悪役令嬢になった私は運命に抗う

花咲千之汰

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夢渡り。

それはこの世界ではもはや伝説と言われている魔法で、私の書いていた小説の世界の中で唯一その魔法を使えるのはヒロインに恋するメンバーの中の一人であるリュゼ・ノワールという涙ボクロの特徴的な感情を読み取りにくいキャラだ。

そして現在、私の目の前には悲しげに三角座りでその場に蹲っているリュゼ・ノワール少年がいる。

彼もまた私を修道院送りにするために暗躍する一人であり、とてつもなく暗い過去を持つキャラクターの一人。

嗚呼、どうするべきだこれは。

今すぐに目を覚ませられたらいいのだが、如何せん今の私はそう簡単には起きられない。

それにあんなに悲しそうに蹲っている少年を無視するというのも少し心が痛い。

私は意を決し、小さく溜息を吐くとその場から歩き出す。

そして、目の前で蹲っているリュゼに声を掛けた。

「ねぇ、こんなところで何してるの?」

出来るだけ何も知らない風を装ってそう言えば、ほんの少しだけ顔を上げたリュゼは静かに私の言葉に首を振ったと思うと再び顔を膝に埋めてしまった。

うーん、確か彼は確か小さいころから沢山の人々の夢の中に入り込んで夢の中でその人を殺してて、夢の中で殺された人は現実世界でも実際に死ぬので欲に目のくらんだ両親にその能力を利用されて人を殺しまくってるていうものだった。

きっとそれが嫌になって塞ぎ込んでるんだろうなぁ。

それで何故私の夢に現れたのかは知らないけど。

私はそっと彼の隣に腰掛けると、そっくりとその背を撫でてやる。

彼がこんな思いをしてるのはまあ自分のせいだし軽い償い償いっと。

私は優しく手を動かしながら彼にこう告げていく。

「大丈夫、貴方は悪くない。だから安心していいんだよ」

そう、リュゼは悪くなくて本当に悪いのは私自身だ。

まさか自分が物語の中の登場人物になってしまうとは考えてなかった故に彼らがセリシアに出会うまでの暗い過去、その過去で彼らが負う心の傷のことに関して一切何も考えずに身勝手に内容を作り上げていたのだから。

私はちらりと腕の隙間からこちらを見て来るアイスブルーの瞳に対して微笑みかけながら「ほんと……?」と言ってくる彼に対して頷く。

そう、悪いのは彼らに暗い過去を抱えさせた私。

けれどそれは口に出来ないのでただ笑うだけ。

次の瞬間、リュゼが彼の背を撫でる私の手首を掴んできたかと思うとそのまま彼は私の手を自身の頬に添えてこう言ってきた。

「そんなの、言われたの、初めて。嬉しい……」

仄かに頬を桃色に染めて恍惚とした目でこちらを見るリュゼ。

なんか思い切り選択をミスったような気がするのは気のせいだろうか。

自分の記憶が確かならば、今のリュゼの発言はヒロインに対してさせた発言だった筈……。

私は引き攣りそうになる口元を隠しながら取り敢えず適当に彼の言葉に返事を返す。

「そ、そうなんだ」

するとリュゼは先程までの暗い表情はどこへやらクスクスと笑いながら私の手で自身の頬を撫でながら何度も何度も頷く。

この時、リュゼに対して思い切り危機感を感じた私は本気の本気で悪くない。

だって私ってばリュゼというキャラを軽いヤンデレキャラとして作ってたから。

あの目はやばいやつだ、あのうっとりとした目も顔もやばいやつだ、本気の本気で笑い事でも何でも済まないやつだ。

その時、私は視界の端に写った白いワンピースの裾を見るなり慌てて逃リュゼに対して「ごめんなさい、私行かないと!」と告げるとその場から走り出す。

もう何でもいいからさっさとここから逃げないとやばい。

私は駆け足でリュゼから離れると、視界に写ったワンピースの裾を追い掛けてその場を去った。

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