婚約者の地位? 天才な妹に勝てない私は婚約破棄して自由に生きます

名無しの夜

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 そうだ。あのお店だ。あのお店しかない。

 アリアを連れて繁華街の方へ歩いていると、突然閃いちゃった。

 家を出て初めてパフェを食べに行ったあのスイーツ店。メルルさん達三人と出会うきっかけになった思い出のあのお店なら丁度いいんじゃないかな。

 そもそもの話、昔に比べれば随分と改善されてきてはいるものの、出不精な私に幾つもの代案が浮かぶはずもないし、私はその思いつきを実行に移すことにした。

「いらっしゃいませ。二名様ですか? お好きな席にどうぞ」

 前回来た時もそうだったけれど、ここの店員さんは感じが良くて何だか安心する。また間のいいことに、店内はそれほど混み合ってなくて、ただでさえ妹の視線を意識している身としては変に緊張材料が増えなくて非常にありがたかった。

 私は周りになるべく人がいない席を選んで腰掛けた。アリアは興味深そうに店内をキョロキョロと見回している。

「ここのプリンパフェすごく美味しんだよ。良かったら一緒に食べない?」
「一緒に?」

 チョコではないのかと突っ込みが入らないか心配だったけれど、どうやら杞憂で済んだみたい。

「それくらい大きの。ねっ、一緒に食べようよ」
「……(コクン)」

 今日のアリアは余程機嫌が良いみたい。妹がこんなに素直なのは、大抵の場合において魔法関連で何か成果があった時くらいだ。

「今はどんな研究をしているの?」

 プリンパフェを注文すると、私は手持ちの少ない選択肢の中から魔法を話題に選んだ。そしてそれは功を奏したようで、妹は店内をそれとなく見回していた視線を私へと定めた。

「肉体の変化が及ぼす精神への影響について、幾つかの仮定に基づいてアプローチをかけてる」
「ということは変身魔法? また随分と難しいのを選んだね」

 理性をトリガーにした自己の変貌。それこそが魔法が突き詰めるべき深淵である。

 そんな言葉を残した魔法使いがいたように、魔法を突き詰めていくと必ず変身という現象に直面することになる。

 そもそも全ての物質に起こる変化は、死に至る傷も含めて変身と言い換えることができる。けど、普段それを変身だと意識しないのは、通常行われる変身は大抵の場合において、特に生物の肉体においては、物質は高度な安定の元になりたっていることからも分かるように、そこから変化、つまりは変身することは生命活動にとってマイナスに働く場合が非常に多いからだ。

 魔法とはすなわち、このマイナスの変化をプラスに持っていく技術であるとも言える。そしてつまるところ魔法の究極的な目的とは、種としての進化にあると言っても過言ではない。

「変身魔法なら観察対象を準備してるんだよね? 何を選んだの?」
「人間」
「人間っ!? って、まぁうちなら幾らでも希望者を募れるだろうけど……」

 魔法の為なら命をかけられるって人はそれほど珍しくはなくて、お父様の門弟にもそう言った人はたくさんいる。

「アリアなら心配ないだろうけど、命に関わる類のものじゃないよね?」
「……(コクン)」
「そう。まぁ、上手くやれるなら良いけど。……上手くいってるんだよね?」
「おおよそは。ただ対象が思ったよりも私に依存し始めたのが予想外。演技の可能性もあるから、今は念入りに責めてる」
「せ、攻める!? えっ、変身魔法の話だよね? 何で耐久力を調べてるの?」
「いろいろある」
「ふ、ふーん?」

 筋肉の膨張や硬化だって、変身魔法の一種と言えるし、そっち方面なのかな? うーん。気になるけど、研究の内容を根掘り葉掘り聞くのはマナー違反だし。でも他に共通の話題といえば……あっ、そうだ。

「そういばゲルド王子と婚約したって聞いたけれど、どうなの? その、上手くいってる?」

 この際だ、もう一つの気掛かりについても尋ねておこう。

「……(コクリ)」
「え? そうなの? 本当に?」

 確かに王妃様もゲルド王子もアリアのことを気に入ってはいたけれど、センカさんの話を聞く限りでは不穏さが多少なりとも漂っていた。ただ、お城の噂というのはあまり当てになるものではなくて、私もしょっちゅう有ること無いことを広められたりした。

「それじゃあアリアはゲルド王子に、それと王妃様にもだけど、とにかく嫌がらせとかはされてないの?」
「私の言うこと何でも聞く」
「そ、そうなんだ」

 意外……でもないのかな? 私にとっては嫌味な人達だったけれど、アリアくらいの美人が相手ならば、人が変わったとしてもおかしくないし。

 なにはともあれ、胸につかえていたものが取れた気分だった。

「お待たせしました。特大プププ三盛りパフェです」

 ちょいど良いことに、話の合間を縫うかのように店員さんがやってきた。テーブルに置かれたパフェは以前見た時と変わらぬ特大さで、それを見たアリアはーー

「……大きい」

 と言って、少しだけ銀の瞳を大きくした。
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