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95 決意
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「この右腕なんだけど」
そう言って私は包帯に巻かれた腕をアリアに見せた。
「治せる?」
「無理」
妹の返答はにべもなかった。
「アリアお嬢様、せめて見て差し上げてはいかがでしょうか」
アリアを迎えにきた高弟の一人が、取りなすようにそう言ってくれたけど、別にアリアが面倒だったり、ましてや嫌がらせだったりで言ってるわけではないことはよく分かっていた。この妹は魔法に関してはつまらない嘘を言わないのだ。おそらくは私といる間に、どうやったかは想像するしかないけれど、とっくに診察を終えていたのだろう。ハクさんもそれが分かっているからこそ、私の為に声を上げてくれたお弟子さんを視線で下がらせた。
「その傷を無理に消そうと治癒魔法を使えば、傷を上回る質量を得ようと細胞が過剰増殖する恐れがある。それでも治癒できる可能性は確かにあるけれど、それ以上にリスクが高すぎる。幸いエーテルに刻まれた傷は浅いように見えるから、数年放っておけば綺麗に消えるかもしれない。もちろんこれは、そうなった原因を二度と使わなければの話」
アリアはどうしてこの傷が出来たのかもお見通しなのかな? リトルデビルの時に助けてくれたから、その可能性は十分にあった。でも私が知りたいのはそんなことじゃなかった。
「アリアは光魔法使えるの?」
「私は聖女じゃない」
「そう、だよね。……そうなんだよね」
私の妹は天才だ。でもだからって何でもできる万能な神じゃない。
「ハクさん。お父様からの呼び出しって今噂になっているシャドーデビル討伐の件ですか?」
「その通りです。アリアお嬢様は明日の明朝、S指定生物討伐に向かわれる予定になっております」
多分、お父様からは隠すような指示は出てない、ううん、むしろ喧伝するよう言われているのだろう。ハクさんは実にあっさりと教えてくれた。
「…………」
妹はもう話は終わりとばかりに店を出て行こうとする。
「アリア」
「…………」
「次はコーヒー飲みに行こう。お姉ちゃん、美味しいお店知ってるんだから」
「……(コクン)」
そうして複雑怪奇な妹は今度こそ私の前から立ち去った。
「お支払いはこちらでしておきます。ドロシー様、館を離れ慣れぬことばかりで大変かと存じますが、どうかご自愛ください。それでは」
アリアに奢ってあげたいから支払いは私がしたい。実のところそんな心根ではあったけど、わざわざ引き止めようという気力がどうしても湧かなくて、私は高弟達をつれて店を出て行くハクさんをボウッと見送った。そしてふと、包帯の巻かれた右手を眺めたのだ。
「……アリアもこうなっちゃうのかな」
消えない傷はこの腕を一体どれだけ変貌させたのだろうか、入院中、どうしても気になって一度確認してみたけれど、やっぱり決して小さくはなくて、冒険者みたいに怪我を見慣れている人達ならばともかく、一般の人の目を引くには十分な傷跡がそこにはあった。
だからこそ、妹のことが心配になるのだ。
「アリアの肌、綺麗だったのにな」
女として嫉妬よりも羨望を覚えちゃうような、そんな白さ。劣等感や対抗意識がだいぶ薄まった今、改めて見た妹はやはり本当に妹なのかと疑いたくなるような完璧さで、それでもアリアは私の妹で、つまり、つまり……
「あ~! もう!!」
私は緩くなったコーヒーを一気に飲み干した。
「やっぱりダメ。あんな怪物を妹に押しつけるなんてありえない」
そもそもの話、私が逃げちゃったせいでアリアはこれから王妃として生活していくことになるのだ。王妃ともなれば、ちょっとしたことでも多くの好奇や批判を受けるだろう。妹の体に消えない傷跡が残れば、きっと心ない人達の中にはそれを面白がる者が出るに違いない。でも、そんなことーー
「私がさせないんだから」
お店を飛び出す。ふつふつと湧いてくる熱い気持ちは、アリアに対抗心を燃やしていた時と全く同じだった。でもそのベクトルは明らかに変化していた。そしてその変化が私はひどく嬉しかった。
「見てなさいよ、アリア。お姉ちゃん、負けないんだから」
皆がアリアを頼りにしてる。皆がアリアの方が優秀だと思ってる。
でもそんなの全く関係ない。
そうだ。あの屋敷を飛び出す時、これからは自由に生きようと決めた。だから今更ゴチャゴチャと余計なことを考えるのはやめよう。妹を助けたい。そう思った。ならそうしてみせる。そうだ。私が、
「私がシャドーデビルを倒してやる」
そう言って私は包帯に巻かれた腕をアリアに見せた。
「治せる?」
「無理」
妹の返答はにべもなかった。
「アリアお嬢様、せめて見て差し上げてはいかがでしょうか」
アリアを迎えにきた高弟の一人が、取りなすようにそう言ってくれたけど、別にアリアが面倒だったり、ましてや嫌がらせだったりで言ってるわけではないことはよく分かっていた。この妹は魔法に関してはつまらない嘘を言わないのだ。おそらくは私といる間に、どうやったかは想像するしかないけれど、とっくに診察を終えていたのだろう。ハクさんもそれが分かっているからこそ、私の為に声を上げてくれたお弟子さんを視線で下がらせた。
「その傷を無理に消そうと治癒魔法を使えば、傷を上回る質量を得ようと細胞が過剰増殖する恐れがある。それでも治癒できる可能性は確かにあるけれど、それ以上にリスクが高すぎる。幸いエーテルに刻まれた傷は浅いように見えるから、数年放っておけば綺麗に消えるかもしれない。もちろんこれは、そうなった原因を二度と使わなければの話」
アリアはどうしてこの傷が出来たのかもお見通しなのかな? リトルデビルの時に助けてくれたから、その可能性は十分にあった。でも私が知りたいのはそんなことじゃなかった。
「アリアは光魔法使えるの?」
「私は聖女じゃない」
「そう、だよね。……そうなんだよね」
私の妹は天才だ。でもだからって何でもできる万能な神じゃない。
「ハクさん。お父様からの呼び出しって今噂になっているシャドーデビル討伐の件ですか?」
「その通りです。アリアお嬢様は明日の明朝、S指定生物討伐に向かわれる予定になっております」
多分、お父様からは隠すような指示は出てない、ううん、むしろ喧伝するよう言われているのだろう。ハクさんは実にあっさりと教えてくれた。
「…………」
妹はもう話は終わりとばかりに店を出て行こうとする。
「アリア」
「…………」
「次はコーヒー飲みに行こう。お姉ちゃん、美味しいお店知ってるんだから」
「……(コクン)」
そうして複雑怪奇な妹は今度こそ私の前から立ち去った。
「お支払いはこちらでしておきます。ドロシー様、館を離れ慣れぬことばかりで大変かと存じますが、どうかご自愛ください。それでは」
アリアに奢ってあげたいから支払いは私がしたい。実のところそんな心根ではあったけど、わざわざ引き止めようという気力がどうしても湧かなくて、私は高弟達をつれて店を出て行くハクさんをボウッと見送った。そしてふと、包帯の巻かれた右手を眺めたのだ。
「……アリアもこうなっちゃうのかな」
消えない傷はこの腕を一体どれだけ変貌させたのだろうか、入院中、どうしても気になって一度確認してみたけれど、やっぱり決して小さくはなくて、冒険者みたいに怪我を見慣れている人達ならばともかく、一般の人の目を引くには十分な傷跡がそこにはあった。
だからこそ、妹のことが心配になるのだ。
「アリアの肌、綺麗だったのにな」
女として嫉妬よりも羨望を覚えちゃうような、そんな白さ。劣等感や対抗意識がだいぶ薄まった今、改めて見た妹はやはり本当に妹なのかと疑いたくなるような完璧さで、それでもアリアは私の妹で、つまり、つまり……
「あ~! もう!!」
私は緩くなったコーヒーを一気に飲み干した。
「やっぱりダメ。あんな怪物を妹に押しつけるなんてありえない」
そもそもの話、私が逃げちゃったせいでアリアはこれから王妃として生活していくことになるのだ。王妃ともなれば、ちょっとしたことでも多くの好奇や批判を受けるだろう。妹の体に消えない傷跡が残れば、きっと心ない人達の中にはそれを面白がる者が出るに違いない。でも、そんなことーー
「私がさせないんだから」
お店を飛び出す。ふつふつと湧いてくる熱い気持ちは、アリアに対抗心を燃やしていた時と全く同じだった。でもそのベクトルは明らかに変化していた。そしてその変化が私はひどく嬉しかった。
「見てなさいよ、アリア。お姉ちゃん、負けないんだから」
皆がアリアを頼りにしてる。皆がアリアの方が優秀だと思ってる。
でもそんなの全く関係ない。
そうだ。あの屋敷を飛び出す時、これからは自由に生きようと決めた。だから今更ゴチャゴチャと余計なことを考えるのはやめよう。妹を助けたい。そう思った。ならそうしてみせる。そうだ。私が、
「私がシャドーデビルを倒してやる」
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