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天下の大泥棒、参上の巻(後編)
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昨晩の事件から一夜明けた早朝。
城下町と繋がっている大橋の川辺に、珍しく大衆が押し寄せていた。大橋の下には巨大な黒い釜があり、ぐつぐつと熱湯が沸かされている。
釜の周囲には眉間にシワを寄せた侍たちが並んでおり、その中心に蛙顔の戦国大名がニタニタと嗤って座っている。
「──これよりィ! 世間を騒がせた大罪人……大泥棒、烏天狗の公開処刑を行う‼」
侍の一人が前に出て叫んだ。すると橋の上や川の向こう側で大衆がザワザワしだした。
簡易的な木製の階段が設置されており、前に煮えたぎった釜が置かれている。
後ろに縄で縛られた椿が膝をついて座らされている。左右に槍を持った侍が二人、逃げないように縄をしっかり握っていた。
「………………」
「ゲロゲロ。恐ろしくて声も出せないようゲロなァ? 愉快ッ! 愉快ッ! 愉快ッ! 」
無様に捕まっている椿の姿に我磨氏は嗤いが止まらない様子だ。その手には椿から奪ったであろう喧嘩煙管を持っている。
大橋の上の群衆の中、掴まっている椿の姿を人混みの隙間から見ている男がつぶやいた。
「長い付き合いだったが、お前もそろそろ年貢の収め時だったってわけだ。ふふふ。──あばよ、椿」
男は手の中に白い紙に包まれた分厚い金貨の束らしきものを握り、ニヤニヤしながら鼻で笑った。すると、背後から町民がその男に声をかけた。
「竜さん! 竜さんじゃねぇか! マズイことになったな。椿ちゃんが掴まっちまうなんてよ……」
「俺のせいなんだ……俺がドジ踏んで、逃げ遅れちまって、椿は……俺の身代わりに……ひっ、ヒック、ヒック。ふひひ……ひぐっ、ひっひひ!」
「竜さん……」
竜さんと呼ばれた男は袖で涙を拭う素振りを見せる。町民の男は竜という男の肩に手を置いた。竜は泣いているのか、嗤っているのか分からないような声を漏らした。
群衆の中にいる伊織は鋭く処刑場を睨んでいる。小太郎は橋に前のめりになって言った。
「おい、見ろよ伊織! あれ、昨日の女泥棒じゃねぇか⁉」
「………………」
「釜茹での刑なんて残酷すぎねぇか⁉ オイラ生まれて初めて見たぜ」
「酷いことを……」
伊織は、辛そうに椿を見る。近くに座っている蛙顔の戦国大名に視線を移動させる。伊織は我磨氏を睨み、目を細めた。小太郎が怯えながら伊織に訊ねる。
「ど、どうしたんだよ伊織? 怖い顔すんなよ……」
「小太郎殿……見つけました」
「──っ! 妖怪か⁉」
「ええ」
「どこだ⁉ どこにいやがる‼」
小太郎が問い詰めると、伊織は妖怪のいる方向に視線を向ける。小太郎は伊織の視線の先に我磨氏がいることに驚いて言う。
「本当か、伊織⁉」
「間違いありません。あの蛙顔の男に取り憑いているようです。さっきから『悪食天女』が興奮しています」
伊織の腰に差している妖刀が「ガタガタガタ……」と小刻みに振動している。神妙な面持ちの小太郎が伊織に訊ねた。
「──斬るのか?」
「妖怪を放っておくわけには行きません」
「取り憑かれてるとはいえ、殿様なんて斬ったら……えらいことになるぞ!」
「そう……でしょうね。ハハ……」
やりづらそうに伊織が苦笑いをした。小太郎は、あわあわと慌てている。すると槍を持った処刑人の侍が縛られた椿を掴んで立ち上がらせた。
「立て!」
「………………」
背中に槍を突き付けられながら椿が歩きだし、木製の階段を上がる。椿が見下ろすと目の前に煮立った釜があり、白い湯気が立ち上っている。
椿はあまりの熱さに後ろにたじろいてしまうが、背後に立つ侍の一人が槍を向けて逃げないように睨んでくる。気弱そうな侍がもう一人の侍に訊ねた。
「本当に……やるんですか?」
「殿の命令だ」
「しかし、罪人とはいえ……こんな……」
二人のうち年下と思われる侍は迷っている様子だ。その横で表情を変えずにいる厳しそうな年上の侍が大泥棒・椿に訊ねる。
「武士の情けだ。何か言い残すことはあるか?」
「………………くたばれ」
「チッ、もういい!」
厳しそうな侍は、椿の背中に槍を突きつけて押し出そうとする。しかし椿は巧みに避けては抵抗し、中々落ちようとしない。イラ立ちながら年上の侍が年下の侍に言う。
「おい、手を貸せ!」
「は、はい!」
そして二人がかりで椿を熱湯の釜に落とそうとした。しかし椿は軽々と槍を避けて小馬鹿にするように二人の侍をあざ笑う。椿が後ろを振り返って言う。
「どうした? もう終わりかよ?」
「こ、この……‼」
二人の侍はイライラしながら何度も槍で突き落とそうとする。ギリギリの足場の上で椿が抵抗する光景がしばらく続いた。すると、我磨氏がしびれを切らして叫んだ。
「何を手間取っている! どけ! ワシが殺るゲロ‼」
我磨氏は二人の侍を階段の下に突き飛ばし、椿の背後に立つ。
喧嘩煙管で椿の背中をツンツン突いて、我磨氏が椿を突き落とそうとしてくる。目の前には釜の湯気が立ち上っており、椿の顔が暑そうだ。
「おらぁ‼ さっさと落ちるゲロォ! この! この!」
「──くっ⁉ 熱っ‼」
「ほれ、ほれ! いいかげん早く落ちろ!」
声を漏らしながらも椿が必死に抵抗している。我磨氏が勢い良く突いた時、椿は胴体を横にクルッと回して避けた。そして一瞬で我磨氏の背後に移動して、避けられて体勢を崩していた我磨氏に向かって椿が体当たりする。
「落ちるのは、てめぇだ、蛙野郎‼」
ドスン!
「ゲコっ⁉」
椿の体当たりで勢い余って我磨氏は煮えたぎった釜の中に「バシャーン‼」と落ちてしまう。
「うぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああ‼ 熱い‼ 熱い‼ 熱い‼ 熱い‼ 熱い‼ 熱い‼ 熱い‼ 熱い‼ 熱い‼ 熱い‼ 熱い‼ 熱い‼ 熱い‼ 熱い‼ 熱い‼ 熱い‼ 熱い‼ あッ、あづぁッッ‼ んゲッ‼ ゲロゲロ‼ ゲロぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお‼ ゲロぉ……ゲロぉ……ゲロぉ………………」
茹でガエル状態の我磨氏は悲痛の叫びを上げた。初めは張り裂けんばかりの叫び声を上げていたが、徐々に反応が薄くなっていく。
「へっ……ざまぁみやがれ……」
それを確認した椿は後ろに下がり、口角を上げながらつぶやいた。
……………………ブクブクブクブクブクブクブクブクブクブクブクブクブクブクブクブクブク‼‼
しかし突然、釜の熱湯が激しく沸騰しだした。
徐々に泡が激しく大きくなったその時──。
バシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン‼‼‼
釜から熱湯の水柱が噴き上がったのだ。周囲にいた侍たちは熱湯の飛沫から逃げ惑っている。
水柱の中から喧嘩煙管が飛び出して地面に「カラン、コロン!」と落ちてきた。椿は急いで木製の階段を駆け下りて逃げる。
上空にぼんやりと我磨氏らしき緑色の有害そうな瘴気の影から声が聞こえた。
「ゲロ……」
観衆や侍たちは静まり、空に浮かぶ緑色の奇妙な影を凝視している。観衆の一人だった小太郎がつぶやく。
「伊織! アレって……」
──ダンッッッ‼
小太郎が言い終える前に伊織は橋の上から飛び降りていった。それに気づいた小太郎は伊織を追いかけようと慌てて橋の下に向かって走り出した。
何が起きているのか分からず、椿は目を丸くして上空に浮かんでいる緑色の影から目を離せずにいる。徐々に瘴気が薄れて、その正体が姿を現して叫んだ。
「げ、ゲロゲロ⁉ お……のれ、小娘がァ‼」
「か、カエル⁉」
椿の目に映るヤツの姿は、緑色のブツブツの皮膚をした紛れもない巨大な蛙そのものだった。奇妙なのは殿様のような豪華な着物を身に纏った蛙なのだ。
椿はまだ状況を理解できずに困惑している様子だ。頭上で両手足をバタバタとさせて熱がっていた蛙妖怪が充血させた目で椿を睨んで叫んだ。
「ゆ、ゆるさんゲロ……‼ ゆるさなぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああいいいいい‼」
「──ひっ⁉」
蛙妖怪が大口を開けて赤みがかったピンク色の舌を「ビュッ‼」と椿に向かって伸ばしてきた。椿は怯えて両腕で顔を守ろうとした時──。
──ザァンッ‼ ボト……。
「あン、ぎゃああぁあああああぁぁぁああああぁぁあああぁああああああぁぁあああ⁉ ワシの舌がァ……‼」
「怯える女性を舌で舐めようなんて……行儀が悪いですね」
一直線に伸びてきたイヤらしい舌を突然現れた女の剣客が斬り落とし、ガマ妖怪を見上げて言った。椿は目の前に立つ女の剣客を見て言う。
「あ、アンタは……⁉」
「お久しぶりです。大丈夫ですか?」
「え……ああ」
「自己紹介がまだでしたね。私は『夜桜伊織』と申します」
伊織と名乗った女の剣客は納刀しながら微笑んで言った。すると遠くから少年の声が聞こえてきた。
「伊織ぃいいいぃぃいいー‼」
「小太郎殿! 椿殿の縄を解いてあげてください」
「よっしゃ、まかせろ!」
小太郎は懐から小さな刃物を取り出して、椿の手と胴体の縄を切り始めた。椿が驚いて伊織に訊ねた。
「な、なな、何だい⁉ あの殿様蛙の化け物はァ⁉」
「おや、見るのは初めてですか? アレは妖怪です」
「よ、よよよ妖怪⁉」
「おそらく、かなり前から我磨氏に取り憑いていたのでしょう。蛙妖怪は熱に弱いので、釜の熱湯に耐えきれなかった。だから寄生してたあの戦国大名の体を捨てて飛び出したのでしょう」
「な⁉⁉ 熱⁉ えぇ……⁉」
椿は混乱した様子で伊織と小太郎、蛙妖怪を何度も見ている。そうこうしていると悶絶していたガマ妖怪は、すぐに舌を再生させて再び襲いかかってきた。
「お、おのれェ……‼ ゲロッ‼」
「──ッ‼」
鋭い眼光で睨み返す伊織の左手は刀の鞘を掴み、閂差しに構え直している。刀を真横にして、いつでも抜刀して斬れる体勢だ。
再び舌を伸ばそうとしたガマ妖怪はすぐに舌を口の中にも戻した。すると周囲で困惑している田舎侍たちに向かって叫んだ。
「で、であえ、であえ! あの狼藉者どもを殺せェ‼‼ んぐぅぐ、んぐぅうぅぅうう……ぉえおぉえぇ、ゲロゲロ‼」
突然、ガマ妖怪が唸り声を上げる。すると蛙の卵のような黒い物体が透明なドロドロの液体に包まれて、ガマ妖怪の背中から無数に浮き上がってきた。
卵が破裂して黒いおたまじゃくしのような影が周囲の槍を持った田舎侍たちの口の中に飛び込んでいった。侍たちは気持ち悪くなって吐き出そうとしている。
「おげぇッ⁉ あ、何だコレ⁉」
「あうあうあうああう‼ ──うぷっ! おぇ……」
「ゲホ、ゲホ‼ おろォ……オロオロオロオロオロオロオロオロオロオロ、ゲロゲロゲロゲロゲロゲロゲロゲロゲロゲロゲロゲロゲロゲロ‼‼」
青白い顔をして嗚咽する侍や顔を真っ赤にする者など、侍たちは苦しそうにしている。それを見た観衆たちは悲鳴を上げて蜘蛛の子を散らすように逃げ惑った。
「う、うわああああああああああああ⁉ なんだ、ありゃあああぁ‼」
「ひええええぇぇ‼ 来るなぁああああ‼ ば、ばば、化け物おおおおおおおおお‼」
「──っ⁉⁉⁉⁉ ……あプ、ぶくぶく。コポォ……」
女や子どもを押しのけて我先に逃げる体格のいい男や、性格のきつそうなツリ目の女たち。気絶して泡を吹く若い町娘や爺さん、腰を抜かして動けなくなる老婆など、阿鼻叫喚だ。
取り憑かれた田舎侍たちは白目を剥いて、伊織と椿にギョロリと同時に顔を向けた。
「あぁぅ……ああぁあっ‼ ああぁあああああああああああああああああああああああああああああああああっ‼‼」
すると蛙の妖怪に寄生されて操り人形にされてしまった侍たちは槍を構えて奇声を上げ、伊織に突進してくる。
「くっ!」
伊織は重心を前に出して頭を深く下げた。槍の刺突を右下に避けて躱す。伊織の左耳の上を槍が一瞬だけ掠める。
そのまま伊織は左手で刀を投げるように突き上げる。
刀の柄頭が侍の水月に直撃し、侍は大口を開けてネバネバの唾液を前方に吐き出して悶絶した。
「がッ……がぁ……⁉ ぉう、おご、うぇえええぇぇ……」
急所を疲れて悶絶している侍は、ガクガク震えながらその場に倒れた。伊織は頭上でニタニタ嗤っているガマ妖怪を睨んだ。
「高みの見物とは、いいご身分ですね。実に殿様蛙らしい」
「ゲロゲロ! どこのどいつかは知らんが、邪魔するなら容赦せんゲロ! 何をしている! 早くその女の侍を処すゲロ‼」
ガマ妖怪の号令を受け、紫色の顔をした田舎侍たちが再び奇声を発しながら伊織に襲いかかる。
「ひぃ、き、きえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ‼‼」
「……仕方ありませんね。──ッ‼」
侍たちの猛攻を躱し、伊織は刀も抜かずに対処していく。
正面から襲いかかる者には顎を掌底で突き上げる。背後から槍で突いてくる者には右脇で槍を挟むように躱し、右手で槍を掴んで奪う。そのまま後ろに下がって肘で喉を突き、一撃で鎮める。
左右から同時に襲いかかる者には、ギリギリで前方に瞬時に移動して躱す。伊織の背後で二人のまぬけな侍が正面衝突して倒れてしまった。
「伊織! オイラも助太刀するぜェ‼ どりゃあああああああああああああああああああああああああああああ‼‼」
熱湯釜の横に落ちていた喧嘩煙管を拾って威勢よく振り回しながら小太郎が参戦した。
侍たちは伊織を標的にしていたため、小太郎の存在に気づいていない様子だ。小太郎がおおきく振りかぶって侍の足の脛を打ち抜く。侍は悲鳴を上げて飛び上がり、脛をさすり、地面の上を涙を流しながら転げ回っている。
その後も、十数人以上のとり憑かれた侍たちは伊織に襲いかかるが、次々と返り討ちにしてしまった。伊織が優雅に着物のズレを直しながら言う。
「ふぅ……。さて、次はあなたの番ですね」
「ぐぬぅぅぅぬぬぬぅううぅ‼ この役立たず共がああぁあぁぁああぁ‼」
顔を真っ赤にして怒りを露わにしていたガマ妖怪だったが、突然両目を丸くして真顔になり、小太郎を凝視し始めた。そしてニンマリ嗤い、伊織に向かって口をすぼめ、勢い良く水鉄砲を吐き出した。
ビューッ‼
「⁉」
ガマ妖怪の水鉄砲を驚きつつも伊織は袖で防いだ。水の勢いは大したことはなく、少しネバネバで濡れる程度だ。しかし問題はそんなことではなかった。伊織が顔を上げて周囲を確認しようとしたとき、小太郎のかすれた声が聞こえてきた。
「ぉ、がああ⁉ い、伊織……助け、て──」
「こ、小太郎殿‼」
伊織の目に映ったのは口から体内に入ろうとするガマ妖怪と、それに抵抗している小太郎の姿だった。ガマ妖怪はニュルニュルと小太郎の中に入っていく。白目を剥いて、ヨダレを垂らした小太郎の口を借りてガマ妖怪が声を出した。
「ゲロゲロゲロ! これでワシを斬ることはできなくなったな、女侍! ワシを斬れば、この薄汚い小僧も一緒に斬ることになるぞ!」
「………………」
小太郎からガマ妖怪を追い出すためには再び熱湯に落とす必要がある。しかし、それでは小太郎の肉体は熱湯で茹でることになり、確実に死ぬことになる。それに今から湯を沸かす時間はない。かと言って小太郎も一緒に斬り殺してしまっては意味がない。
動揺を悟られないように真顔で伊織はガマ妖怪を睨む。
顎を上げて勝ち誇ったような態度で小太郎に取り憑いたガマ妖怪は伊織を見ている。伊織は刀を抜かず、沈黙している。するとガマ妖怪が煽るように言う。
「どうした? ワシを斬りたかったら斬れば良いぞ? ほれ、ほれ!」
「………………」
伊織の目の前で、ガマ妖怪が小太郎の体を操り腰を左右に振って誘ってくる。伊織は鞘を握る左手に力が入る。その時──。
──ザッ‼
小太郎の背後に忍び寄る影が現れて言った。
「目ぇ覚ませェ、ガキ‼」
「⁉」
それは喧嘩煙管を大きく振りかぶった、烏天狗の椿だった。椿が喧嘩煙管の火を小太郎の背中に叩きつけたのだ。
すると小太郎の肩甲骨の間の背中付近から煙が上がってきた。次の瞬間、小太郎が大口を開けて悲鳴を上げた。
「ぅぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ‼」
喧嘩煙管の先端にある火皿《ひざら》に乗って燃えていた火口が小太郎の背中を焼く。そして一瞬で「ボワァッ!」と炎が舞い上がった。
「熱っ‼ 熱っ‼ 熱っ‼」
火口の熱さに絶えきれず、もがき苦しみながら小太郎の口からヌルヌルっとガマ妖怪が這い出てきた。
地面に這いつくばって悶絶しているガマ妖怪は喧嘩煙管の火で背中が燃えており、それを消そうと必死に暴れている。それを確認して椿が伊織に向かって叫んだ。
「今だァ‼ 殺れ‼」
「助かりました! 椿殿!」
椿に感謝しながら伊織は、左手で腰の妖刀の鞘を掴んで、つぶやく。
「目を覚ましてください。『悪食天女』……‼」
伊織が呼びかけると、妖刀が小刻みにガタガタと震えて興奮しだした。ようやく火を消したガマ妖怪は伊織の抜刀の構えを見て畏怖を覚えて叫んだ。
「げ、ゲロっ、待つゲロ! ワシ、悪い蛙じゃないケロよ!」
「問答無用、諦めろ……‼」
「ひっ⁉ ちょ、待っ──」
──ッッッッッッッッ‼‼
「ぁんがっ……。んげ、ゲロ……」
一閃の如き抜刀で、伊織がガマ妖怪の首を斬り裂いた。
ガマ妖怪の首の肉が切り裂かれ「ビュッ! ビュッ!」と血が吹き出す。
……キンッ!
そして、伊織が納刀する金属音が、静かに響いた。
白目を剥いたガマ妖怪の首と口から赤黒い血が噴水のように真上に拭き上げる。その血が桜色の光に包まれていき、伊織が言う。
「──喰らえ、悪食天女」
ガマ妖怪の魂は吸い込まれるように、妖刀・悪食天女のエサになった。すべての魂を妖刀に喰わせ、伊織は小太郎に駆け寄って言う。
「小太郎殿! 大丈夫ですか⁉」
「へへ……やったな、伊織……」
片膝立ちで小太郎の体を抱き寄せながら伊織は周囲を見渡した。さっきまでいた大勢の人たちは皆、逃げて誰もいなくなっている。残っているのは腰を抜かして気絶した者ぐらいだろうか。
橋の下の川辺には伊織が倒した田舎侍たちがポツポツとおり、皆気絶していた。顔色がさきほどと違って楽そうになり、青白い顔や緑色の顔をした侍は一人もいなかった。
おそらく妖刀・悪食天女がガマ妖怪の魂を吸った時に、侍たちに取り憑いていた黒いおたまじゃくしも同時に喰らったのだろう。
「伊織、オイラもう大丈夫だって! ほら、体もピンピンしてらぁ!」
「本当に大丈夫ですか⁉ 無理しないでください。なんなら私がおんぶしてあげますよ?」
「や、やめてくれよ! ガキじゃねぇんだから!」
慌てて立ち上がった小太郎は、恥ずかしそうにおんぶを拒否した。伊織は笑顔になって片膝立ちから立ち上がって着物の土埃を手で払った。すると小太郎が言った。
「あの女泥棒、どこいったんだ?」
「あれ? そういえば、いませんね……?」
「あの女、助けてやったってのに一人で逃げやがったな‼」
「まぁ、いいじゃないですか。それより、急いでここを離れましょう。この状況を誰かに見られたら、面倒なことになりそうですし……」
「そ、そうだな! さっさとズラかろうぜ!」
こうして大泥棒の処刑騒ぎが終わった。伊織と小太郎は、そそくさとその場を逃げるように後にした。
*
「ハァッ、ハァッ……ち、畜生! クソがァ‼ 人混みに邪魔されなきゃあ、もっと早く逃げられてたってのに……‼」
その男は宿場町の裏の出口に立って息を切らせていた。
大勢の人混みの雪崩によって押しつぶされたのか、一時的に身動きが取れず、逃げ遅れてしまった様子だ。続けて男が言う。
「なんだってんだ、あの蛙の化け物は⁉ こうしちゃいられねぇ! 早いとこズラかって……」
「──待ちなよ、竜さん」
「……っ⁉」
竜と呼ばれた男が町を出ようとしていたとき、何者かが声をかけてきた。竜の目の前に立ちはだかったのは傷だらけでボロボロの椿だった。椿が竜を睨みながら言う。
「こんな所で合うなんて、奇遇だねぇ……どこに行くつもりだい?」
「つ、椿⁉ ま、待て! 俺は奴らに脅されただけなんだ! まさかあんな大騒ぎになるとは! もちろん最後には、お前を助けるつもりだったさ! ほ、ほら見てくれ、奴らから受け取った報酬だ! 二人で山分けしよう!」
「……なんだ、そういう作戦だったのかい? あたしゃ、てっきり……竜さんが裏切ったのかと思っちまったよ」
「そ、そんなわけねぇじゃねぇか! 一緒に逃げようぜ! もうこの町に用はねぇだろ⁉」
「そうだね。アタシも、そろそろ次の宿場に行こうと思ってたところさ」
「よし、決まりだ!」
そう言って竜が、椿の前を通り過ぎようとした時──。
ガンッ‼
「んがっ⁉」
「ハァ……誰が信じるってんだい? そんな嘘……」
後頭部を喧嘩煙管で殴られて、竜は情けない声を出しながら倒れる。そして椿は近くの木に竜を縛り付けた。そして、ちゃっかり白い紙に包まれた金貨の束を抜き取った。
「さて、これからどうしようかね。化け物に取り憑かれてたとはいえ、殿様を死なせちまったとあっちゃあ、周辺諸国の大名どもも黙ってないだろうし。しばらく泥棒は控えたほうがいいね……」
椿は腕を組んで考え込んでいる。するとなにか思いついたのか、空を見上げて、一言つぶやいた。
「そういや『伊織』って言ったかい? あの女の剣客……」
そう言って金貨を懐にしまい、椿はニヤリと笑った。
*
心地よい春の風とお天道さまの温かい光を浴びながら、伊織と小太郎がお地蔵さんの隣りに座り、仲良くおむすびを分け合っていた。一口食べながら、小太郎が愚痴を漏らす。
「はぁ……まったく、散々な目に遭ったな」
「いいじゃないですか。無事に解決できたんですから」
すると背後から伊織と小太郎は声をかけられた。
「よ!」
「わっ⁉」「およ?」
二人が驚いて振り返ると、そこに立っていたのは、腰に両手を置いて自信満々そうな三代目烏天狗の椿だった。伊織と小太郎が目を丸くしていると椿が言う。
「おいおい、そんなに驚くことないじゃないか」
「これはこれは……椿殿ではないですか。まだ私たちに御用ですか?」
「それなんだけどね。あたしゃ、アンタに惚れたよ。今までいろんなお宝を盗んできたが、まさか大泥棒の烏天狗様が『心』を盗まれちまうとはねぇ……。アンタたち、この先の町に行くつもりなんだろう? 一緒に行かないかい、旅は道連れって言うだろ?」
なんと椿は二人についていくと言い出したのだ。それに黙ってないのが小太郎だった。
「冗談じゃねぇ! オイラは反対だ! 誰がお尋ね者なんかと!」
「なんだと、このガキ! こんな美女二人に挟まれて両手に華だって思わないのかい!」
「何が両手に華だ! オイラが好きなのは伊織だけだ!」
「いっちょ前に年上好きってかい、このマセガキが! アタシの魅力が分からないなんて女を見る目が無いにも程があるよ! こんなちっこいチンチンしてくるくせに!」
椿は小太郎を背後から捕まえ、片手で股間をガッシリ掴んだ。小太郎が赤面しながら言う。
「……だぁっ⁉ やめろ! 触んじゃねぇ!」
「嫌がってるわりに抵抗しないじゃないか! 本当は喜んでんだろ? 早く認めなよ! お姉さんと旅できて嬉しいですって!」
「だ、誰が……ば、バカ! お前の腕力が、強すぎて、動け、ね……」
「おいおい⁉ 本当で勃ってないかい⁉」
「い、いい、伊織ぃ、助けてくれぇ! お、オイラの初めてがァああああああああああああああああああ‼」
伊織は腕を組んで小太郎と椿のじゃれあいを微笑ましく眺めていた。
「今日もいい天気ですね~」
最後のたくあんをポリポリ食べながら、伊織は青い空を見上げた。
ああ、また奇妙な旅の仲間が増えてしまったようだ。
果たして伊織の旅は、これからどうなってしまうことやら──。
城下町と繋がっている大橋の川辺に、珍しく大衆が押し寄せていた。大橋の下には巨大な黒い釜があり、ぐつぐつと熱湯が沸かされている。
釜の周囲には眉間にシワを寄せた侍たちが並んでおり、その中心に蛙顔の戦国大名がニタニタと嗤って座っている。
「──これよりィ! 世間を騒がせた大罪人……大泥棒、烏天狗の公開処刑を行う‼」
侍の一人が前に出て叫んだ。すると橋の上や川の向こう側で大衆がザワザワしだした。
簡易的な木製の階段が設置されており、前に煮えたぎった釜が置かれている。
後ろに縄で縛られた椿が膝をついて座らされている。左右に槍を持った侍が二人、逃げないように縄をしっかり握っていた。
「………………」
「ゲロゲロ。恐ろしくて声も出せないようゲロなァ? 愉快ッ! 愉快ッ! 愉快ッ! 」
無様に捕まっている椿の姿に我磨氏は嗤いが止まらない様子だ。その手には椿から奪ったであろう喧嘩煙管を持っている。
大橋の上の群衆の中、掴まっている椿の姿を人混みの隙間から見ている男がつぶやいた。
「長い付き合いだったが、お前もそろそろ年貢の収め時だったってわけだ。ふふふ。──あばよ、椿」
男は手の中に白い紙に包まれた分厚い金貨の束らしきものを握り、ニヤニヤしながら鼻で笑った。すると、背後から町民がその男に声をかけた。
「竜さん! 竜さんじゃねぇか! マズイことになったな。椿ちゃんが掴まっちまうなんてよ……」
「俺のせいなんだ……俺がドジ踏んで、逃げ遅れちまって、椿は……俺の身代わりに……ひっ、ヒック、ヒック。ふひひ……ひぐっ、ひっひひ!」
「竜さん……」
竜さんと呼ばれた男は袖で涙を拭う素振りを見せる。町民の男は竜という男の肩に手を置いた。竜は泣いているのか、嗤っているのか分からないような声を漏らした。
群衆の中にいる伊織は鋭く処刑場を睨んでいる。小太郎は橋に前のめりになって言った。
「おい、見ろよ伊織! あれ、昨日の女泥棒じゃねぇか⁉」
「………………」
「釜茹での刑なんて残酷すぎねぇか⁉ オイラ生まれて初めて見たぜ」
「酷いことを……」
伊織は、辛そうに椿を見る。近くに座っている蛙顔の戦国大名に視線を移動させる。伊織は我磨氏を睨み、目を細めた。小太郎が怯えながら伊織に訊ねる。
「ど、どうしたんだよ伊織? 怖い顔すんなよ……」
「小太郎殿……見つけました」
「──っ! 妖怪か⁉」
「ええ」
「どこだ⁉ どこにいやがる‼」
小太郎が問い詰めると、伊織は妖怪のいる方向に視線を向ける。小太郎は伊織の視線の先に我磨氏がいることに驚いて言う。
「本当か、伊織⁉」
「間違いありません。あの蛙顔の男に取り憑いているようです。さっきから『悪食天女』が興奮しています」
伊織の腰に差している妖刀が「ガタガタガタ……」と小刻みに振動している。神妙な面持ちの小太郎が伊織に訊ねた。
「──斬るのか?」
「妖怪を放っておくわけには行きません」
「取り憑かれてるとはいえ、殿様なんて斬ったら……えらいことになるぞ!」
「そう……でしょうね。ハハ……」
やりづらそうに伊織が苦笑いをした。小太郎は、あわあわと慌てている。すると槍を持った処刑人の侍が縛られた椿を掴んで立ち上がらせた。
「立て!」
「………………」
背中に槍を突き付けられながら椿が歩きだし、木製の階段を上がる。椿が見下ろすと目の前に煮立った釜があり、白い湯気が立ち上っている。
椿はあまりの熱さに後ろにたじろいてしまうが、背後に立つ侍の一人が槍を向けて逃げないように睨んでくる。気弱そうな侍がもう一人の侍に訊ねた。
「本当に……やるんですか?」
「殿の命令だ」
「しかし、罪人とはいえ……こんな……」
二人のうち年下と思われる侍は迷っている様子だ。その横で表情を変えずにいる厳しそうな年上の侍が大泥棒・椿に訊ねる。
「武士の情けだ。何か言い残すことはあるか?」
「………………くたばれ」
「チッ、もういい!」
厳しそうな侍は、椿の背中に槍を突きつけて押し出そうとする。しかし椿は巧みに避けては抵抗し、中々落ちようとしない。イラ立ちながら年上の侍が年下の侍に言う。
「おい、手を貸せ!」
「は、はい!」
そして二人がかりで椿を熱湯の釜に落とそうとした。しかし椿は軽々と槍を避けて小馬鹿にするように二人の侍をあざ笑う。椿が後ろを振り返って言う。
「どうした? もう終わりかよ?」
「こ、この……‼」
二人の侍はイライラしながら何度も槍で突き落とそうとする。ギリギリの足場の上で椿が抵抗する光景がしばらく続いた。すると、我磨氏がしびれを切らして叫んだ。
「何を手間取っている! どけ! ワシが殺るゲロ‼」
我磨氏は二人の侍を階段の下に突き飛ばし、椿の背後に立つ。
喧嘩煙管で椿の背中をツンツン突いて、我磨氏が椿を突き落とそうとしてくる。目の前には釜の湯気が立ち上っており、椿の顔が暑そうだ。
「おらぁ‼ さっさと落ちるゲロォ! この! この!」
「──くっ⁉ 熱っ‼」
「ほれ、ほれ! いいかげん早く落ちろ!」
声を漏らしながらも椿が必死に抵抗している。我磨氏が勢い良く突いた時、椿は胴体を横にクルッと回して避けた。そして一瞬で我磨氏の背後に移動して、避けられて体勢を崩していた我磨氏に向かって椿が体当たりする。
「落ちるのは、てめぇだ、蛙野郎‼」
ドスン!
「ゲコっ⁉」
椿の体当たりで勢い余って我磨氏は煮えたぎった釜の中に「バシャーン‼」と落ちてしまう。
「うぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああ‼ 熱い‼ 熱い‼ 熱い‼ 熱い‼ 熱い‼ 熱い‼ 熱い‼ 熱い‼ 熱い‼ 熱い‼ 熱い‼ 熱い‼ 熱い‼ 熱い‼ 熱い‼ 熱い‼ 熱い‼ あッ、あづぁッッ‼ んゲッ‼ ゲロゲロ‼ ゲロぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお‼ ゲロぉ……ゲロぉ……ゲロぉ………………」
茹でガエル状態の我磨氏は悲痛の叫びを上げた。初めは張り裂けんばかりの叫び声を上げていたが、徐々に反応が薄くなっていく。
「へっ……ざまぁみやがれ……」
それを確認した椿は後ろに下がり、口角を上げながらつぶやいた。
……………………ブクブクブクブクブクブクブクブクブクブクブクブクブクブクブクブクブク‼‼
しかし突然、釜の熱湯が激しく沸騰しだした。
徐々に泡が激しく大きくなったその時──。
バシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン‼‼‼
釜から熱湯の水柱が噴き上がったのだ。周囲にいた侍たちは熱湯の飛沫から逃げ惑っている。
水柱の中から喧嘩煙管が飛び出して地面に「カラン、コロン!」と落ちてきた。椿は急いで木製の階段を駆け下りて逃げる。
上空にぼんやりと我磨氏らしき緑色の有害そうな瘴気の影から声が聞こえた。
「ゲロ……」
観衆や侍たちは静まり、空に浮かぶ緑色の奇妙な影を凝視している。観衆の一人だった小太郎がつぶやく。
「伊織! アレって……」
──ダンッッッ‼
小太郎が言い終える前に伊織は橋の上から飛び降りていった。それに気づいた小太郎は伊織を追いかけようと慌てて橋の下に向かって走り出した。
何が起きているのか分からず、椿は目を丸くして上空に浮かんでいる緑色の影から目を離せずにいる。徐々に瘴気が薄れて、その正体が姿を現して叫んだ。
「げ、ゲロゲロ⁉ お……のれ、小娘がァ‼」
「か、カエル⁉」
椿の目に映るヤツの姿は、緑色のブツブツの皮膚をした紛れもない巨大な蛙そのものだった。奇妙なのは殿様のような豪華な着物を身に纏った蛙なのだ。
椿はまだ状況を理解できずに困惑している様子だ。頭上で両手足をバタバタとさせて熱がっていた蛙妖怪が充血させた目で椿を睨んで叫んだ。
「ゆ、ゆるさんゲロ……‼ ゆるさなぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああいいいいい‼」
「──ひっ⁉」
蛙妖怪が大口を開けて赤みがかったピンク色の舌を「ビュッ‼」と椿に向かって伸ばしてきた。椿は怯えて両腕で顔を守ろうとした時──。
──ザァンッ‼ ボト……。
「あン、ぎゃああぁあああああぁぁぁああああぁぁあああぁああああああぁぁあああ⁉ ワシの舌がァ……‼」
「怯える女性を舌で舐めようなんて……行儀が悪いですね」
一直線に伸びてきたイヤらしい舌を突然現れた女の剣客が斬り落とし、ガマ妖怪を見上げて言った。椿は目の前に立つ女の剣客を見て言う。
「あ、アンタは……⁉」
「お久しぶりです。大丈夫ですか?」
「え……ああ」
「自己紹介がまだでしたね。私は『夜桜伊織』と申します」
伊織と名乗った女の剣客は納刀しながら微笑んで言った。すると遠くから少年の声が聞こえてきた。
「伊織ぃいいいぃぃいいー‼」
「小太郎殿! 椿殿の縄を解いてあげてください」
「よっしゃ、まかせろ!」
小太郎は懐から小さな刃物を取り出して、椿の手と胴体の縄を切り始めた。椿が驚いて伊織に訊ねた。
「な、なな、何だい⁉ あの殿様蛙の化け物はァ⁉」
「おや、見るのは初めてですか? アレは妖怪です」
「よ、よよよ妖怪⁉」
「おそらく、かなり前から我磨氏に取り憑いていたのでしょう。蛙妖怪は熱に弱いので、釜の熱湯に耐えきれなかった。だから寄生してたあの戦国大名の体を捨てて飛び出したのでしょう」
「な⁉⁉ 熱⁉ えぇ……⁉」
椿は混乱した様子で伊織と小太郎、蛙妖怪を何度も見ている。そうこうしていると悶絶していたガマ妖怪は、すぐに舌を再生させて再び襲いかかってきた。
「お、おのれェ……‼ ゲロッ‼」
「──ッ‼」
鋭い眼光で睨み返す伊織の左手は刀の鞘を掴み、閂差しに構え直している。刀を真横にして、いつでも抜刀して斬れる体勢だ。
再び舌を伸ばそうとしたガマ妖怪はすぐに舌を口の中にも戻した。すると周囲で困惑している田舎侍たちに向かって叫んだ。
「で、であえ、であえ! あの狼藉者どもを殺せェ‼‼ んぐぅぐ、んぐぅうぅぅうう……ぉえおぉえぇ、ゲロゲロ‼」
突然、ガマ妖怪が唸り声を上げる。すると蛙の卵のような黒い物体が透明なドロドロの液体に包まれて、ガマ妖怪の背中から無数に浮き上がってきた。
卵が破裂して黒いおたまじゃくしのような影が周囲の槍を持った田舎侍たちの口の中に飛び込んでいった。侍たちは気持ち悪くなって吐き出そうとしている。
「おげぇッ⁉ あ、何だコレ⁉」
「あうあうあうああう‼ ──うぷっ! おぇ……」
「ゲホ、ゲホ‼ おろォ……オロオロオロオロオロオロオロオロオロオロ、ゲロゲロゲロゲロゲロゲロゲロゲロゲロゲロゲロゲロゲロゲロ‼‼」
青白い顔をして嗚咽する侍や顔を真っ赤にする者など、侍たちは苦しそうにしている。それを見た観衆たちは悲鳴を上げて蜘蛛の子を散らすように逃げ惑った。
「う、うわああああああああああああ⁉ なんだ、ありゃあああぁ‼」
「ひええええぇぇ‼ 来るなぁああああ‼ ば、ばば、化け物おおおおおおおおお‼」
「──っ⁉⁉⁉⁉ ……あプ、ぶくぶく。コポォ……」
女や子どもを押しのけて我先に逃げる体格のいい男や、性格のきつそうなツリ目の女たち。気絶して泡を吹く若い町娘や爺さん、腰を抜かして動けなくなる老婆など、阿鼻叫喚だ。
取り憑かれた田舎侍たちは白目を剥いて、伊織と椿にギョロリと同時に顔を向けた。
「あぁぅ……ああぁあっ‼ ああぁあああああああああああああああああああああああああああああああああっ‼‼」
すると蛙の妖怪に寄生されて操り人形にされてしまった侍たちは槍を構えて奇声を上げ、伊織に突進してくる。
「くっ!」
伊織は重心を前に出して頭を深く下げた。槍の刺突を右下に避けて躱す。伊織の左耳の上を槍が一瞬だけ掠める。
そのまま伊織は左手で刀を投げるように突き上げる。
刀の柄頭が侍の水月に直撃し、侍は大口を開けてネバネバの唾液を前方に吐き出して悶絶した。
「がッ……がぁ……⁉ ぉう、おご、うぇえええぇぇ……」
急所を疲れて悶絶している侍は、ガクガク震えながらその場に倒れた。伊織は頭上でニタニタ嗤っているガマ妖怪を睨んだ。
「高みの見物とは、いいご身分ですね。実に殿様蛙らしい」
「ゲロゲロ! どこのどいつかは知らんが、邪魔するなら容赦せんゲロ! 何をしている! 早くその女の侍を処すゲロ‼」
ガマ妖怪の号令を受け、紫色の顔をした田舎侍たちが再び奇声を発しながら伊織に襲いかかる。
「ひぃ、き、きえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ‼‼」
「……仕方ありませんね。──ッ‼」
侍たちの猛攻を躱し、伊織は刀も抜かずに対処していく。
正面から襲いかかる者には顎を掌底で突き上げる。背後から槍で突いてくる者には右脇で槍を挟むように躱し、右手で槍を掴んで奪う。そのまま後ろに下がって肘で喉を突き、一撃で鎮める。
左右から同時に襲いかかる者には、ギリギリで前方に瞬時に移動して躱す。伊織の背後で二人のまぬけな侍が正面衝突して倒れてしまった。
「伊織! オイラも助太刀するぜェ‼ どりゃあああああああああああああああああああああああああああああ‼‼」
熱湯釜の横に落ちていた喧嘩煙管を拾って威勢よく振り回しながら小太郎が参戦した。
侍たちは伊織を標的にしていたため、小太郎の存在に気づいていない様子だ。小太郎がおおきく振りかぶって侍の足の脛を打ち抜く。侍は悲鳴を上げて飛び上がり、脛をさすり、地面の上を涙を流しながら転げ回っている。
その後も、十数人以上のとり憑かれた侍たちは伊織に襲いかかるが、次々と返り討ちにしてしまった。伊織が優雅に着物のズレを直しながら言う。
「ふぅ……。さて、次はあなたの番ですね」
「ぐぬぅぅぅぬぬぬぅううぅ‼ この役立たず共がああぁあぁぁああぁ‼」
顔を真っ赤にして怒りを露わにしていたガマ妖怪だったが、突然両目を丸くして真顔になり、小太郎を凝視し始めた。そしてニンマリ嗤い、伊織に向かって口をすぼめ、勢い良く水鉄砲を吐き出した。
ビューッ‼
「⁉」
ガマ妖怪の水鉄砲を驚きつつも伊織は袖で防いだ。水の勢いは大したことはなく、少しネバネバで濡れる程度だ。しかし問題はそんなことではなかった。伊織が顔を上げて周囲を確認しようとしたとき、小太郎のかすれた声が聞こえてきた。
「ぉ、がああ⁉ い、伊織……助け、て──」
「こ、小太郎殿‼」
伊織の目に映ったのは口から体内に入ろうとするガマ妖怪と、それに抵抗している小太郎の姿だった。ガマ妖怪はニュルニュルと小太郎の中に入っていく。白目を剥いて、ヨダレを垂らした小太郎の口を借りてガマ妖怪が声を出した。
「ゲロゲロゲロ! これでワシを斬ることはできなくなったな、女侍! ワシを斬れば、この薄汚い小僧も一緒に斬ることになるぞ!」
「………………」
小太郎からガマ妖怪を追い出すためには再び熱湯に落とす必要がある。しかし、それでは小太郎の肉体は熱湯で茹でることになり、確実に死ぬことになる。それに今から湯を沸かす時間はない。かと言って小太郎も一緒に斬り殺してしまっては意味がない。
動揺を悟られないように真顔で伊織はガマ妖怪を睨む。
顎を上げて勝ち誇ったような態度で小太郎に取り憑いたガマ妖怪は伊織を見ている。伊織は刀を抜かず、沈黙している。するとガマ妖怪が煽るように言う。
「どうした? ワシを斬りたかったら斬れば良いぞ? ほれ、ほれ!」
「………………」
伊織の目の前で、ガマ妖怪が小太郎の体を操り腰を左右に振って誘ってくる。伊織は鞘を握る左手に力が入る。その時──。
──ザッ‼
小太郎の背後に忍び寄る影が現れて言った。
「目ぇ覚ませェ、ガキ‼」
「⁉」
それは喧嘩煙管を大きく振りかぶった、烏天狗の椿だった。椿が喧嘩煙管の火を小太郎の背中に叩きつけたのだ。
すると小太郎の肩甲骨の間の背中付近から煙が上がってきた。次の瞬間、小太郎が大口を開けて悲鳴を上げた。
「ぅぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ‼」
喧嘩煙管の先端にある火皿《ひざら》に乗って燃えていた火口が小太郎の背中を焼く。そして一瞬で「ボワァッ!」と炎が舞い上がった。
「熱っ‼ 熱っ‼ 熱っ‼」
火口の熱さに絶えきれず、もがき苦しみながら小太郎の口からヌルヌルっとガマ妖怪が這い出てきた。
地面に這いつくばって悶絶しているガマ妖怪は喧嘩煙管の火で背中が燃えており、それを消そうと必死に暴れている。それを確認して椿が伊織に向かって叫んだ。
「今だァ‼ 殺れ‼」
「助かりました! 椿殿!」
椿に感謝しながら伊織は、左手で腰の妖刀の鞘を掴んで、つぶやく。
「目を覚ましてください。『悪食天女』……‼」
伊織が呼びかけると、妖刀が小刻みにガタガタと震えて興奮しだした。ようやく火を消したガマ妖怪は伊織の抜刀の構えを見て畏怖を覚えて叫んだ。
「げ、ゲロっ、待つゲロ! ワシ、悪い蛙じゃないケロよ!」
「問答無用、諦めろ……‼」
「ひっ⁉ ちょ、待っ──」
──ッッッッッッッッ‼‼
「ぁんがっ……。んげ、ゲロ……」
一閃の如き抜刀で、伊織がガマ妖怪の首を斬り裂いた。
ガマ妖怪の首の肉が切り裂かれ「ビュッ! ビュッ!」と血が吹き出す。
……キンッ!
そして、伊織が納刀する金属音が、静かに響いた。
白目を剥いたガマ妖怪の首と口から赤黒い血が噴水のように真上に拭き上げる。その血が桜色の光に包まれていき、伊織が言う。
「──喰らえ、悪食天女」
ガマ妖怪の魂は吸い込まれるように、妖刀・悪食天女のエサになった。すべての魂を妖刀に喰わせ、伊織は小太郎に駆け寄って言う。
「小太郎殿! 大丈夫ですか⁉」
「へへ……やったな、伊織……」
片膝立ちで小太郎の体を抱き寄せながら伊織は周囲を見渡した。さっきまでいた大勢の人たちは皆、逃げて誰もいなくなっている。残っているのは腰を抜かして気絶した者ぐらいだろうか。
橋の下の川辺には伊織が倒した田舎侍たちがポツポツとおり、皆気絶していた。顔色がさきほどと違って楽そうになり、青白い顔や緑色の顔をした侍は一人もいなかった。
おそらく妖刀・悪食天女がガマ妖怪の魂を吸った時に、侍たちに取り憑いていた黒いおたまじゃくしも同時に喰らったのだろう。
「伊織、オイラもう大丈夫だって! ほら、体もピンピンしてらぁ!」
「本当に大丈夫ですか⁉ 無理しないでください。なんなら私がおんぶしてあげますよ?」
「や、やめてくれよ! ガキじゃねぇんだから!」
慌てて立ち上がった小太郎は、恥ずかしそうにおんぶを拒否した。伊織は笑顔になって片膝立ちから立ち上がって着物の土埃を手で払った。すると小太郎が言った。
「あの女泥棒、どこいったんだ?」
「あれ? そういえば、いませんね……?」
「あの女、助けてやったってのに一人で逃げやがったな‼」
「まぁ、いいじゃないですか。それより、急いでここを離れましょう。この状況を誰かに見られたら、面倒なことになりそうですし……」
「そ、そうだな! さっさとズラかろうぜ!」
こうして大泥棒の処刑騒ぎが終わった。伊織と小太郎は、そそくさとその場を逃げるように後にした。
*
「ハァッ、ハァッ……ち、畜生! クソがァ‼ 人混みに邪魔されなきゃあ、もっと早く逃げられてたってのに……‼」
その男は宿場町の裏の出口に立って息を切らせていた。
大勢の人混みの雪崩によって押しつぶされたのか、一時的に身動きが取れず、逃げ遅れてしまった様子だ。続けて男が言う。
「なんだってんだ、あの蛙の化け物は⁉ こうしちゃいられねぇ! 早いとこズラかって……」
「──待ちなよ、竜さん」
「……っ⁉」
竜と呼ばれた男が町を出ようとしていたとき、何者かが声をかけてきた。竜の目の前に立ちはだかったのは傷だらけでボロボロの椿だった。椿が竜を睨みながら言う。
「こんな所で合うなんて、奇遇だねぇ……どこに行くつもりだい?」
「つ、椿⁉ ま、待て! 俺は奴らに脅されただけなんだ! まさかあんな大騒ぎになるとは! もちろん最後には、お前を助けるつもりだったさ! ほ、ほら見てくれ、奴らから受け取った報酬だ! 二人で山分けしよう!」
「……なんだ、そういう作戦だったのかい? あたしゃ、てっきり……竜さんが裏切ったのかと思っちまったよ」
「そ、そんなわけねぇじゃねぇか! 一緒に逃げようぜ! もうこの町に用はねぇだろ⁉」
「そうだね。アタシも、そろそろ次の宿場に行こうと思ってたところさ」
「よし、決まりだ!」
そう言って竜が、椿の前を通り過ぎようとした時──。
ガンッ‼
「んがっ⁉」
「ハァ……誰が信じるってんだい? そんな嘘……」
後頭部を喧嘩煙管で殴られて、竜は情けない声を出しながら倒れる。そして椿は近くの木に竜を縛り付けた。そして、ちゃっかり白い紙に包まれた金貨の束を抜き取った。
「さて、これからどうしようかね。化け物に取り憑かれてたとはいえ、殿様を死なせちまったとあっちゃあ、周辺諸国の大名どもも黙ってないだろうし。しばらく泥棒は控えたほうがいいね……」
椿は腕を組んで考え込んでいる。するとなにか思いついたのか、空を見上げて、一言つぶやいた。
「そういや『伊織』って言ったかい? あの女の剣客……」
そう言って金貨を懐にしまい、椿はニヤリと笑った。
*
心地よい春の風とお天道さまの温かい光を浴びながら、伊織と小太郎がお地蔵さんの隣りに座り、仲良くおむすびを分け合っていた。一口食べながら、小太郎が愚痴を漏らす。
「はぁ……まったく、散々な目に遭ったな」
「いいじゃないですか。無事に解決できたんですから」
すると背後から伊織と小太郎は声をかけられた。
「よ!」
「わっ⁉」「およ?」
二人が驚いて振り返ると、そこに立っていたのは、腰に両手を置いて自信満々そうな三代目烏天狗の椿だった。伊織と小太郎が目を丸くしていると椿が言う。
「おいおい、そんなに驚くことないじゃないか」
「これはこれは……椿殿ではないですか。まだ私たちに御用ですか?」
「それなんだけどね。あたしゃ、アンタに惚れたよ。今までいろんなお宝を盗んできたが、まさか大泥棒の烏天狗様が『心』を盗まれちまうとはねぇ……。アンタたち、この先の町に行くつもりなんだろう? 一緒に行かないかい、旅は道連れって言うだろ?」
なんと椿は二人についていくと言い出したのだ。それに黙ってないのが小太郎だった。
「冗談じゃねぇ! オイラは反対だ! 誰がお尋ね者なんかと!」
「なんだと、このガキ! こんな美女二人に挟まれて両手に華だって思わないのかい!」
「何が両手に華だ! オイラが好きなのは伊織だけだ!」
「いっちょ前に年上好きってかい、このマセガキが! アタシの魅力が分からないなんて女を見る目が無いにも程があるよ! こんなちっこいチンチンしてくるくせに!」
椿は小太郎を背後から捕まえ、片手で股間をガッシリ掴んだ。小太郎が赤面しながら言う。
「……だぁっ⁉ やめろ! 触んじゃねぇ!」
「嫌がってるわりに抵抗しないじゃないか! 本当は喜んでんだろ? 早く認めなよ! お姉さんと旅できて嬉しいですって!」
「だ、誰が……ば、バカ! お前の腕力が、強すぎて、動け、ね……」
「おいおい⁉ 本当で勃ってないかい⁉」
「い、いい、伊織ぃ、助けてくれぇ! お、オイラの初めてがァああああああああああああああああああ‼」
伊織は腕を組んで小太郎と椿のじゃれあいを微笑ましく眺めていた。
「今日もいい天気ですね~」
最後のたくあんをポリポリ食べながら、伊織は青い空を見上げた。
ああ、また奇妙な旅の仲間が増えてしまったようだ。
果たして伊織の旅は、これからどうなってしまうことやら──。
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