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オトナの権利の国

あなたは家族と他人、どちらの声を信じますか?

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「なに……!? 何なの……??」

 ペトラは、今まさに目の前で起こっている不可解な現象に呆然と立ち尽くしていた。

「ごほぉあああ!」
「うげぇえええぇぇえ!」
「んぉぶしょおおぉ!」

 それを機に、どんどん職員たちが倒れて意識を失っていった。施設長は恐れおののき絶叫する。

「な、なんだあああああああああああああああああ!? 一体何が起こってる!?」

 次々に職員の男たちが倒れて失神したり、痙攣したりしている。一瞬、紅い糸のようなものが光って見えると男たちが硬直して倒れていく。

 姿の見えない何者かに無慈悲にやられ、人間が唐突に目の前で倒れていく光景。恐怖に駆られた職員が腰から拳銃を抜いて乱射をする者もいる。それによって仲間に撃ち殺される者までいた。

 当然ペトラもその光景を目の当たりにしている。彼女の目にも何が起こっているのか分からなかった。

「もう大丈夫っスよ!」

 その時、背後から声が聞こえて振り返る。ペトラは思わず言った。

「え!? どうやって……??」
「あーし等ローグリー旅一座の大脱出大魔術イリュージョンっス! 特別サービスの無料公演っスよ!」

 フィオが言い慣れたセールストークのようにペラペラと言葉を羅列する。ペトラの頭の中は混乱しており、目の前のフィオが手錠を外そうとしてる姿をただ見ていた。しかし、ペトラは思わず叫ぶ。

「やめてください! もう私に関わらないでって――」
「もう遅いっスよ! ミドくんが動いたら、もう誰も止められないっス!」

「――そういうこと」
「旅人さ――っ!?」

 ペトラは口を手で押さえられて目を見開く。そこには先ほどまで向こうの木製の十字架に縛りつけられていたミドが立っていた。ミドは背後からペトラの口を手で塞ぐ。

 そして気づけば、施設長とペトラを除いてほぼ全員が地面に突っ伏していた。驚いたことに死者はほとんどおらず、錯乱して拳銃を乱射職員に撃ち殺されたもの以外は全員気絶しているだけだった。

「――っと、これでほぼ全員か?」

 するとどこから現れたのか、金髪のくせ毛の旅人、キールが現れて言った。
 ペトラの横に手錠を片手でクルクル回しながら笑うフィオと、肩の土埃を掃っているキール。そして背後には、ペトラを抱き寄せて手で口を押さえているミドがいた。

「――さて、少しお話しましょうか……お父さん」

 ミドはペトラの父である施設長の男に向かって言った。男は、銃を両手に構えて動揺している様子だった。

「……っ!」

 施設長は恐怖に怯えたように振り返って拳銃を両手で構える。ミドはペトラの横に立っており、不敵な笑みを見せる。

「今、ペトラはボクの人質です。言葉には気をつけてください」
「き、貴様……一体何をした!?? 私のペトラに何をする気だ!」
「何もしてませんよ。ただボクは、お父さんとお話がしたいだけでして」
「私を“お父さん”などと呼ぶな!! 汚らわしい!!」
「やれやれ、随分嫌われちゃいましたね……」

 そして、男がミドに言う。

「なんだ!? 何が目的だ!」
「目的……ですか。さっきまでは“生き延びて出国すること”が目的でしたが……今は違いますね………………そうだ! 良い事を思いつきました!」

 ミドは施設長の男に問われて少し思考すると言った。

「ボクはペトラをこの国で言う『大人』にしてあげたいようと思うんですが……どう思います?」

 施設長の男はミドの発言を聞いて、開いた口が塞がらなかった。

「ペトラを『大人』にするだと!? 意味が分からないな! お前にそんな権利はないはずだ!」
「そう思いますか?」
「ペトラ! そんな権利を持たない男を信用してはダメだ! 私を信じなさい!」

 施設長の男はミドを無視してペトラに呼びかけた。ペトラは言葉に詰まり、ミドと父である施設長を交互に見た。

「………………」
「ペトラ、ボクを信じて……」
「離して!」

 ペトラはミドを振り払って逃げようとする。ミドは咄嗟にペトラの腕を掴んだ。

 ペトラは怖かった。旅人の言葉を信じて裏切られることも、父に逆らってさらにこの権利主義国で生きづらくなることも、どちらも怖かった。

「ボクが、ペトラを『大人』にする。もちろんエッチな意味じゃないよ」
「……でも、どうやって?」
「う~ん……実は、後々にペトラが協力してくれると助かるんだけど……」
「協力……ですか?」

 ペトラがミドの言葉に耳を傾けようとした、その時――。

「ペトラから離れろ!!!」

 バンバンと銃声が鳴り響いた。

 気づけばペトラはミドに抱き締められていた。ペトラがゆっくり自分の手の平を見るとドロッとした赤黒い液体で染まっている。一瞬でそれは血だと分かった。しかし体のどこにも熱さや痛みを感じない。

 ――どうやら撃たれたのは、ミドの方だった。

「ぐっ……」

 ミドの足がぐらつくをの感じたペトラはミドを支えようと抱きついた。するとミドが言う。

「責任はすべてボクが取る……選ぶのは、ペトラの自由だよ」
「でも……私は……」

 ミドの言葉を聞いて、ペトラは迷っている様子だった。ペトラの父は言う。

「さぁ、そんな男から離れて、こっちへ来なさい……ペトラ」

 ペトラは選択を迫られた。旅人を見捨てて、父親の言う通りに生きるのか。それとも、旅人を信じて、父親を捨てるのか。

 親を捨てる、そんなこと考えたこともない。たった一人のかけがえない存在である父親を捨てることは正しいのだろうか。自分にそんなことをする権利があるのだろうか。

 権利がなくても、自由を求めてもいいのだろうか、本当に許されるのだろうか。いや……自由を求めることに、最初から権利など必要なかったのかもしれない。

「――選ぶのは、ペトラの自由だ」

 ペトラの脳裏にミドの言葉が反響して、その瞬間、

「ごめんなさい、お父さん。私……」

 ペトラはミドを支えながら言った。すると施設長の男は説得するように言う。

「よく考えなさいペトラ、旅人なんて連中は嘘つきだ、お前を大人にしてやるなんて嘘を平気でつく……騙されるな!」

 ペトラは立ち止まって思考する。

「ペトラに大人の権利を与えられるのは私だけだ。汚れた旅人には何もできやしない!」

 確かにそのとおりである。旅人のミドには、ペトラを大人の権利を与えることはできない。ペトラはそう思った。

「やれやれ、嘘つき呼ばわりですか……」
「旅人さん! 大丈夫ですか!」

 ミドが立ち上がって言うと、ペトラはミドの体を支えて声をかけた。

「大丈夫……だよ~。えへへ、意外とボクって丈夫なんだよね~」

 ペトラはミドの言っている言葉が強がりにしか聞こえなかったのだが、どうやら嘘でもないかもしれないと感じていた。なぜなら、先ほどまで溢れるように流れていた血がいつの間にか止まっていたからだ。

 一瞬、見間違いをしたのかと思ったが、ミドの上着がほぼ赤黒く染まっているのが分かり、見間違いではないことがすぐに理解できる。

 それに、ミドの仲間と思われる旅人のキールとフィオが落ち着いていることも影響していた。

 そしてミドが施設長に言った。

「ペトラを『大人』にしてみせますよ。この国のルールを破らずにね……」
「不可能だ! 貴様にそんな権利はないはずだ!」
「この国のルールでは、『ある権利と同等、あるいはそれ以上の権利』があれば、それと引き替えに別の権利を得る、あるいは与えることができる……」
「同等の権利だと? ただの旅人でしかないお前らに、そんな大きな権利……まさか!?」
「ご名答。その“まさか”ですよ」

 ミドが不敵に笑って言った。

「狂ってる!! 貴様……!? 正気か?!」
「さぁ……どうでしょうね~?」

 ミドはニヤニヤ笑いながら言った。それを見て、キールとフィオの二人がヒソヒソ話をする。

「ちょっとちょっと! ミドくん今度は何考えてるっスか?」
「知らねぇよ。どうせ、ろくでもねぇことだろ。いつものことだ」
「ミドくんのアイデアは悪名が増えるばっかりだから心配でしょうがないっス」

 キールとフィオがニヤニヤ笑っているミドを見て話していた。ペトラが心配そうに訊く。

「旅人さん……一体、何を……?」

 心配しながらミドを見つめるペトラに、ミドが微笑んで言った。


「――ボクたち三人の『旅人の権利』と引き替えに、ペトラに『大人の権利』を与える……!」


 ペトラがミドの発言を聞いて、一瞬目を丸くして思考停止する。そしてすぐに意識を戻して叫んだ。

「そんな……!? ダメです!! そんなことしたら、旅人さんがこの国から出国できなくなります!!」
「そうだね~。ボク等の旅も、ココで最終回だね~。めでたし、めでたし」
「何呑気なこと言ってるんですか!?」

 ミドの発言を聞いたキールとフィオが、

「やっぱり、ろくでもねぇことだったな……」
「やっぱり、ろくでもないことだったっス!」

 二人一緒に、ため息をつきながら言った。ミドは今の危機的状況を理解できていなそうに振舞いながらヘラヘラ笑っていた。その時である――。


「――旅人さん、その言葉に嘘偽りはありませんか?」


 謎の紳士の声が響き渡った。全員が振り返って声の主を見る。
 そこには黒い紳士服と黒いシルクハットの老紳士がステッキを地面にコツンと突きながら立っていた。老紳士は簡単な自己紹介を始めた。

「初めまして、私はこの国の権利局の者です。この国の権利に関する申請と受理を行っています」
「その権利局の人間が、一体何をしに?」

 ミドが老紳士に言う。すると老紳士は返答する。

「旅人さんが問題行動をしているとの情報が入りまして、旅人の権利の剥奪が必要かどうかの審査に参りました。問題であると判断された場合、権利を剥奪させていただきます」

 ミドは老紳士の淡々とした口調に少し沈黙して言う。

「……それで? 結果はどうでしたか?」
「旅人の権利、剥奪と決定いたしました」
「……なるほど」

 ミドが真顔になって言う。すると老紳士が言った。

「ですが……どうやら、その必要はなさそうですね」
「……? と言いますと?」
「そこの娘に『大人の権利』を与えるための引き替えにするというのでしたら話は別、ということでございます」

 老紳士は、ステッキを持ち上げて地面をコツンと突いた。そして言う。

「もう一度、あなたに問います。先ほどの言葉に嘘偽りはありませんか?」

 ミドは、深く深呼吸をして笑顔で言った。

「ええ、ありません!」
「分かりました……では認めましょう。あなた方の『旅人の権利』と引き替えに、そこの娘に『大人の権利』を与えます」

 ミドの横で聞いていたペトラの目が潤み、呼吸が荒くするが、それをどうにか押さえて落ち着いて言った。

「ほ、本当です、か……?」
「ええ、本当です。あなたの名前を教えてください」
「ペトラ・フィールドです」
「では、権利局の人間として正式にペトラ・フィールドを、『大人』と認めます」

 ペトラはその場にペタンと落ちるように座り込み、しばらく放心していた。そして一滴の涙が零れ落ちた。同時に息をヒクヒクとさせて、泣いているのか笑っているのか分からない状態になった。

 ミドがペトラの背中を優しくなでて落ち着かせようとする。ペトラは小さな声で「ありがとう……ありがとう……」と小さく小さく、何度もつぶやいていた。

 だが、一人だけ納得していない男がいた。その男は震えながら叫び出した。

「ダメだ……そんなの、んんダメだああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 ペトラはミドの手を借りてゆっくり立ち上がると、ミドたちのいる方向に歩み出す。すると施設長はプルプル震えながら叫んだ。

「んんん……!! 許さなあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああいぃぃ!!!!」

 半狂乱と化した施設長は懐から拳銃を取り出すとペトラに銃口を向けて言った。

「お前は父親を捨てるのかぁあああああああああ! この親不孝者のクソマンコがああああああああああああ!!」

 施設長はペトラに向かって罵詈雑言を浴びせる。

「お前は大人しく、私の性奴隷オナホールとして生きていれば良かったんだよおおおおおおおお! 子どもの分際で大人に逆らっていいと思っているのかああああああああああ!! お前のような親不孝のカス女に生きる価値などないいい!! 死んだ方がマシだあああああ!」

 ペトラは父親の言葉に唇を強く噛み、顔を赤くして涙を流した。ミドが前に出ようとすると、権利局の老紳士がミドを制して言う。

「先ほどから聞いていましたが、今の発言、大人の権利侵害として問題発言と見なします」
「権利侵害だと!? ペトラは子どもだ!! 侵害のはずがない!」
「もうお忘れですか? 彼女はさっき『大人』と認められました。つまり子どもではもうありません」
「うるさい! うるさい! うるさあああああああああああああああい!」
「反省の色が見えない以上、しかたありませんね。大人の権利侵害と見なし、あなたの『大人の権利』を剥奪します」
「なんだと!? 剥奪!?!? ふ、ふざけるなああああああああああああああああ!!」

 施設長は状況を理解できているのか、錯乱して取り乱している。老紳士が言う。

「これは、この国のルールです。ルール違反を行ったのはあなたの方ですよ」

「ああぁ……ああああぁぁ……ああぁ! ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

 施設長は、頭を地面に叩きつけながら叫び続けた。そして老紳士は諦めて背を向けると、黙って歩き出した。しかし、老紳士は下腹部に違和感を覚えて下を向いた。すると、衣服に小さな穴が開いており、そこからジワジワと赤い染みが浮き上がってきた。

 そして後ろから声が聞こえてきた。

「もうどうなっても知るかあああああ! 殺す! 殺す! 殺す! お前ら全員殺してやるううううううううう!!!!」

 老紳士は倒れて動かなくなる。ペトラが慌てて老紳士を支えようとした。その時、施設長はペトラの額に標準をさだめて引き金を引いた。

 ――バン!

 施設長の銃口から一発の銃弾が発射される。

 その瞬間、キールの鬼紅線が銃弾を弾き、ミドの木偶棒が施設長の顔面を薙ぎ払い、その鼻を砕いた。

「ぶしゅっ!?」

 施設長は鼻血を撒き散らしながら吹き飛ばされて倒れた。ピクピクと痙攣し、「死ね、死ねぇ……」と口走っていた。

「戻れ、木偶棒デクノボウ

 ミドが木偶棒を小さくし、キールも鬼紅線を袖の中にしまった。

「これで一件落着かな?」
「まだ解決してねぇ問題があるけどな」

 ミドとキールが倒れている男を見下ろしながら言った。

 こうして、ペトラの長い一日は幕を閉じたのである――。

                   *

 ――後日。ミド、キール、フィオの三人は権利局のとある部屋に座らされていた。

「やっぱりあーしは世界一不幸な美少女っスうううううううううううう!!」
「だから落ち着けっての」
「これが落ち着いてなんていられないっス! あーし等の旅がこんな形で終わりなんてありえないっス! 最悪のバッドエンドっス!」

 フィオが一人で部屋中をうろつき回ってジタバタ喚き散らしていると、キールが腕を組んで落ち着いて座ったまま言う。

 ミドは一人だけ目をつぶって瞑想を行っていた。その時、廊下でカツカツというヒールの足音が聞こえてくると、ミドが反応して言う。

「来たね……」

 すると部屋のドアがガチャっと開いた。そして秘書風の眼鏡をかけた女性が入ってくる。

「あなた方の処分が決まりました」

 重々しい空気還にフィオが耐えられずに言う。

「分かってるっス……あーし等は一生、この国の劣悪な地下施設で強制労働させられるっスね」
「どういう想像してんだお前は……」

 フィオが深刻そうな表情で言うと、キールが呆れる。メガネをかけた女性は不思議そうな顔で言った。

「いいえ、あなたたちは国外追放処分となりました。二度とこの国に入国することは許しません」

 それを聞くと三人が一斉に、

「ほえ?」
「なに?」
「なるほど~」

 フィオがマヌケな声を上げると、キールが訊き返し、ミドが一人納得している様子だった。

 そのまま三人は強制連行されて、あれよあれよと荷物をまとめさせられ、あっという間に国の門の前に立たされていた。
 そしてフィオが言った。

「どういうことっス? あーし等は旅人の権利がないから出国できないはずっスよ??」
「オレが知るかよ」

 フィオとキールが不思議そうにしていると、ミドが言う。

「これもペトラの“おかげ”かな?」

 すると、門の端から少女が現れて言った。

「いいえ、私の“せい”で、皆さんは追放になったんですよ」

 現れたのはミドたちがよく知っている少女、ペトラだった。以前の少女のような服装から一変し、大人びた印象を与えるものになっていた。

「一体どういうことっスか? 教えて欲しいっス!」

 フィオが単刀直入に聞くと、ペトラは笑顔で答えてくれた。

「この国では、『子ども』から『大人』になった人には、国に一つだけお願いごとをする権利が与えられるんです」
「なるほど、そういうことか……」

 そこでキールが納得し、フィオが理解できず「???」となって困惑していた。そしてペトラが続けて言う。

「私は国に……皆さんを“国外追放処分にしてほしい”ってお願いしたんです」
「なんスとおおおおおおおおおおおおおおお!? 知将っス! ペトラちゃんは法律の穴をつく天才っス!」
「……えっと、褒められてるんでしょうか?」

 ペトラはフィオの誉め言葉を受け止めきれず困ってしまった。
 そしてミドが、ヘラヘラ笑いながらペトラ言った。

「ありがとう、ペトラ」
「すみません。こういう形でしか、権利局の人たちを納得させられないと思ったんです」
「十分だよ。ボクたち悪の一味には最高の出国方法だ」

 ペトラはミドたちが旅人の権利を犠牲にして出国できなくなったことに関して責任を感じていたらしい。どうにかミドたちを出国させる方法はないだろうかと必死で考えたペトラは、ミドの言葉を思い出したそうだ。

「ミドさん、言いましたよね? 私が協力すれば助かるって。あの言葉を思い出して気づいたんです。この方法なら旅人さんを権利がなくて出国させられるって……。もしかして、最初から考えてたんですか?」
「さぁ、どうだろうね~」

 ペトラが問いかけると、ミドは飄々としながら笑った。そしてミドは真剣そうな表情で、言いづらそうに訊いた。

「これからどうするの? あの人とは……」
「父は、施設にいます。面会にもいくつもりです」
「……そっか」

 ペトラの父は、現在『子ども』という立場になり、更生施設で聞くに堪えないような「教育」を受けているらしい。

 ペトラは父を完全に見捨てるつもりはなく、定期的に面会に行くつもりのようだ。もちろん、わだかまりがないと言えば嘘になるが、たった一人だけの父親であることは変わりがない。父が更生して外に出たら迎えに行くつもりらしい。

「ペトラは優しいね」
「だって、私は責任ある『大人』ですから!」

 ミドの一言に、ペトラは片手に『大人の権利証』を持って見せてくれながら、元気に答えた。



 ――こうして、ミドたちは『権利主義の国』を出国ついほうとなった。

「変な国だったっスね」

 フィオがまん丸マンボウの食堂で、おやつのドーナツを頬張りながら言った。するとミドも言った。

「権利って何なんだろう?」
「本質にして核心的な質問っスね」
「権利って、あった方が幸せなのかな?」
「無いよりはあった方がいいんじゃないっスか」
「そっかぁ……」

 ミドは一人納得したのかしてないのか複雑な表情で窓の外を見つめていた。

「ところでさ……」
「なんスか?」
「ボクにも、そのドーナツを食べる権利があると思うだけど……ボクの分はどこ?」
「………………」

 ミドの核心的な質問にフィオが沈黙する。そして言う。

「ミドくん! 権利なんかにこだわっちゃダメっス! 幸せになれないっス!」
「つまり、フィオはボクの分のドーナツも食べちゃったんだね?」
「誤解っス! あーしがドーナツを食べたんじゃないっス! ドーナツがあーしの口に入ってきただけっス!」
「言い訳はそれだけかな?」
「許して欲しいっス! 何でもするっス!」
「何でもする? じゃあ、とりあえず身体で払ってもらおうかな~」
「んぎゃあああ! それはナシっス! 前言撤回っス!」

 キールは、ミドとフィオの掛け合いを横で聞きながらお茶を飲みながら「やれやれ」といった表情を浮かべていた。

「おいミド。んなバカなことしてねぇで、次の目的地はどうすんだ?」

 ミドはキールに声をかけられると、フィオを追いかけるのをやめて、腕を組んで考え出した。

「そう言えば考えてなかったなぁ……」
「次はお肉料理がおいしい国に行くっス! あーし、竜肉のから揚げが食べてみたいっス!」
「竜肉?」

 ミドはフィオの提案を聞いて考えた。

「竜がいる国っていったら、どの辺になるの?」
「ここからだと、『パプリカ王国』が近いっスね」
「そこで、その“竜肉”が食べられるの?」
「そうっス! ミドくんも興味湧いてきたっスか!」

 パプリカ王国とは、一〇年前に突如として現れた邪竜を討伐した国として、旅人の間では有名だった。
 そこには三人の王子がいて、三番目の王子にはあまり良くない噂があった。


 ――第三王子には、邪な竜の血が流れている――


 嘘か本当か分からないが、そういう噂があるそうだ。
 ミドがしばしの沈黙をすると、キールとフィオは黙ってミドの答えを待つ。そしてミドが静かに口を開いた。

「――決まった! 次は、その竜がいる国『パプリカ王国』に行こう!」

 ミドの答えを聞いてキールとフィオがほぼ同時に言う。

「了解」
「アイアイサーっス!」

 こうしてまた、ミドたちの旅は続いていくのだった――。
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