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73 初クエスト
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「それでは今から採取クエストを始めたいと思います。私はこの度の採取クエストの審査官を務めますアマギと言います。皆さん、よろしくお願いします」
「お願いしま~す」
「「お願いします」」
気軽な返事を返すアリリアナさんの横で、私はレオ君と一緒にアマギさんに頭を下げた。
「試験内容について改めて説明は不要と思いますので、私からは特に説明することはありません。皆さんはどうでしょうか? 質問がございましたら今でしたらお答えできますが」
「う~ん。私は特にないかな。採取物の魔力成分が総合で八十M超えしてればいいだけなんだし。正直クエスト自体は軽い遠足みたいな感じでしょ」
「アリリアナさん、アマギさんの前でそんなこと言うのは……」
危機感の欠如と見られて減点対象にされちゃったらどうしよう。
「いえ、構いませんよ。冒険者に大切なのは実力と信頼ですから。よほど倫理に反する言動でなければ、マイナス評価になることはまずありません。同時に道中で人助けをしてもそれがプラス評価に変わることはありませんし、その人助けが原因で期間内にクエストが終了しなかった場合にも救済処置等は基本的にはありませんので、その点にはご注意ください」
「倫理を重視するくせに人助けがプラスにならないって、ちょっと矛盾してない?」
アリリアナさんがこっそり私に耳打ちしてくるけど、試験官さんは目の前だし、アリリアナさんの声も全然こっそりしてなかった。
アマギさんがニコリと微笑んだ。
「仰りたいことはよく分かりますが、クエストの中には僅かな遅れが生死を分けるものもあります。例えば特殊な解毒薬が必要な患者の為の素材クエストで冒険者が依頼中に人助けに精を出した結果、人助けをされた人は助かっても依頼主が助けたいと思っていた相手は死んでしまったではギルドの意義が問われます。故にギルドが冒険者に倫理を求めるのはクエストを行う上でのことであって、倫理と倫理がぶつかる局面においてギルドはその冒険者がクエストに沿って行動しているかどうかを基準に擁護するか非難するかを決めるのです」
「なるほど。つまりクエストさえちゃんとこなせるのなら人助けしても文句は言われないって感じね」
アマギさんはアリリアナさんの言葉を肯定も否定もしなかった。
「もう良いか? ならさっさと行こうぜ」
「私はオッケー。ドロシーさんも質問はない感じで大丈夫かな?」
「うん。大丈夫だよ」
「よし。それじゃあアリリアナ組出発よ」
「そのクラン名、決定なのか? いくらギルドに正式登録されないからって適当過ぎるだろう」
「ま、まぁ分かりやすいし、いいんじゃないかな」
「何よ~。じゃあ他に何かいい名前でもあるわけ?」
レオ君の頰を指でプニプニするアリリアナさん。わ、私もやってみたいかも。
「そうだな。医療三魔騎士団とかはどうだ?」
「は? ダサ」
「ア、アリリアナさん」
ハッキリ言い過ぎだよ。レオ君が落ち込んじゃってるし。な、慰めなきゃ。
「わ、私はいいと思うよ。何か有名クランっぽくて」
「いや、そもそも騎士団は何処から出てきたのよ。そこはせめて医療三魔法団でしょ」
「うるせぇ! お前のアリリアナ組だって安直すぎるだろうが!」
「きゃ~、助けてドロシーさん。ちびっ子が怒った」
「ア、アハハ」
アマギさんが私達のやり取りをジッと見つめているけど、本当に減点対象にはならないんだよね? これ。
そんなこんなで私とアリリアナさんとレオ君は試験官であるアマギさんと共に王都を出た。
「お~。世界が広い感じ」
周囲を見回してアリリアナさんが嬉しそうに笑う。
「城壁の外に出たことは何度かあるだろ。なんで今更感動してるんだよ?」
「なんでって言われても困るけどさ、王都の中にずっといると王都の中だけが世界だって感じになってこない? んでもってそこからの開放感? みたいな」
「全然分からん」
「私はちょっと分かるかも」
危険な魔物がいつ襲撃してくるか分からないから仕方ないけど、基本何処の国でも王都を囲む城壁には力を入れる。だから偶に壁の外に出ると何処までも続く大地にちょっと感動しちゃう。
「でしょ? 流石はドロシーさんね。それに比べてちびっ子君は……もっと感性を磨きたまえよ」
「誰がちびっ子だ。頭を撫でるな」
レオ君は赤い髪をクシャクシャと撫でるアリリアナさんの腕を面倒くさそうに振り払った。
「よしよし。その元気があるならお姉さん達について来れるわね。それじゃあ二人とも、予定通り危険指定地C3まで移動する感じで行きましょう」
「C3? F5ではないのですか?」
アマギさんが意外そうに聞いてくる。
世界には魔力が様々な理由で豊富な場所が数多く存在するけど、そんな場所に生息する生物や植物は魔力を主食として育つから普通の人が近付くととても危険。だから国とギルドはそんな場所を危険指定地として、一般の人が近付かないように注意を促している。
「F5の森って魔法学校の実習で何度か行ったことあるんだけど、魔力成分が十を超えているのがあればいい感じで、基本五以下ばかり。そんなのをコツコツ集めるのは割に合わないから、C地で大物を狙うことにしちゃいます」
「……どんな希少な物を獲得しようが合格以上の評価はありませんよ?」
「全然大丈夫」
「貴方達はそれでいいんですか?」
こっちを見るアマギさんの目が心なし冷たい気がする。
「は、はい」
「ああ」
「……そうですか。余計な質問でしたね」
無謀なタイプの新人だと思われちゃったかな? でも先日聞いたアリリアナさんの提案はもっともだと思ったし。
「私達は学校の実習でF地には何度か行ったことがあるから、今更そこで学べることはない感じだと思うの。だから試験当日はあえてC地を選ぼうと思うけど、二人はどう思う?」
って、言われた時は最初は反対しなきゃって思ったけど、
「クエスト報酬を調べたんだけど、ぶっちゃけF地やD地の仕事だけでは専業としてやってくのはかなりキツいレベル。生活費だけなら休まずクエストこなせばどうにかなるかなって感じだけど、どうせならさっさと稼ぎたいじゃん?」
「それで死んだら元も子もないだろ」
「そう。だからこそ今回の試験を利用してC地に入るべきなのよ。それで私達の力が通用するようなら金銭的な問題はほぼ解決なわけだし」
「試験を利用って、試験の何を、どう利用するんだよ」
「ひょっとして試験管さん?」
「そう。クエスト試験ではなるべく死人を出さないようにギルドでも腕利きの職員が試験管として付いてくるみたいなの。つまりこれって無料で腕利きの護衛をゲットってわけじゃん? なら、このチャンスを活かさない手はないでしょ」
打ち合わせを思い出す度に、やっぱりアリリアナさんは凄いなって思う。私だったら試験に受かることばかりを考えて、試験自体を利用しようだなんて考えもしない。
勿論ちょっと不安だったけど、今日アマギさんに会ってみてアリリアナさんの考えは正しかったと確信した。
白いシャツに黒いジャケット。何処となく執事を思わせる格好のアマギさんだけど、静かな威圧感みたいなのを常に纏ってる。彼女が試験官だったら多分勝てなかったと思う。
「……何か?」
「な、何でもありません」
眼鏡に覆われた焦茶色の瞳に見つめられて、つい目を逸らしちゃった。
「それじゃあそろそろ移動開始する感じだけど、C地はF地に比べて結構距離があるからそこそこ飛ばすから。もしもキツかったら無理せず申告するように」
「何故俺を見て言う」
「レオ君、荷物持とうか?」
試験期間は六日間。一番近くて安全なF地に行って採取して帰るだけなら一日あれば十分な試験だけど、私達はこの機会に出来る限りC地を探索する予定だから、期間いっぱい粘る予定。だからテントを含めたキャンプ用品が結構かさばってるけど、それをレオ君が殆ど一人で背負ってくれてる。
「平気だ。これくらい」
「だってさ。流石は男の子って感じよね」
「でも……」
「もしもレオ君が途中でへばったら私とドロシーさんで背負えばいいんだし、ひとまずやらせてみたら?」
「……うん。でも辛かったらいつでも言ってね。すぐ代わるから」
「……ああ」
「よーし。それじゃあ各人魔法を準備して」
私達は殆ど同時に詠唱に入った。
「「「世界に満ちる力よ、生命の器を満たせ! 『バイタリティアップ』」」」
魔法の力で魔力がエネルギーとして体に浸透してくるのが分かる。これで暫くの間は酸素が体内の栄養素と結びついて得られる以上の力を肉体が発揮してくれる。
「それじゃあアリリアナ組、初クエストに出発よ!」
駆け出した私達は王都から出た商人さんの一団をあっという間に追い抜いた。
「お願いしま~す」
「「お願いします」」
気軽な返事を返すアリリアナさんの横で、私はレオ君と一緒にアマギさんに頭を下げた。
「試験内容について改めて説明は不要と思いますので、私からは特に説明することはありません。皆さんはどうでしょうか? 質問がございましたら今でしたらお答えできますが」
「う~ん。私は特にないかな。採取物の魔力成分が総合で八十M超えしてればいいだけなんだし。正直クエスト自体は軽い遠足みたいな感じでしょ」
「アリリアナさん、アマギさんの前でそんなこと言うのは……」
危機感の欠如と見られて減点対象にされちゃったらどうしよう。
「いえ、構いませんよ。冒険者に大切なのは実力と信頼ですから。よほど倫理に反する言動でなければ、マイナス評価になることはまずありません。同時に道中で人助けをしてもそれがプラス評価に変わることはありませんし、その人助けが原因で期間内にクエストが終了しなかった場合にも救済処置等は基本的にはありませんので、その点にはご注意ください」
「倫理を重視するくせに人助けがプラスにならないって、ちょっと矛盾してない?」
アリリアナさんがこっそり私に耳打ちしてくるけど、試験官さんは目の前だし、アリリアナさんの声も全然こっそりしてなかった。
アマギさんがニコリと微笑んだ。
「仰りたいことはよく分かりますが、クエストの中には僅かな遅れが生死を分けるものもあります。例えば特殊な解毒薬が必要な患者の為の素材クエストで冒険者が依頼中に人助けに精を出した結果、人助けをされた人は助かっても依頼主が助けたいと思っていた相手は死んでしまったではギルドの意義が問われます。故にギルドが冒険者に倫理を求めるのはクエストを行う上でのことであって、倫理と倫理がぶつかる局面においてギルドはその冒険者がクエストに沿って行動しているかどうかを基準に擁護するか非難するかを決めるのです」
「なるほど。つまりクエストさえちゃんとこなせるのなら人助けしても文句は言われないって感じね」
アマギさんはアリリアナさんの言葉を肯定も否定もしなかった。
「もう良いか? ならさっさと行こうぜ」
「私はオッケー。ドロシーさんも質問はない感じで大丈夫かな?」
「うん。大丈夫だよ」
「よし。それじゃあアリリアナ組出発よ」
「そのクラン名、決定なのか? いくらギルドに正式登録されないからって適当過ぎるだろう」
「ま、まぁ分かりやすいし、いいんじゃないかな」
「何よ~。じゃあ他に何かいい名前でもあるわけ?」
レオ君の頰を指でプニプニするアリリアナさん。わ、私もやってみたいかも。
「そうだな。医療三魔騎士団とかはどうだ?」
「は? ダサ」
「ア、アリリアナさん」
ハッキリ言い過ぎだよ。レオ君が落ち込んじゃってるし。な、慰めなきゃ。
「わ、私はいいと思うよ。何か有名クランっぽくて」
「いや、そもそも騎士団は何処から出てきたのよ。そこはせめて医療三魔法団でしょ」
「うるせぇ! お前のアリリアナ組だって安直すぎるだろうが!」
「きゃ~、助けてドロシーさん。ちびっ子が怒った」
「ア、アハハ」
アマギさんが私達のやり取りをジッと見つめているけど、本当に減点対象にはならないんだよね? これ。
そんなこんなで私とアリリアナさんとレオ君は試験官であるアマギさんと共に王都を出た。
「お~。世界が広い感じ」
周囲を見回してアリリアナさんが嬉しそうに笑う。
「城壁の外に出たことは何度かあるだろ。なんで今更感動してるんだよ?」
「なんでって言われても困るけどさ、王都の中にずっといると王都の中だけが世界だって感じになってこない? んでもってそこからの開放感? みたいな」
「全然分からん」
「私はちょっと分かるかも」
危険な魔物がいつ襲撃してくるか分からないから仕方ないけど、基本何処の国でも王都を囲む城壁には力を入れる。だから偶に壁の外に出ると何処までも続く大地にちょっと感動しちゃう。
「でしょ? 流石はドロシーさんね。それに比べてちびっ子君は……もっと感性を磨きたまえよ」
「誰がちびっ子だ。頭を撫でるな」
レオ君は赤い髪をクシャクシャと撫でるアリリアナさんの腕を面倒くさそうに振り払った。
「よしよし。その元気があるならお姉さん達について来れるわね。それじゃあ二人とも、予定通り危険指定地C3まで移動する感じで行きましょう」
「C3? F5ではないのですか?」
アマギさんが意外そうに聞いてくる。
世界には魔力が様々な理由で豊富な場所が数多く存在するけど、そんな場所に生息する生物や植物は魔力を主食として育つから普通の人が近付くととても危険。だから国とギルドはそんな場所を危険指定地として、一般の人が近付かないように注意を促している。
「F5の森って魔法学校の実習で何度か行ったことあるんだけど、魔力成分が十を超えているのがあればいい感じで、基本五以下ばかり。そんなのをコツコツ集めるのは割に合わないから、C地で大物を狙うことにしちゃいます」
「……どんな希少な物を獲得しようが合格以上の評価はありませんよ?」
「全然大丈夫」
「貴方達はそれでいいんですか?」
こっちを見るアマギさんの目が心なし冷たい気がする。
「は、はい」
「ああ」
「……そうですか。余計な質問でしたね」
無謀なタイプの新人だと思われちゃったかな? でも先日聞いたアリリアナさんの提案はもっともだと思ったし。
「私達は学校の実習でF地には何度か行ったことがあるから、今更そこで学べることはない感じだと思うの。だから試験当日はあえてC地を選ぼうと思うけど、二人はどう思う?」
って、言われた時は最初は反対しなきゃって思ったけど、
「クエスト報酬を調べたんだけど、ぶっちゃけF地やD地の仕事だけでは専業としてやってくのはかなりキツいレベル。生活費だけなら休まずクエストこなせばどうにかなるかなって感じだけど、どうせならさっさと稼ぎたいじゃん?」
「それで死んだら元も子もないだろ」
「そう。だからこそ今回の試験を利用してC地に入るべきなのよ。それで私達の力が通用するようなら金銭的な問題はほぼ解決なわけだし」
「試験を利用って、試験の何を、どう利用するんだよ」
「ひょっとして試験管さん?」
「そう。クエスト試験ではなるべく死人を出さないようにギルドでも腕利きの職員が試験管として付いてくるみたいなの。つまりこれって無料で腕利きの護衛をゲットってわけじゃん? なら、このチャンスを活かさない手はないでしょ」
打ち合わせを思い出す度に、やっぱりアリリアナさんは凄いなって思う。私だったら試験に受かることばかりを考えて、試験自体を利用しようだなんて考えもしない。
勿論ちょっと不安だったけど、今日アマギさんに会ってみてアリリアナさんの考えは正しかったと確信した。
白いシャツに黒いジャケット。何処となく執事を思わせる格好のアマギさんだけど、静かな威圧感みたいなのを常に纏ってる。彼女が試験官だったら多分勝てなかったと思う。
「……何か?」
「な、何でもありません」
眼鏡に覆われた焦茶色の瞳に見つめられて、つい目を逸らしちゃった。
「それじゃあそろそろ移動開始する感じだけど、C地はF地に比べて結構距離があるからそこそこ飛ばすから。もしもキツかったら無理せず申告するように」
「何故俺を見て言う」
「レオ君、荷物持とうか?」
試験期間は六日間。一番近くて安全なF地に行って採取して帰るだけなら一日あれば十分な試験だけど、私達はこの機会に出来る限りC地を探索する予定だから、期間いっぱい粘る予定。だからテントを含めたキャンプ用品が結構かさばってるけど、それをレオ君が殆ど一人で背負ってくれてる。
「平気だ。これくらい」
「だってさ。流石は男の子って感じよね」
「でも……」
「もしもレオ君が途中でへばったら私とドロシーさんで背負えばいいんだし、ひとまずやらせてみたら?」
「……うん。でも辛かったらいつでも言ってね。すぐ代わるから」
「……ああ」
「よーし。それじゃあ各人魔法を準備して」
私達は殆ど同時に詠唱に入った。
「「「世界に満ちる力よ、生命の器を満たせ! 『バイタリティアップ』」」」
魔法の力で魔力がエネルギーとして体に浸透してくるのが分かる。これで暫くの間は酸素が体内の栄養素と結びついて得られる以上の力を肉体が発揮してくれる。
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