悪役令嬢になった私は運命に抗う

花咲千之汰

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おうふ、まさか王子である彼が自ら私の為に最も体力と魔力を大量に使う治癒魔法を使うとは。

私は先程彼の直した傷のあった場所に触れて軽く眉間に皺を寄せる。

それと同時に嬉しそうにパタパタと羽根を動かしながらこちらへ鏡を持ってきた精霊達が口々にこう言い始めた。

『僕らオリヴィアに傷があるのは嫌だったの!!』

『もう!本当は僕らだけの力で治す筈だったのにあいつ嫌い!!』

『うふふ、あの男の子は優しいですね~』

ニコニコと笑顔で私の周りをクルクル回る子と、何やら不機嫌そうな顔をする子達。

でも、今の私はそんなことよりも本来ならばまだ子供である彼が先程のような魔法を使った場合は最悪死に至ることもあることを思い出して冷や冷やしている。

治癒魔法、それは本当に魔力と体力のあるものしか使えないもの。

もしもその基礎である魔力と体力が無ければ死に至る。

だからこそ貴族の医者でもなんでも自ら人の傷を治そうなんて思わない。

けれど彼は迷うことなく私の傷を治してこの場から去った。

基本的に王族は他の貴族やら市民よりも魔力量も多く、全てにおいて優れているとは言われているがそれが真実かどうかは私には分からない。

彼は本当に大丈夫なのだろうか。

私はそう考えると、自身の近くを飛んでいた一人の精霊に彼についてのことを問い掛ける。

「ねぇ、さっきの彼は魔力とか体力とか大丈夫なの?」

すると、精霊はニコニコと笑いながら私の言葉に頷く。

『うん、大丈夫だよ!あいつ自身魔力面も体力面も普通の人間より多かったのもあるけど、魔力は僕らが全部補ったし心配ないよ!!』

「そんなこと出来るの?」

『オリヴィアの為なら!』

私はえへへと照れたように笑うその子の頭を人差し指で撫でると、感謝の言葉を告げる。

けれどそれがダメだった。

私は一気に目を光らせてこちらに『僕も撫でてー!』やら『私も褒めてー!!』なんて言ってくる子達に囲まれ、苦笑いをしながら一人一人の相手をして行く。

そうして暫く彼らと戯れていると、またしても外からコンコンというノック音が聞こえてきた。

そして、精霊達に「ちょっと待ってね」と小声で告げた後に「どうぞ」と言うと、その場に姿を現したのは義弟であり私の小説の中のヒロインに恋をする一人であるレイモンド。

私は未だに自身の頭の上やら彼の頭の上で『あ~レイモンドだ~』なんていう子達に無意識に微笑みながら彼に「どうしたの?」と告げた。

すると、彼の口から飛び出したのはとてつもなく冷たい言葉だった。

「……王子の気を引くために階段から落ちたなんて何ともみっともないですね。王子に構って貰ってどうでしたか?またどうせ碌でもないことをしたんでしょう」

この時、思わず内心でチベットスナギツネのような顔になった私は悪くない。

うん、レイモンド・ローズマリーってこんなキャラだったね。

昔から我が儘で自分勝手な義姉が大っ嫌いで、その癖に頭とか作法だけは自分よりも勝る姉対して劣等感を抱いてるようなありがちな設定持ちの頑張り屋ないい子。

そして、そんな姉に劣等感持ちまくりな彼はヒロインに「人には向きと不向きがあるんですよ。きっと貴方にもお姉さんに勝る何かがあるはずです」なんて言われて恋に落ちるとかいうシュチュエーションでしたね。

で、物語の中盤では彼女にはツンデレデレと言った感じでツンとしたかと思えばデレデレしちゃうような子になるわけだ。

私は目の前で少しだけ困惑した様子で「いつもみたいに何とか言ったらどうですか?」と煽ってくる彼に対して苦笑いを浮かべる。

「いや、特に言うことはないわよ。それに別にアルバート王子の気を引くために階段から落ちたわけじゃないし」

「そんな訳ないでしょう!貴女の性格は僕はよく理解していますよ」

「そうね、突然ポッと出でこの屋敷に養子としてやってきた貴方を潰す為に態とガラスで手を切ったことはあるものね。でももう私はそんなことする気は無いわ。貴方の事だってもう必要以上は関わらないし、弟だってことも認める。だからもう放っておいて」

「なっ……!?そんなの信用できるわけ……!」

「信用しないならしないでいいわ。それでももう私からも貴方には近寄らないから貴方も私に近寄らないで。あと、一つだけ言わせて欲しいの。……レイモンド、貴方は良く頑張ってるわ。それだけだから早くここから出て行って」

物語の最後、そこでレイモンドはオリヴィア・ローズマリーを修道院に追放する為に一役買った何人かいるキャラの中の一人である。

だから関わらない方が私の為である。

そう思った私はチラリと隣にいる精霊に目を向け、私の言いたいことが分かったのかニコリと笑ったその子が風でレイモンドを部屋から追い出したのを確認してそのまま後ろ向きに枕に向かって倒れ込む。

「今日はどっと疲れる日だわ……」

『大丈夫~?』

『治癒するー?』

「大丈夫よ。少しだけ眠らせて」

『分かった!ならみんなで歌うね!!』

私は一人の精霊の発言の直後に聞こえて来た優しい音色の歌声に静かに目を閉じて眠りについた。
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