだ。
「居んねん居んねん、お前みたいなプライドが邪魔して自分のランク教えへん奴。こういうヤツ、大概Cランクやねん。もう分かんねんて」
「残念だったな、オレはCじゃねぇ。C-だ!」
「いやじゃあもっとダメやんけ。何でそんなふんぞりかえれるん。より恥とけよそれは」
ステルバイは、クオラの言葉を無視し、傲慢に振る舞い続けた。しかし、その瞬間、突如として異変が起こる。大地が揺れ、圧倒的な重圧がステルバイに襲いかかった。
「ん!?な、なんや!?」
彼の声は困惑に満ち、次の瞬間には地面に叩き付けられた。
「うぉぉぉぉ!?なんやこれ!?」
押しつぶされるような重圧が、まるで目に見えない巨人に押さえつけられているかのように彼を襲う。その様子に、クオラは驚愕の表情を浮かべるが、すぐにそれが誰の仕業かを理解した。
彼女はセシルに目を向けた。彼女の手には杖が握られ、目は驚愕と恐怖で揺れている。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!ま、魔物ぉぉぉぉ!!」
セシルの叫びは、パニックに満ちていた。彼女は魔物と間違えてステルバイを攻撃していたのだ。
地属性の魔道士型魔術師である彼女のユニークスキル【ブラッディ・グラヴィティ】が発動している。その力は、彼女の精神状態に大きく依存する。彼女の不安定な精神が、ストレスを重圧に変換し、無垢な戦士を押しつぶす強大な圧力を生み出していた。
「おっっっっも!!痛い痛い痛い痛い痛い!」
ステルバイは地面に押し付けられ、彼の表情は一瞬で恐怖に染まった。クオラは、その情けない姿を見下ろしながら、心の中で勝ち誇る気持ちが芽生える。
「コ、コレ、アイツのユニークスキルやろ!はよ止めさせろや!潰れてまうから!」
セシルの魔力が彼を圧迫し続けている。クオラは動かず、じっくりとステルバイに顔を近づけた。彼の表情は必死さを増し、息を呑みながら彼女の視線を受け止める。
「まず、オレにチビとか言ったこと謝れ」
その言葉は、彼女にとっての小さな復讐であり、心の中のコンプレックスを解消する一歩だった。
「謝る!謝る!謝る!だからちょっと待って!ガチで潰れるって!」
彼の焦りがヒートアップし、声が高くなる。クオラの表情には冷たい笑みが浮かんでいた。
「あ?なんて?聞こえねーぞ?」
「ちょ、ホンマにあかんてマジ!死ぬ!」
「え?何?死にたい?」
「ごめんなさい!本当にごめんなさい!もう二度と言わへんから!!」
彼の必死の懇願に、クオラの心が若干揺れた。クオラはため息を吐き、セシルに彼が人間であることを告げ、彼女のユニークスキルを解除させた。
「はぁ、はあ……。ホンマに、死ぬと思ったわ………」
重圧から解放されたステルバイは、地面にうずくまりながら、深い息を吐き出した。
「ん?」
────突如、地面が不気味な音を立てて、膨れ上がり始めた。まるで生き物がその下で蠢いているかのように、土が波打つ。その異様な動きに気づいたクオラは、即座に鉈を構え、身構えた。湿り気を含んだ風が頬を撫で、わずかな冷気が背筋を這う。彼女の足元では、小さな草が風に揺れては、次の瞬間、静かに凍りつくような緊張感が辺りを包み込む。
「なんだ?」
クオラは声を漏らす。その視線の先で、地面が大きく裂け、ひび割れた土の間から白骨化した手がゆっくりと現れる。真っ白な骨が薄暗い大地の中から浮かび上がり、次々と形を成していく。アンデッド───それは、死者が生者として蘇ったかのような、恐ろしい風貌をした魔物たちだ。彼らは、重力に逆らうように、地面から静かに這い上がり、静けさの中で不気味な存在感を放ち始めた。
骨がこすれ合うカリカリとした音が、薄暗い森の空気に溶け込み、どこか湿った恐怖を増幅させる。
「アンデッドか。面倒な相手だな」
クオラは低く咳き、冷たい目でアンデッドの動きを見据えた。彼女の眼光が一瞬だけ輝きを放ち、次の瞬間、鋭い斬撃がアンデッドの首を狙う。乾いた音を立て、アンデッドの首が無造作に飛び散り、地面に転がった。だが、その頭蓋骨はすぐに再生し、切断された部分が再びゆっくりと繋がり始めた。
「ダメか...」
クオラは、再び無言の重圧を感じつつ、その場を離れ、さらに距離を取る。
一方で、ステルバイも俊敏に体勢を整え、雷光の如き電撃を纏った撥で、アンデッドを殴り付けた。和妻が闇を裂き、アンデッドの体に直撃する。骨が一瞬、閃光の中で黒焦げになったように見えたが、直後にその肉体は元の形に戻り、再び動き出す。
「やっぱ相性悪いな。コイツら、骨まで砕かれへんとずっと再生すんねん」
ステルバイが歯を食いしばり、険しい表情でつぶやいた。彼の顔には焦りはないが、冷静に事態を分析する目が、事態の厳しさを物語っていた。二人は静かに動きを封じつつ、次の一手を考えていた。
その時、何の前触れもなく、黒い人影がアンデッドに飛びかかった。影はまるで液体のようにアンデッドの体にまとわりつき、足元には黒いぬかるんだ足跡を残していた。それは、まるで墨汁がそのまま人の形を成したかのような異形の存在。黒い人影はアンデッドを素早く捕え、その体に絡みついて動きを封じていく。骨の軋む音が、黒影の湿った動きと共鳴するように響き渡った。
「なんだ、あれは...?」
クオラは一瞬、目を見開く。彼女の瞳は、暗い森の中に不気味に広がる光景を映し出していた。そして、視線の先に現れたのは、道着を着た屈強な男───Aランク冒険者、ハイドロだった。
ハイドロは巨大な筆を握り、冷静に地面に紋様を描き続けていた。その筆からは、墨汁のような存在が次々と生まれ、アンデッドたちを縛りつけていく。墨の滴る音が、どこか乾いた風景に濡れた湿気を添えていく。
「動きを封じたぞ!やれ!」
ハイドロの低い声が響く。暗い森の中で、彼の声は確かに希望の一筋だった。しかし、それを聞いたセシルは恐怖に震えていた。彼女の顔は青白く、目は見開かれたままだ。手に握られた杖が、かすかに震えている。
「ひ、ひいいい...!」
セシルは、悲鳴のような声を上げながら魔法を放った。その瞬間、轟音が空気を切り裂き、炸裂音が辺りに響き渡る。重く響く衝撃が、森の中に広がり、骨が砕ける音と共に、アンデッドたちは次々と粉々になっていく。
砕けた骨の磯片が宙を舞い、地面に散らばる。その光景はまるで静かに崩れ落ちる砂時計のようだった。
セシルの魔法が発動した場所には、無数のクレーターが刻まれていた。地面が抉れ、粉々になったアンデッドの破片が、その痕跡を残すのみとなった。
「や、やるなお嬢ちゃん!」
ハイドロが、驚きと共にセシルに声をかける。彼の目には感嘆が浮かんでいた。
「そ、そうですか?えへ、えへへ...」
セシルは、恐怖と安堵が混じり合った奇妙な笑みを浮かべる。しかし、その笑みもすぐに掻き消された。
「えへへ~ちゃうわ!お前これ……、俺死んでたやんけ!」
ステルバイが怒りと呆れの入り混じった声で鋭くツッコミを入れた。その声が森の静寂に溶け込んでいく。ステルバイの声に反応した魔物達が、再び木々の隙間から目をギラつかせた。
「………チッ、まだおんのかい」
────戦いは、まだ始まったばかり。
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弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
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俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
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例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
転生貴族の領地経営〜現代知識で領地を豊かにして成り上がる
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ネーデル王国の北のリーディア辺境伯家には天才的な少年レイトがいた。しかしその少年の正体は現代日本から転生してきた転生者だった。
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