20 / 33
まつろわぬ番・裏 V視点
幕間 L視点
しおりを挟む帰りの車の中で、僕たちは珍しく無言だった。
アーサーの番とあんな風に出会うとは思わなかった。
僕をアーサーと勘違いして、逃がすまいと威圧を放ってきた大人のアルファはとても怖かった。
でも、相手の人の感情が何となく僕には共感できる部分もあったから、怖かったけれど、僕はあの人を嫌いにはなれなかった。
アーサーは自分で気づいているのか、気づかない振りをしているだけなのかわからないけれど、あの人の言い分を怒ってはいたけれど、嬉しそうでもあった。
その辺の複雑な感情は「アルファ」特有の番への独占欲とか執着心が関係しているのかもしれない。
アーサーはきっと待っていたんだ。
あの人がアーサーの前に平伏して許しを請うことを。
そしてひたすらに愛を乞うことを。
あの人、ヴィクトールって名前だったかな?
見た目は大人で強いアルファみたいだったけれど、中身は僕よりも小さい子供みたいで頼りなく見えた。
僕は何となく、ヴィクトールを応援したい気持ちになっていた。
僕は小さいころからアーサーが大好きだった。
それが恋だと気づいたころ、アーサーに番がいることを知った。
オメガの判定が出た時、アーサーがうなじの咬み痕を見せてくれたことがあった。
「たとえどんなに仲がいい友達からでも、飲み物は受け取っちゃいけない。」
アーサーから聞かされた話は衝撃的すぎて、その日は眠れなかった。
アーサーは友達に裏切られて、憧れていたアルファに「ビッチング」されて「番」が成立してしまった。
それで僕のお父さんに助けを求めて保護された。
お父さんがバース性の専門医で研究者だったのは幸運だったとアーサーは言っていた。
お父さんは「番成立」や「番解除」「ビッチング」のメカニズムを研究しているから、アーサーからSOSが来た時にすぐに自分の代理人の弁護士さんを派遣して、アーサーを日本へ連れて来させた。
オメガ化が完了する前に距離を離して接触を断てばオメガ化は止まるし、番の「絆」も薄れるから。
「アーサー、今日はうちに泊まって!」
車が家に着いて、車庫から家の方へ歩きながら僕が言うとアーサーは「泊まりたい」と言ってくれた。
「久しぶりに川の字になって寝ようよ。」
アーサーが日本に来た時、悪夢で魘されるアーサーを心配して、みんなで一緒の部屋で川の字になって雑魚寝したことを思い出した。
お父さん、アーサー、僕、お母さんの並びで、悪夢のことを何も知らなかった僕は楽しくて色んなおしゃべりをしたり、歌を歌ったりした。
たまに日本にいる従兄弟たちが遊びに来て泊るときは、誰がアーサーの隣で寝るかで揉めたこともあった。
「ルイ、寝る時にいつものやつ歌ってくれる?」
「もちろん。」
家に入ると、珍しくお父さんが先に帰っていて、出迎えてくれた。
「アーサー、今日は泊まりなさい。久しぶりに川の字だ。」
僕とアーサーは思わず顔を見合わせて笑った。
「じゃあ、叔父さんとルイで子守歌デュエットしてもらおうかな。」
その日の夜はデュエットだけでなく、みんなでコーラスもした。
久しぶりに楽しい夜だった。
─────────
余談
叔父さんはウィリアムから電話を貰って急いで帰ってきました。
68
あなたにおすすめの小説
運命よりも先に、愛してしまった
AzureHaru
BL
幼馴染で番同士の受けと攻め。2人は運命の番ではなかったが、相思相愛だった。そんな時、攻めに運命の番が現れる。それを知った受けは身籠もっていたが、運命の番同士の子供の方が優秀な者が生まれることも知っており、身を引く事を決め姿を消す。
しかし、攻めと運命の番の相手にはそれぞれに別の愛する人がいる事をしり、
2人は運命の番としてではなく、友人として付き合っていけたらと話し合ってわかれた。
その後、攻めは受けが勘違いしていなくなってしまったことを両親達から聞かされるのであった。
君に捧げる紅の衣
高穂もか
BL
ずっと好きだった人に嫁ぐことが決まった、オメガの羅華。
でも、その婚姻はまやかしだった。
辰は家に仕える武人。家への恩義と、主である兄の命令で仕方なく自分に求婚したのだ。
ひとはりひとはり、婚儀の為に刺繡を施した紅の絹を抱き、羅華は泣く。
「辰を解放してあげなければ……」
しかし、婚姻を破棄しようとした羅華に辰は……?
六年目の恋、もう一度手をつなぐ
高穂もか
BL
幼なじみで恋人のつむぎと渉は互いにオメガ・アルファの親公認のカップルだ。
順調な交際も六年目――最近の渉はデートもしないし、手もつながなくなった。
「もう、おればっかりが好きなんやろか?」
馴ればっかりの関係に、寂しさを覚えるつむぎ。
そのうえ、渉は二人の通う高校にやってきた美貌の転校生・沙也にかまってばかりで。他のオメガには、優しく甘く接する恋人にもやもやしてしまう。
嫉妬をしても、「友達なんやから面倒なこというなって」と笑われ、遂にはお泊りまでしたと聞き……
「そっちがその気なら、もういい!」
堪忍袋の緒が切れたつむぎは、別れを切り出す。すると、渉は意外な反応を……?
倦怠期を乗り越えて、もう一度恋をする。幼なじみオメガバースBLです♡
番に見つからない街で、子供を育てている
はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。
異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。
現世の記憶は失われているが、
この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。
街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、
ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。
だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。
再会は望まない。
今はただ、この子との生活を守りたい。
これは、番から逃げたオメガが、
選び直すまでの物語。
*本編完結しました
運命の番は僕に振り向かない
ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。
それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。
オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。
ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。
ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。
ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。
ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
【本編完結】αに不倫されて離婚を突き付けられているけど別れたくない男Ωの話
雷尾
BL
本人が別れたくないって言うんなら仕方ないですよね。
一旦本編完結、気力があればその後か番外編を少しだけ書こうかと思ってます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる