異世界を統べるのは人ではなく竜だ

第6章 隣国との邂逅篇

第71話 心理戦

　リュートはヴォラプの無数の手に捕まれ、拘束された。

　「先程の女もなかなか良かったが、お前の体の方が上玉のようだ。私がその体を使ってやろう」

　ヴォラプは精神世界に入り込んできたリュートを自らに取り込もうと画策する。

　「！？何！」

　リュートを取り囲んでいた腕が謎の力に、弾かれ、リュートの拘束が解ける。

　「お前は…お前は一体何者なんだ…？この感覚は何だ…」

　「お前ごときが俺を抑えられると思うなよ！」

　リュートを取り囲んでいた腕は次第に数が減って行く。

　「馬鹿な…私の領域でこれほどまでの力を…」

　真っ暗だった視界が徐々に開けていく。黒い空間が次第に白くなり始める。

　「くっ…このままでは…」

　黒い水のようなものは次第に一箇所に集まり収束していく。リュートも黒い水から脱出し、何も無い空間に降り立つ。その何も無い空間に漂う黒い水は竜の形になる。

　「それがお前の正体か、ヴォラプ！」

　「そうだ。私の能力液状化リコーションは自らの体を自由に液化できる。この能力を使って私は他人に乗り移り、肉欲を貪っていたのさ！」　

　黒い水はやがて完全に実態を持ち、艶かしい紫の鱗を持ったドラゴンがリュートの前に立ちはだかった。

　「だが、私の能力を見破った所でお前が対処出来るわけがない。人は人である限り誰もが欲望を持つ。人間の最大の欲求である三大欲求の内の一角を担う私の力を人間風情が叶うとでも思ったか？」

　ヴォラプの体が再び液状化し始める。ヴォラプの体が液化し、床に垂れる。

　「先程はあの女が居たから手を抜いたが、お前が相手なら本気を出せる！色欲の霧ラストミスト！」

　床に垂れたヴォラプの体の一部が瞬間的に気化し、周囲が霧に包まれる。

　「私は物理的戦闘は不手だが精神的戦闘は得てだ。ましてやここは私とお前の心理が混ざりあった精神世界。私に負けるどおりはない！」

　リュートの周りの霧が別々の場所に収束し、ヴォラプの数が増えていく。

　「どうだ？私の力に恐れを生したか？この間お前の精神を完全に乗っ取りお前が連れてきた女達も私が貰ってやろう！」

　「俺がお前にクリア達を渡すと思うか？戯言も程々にしておけ！空間爆破スペース･デトネイト！」

　リュートの周りで大爆発が起こり、リュートを取り囲んでいたヴォラプが霧散する。

　「何だと！」

　「お前は本当に気に食わないから、完全に消し飛ばすことにするよ」

　その瞬間、ヴォラプは感じ取った。自分の体内に何かが発動しようとしていることに。

　「馬鹿！止めろ！私はこんな所で死ぬような…」

　「じゃあな！爆破デトネイト！」

　何も無い空間は爆風に包まれたのだった。