ミドくんの奇妙な異世界旅行記

作者不明

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竜がいた国『パプリカ王国編』

ココナリ村に到着! 森の抜け道とポツンと一軒家

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 ――パプリカ王国城の広間。
 屈強な兵士たちが集まり、先頭にシュナイゼル王子とボクシー王子がいる。十分な装備を揃えた男たちは覚悟を決めてある様子だ。

 目指すはドラゴ・シムティエール迷宮、自殺の名所とも呼ばれている。
 正確な場所はパプリカ王国城から北東の方角にある。城下町から出るとパプリカ平原があり、比較的まだ安全な平原で凶暴な野生動物もいない。人が良く通る道は地面が剥き出しになっており分かりやすい平原だ。

 そこから東に少し向かうと、ココナリ村という小さな村がある。穏やかな田舎町で、この村からパプリカ王国の城下町に引っ越してくる若者も多い。
 本当に何もない村で、斧で木を切って薪を売ることで生活している林業労働者が大半かもしれない。もちろん炭を売る人もいるし、新しい道を作る際に邪魔な木を倒してくれる人もいる。体格が大きい肉体労働者が多いためパプリカ城下町の建築にも携わっている人もおり、パプリカ王国にとってもなくてはならない存在の村でもあるのだ。

 そこから北にずっと向かうと、迷いの森がある。
 迷いの森とは、初心者が一度入ったら二度と出られないとも言われている。そのため、ココナリ村の人に案内を頼んでもイエスの返事が返ってくることは期待できない。森は非常に入り組んでおり、同じような場所に見えるために戻ることが困難である。
 だが戻ることが不可能という訳ではない。現にココナリ村の木こりの中には迷いの森から木材を採取している上級者もいる。迷いの森の木材は非常に優れており、かなり高額で売れるらしい。彼らからすれば、同じような森に見えてもそれぞれ目印があるため、迷うことはないそうだ。
 つまり、迷いの森を抜けるためには彼らから森を抜ける道を教えてもらう必要がある。

 そして無事に森を抜けてさらに北に進むと、崖に挟まれた巨大な渓谷が現れる。そこは太陽の光すら届かない大きな谷。川の水が流れているのだが、どうみても下から上に昇って流れているように見えるらしい。
 太陽の光が届かなくなって暗黒の世界に入った奥の奥に“それ”はある。

 ――自殺の名所、ドラゴ・シムティエール迷宮の入口だ。

 そもそも『ドラゴ・シムティエール迷宮』とは一体何なのだろうか。
 実はこの迷宮は世界に点在する古代文明の遺跡の一つだと言われている。中には古代の遺物が現在も保存されていると言われており、一つ持ち替えれば巨万の富を得られるだろうとも言われている。
 数多くの旅人や冒険者、探掘家といった人たちが迷宮の遺物を求めて入って行ったが一人として無事に帰って来た者はいなかったそうだ。
 満身創痍で帰ってきた者たちが大勢いたが、その中には遺体を担いで帰って来た者もおり、その遺体は魂が抜けたように生気を失って死んでいた。
 いつしか迷宮は誰も近寄らなくなり、入って行くのは自殺志願者くらいになったのだ。

「お前たち、準備は良いか?」

 シュナイゼルがついてくる兵士たちに向かって言った。兵士たちは真っ直ぐに彼を見ている。ボクシーが眠そうにあくびをしていると、シュナイゼルがボクシーに言う。

「ボクシー、姉さんからもらった物は忘れてないな?」
「当然なのね。アレを忘れたら兄さんが帰ってこれなくなるのね」

 実はシュナイゼル王子とボクシー王子は女王カタリナから『王家の石と、王家の鏡』を授かっている。それは迷宮の中から無事に脱出するための必要な命綱である。
 王家の石からは特殊な波が発生しており、王家の鏡はその波の流れを捕らえることができる。王家の石を迷宮の入口に設置しておけば、中から王家の鏡を使って波の揺れ、流れを掴み、それに沿って行けば脱出ができるというものだ。

 シュナイゼルが王家の鏡を持ち、ボクシーが王家の石を持つことになった。どうやらシュナイゼルが迷宮に入り、ボクシーは入口で待つつもりなのだろう。

「皆の者、出発だ!」

 シュナイゼルが意気込んで前に歩き出すと、兵士たちがそれについて行く。ボクシーは歩きたくないのか籠の中に入って、兵士二人にそれを運ばせている。

 こうして、二人の王子と兵士たちが封印補強任務に向かって歩き出した。

                   *

 ――その頃、ミドたちはマルコとこれからどうするかを話し合っていた。

「それじゃあ、必要な道具を買いそろえたら出発だね。マルコ、迷宮ってどの辺にあるの?」
「パプリカ王国から北東の方角にあります。歩いても半日はかからないと思います」

 ミドはマルコからの前金を軍資金にあてようと提案し、キールがそれに賛同する。フィオも異存はない様子だ。マルコは簡単な手書きの地図を広げ、指でなぞりながら道順を説明する。ミドはそれを見ながら感心して言う。

「へぇ~意外と近いんだね。てっきり長い旅になるんだと思ってたよ~」
「数日しかこの国に滞在しねぇのに、何日延長する気だったんだよ」

 キールがミドに呆れながら言う。するとフィオが、

「キール! 大事なこと忘れてたっス!」
「なんだ、どうしたフィオ?」
「おやつは三〇〇ゼニーまでっスか?」
「遠足じゃねえんだよ! 好きにしろ!」

 フィオはキールから三〇〇ゼニーもらうと、駄菓子コーナーで眉間にしわを寄せながら、いかに限られた資金でどうやってたくさんおやつを買うか悩んでいた。
 ミドは思考を巡らせながら、マルコに言う。

「そうなると……今すぐ準備していけば、今日の夜には到着できそうだね」
「はい、そうですね」
「船ではいけないの? ボク等の船に乗って行けばいいんじゃない?」
「迷宮は深い渓谷の奥にあるんです。船では大きすぎて、とても入ってはいけません」
「渓谷に向かう途中までならいいんじゃない? 楽することはダメなことじゃないよ」
「船で国を出るということは出国したと見なされますから、ボクが王国に帰れなくなっちゃいますよ……」
「いいんじゃない? なんなら一緒に旅にでちゃう?」
「冗談はやめてくださいよ。ボクに旅はムリですって」

 マルコはミドの誘いを軽く受け流し、片手を顔の前でユラユラ振っている。
 彼の目的は迷宮の母の魂を救い出し、王国で蘇った母と再会することである。母を救っても再会できないのでは意味がないのだろう。
 するとフィオが突然立ち上がって、叫び出した。

「ちょっとちょっと! なんスかアレ!」

 フィオが指を差し、もう片方の手をパタパタとさせながら言う。ミド、キール、マルコの三人が指差された方向に目を向けた。

 大きな街道があり、その中央を整列して歩く王国兵の姿が目に入る。

「――っ!?」

 マルコはそれに気づくと慌てて逃げるようにミドの背後に隠れた。ミドは驚いて、どうしたのかと訊ねたが、マルコは一切返事をせずに黙っていた。

 王国兵たちの先頭には、いかにも屈強そうな剣士が大剣を背負って歩いている。全身をギラギラと光る鎧に身を固めており、歩くたびにガシャンガシャンといった音を立てている。
 キールは腕を組んで、長し目で見ている。フィオは駄菓子を両手に抱えたまま、顔を向けて王国兵たちを観察している。ミドも真顔で彼らを見送った。
 彼らはこちらの視線に目もくれず、真っ直ぐに城下町を抜けて国の門の方角へと歩いて行った。

 するとマルコが顔を出して、 

「……もう、行きましたか?」
「うん、行ったよ」

 マルコが震えた声で言うと、ミドは笑顔で答えた。

「知ってる人、みたいだね?」
「……はい。ボクの兄、シュナイゼル兄さんです」

 ミドの質問にマルコは小さくつぶやいて答える。
 先ほどすれ違った王国兵の先頭にいたのは、シュナイゼルというパプリカ王国の第一王子だそうだ。第二王子のボクシーもいたそうだが姿が見えなかった。列の途中に籠を背負った兵士がいたから、その中にでもいたのだろう。
 ミドはヘラヘラしながら言った。

「いや~先を越されちゃった~。こりゃ参ったね~」

 マルコの目的は母を救いだすことである。それはつまり、邪竜の封印を解く事ともいえる。対してシュナイゼル一行の目的は封印の補強であり、それはマルコとは真逆の目的である。

「急ぎましょう! 兄さんに先を越される前に!」

 マルコは両手の拳を握って決意を固めている様子だった。

「ミド、必要な道具を揃えて出発だ」
「うん」

 キールが促すとミドは短く答えて立ち上がった。キールはいつまでも駄菓子選びで悩んでいるフィオに声をかける。

「おいフィオ、いつまで選んでんだ! さっさと行くぞ!」
「ちょっと待ってっス! 美味しい棒のコーンポタージュ味か、チーズ味にするか――」
「そんなのどっちでもいいだろ! 選べねぇならこっちにしろ!」

 キールは適当に美味しい棒の超激臭シュール・ストレンミング味を取ってフィオの買い物カゴを奪い取ると、そのまま会計に向かっていく。

「んぎゃあああああ! ちょ、待ってえええええ! キールそれはだけはダメっスううううう!!」

 フィオは涙目で止めようとするが時すでに遅く、キールは目にも止まらぬ速さで会計を済ませていた。
 ミドたちは携帯食料と水、ランタンの燃料などなど……。必要な物を揃えて王国の内門の前に到着する。そしてミドがまっすぐ門の方を向いて言う。

「よし、それじゃあ目指すは『ドラゴ・シムティエール迷宮』だ」

 こうして、ミド一行とマルコはパプリカ王国の門をくぐって行った――。


 ――パプリカ王国城の中、女王カタリナが一人、窓の外を眺めている。その横顔をは影に隠れて見えない。そして誰にも聞こえないようにつぶやく。

「お願い、間に合って……。“アレ”の封印を解いてはいけない……」
「心配ですか? 女王陛下」

 女王カタリナが振り返るとそこのは側近の男がいた。カタリナは男に気がつくと、すぐに窓に顔を向けて言う。

「何でもありません」
「……そう、ですか」
「一つ、頼まれてくれないかしら……」
「何でしょうか?」

 カタリナは少し口篭もりながらも言った。

「――アンリエッタ様の様子を見てきてほしいのです」

                   *

 ――パプリカ平原の道中。
 ミド一行はパプリカ王国の外門から外に出て、約一時間ほど歩いた場所にいる。
 ミドが先頭を歩き、後ろにキールが地図を持って歩いている。キールの隣には、フィオが王国で買った駄菓子をサクサク齧りながら歩いている。マルコは一番後ろで、水筒の水を一口飲んで辛そうにしている。
 するとキールが地図を見ながら言った。

「このまま次を左に曲がった先にココナリ村っていう、小さな村があるはずだ。そこで一旦休憩しよう」
「そうだね」

 ミドはマルコをチラリと見て同意する。一時間以上歩き続けるくらいなら旅人の三人は日常茶飯事だが、王子として暮らしてきたマルコには肉体的にキツイだろうと判断した。
 キールはマルコに向かって言った。

「マルコ、お前は村に着いたら休んでろ。ミド、オレは村に着いたら先に情報収集をする。森を抜ける方法を知ってる男がいるらしい」
「サクサクサクサクサク……。味は意外とイケ――くっさ!」
「ミドはマルコと一緒にいてやってくれ。一応オレたちはマルコの護衛だ、さすがに一人にして置けないからな」
「さすが美味しい棒っス……、この意外性と企業努力の探求心が――くっさ!」
「フィオは……」
「サクサクの食感に、ほんのり粘りがあって……独特な味わいが――くっさ!」
「おい! 臭せぇぞフィオ!」

 キールが我慢できずに言い放つ。負けじとフィオが応戦するように言い返した。

「選んだのはキールっス! あーしのせいじゃないっスよ!」
「うえっ、くっせぇ。フィオお前しばらく喋んな」
「女の子に対して、口臭のこと言うのはNGっスよ!!!」

 キールが鼻をつまんでフィオを睨むと、フィオはさらにヒートアップしてしゃべくり倒している。マルコは二人のケンカにアワアワして、助けを求めるようにミドを見る。しかしミドはキールとフィオの掛け合いをニコニコ微笑ましそうに見ているだけだった。
 するとミドが指を差して言う。

「あ! みんな見えたよ、アレでしょ。ココナリ村って」

 キールとフィオがその先を見ると、そこには小さな村が見えてきた。するとフィオがミドに走って来て言う。

「ミドくん! キールがあーしをイジメるっスぅ!」
「フィオ~、村に着いたらお茶にしようね~」
「お茶なんか飲んでる場合じゃないっス!」

 フィオは両手の拳を上下に振り回して地団駄を踏む。ミドは笑ったままフィオを諭すように言う。

「でもねフィオ。緑茶にはカテキンって言って、消臭効果があるんだよ~」
「それを先に言うっスよ、ミドくん! お茶にはお茶菓子! お団子いっぱい食べるっス!」

 そう言うとフィオはピュ~という効果音が似合いそうなほどの勢いで、走って村に入って行く。第一村人に話しかけているようだが、その村人が鼻をつまんで眉間にしわを寄せているのが遠目からでも分かった……。



 ――その頃、ココナリ村の北東の位置では、鎧に身を固めた剣士シュナイゼルと村の男が対面していた。シュナイゼルが言う。

「礼を言う」
「いえいえ、王国の兵士さんなら喜んで協力しますよ」

 男は王国兵に向かって言った。

「お前たち、ここからが本番だ! 気を引き締めろ!」

 シュナイゼルが王国兵たちを鼓舞すると、彼らも同調するように声を上げる。そして隊列を崩さずに迷いの森の中に入って行った。
 外の声に、籠の中でくつろいでいるボクシーは外の様子を退屈そうに覗く。

 そして、ニヤリと嗤っていた――。

                   *

 ――ココナリ村、人口数十人ほどの小さな村である。
 周りは森に囲まれており、村の中には木造の民家がポツポツと立ち並んでいる。青々とした木々たちが自然の香りを漂わせる。村の中には小さな川が流れており、そこで洗濯物を洗っている人がいたり、切り株の上に丸太を置いて薪わりをしている人もいた。

 村に門番の様な人はいない。フィオが話しかけた第一村人は、たまたま通りかかっただけの人のようだ。フィオは第一村人にも嫌そうな顔をされてショックだったようで、急に無口になってしゃがみ込んでしまっていた。

 キールが村人と話をし、村に唯一ある茶屋の場所を教えてもらった。ミドが村人にお礼を言い、マルコはフィオの手を引いて茶屋に向かって行った。
 唇を尖らせてツーンとしていたフィオだったが、茶屋を目の前にすると目を輝かせて走って行った。フィオがイスに座ったまま、喋れないのでミドとキールに向かって手招きをしている。
 そして、四人はお団子とお茶を頼んで休憩をするのだった。

「ぷはぁっ! 生き返ったっス!」
「美味しいですね」

 フィオが緑茶をがぶ飲みして言うとマルコも一緒の飲んでいる。マルコは冷たいお茶を飲んで生き返ったように元気になっていった。
 茶屋の看板娘がお団子をお盆に乗せて持ってくる。フィオは緑、白、桃色の三色団子を目にして感激し、無邪気にお団子を頬張った。
 ミドはお団子ではなく看板娘の手を握って綺麗な手だと褒めちぎっている。看板娘は褒められたことがあまりないのか頬を染めていた。
 すると、キールが空の湯飲みを置いて言う。

「オレは先に情報取集に行ってくる。金はここに置いとくからな」
「いってらっしゃ~い」

 キールはそう言ってお茶を一杯だけ飲み干すと、お金をいくらか残して先に情報収集に一人で行ってしまった。ミドはゆらゆらと手を振ってキールを見送った。

 キールの背中が見えなくなってから数分が過ぎる。ミド、フィオ、マルコの三人はお茶をすすってのんびりしていた。

 その時、マルコの耳にブーンという嫌な音が聞こえてくる。マルコは目の端に黄色と黒のシマシマ模様の小さな虫を目撃すると、血相を変えて叫び出す。

「わああああああああああああああああああああああああああああ!! た、助けてえええええええええええええええええええええ!!」

 マルコはハチを見て驚き、一目散に逃げていった。その逃げ方はあまりにも大げさで、まるで食い逃げでもするかのように猛ダッシュで走り去っていく。

「マルちゃあああん!? どうしたっスかあああ!!??」

 フィオは慌ててマルコを追いかけて走り出す。マルコに続いてフィオまでも走って行った。残されたミドは看板娘の顔を恐る恐る見上げると、あなたは逃げませんよね? といった表情で睨まれる。ミドは苦笑いをしながら代金を払って、マルコたちを追いかけたのだった。

「どうしたっスか、いきなり走り出して?!」
「だって、ハチが……目の前に……:」
「大丈夫っスよ、敵意を見せて攻撃しない限りハチだって襲ってこないっス」

 フィオはマルコを何とか落ち着かせようと試みる。その後でミドが追い付いてきた。マルコは恥ずかしそうにミドを見て謝罪する。

「すみません、ミドさん。急に逃げたりして……」
「大丈夫大丈夫、お金ならちゃんと払ってきたから」

 マルコは自分が食い逃げだとお店の人に思われたであろうことに、さらに恥ずかしくなり、顔を両手で隠してしまう。

「おい、なに遊んでんだ」

 振り返るとキールが呆れた表情をして立っていた。どうやらもう情報収集が終わったようだ。

「ったく、探したぞ。さっきの茶屋に言ったら、もういねぇってなぜか睨まれるし……。何してんだ?」
「いやいや、何でもないよ~。それよりどうだった?」
「ん? ああ、この先の家に住んでる村人が森の抜け方を知ってるらしい。一応行ってみたんだが……」

 キールは一人で迷いの森を抜ける情報を持つ村人の家に向かったみたいだが、あいにく住人は留守にしていたようで情報は得られなかったそうだ。とりあえずその報告をするために一旦ミドたちの元に戻ってきたのだ。

「一人でダメなら、みんなで行くっス!」
「そうだね、今ならいるかもしれない。行こうマルコ」

 ミドが立ち上がってマルコに声をかける。マルコは先ほど大げさに逃げてしまったことを恥じ入るように顔を赤くしたまま立ち上がって言う。

「はい、行きましょう!」

 こうしてミドたちは村の一番端にある民家を訪れるのだった。

 ミド一行が茶屋を出て、村の入口と反対方向に向かっていくと、遠くに他とは違う異質な家を発見する。
 その民家はポツンと離れた位置に建設されており、とても古い印象を受けた。壁にはツタが昇っており、所々補修された形跡がある。上を見ると屋根のところに蜘蛛の巣が張っていて、掃除はあまりしていない様子だ。本当に人が住んでいるのかも疑問に感じるほどの民家だった。

 手分けして住人を探そうということになり、それぞれバラバラになって動き出す。
 マルコは一人、民家の玄関の引き戸を軽くノックする。

 ――コンコン。

 しかし返事はない。マルコは、その民家の引き戸を開けて中に入って行く。

 ガラガラ……。

「すみませーん! 誰かいませんかー!」

 マルコが中を覗いてみたが誰も見当たらない。家の中は埃っぽく薄暗い印象で、少し怖い雰囲気を醸し出している。マルコが中に入ろうと一歩踏み出した。その時――

「――おい、誰だお前」

 突然背後から声が聞こえたことに驚いたマルコは咄嗟に振り返る。そこには身なりからして木こりと思われる男が重そうな斧を持って仁王立ちしていた。

「わあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 マルコは目にも止まらぬ速さで男をかいくぐって逃げてしまう。たまたま家の裏にいたミドの背中に隠れてしまった。すると男はゆっくりと歩いて来て言う。

「ここは俺の家だ、俺に何か用か?」
「こりゃどうも初めまして、ボクはミドって言います。旅人です」
「旅人? ここは宿屋じゃねぇぞ」
「ええ知ってます。実はあなたにお聞きしたいことがあって――」

 ミドは訝しむ木こりの男を刺激しないように訊ねた。

「迷いの森の抜け道だァ?」

 男は眉間にしわを寄せて言った。男の前にはキールが立っており、ミド、フィオ。そしてマルコも一緒に居る。するとキールが言う。

「ああ、オレたちは迷宮を目指しててな」
「お前さん等……まさか――」
「勘違いするな。オレは自殺志願者じゃない」
「……本当かい?」
「ああ本当だ。だから教えてくれ」

 男は目を閉じて、しばらく考え込むようにしている。そしてキールたちを見上げながら言った。

「――悪いが、アンタたちには教えられねぇ。帰んな」

 男はキールたちに向かってシッシッと片手を振った――。
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