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97 破天荒
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「はい、ドーン!!」
「きゃっ!?」
オオルバ魔法店を出て、そういえばどうやって王都の外に出ようかなと考えていると、突然背負っているリュックに何かがぶつかってきて、私は思わずから足を踏んだ。
「な、何? アリリアナさん?」
ぶつかって来たのは、ボブヘヤーの金髪に大きくパッチリとした瞳が何処となく猫を思わせる美女、つまりはアリリアナさんだった。
「ちょっと、ドロシー? 幾らなんでもつれなくない?」
怒ったようなキッとした視線を向けられたので、慌てて何のことかと考えてみる。だけど正解は答案用紙を前にした時のようには浮かばなかった。
「えっと、ど、どうかしたの?」
「どうかしたの? じゃないからね。聞けば一人でシャドーデビルを倒しに行く感じだって? こいつめ、どうしてそんな楽しそうなことに私を誘わないのよ」
「わっ!? ア、アリリアナさん!?」
私の首に腕を回すと、アリリアナさんはもう一方の手をグリグリと私の頭に押し付けてきた。ドリルの真似事をするその手は地味に痛かったけれど、私を心配して怒ってくれてるのが分かるから振り払うこともできずに、私の両手は飛べない鳥のように虚しく空を掻いた。
「ふぅ。ちょっと気が済んだわ。ドロシー」
「は、はい」
「そこに正座」
「はい」
ここは人の往来が少ないとはいえ路上だけど、魔法学校で野営の訓練も一通り済ませている身としてはそれほど気にはならない。
「私達のクラン名を言ってみなさい」
「えっと、アリリアナ組?」
「じゃあリーダーは?」
「アリリアナさんです」
「そう。なのになんでリーダーに一言も相談しないで、あんな怪物に挑もうとしてる感じなわけ?」
クランリーダーの人差し指が私の額をグリグリしてくる。
「あう。で、でも分かってると思うけど、本当に危険なんだよ? 下手をしたら死んじゃうかもしれないんだよ?」
「じゃあ、なおさら相談しなきゃダメじゃん」
私の額をグリグリする指に一層の力が入ったかと思えば、それは唐突に離れていった。
「ほんと、ドロシーって見かけよりもずっとアグレッシブよね」
「えっと、それは、ほ、褒められてるのかな?」
「は? そんなの……褒めてるに決まってんじゃん。まぁ、色々言ったけどさ、クランだとかリーダーだとか関係なしに、私たち友達じゃん? 水臭いのは無しにしようって、そういう話なわけ。オッケー?」
そう言って笑うと、アリリアナさんは地面に正座する私に手を差し伸べた。
「う、うん。……ありがとうアリリアナさん」
巻き込んでしまう申し訳なさからほんのちょっとの逡巡を挟んでからその手を掴めば、アリリアナさんは思いの外強い力で私を引き起こしてくれた。
「あっ。それとさ、それももう止めない?」
「え? それって……どれのこと?」
「その他人行儀。私達はすでに共に死線を潜った友人。いわばマブダチじゃん? いつまでもさん付けとかそろそろあり得ない感じでしょ」
「ええっ? でもその……」
アリア以外を敬称抜きで読んだことがないから、急にそんなこと言われても困っちゃう。
「ん~? 何? 何か嫌な感じなわけ?」
「そ、そんなことないよ。それじゃ、その、ア、アリリアナ……さん」
「いや、それじゃあ一緒でしょ」
「ア、アリリアナ」
「うん。ふふ……よし。行こうかドロシー」
アリリアナさん、もといアリリアナは、猫が戯れるように軽く私の体に肩をぶつけると、さっさと歩き出した。
「ま、待ってよ。まずは王都を出る理由を考えないと。それになんで私が戦いに行くって分かったの?」
「オオルバさんが教えてくれた感じ。もっとも、それは私だけにじゃないけどね」
「え? ……あっ!?」
陽が落ち始めて途端に暗くなり始めた街道、空が流す血で赤く染まったそこに彼はいた。
「レオ君」
レオ君はゆっくりとこちらに近付いてくるけど、その表情はオオルバさんが私に向けたように、酷く不満げだ。
「次は」
「え?」
「次は絶対に声をかけろよな。約束だぞ」
「う、うん。その……ごめんなさい」
「はいはい。そのくだりはもう私がやったから。それよりもレオっち、馬は?」
「お前の指示通り魔法血統書付きを二頭準備しといた」
「ええっ!? 魔法血統書付きって、レオ君、それお金どうしたの?」
魔物が跋扈するこの世界でどのような移動手段を選択するかは命に関わる問題だ。すると当然だけど馬などの移動手段を提供する商売が各地で盛んに行われるようになる。その中で少しでも同業者と差をつけようと馬の品種改良に着手する人たちが現れるのは自然な流れで、魔法血統書付きの馬というのはそういう人達が作り出した、魔力を練ることのできる馬、つまりは魔物に非常に近い、というか分類上は魔物なんだけど、とにかく並の馬とは比べ物にならないくらい強靭な馬のことなのだ。
そしてこの魔法血統書付きの馬というのは当たり前だけどすごく高い。どんなに安くても絶対に四桁を下回ることはないし、五桁からというのも珍しくはないくらい。というかむしろそれくらいが相場だったりする。購入でなくてレンタルなら三桁くらいで済むけど、それでも二頭となるとちょっと前まで学生だった身には辛い金額だ。
「俺も出したかったけど、そんな金ないし。だからアリリアナが払ったんだけど……」
レオ君のなんともいえない視線を追ってアリリアナを見てみると、彼女はこれまでに見せたことのない実に真剣な表情で、私の肩にポンッと手を置いた。
「ドロシー、一つ頼みがあるんだけど」
「う、うん。なんでも言って」
オオルバさんのおかげでお金には少しばかり余裕があるし、肩代わりしてと言われても出来ないことはない。
「家含めた金目のもの全部手放したんで住む所がなくなっちゃったんだよね。だからさ、しばらく泊めて欲しい感じなんだけど、いい?」
「ええっ!? う、うん。いいよ。好きなだけいてくれて良いよ」
信じられない。普通そこまでする?
メルルさんを始め、色んな人がアリリアナさんの破天荒(豪快な方の意味)ぶりを口にするけれど、ここにきて私にもようやくその理由が分かりかけてきた。
「きゃっ!?」
オオルバ魔法店を出て、そういえばどうやって王都の外に出ようかなと考えていると、突然背負っているリュックに何かがぶつかってきて、私は思わずから足を踏んだ。
「な、何? アリリアナさん?」
ぶつかって来たのは、ボブヘヤーの金髪に大きくパッチリとした瞳が何処となく猫を思わせる美女、つまりはアリリアナさんだった。
「ちょっと、ドロシー? 幾らなんでもつれなくない?」
怒ったようなキッとした視線を向けられたので、慌てて何のことかと考えてみる。だけど正解は答案用紙を前にした時のようには浮かばなかった。
「えっと、ど、どうかしたの?」
「どうかしたの? じゃないからね。聞けば一人でシャドーデビルを倒しに行く感じだって? こいつめ、どうしてそんな楽しそうなことに私を誘わないのよ」
「わっ!? ア、アリリアナさん!?」
私の首に腕を回すと、アリリアナさんはもう一方の手をグリグリと私の頭に押し付けてきた。ドリルの真似事をするその手は地味に痛かったけれど、私を心配して怒ってくれてるのが分かるから振り払うこともできずに、私の両手は飛べない鳥のように虚しく空を掻いた。
「ふぅ。ちょっと気が済んだわ。ドロシー」
「は、はい」
「そこに正座」
「はい」
ここは人の往来が少ないとはいえ路上だけど、魔法学校で野営の訓練も一通り済ませている身としてはそれほど気にはならない。
「私達のクラン名を言ってみなさい」
「えっと、アリリアナ組?」
「じゃあリーダーは?」
「アリリアナさんです」
「そう。なのになんでリーダーに一言も相談しないで、あんな怪物に挑もうとしてる感じなわけ?」
クランリーダーの人差し指が私の額をグリグリしてくる。
「あう。で、でも分かってると思うけど、本当に危険なんだよ? 下手をしたら死んじゃうかもしれないんだよ?」
「じゃあ、なおさら相談しなきゃダメじゃん」
私の額をグリグリする指に一層の力が入ったかと思えば、それは唐突に離れていった。
「ほんと、ドロシーって見かけよりもずっとアグレッシブよね」
「えっと、それは、ほ、褒められてるのかな?」
「は? そんなの……褒めてるに決まってんじゃん。まぁ、色々言ったけどさ、クランだとかリーダーだとか関係なしに、私たち友達じゃん? 水臭いのは無しにしようって、そういう話なわけ。オッケー?」
そう言って笑うと、アリリアナさんは地面に正座する私に手を差し伸べた。
「う、うん。……ありがとうアリリアナさん」
巻き込んでしまう申し訳なさからほんのちょっとの逡巡を挟んでからその手を掴めば、アリリアナさんは思いの外強い力で私を引き起こしてくれた。
「あっ。それとさ、それももう止めない?」
「え? それって……どれのこと?」
「その他人行儀。私達はすでに共に死線を潜った友人。いわばマブダチじゃん? いつまでもさん付けとかそろそろあり得ない感じでしょ」
「ええっ? でもその……」
アリア以外を敬称抜きで読んだことがないから、急にそんなこと言われても困っちゃう。
「ん~? 何? 何か嫌な感じなわけ?」
「そ、そんなことないよ。それじゃ、その、ア、アリリアナ……さん」
「いや、それじゃあ一緒でしょ」
「ア、アリリアナ」
「うん。ふふ……よし。行こうかドロシー」
アリリアナさん、もといアリリアナは、猫が戯れるように軽く私の体に肩をぶつけると、さっさと歩き出した。
「ま、待ってよ。まずは王都を出る理由を考えないと。それになんで私が戦いに行くって分かったの?」
「オオルバさんが教えてくれた感じ。もっとも、それは私だけにじゃないけどね」
「え? ……あっ!?」
陽が落ち始めて途端に暗くなり始めた街道、空が流す血で赤く染まったそこに彼はいた。
「レオ君」
レオ君はゆっくりとこちらに近付いてくるけど、その表情はオオルバさんが私に向けたように、酷く不満げだ。
「次は」
「え?」
「次は絶対に声をかけろよな。約束だぞ」
「う、うん。その……ごめんなさい」
「はいはい。そのくだりはもう私がやったから。それよりもレオっち、馬は?」
「お前の指示通り魔法血統書付きを二頭準備しといた」
「ええっ!? 魔法血統書付きって、レオ君、それお金どうしたの?」
魔物が跋扈するこの世界でどのような移動手段を選択するかは命に関わる問題だ。すると当然だけど馬などの移動手段を提供する商売が各地で盛んに行われるようになる。その中で少しでも同業者と差をつけようと馬の品種改良に着手する人たちが現れるのは自然な流れで、魔法血統書付きの馬というのはそういう人達が作り出した、魔力を練ることのできる馬、つまりは魔物に非常に近い、というか分類上は魔物なんだけど、とにかく並の馬とは比べ物にならないくらい強靭な馬のことなのだ。
そしてこの魔法血統書付きの馬というのは当たり前だけどすごく高い。どんなに安くても絶対に四桁を下回ることはないし、五桁からというのも珍しくはないくらい。というかむしろそれくらいが相場だったりする。購入でなくてレンタルなら三桁くらいで済むけど、それでも二頭となるとちょっと前まで学生だった身には辛い金額だ。
「俺も出したかったけど、そんな金ないし。だからアリリアナが払ったんだけど……」
レオ君のなんともいえない視線を追ってアリリアナを見てみると、彼女はこれまでに見せたことのない実に真剣な表情で、私の肩にポンッと手を置いた。
「ドロシー、一つ頼みがあるんだけど」
「う、うん。なんでも言って」
オオルバさんのおかげでお金には少しばかり余裕があるし、肩代わりしてと言われても出来ないことはない。
「家含めた金目のもの全部手放したんで住む所がなくなっちゃったんだよね。だからさ、しばらく泊めて欲しい感じなんだけど、いい?」
「ええっ!? う、うん。いいよ。好きなだけいてくれて良いよ」
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