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85 チョコ
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「それじゃあ、俺は行くけど……」
壮大な物語の中にいるような錯覚。そんなほんの一時の共感を終えると、現実がまた私達をせっついてきた。
「私は大丈夫だから。アリリアナさんも一緒にいてくれるし」
大剣を担ぎ直したレオ君は、それでも心配そうに私を見てたけど、もう何を言っても無駄だと悟ったのか、反対の言葉の代わりにポケットから銀紙を取り出した。
「チョコだ。二人で分けてくれ」
疲弊した体に糖分はこの上なくありがたい。けれどもーー
「レオ君の分は?」
「ちゃんとある。実は隠れて何個も食べてたんだ」
年齢よりも幼く見える顔に、悪戯好きな子供のような笑みが浮かぶ。
狡い、と思った。
レオ君がこの状況で自分だけ食料を口にするわけがない。でもあんな笑みを見せられたら、この優しい嘘を否定するのをひどく躊躇ってしまう。
受け取るべきかな? でもレオ君にこそ食べて欲しいし。
迷っていると、横から伸びた手がチョコをヒョイと摘み上げた。
「それじゃあ遠慮なく。まぁ、今のちびっ子なら大丈夫だとは思うけど、何が起こるか分かんないし、気をつけて行くんだぞ」
そう言ってアリリアナさんはレオ君の赤い髪をワシワシと撫で回す。いつもなら嫌がりそうなものなのだけど、やっぱり不安なのかな、レオ君は幼馴染のされるがままとなっている。
「ああ。お前もな。……救援は俺が必ず呼んでくるから、二人は急がずに安全だけを優先しろよ」
「うん。気をつけてね」
「任せた感じ」
レオ君は何度か躊躇う素振りを見せた後、私達に背中を向けた。そしてーー
「世界に満ちる力よ、生命の器を満たせ! 『バイタリティアップ』」
魔法を発動させると、王都目掛けて一直線に駆けって行った。
「おー、おー。まだあんな速度出せるなんて、結構すごい感じじゃない?」
「……うん。レオ君は凄いよ」
あんなに小さな体で、ここぞという時にはいつも凄い力を発揮する。レオ君なら間違いなく救援を連れてきてくれるって信じられる。
「それじゃあ私達も行きましょうか。はい。チョコ半分こ」
「ありがと」
疲れた体に糖分が行き渡る。ただの疲労なら魔力でいくらでも回復できるけど、魔力が底をついた状態での疲労は栄養補給や睡眠を積極的にとっていかないと簡単には拭えない。
「こんな時の為にポーション、かなり良いやつ持ってきてたんだけどな。テントの中だし」
「私はリュック。……ローブのポケットに入れておくべきだったかも」
ローブのポケットには今、魔法文字を刻んだ石が幾つか入っている。
魔法石は一回切りの使い捨てではあるけれど、効果自体はワンドと同じで、魔力を込めるだけで特定の魔法を発動させることができる便利なアイテム。そんな石をいつでも取り出せるようローブに、そして回復薬であるポーションはリュックにしまってたんだけど、判断ミスだったかな?
「いや、私はともかくドロシーさんの選択はそんな間違いでもない感じでしょう。アマギさんがいたんだし、一時的な撤退はあったとしても、荷物も何もかも放り出した逃走をする羽目になるなんて予想外すぎ」
「そう、だね。……アマギさん、大丈夫かな?」
糸を操るアマギさんの技巧は凄かったけど、それでもシャドーデビルが相手ではどれだけ持たせられるか分からない。
「無事で居てもらわないと困るし。レオっちとドロシーさんにキスしてもらう予定なんだから」
「そ、それ本気だったの?」
「さ~て、どうかなぁ? マジな感じかもよ?」
「もう、意地悪」
「ふっふっふ。……さて、このままドロシーさんと唇の行方について話し合いたいところだけど、のんびりしすぎるのもまずいし、私達もそろそろ行きましょうか」
「うん」
魔力を練る。高めた魔力は『バイタリティアップ』の魔法程ではなくても肉体の機能を向上させる効果がある。
「それじゃあまずは一時間走って十五分歩く感じのペースで。キツかったらいつでも言うんだぞ」
「大丈夫。それよりも月明かりがあるとはいえ足元には十分気をつけてね」
「りょ~かい。ってか、今日の月メッチャ綺麗じゃない? あ~あ~。皆でお月見したかったし」
お月見? 友達とお月見。したい。凄く。
「き、機会ならまたあるよ。無事に戻れたら何度だって。きっと」
メルルさんやセンカさんは当然として、オオルバさんやアリアも誘ってみようかな。……アリア、来るかな? 分からないけど、でも誘ってみよう。
「そだね。それじゃあ行きますか。まぁ、体力的にキツいことを除けば何かが起こる可能性なんて低いんだし、焦らず行く感じで」
「うん」
そうしてレオ君から少し遅れて、私達も王都へ向けて走り出した。
月を見上げると、センカさんとメルルさん、そしてアリアやオオルバさんの顔が浮かんだ。
大丈夫。アリリアナさんの言う通り、ここからの道のりに危険は少ない。……少ないはずなのに。
走り出してそろそろ一時間というところで、それは突然現れた。
壮大な物語の中にいるような錯覚。そんなほんの一時の共感を終えると、現実がまた私達をせっついてきた。
「私は大丈夫だから。アリリアナさんも一緒にいてくれるし」
大剣を担ぎ直したレオ君は、それでも心配そうに私を見てたけど、もう何を言っても無駄だと悟ったのか、反対の言葉の代わりにポケットから銀紙を取り出した。
「チョコだ。二人で分けてくれ」
疲弊した体に糖分はこの上なくありがたい。けれどもーー
「レオ君の分は?」
「ちゃんとある。実は隠れて何個も食べてたんだ」
年齢よりも幼く見える顔に、悪戯好きな子供のような笑みが浮かぶ。
狡い、と思った。
レオ君がこの状況で自分だけ食料を口にするわけがない。でもあんな笑みを見せられたら、この優しい嘘を否定するのをひどく躊躇ってしまう。
受け取るべきかな? でもレオ君にこそ食べて欲しいし。
迷っていると、横から伸びた手がチョコをヒョイと摘み上げた。
「それじゃあ遠慮なく。まぁ、今のちびっ子なら大丈夫だとは思うけど、何が起こるか分かんないし、気をつけて行くんだぞ」
そう言ってアリリアナさんはレオ君の赤い髪をワシワシと撫で回す。いつもなら嫌がりそうなものなのだけど、やっぱり不安なのかな、レオ君は幼馴染のされるがままとなっている。
「ああ。お前もな。……救援は俺が必ず呼んでくるから、二人は急がずに安全だけを優先しろよ」
「うん。気をつけてね」
「任せた感じ」
レオ君は何度か躊躇う素振りを見せた後、私達に背中を向けた。そしてーー
「世界に満ちる力よ、生命の器を満たせ! 『バイタリティアップ』」
魔法を発動させると、王都目掛けて一直線に駆けって行った。
「おー、おー。まだあんな速度出せるなんて、結構すごい感じじゃない?」
「……うん。レオ君は凄いよ」
あんなに小さな体で、ここぞという時にはいつも凄い力を発揮する。レオ君なら間違いなく救援を連れてきてくれるって信じられる。
「それじゃあ私達も行きましょうか。はい。チョコ半分こ」
「ありがと」
疲れた体に糖分が行き渡る。ただの疲労なら魔力でいくらでも回復できるけど、魔力が底をついた状態での疲労は栄養補給や睡眠を積極的にとっていかないと簡単には拭えない。
「こんな時の為にポーション、かなり良いやつ持ってきてたんだけどな。テントの中だし」
「私はリュック。……ローブのポケットに入れておくべきだったかも」
ローブのポケットには今、魔法文字を刻んだ石が幾つか入っている。
魔法石は一回切りの使い捨てではあるけれど、効果自体はワンドと同じで、魔力を込めるだけで特定の魔法を発動させることができる便利なアイテム。そんな石をいつでも取り出せるようローブに、そして回復薬であるポーションはリュックにしまってたんだけど、判断ミスだったかな?
「いや、私はともかくドロシーさんの選択はそんな間違いでもない感じでしょう。アマギさんがいたんだし、一時的な撤退はあったとしても、荷物も何もかも放り出した逃走をする羽目になるなんて予想外すぎ」
「そう、だね。……アマギさん、大丈夫かな?」
糸を操るアマギさんの技巧は凄かったけど、それでもシャドーデビルが相手ではどれだけ持たせられるか分からない。
「無事で居てもらわないと困るし。レオっちとドロシーさんにキスしてもらう予定なんだから」
「そ、それ本気だったの?」
「さ~て、どうかなぁ? マジな感じかもよ?」
「もう、意地悪」
「ふっふっふ。……さて、このままドロシーさんと唇の行方について話し合いたいところだけど、のんびりしすぎるのもまずいし、私達もそろそろ行きましょうか」
「うん」
魔力を練る。高めた魔力は『バイタリティアップ』の魔法程ではなくても肉体の機能を向上させる効果がある。
「それじゃあまずは一時間走って十五分歩く感じのペースで。キツかったらいつでも言うんだぞ」
「大丈夫。それよりも月明かりがあるとはいえ足元には十分気をつけてね」
「りょ~かい。ってか、今日の月メッチャ綺麗じゃない? あ~あ~。皆でお月見したかったし」
お月見? 友達とお月見。したい。凄く。
「き、機会ならまたあるよ。無事に戻れたら何度だって。きっと」
メルルさんやセンカさんは当然として、オオルバさんやアリアも誘ってみようかな。……アリア、来るかな? 分からないけど、でも誘ってみよう。
「そだね。それじゃあ行きますか。まぁ、体力的にキツいことを除けば何かが起こる可能性なんて低いんだし、焦らず行く感じで」
「うん」
そうしてレオ君から少し遅れて、私達も王都へ向けて走り出した。
月を見上げると、センカさんとメルルさん、そしてアリアやオオルバさんの顔が浮かんだ。
大丈夫。アリリアナさんの言う通り、ここからの道のりに危険は少ない。……少ないはずなのに。
走り出してそろそろ一時間というところで、それは突然現れた。
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