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第30話 宴
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その夜、ギルドの酒場はかつてないほどの熱気に包まれていた。壁際に並ぶ木製のテーブルには、飲み干されたジョッキや山盛りの料理が所狭しと置かれ、所々に見える火の灯りが淡く酒場を照らしている。天井近くまで響く笑い声が酒の香りと混じり合い、重厚な木の梁にぶつかってはまた拡がり、空間全体を一体感で包んでいた。
一部の者は、陽気に肩を組んで歌を歌い上げ、別の者は大樽の酒を一気に飲み干しては歓声を上げている。肉料理の香ばしい匂いが鼻をつき、ジュウジュウと焼ける音がどこかから絶え間なく聞こえる。酒場の中に漂う油と肉の香りは、まるで生きた熱がそこに凝縮されているかのようだった。
「皆の者、今日は本当にご苦労だった。そして、何よりこの街を救ってくれた英雄、アカシくんに盛大な拍手を贈ろう!」
ギルド長アドムスの重厚な声が響き渡り、一瞬の静寂が訪れたかと思うと、次の瞬間には酒場全体が歓声と拍手に包まれた。俺に向けられた視線の熱さが、じんわりと体に伝わってくる。まるで酒に酔っているかのように、体がふわりと浮き上がる感覚だった。
「乾杯!」
無数のジョッキが宙に高く掲げられ、乾杯の音が響き渡る。木と木が触れ合う軽やかな音が何度も鳴り響き、そのたびに笑顔が広がっていく。俺も自然とジョッキを掲げ、熱気の渦に巻き込まれるように杯を交わした。だが、目の前に運ばれてきた豪勢な料理が、そんな酔いを一瞬で吹き飛ばした。
俺の目の前にそっと置かれたのは、厚みのあるステーキだった。焼き加減は絶妙で、表面はカリッと香ばしく、内部からはジューシーな肉汁がじわじわと染み出している。肉の縁にはほんのり焦げ目がつき、黄金色の油が滴っている。目を瞑って深く鼻から吸い込めば、香ばしい香りが一気に広がり、胃袋が音を立てて鳴るのが分かった。
「これが……俺のための……?」
ずっと乾いたパンしか食べてこなかった俺にとって、この豪勢な料理は贅沢の極みだ。ステーキから立ち上る湯気が、柔らかく空気を揺らし、肉から滴り落ちる脂が皿の表面に小さな湖を作っている。まるで食欲を煽り立てるかのように、その芳醇な香りが鼻腔をくすぐり、舌が自然と動き始める。
横目で見れば、クオラが既にがっついていた。朝から結構食べていたはずだが、目の前の皿を一心不乱に貪り、時折、汁が飛び散るのも気にせず、夢中で食べている。対照的にセシルは、酒に酔って頬を真っ赤に染めながらも、ふらふらとした足取りで椅子に座っている。
ラプラスの姿は見当たらない。恐らく、自室でひとり静かにしているのだろう。
俺はステーキにそっとフォークを刺し、ナイフを肉に滑らせた。ナイフが触れた瞬間、肉は抵抗なく柔らかく切れ、断面から溢れ出た肉汁が静かに皿に広がっていく。その光景は、まるで宝石のように美しく、俺の食欲をさらに駆り立てた。
「こ、これは……!」
その一口は、まさに天にも昇るような美味しさだった。噛みしめるたびに溢れ出す肉汁が口の中で踊り、ジューシーな旨味が舌の上を滑る。外はカリッと焼き上がり、中は驚くほど柔らかい。香ばしい風味が口内に広がり、芳醇な脂が後を引く。
「おかわり」
そんな余韻を楽しむ暇もなく、クオラがステーキを平らげ、再びおかわりを求めて席を立った。彼女の食欲には底がないようだ。まるで食に飢えているかのように、次々と皿が空になっていく。
「この肉、すごく美味しいな……。なんの肉なんだ?」
夢中でステーキを口に運びながら、俺はセシルに問いかけた。だが、彼女はなぜか苦々しい表情を浮かべ、俺の皿をじっと見つめている。
「……聞きたいですか?」
彼女のその曖昧な反応に、俺は嫌な予感を感じた。
「あー、いや、その顔見ると……聞かない方がいい気がしてきたな。やっぱやめとく」
セシルは微かに笑みを浮かべると、返事を返さずにジョッキを傾けた。
俺は気を取り直し、再びステーキに集中した。肉を口に入れるたびに、噛むごとに旨味が弾け、香ばしい余韻が長く続く。それは、心を満たす食事そのものだった。
戻ってきたクオラが、皿いっぱいの肉をテーブルに置きながら、俺に向けて口を開いた。
「お前が食ってるのは、グラントスっていう草食動物の肉だ。ランクが高い高級食だぞ。あのジジイ、今日は大盤振る舞いだな」
聞く限り、変な肉ではないらしいが、何かしらの違和感が拭えない。
「え、割と普通にいい肉らしいじゃん。セシル……なんか問題あるの?」
俺はセシルに問いかけたが、彼女は顔を赤らめ、ジョッキを一気に飲み干した後、ため息をついた。
「私は……肉を食べるという行為そのものが、どうしても受け入れられないんです」
その答えに俺は手を止め、思わず眉を潜めた。
「お前、それって……」
「あー、こいつはビゲルなんだよ」
クオラが肉を口に運びながら、軽く言い放つ。
「えークオラさん、そのビゲルって言うのは?」
「肉を食べるのが可哀想だとか言って、野菜しか食わねぇ奴のことだ。まあセシルの場合、肉食べない私エラいと思ってるタイプだけどな。こいつ普通に肉好きだし」
あーなるほど、そういうことね。つまりファッション・ヴィーガンという訳だ。俺は思わずセシルを見た。彼女は曖昧な笑みを浮かべながら、ジョッキを再び傾けた。コイツ、ホントなんなんだよと俺は思った。
一部の者は、陽気に肩を組んで歌を歌い上げ、別の者は大樽の酒を一気に飲み干しては歓声を上げている。肉料理の香ばしい匂いが鼻をつき、ジュウジュウと焼ける音がどこかから絶え間なく聞こえる。酒場の中に漂う油と肉の香りは、まるで生きた熱がそこに凝縮されているかのようだった。
「皆の者、今日は本当にご苦労だった。そして、何よりこの街を救ってくれた英雄、アカシくんに盛大な拍手を贈ろう!」
ギルド長アドムスの重厚な声が響き渡り、一瞬の静寂が訪れたかと思うと、次の瞬間には酒場全体が歓声と拍手に包まれた。俺に向けられた視線の熱さが、じんわりと体に伝わってくる。まるで酒に酔っているかのように、体がふわりと浮き上がる感覚だった。
「乾杯!」
無数のジョッキが宙に高く掲げられ、乾杯の音が響き渡る。木と木が触れ合う軽やかな音が何度も鳴り響き、そのたびに笑顔が広がっていく。俺も自然とジョッキを掲げ、熱気の渦に巻き込まれるように杯を交わした。だが、目の前に運ばれてきた豪勢な料理が、そんな酔いを一瞬で吹き飛ばした。
俺の目の前にそっと置かれたのは、厚みのあるステーキだった。焼き加減は絶妙で、表面はカリッと香ばしく、内部からはジューシーな肉汁がじわじわと染み出している。肉の縁にはほんのり焦げ目がつき、黄金色の油が滴っている。目を瞑って深く鼻から吸い込めば、香ばしい香りが一気に広がり、胃袋が音を立てて鳴るのが分かった。
「これが……俺のための……?」
ずっと乾いたパンしか食べてこなかった俺にとって、この豪勢な料理は贅沢の極みだ。ステーキから立ち上る湯気が、柔らかく空気を揺らし、肉から滴り落ちる脂が皿の表面に小さな湖を作っている。まるで食欲を煽り立てるかのように、その芳醇な香りが鼻腔をくすぐり、舌が自然と動き始める。
横目で見れば、クオラが既にがっついていた。朝から結構食べていたはずだが、目の前の皿を一心不乱に貪り、時折、汁が飛び散るのも気にせず、夢中で食べている。対照的にセシルは、酒に酔って頬を真っ赤に染めながらも、ふらふらとした足取りで椅子に座っている。
ラプラスの姿は見当たらない。恐らく、自室でひとり静かにしているのだろう。
俺はステーキにそっとフォークを刺し、ナイフを肉に滑らせた。ナイフが触れた瞬間、肉は抵抗なく柔らかく切れ、断面から溢れ出た肉汁が静かに皿に広がっていく。その光景は、まるで宝石のように美しく、俺の食欲をさらに駆り立てた。
「こ、これは……!」
その一口は、まさに天にも昇るような美味しさだった。噛みしめるたびに溢れ出す肉汁が口の中で踊り、ジューシーな旨味が舌の上を滑る。外はカリッと焼き上がり、中は驚くほど柔らかい。香ばしい風味が口内に広がり、芳醇な脂が後を引く。
「おかわり」
そんな余韻を楽しむ暇もなく、クオラがステーキを平らげ、再びおかわりを求めて席を立った。彼女の食欲には底がないようだ。まるで食に飢えているかのように、次々と皿が空になっていく。
「この肉、すごく美味しいな……。なんの肉なんだ?」
夢中でステーキを口に運びながら、俺はセシルに問いかけた。だが、彼女はなぜか苦々しい表情を浮かべ、俺の皿をじっと見つめている。
「……聞きたいですか?」
彼女のその曖昧な反応に、俺は嫌な予感を感じた。
「あー、いや、その顔見ると……聞かない方がいい気がしてきたな。やっぱやめとく」
セシルは微かに笑みを浮かべると、返事を返さずにジョッキを傾けた。
俺は気を取り直し、再びステーキに集中した。肉を口に入れるたびに、噛むごとに旨味が弾け、香ばしい余韻が長く続く。それは、心を満たす食事そのものだった。
戻ってきたクオラが、皿いっぱいの肉をテーブルに置きながら、俺に向けて口を開いた。
「お前が食ってるのは、グラントスっていう草食動物の肉だ。ランクが高い高級食だぞ。あのジジイ、今日は大盤振る舞いだな」
聞く限り、変な肉ではないらしいが、何かしらの違和感が拭えない。
「え、割と普通にいい肉らしいじゃん。セシル……なんか問題あるの?」
俺はセシルに問いかけたが、彼女は顔を赤らめ、ジョッキを一気に飲み干した後、ため息をついた。
「私は……肉を食べるという行為そのものが、どうしても受け入れられないんです」
その答えに俺は手を止め、思わず眉を潜めた。
「お前、それって……」
「あー、こいつはビゲルなんだよ」
クオラが肉を口に運びながら、軽く言い放つ。
「えークオラさん、そのビゲルって言うのは?」
「肉を食べるのが可哀想だとか言って、野菜しか食わねぇ奴のことだ。まあセシルの場合、肉食べない私エラいと思ってるタイプだけどな。こいつ普通に肉好きだし」
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