54 / 149
連載
100 念話
しおりを挟む
「ふむ。やはり私達では倒しきれませんか」
地面が大きく抉れ、そこいらで焼け焦げた木々が倒壊していく。絶え間ない戦闘の合間を縫うようにして作った即興の魔法陣にわりには中々の威力ではあったけれど、結果として魔力を大量に消費しただけで終わってしまった。
「お姉様、もうこれはダメっす。撤退一択っス」
「ヒノの言う通りです。撤退致しましょうお姉様」
顔も声もそっくりな双子が、口調だけはえらく差別化を果たしたいつもの調子で訴えてくる。
見れば私達の集中砲火を浴びたシャドーデビルが爆心地で佇んでいる。恐らく吸収したエネルギーを何らかの形で消化しているのだろう。しばらく動けなさそうなのが、苦労して放った魔法の成果といえば成果ではあるが、あれだけの魔法を浴びせても容量オーバーにならないところを見ると、光魔法を発動できない私達ではもう本当に打つ手がない。
「今さら逃げても無駄でしょう。交戦時間が長すぎました。聞けばシャドーデビルはえらく粘着質な性格のようで、一度獲物と定めた相手をどこまでも追いかけるようです」
「マジっスか? このエルフをポイしても、もう遅い感じっスか?」
「こら、ヒノ。何てこと言うの。すみません、バカな妹で」
「……いや、当然の意見だ。気にしなくていい」
ヒノとシノの手当を受けて随分と体力を回復できた様子のエルフが、それでも依然変わらぬ青い顔でそう言った。
「時間的に考えて、もうそろそろギルドの方で何らかの手を打ってくるでしょう。まぁ十中八九れいのドロテア家の娘をよこすのでしょうけどね」
「新たな聖女と噂の? お姉様はどう考えておられますか、本当に聖女だと?」
「話を聞いた限りでは怪しいところが多々ありましたね。ドロテア家は今代の当主になってから以前にまして見栄を張るようになりました。なのに聖女という意見を否定こそしないものの、肯定しようともしていない。十中八九聖女ではないと思います」
そこでふとエルフが何か言いたそうな顔をした。困ったことにこのエルフはアリア•ドロテアが聖女であるという噂を信じて、ノコノコ王国近くまであんな怪物を運んできたらしい。
「じゃあ、やっぱマズイっスよ。もう何もかも置いて逃げるっスよ」
「お姉様、ここはヒノの意見も一理あるかと」
「そうですね。ですが例え聖女でなくてもアリア•ドロテアが天才であることは間違いないでしょう。そんな天才があの怪物にどんな手段を用いるのか、興味がありませんか?」
「いえ、全くないっス。早く帰りたいっス」
「お姉様、本当にそれだけが目的ですか?」
シノがいやに鋭い視線を向けて来る。
「ふふ。聞くところによればアリア•ドロテアは、それはそれは美しい少女だとか。せっかくの機会ですし、せめて一眼見てみたくはありませんか?」
「お姉様、貴方って人は。今の状況が分かってるんスか? つーかそれ以前に、私達というものがいながら何考えてるんスか?」
「そうです。そもそも何故お姉様が試験官なんてしていらしたのですか? 討伐情報が極端に少ないシャドーデビルを相手取ったことといい、あまりにもお姉様らしくないじゃありませんか」
「アリア•ドロテアの姉が試験を受けに来たと聞いたので、好奇心をくすぐられたのですよ。そしたらどうですか、いや、実に可愛らしい子が来るじゃないですか。それも三人も。ついつい格好をつけたくなったのです。これはそんな私心が生んだ状況なのですよ」
エルフは美しい種族なので普段であっても危険がない範囲であれば助力したでしょうが、S指定の魔物を相手取ってまで守ることにしたのは、あの三人の存在が甚だ大きかった。
「なんスかそれ。三人? 来る時に見たヒヨッコ共のことっスか。私達というものがありながら、マジ信じられないっス」
「諦めさないヒノ。これはお姉様の悪い癖なのよ」
ああ、分かりやすい嫉妬に燃えるその表情、なんと可愛らしいのでしょうか。垂涎ものとは、まさにこのことですね。
私が陶然としていると、エルフが何やら理解したと言わんばかりに頷いた。
「ふっ、そういえば聞いたことがあるな。ギルドの法を犯した処分対象者。しかしその実力の高さ故に忠誠と引き換えに仮初の自由を許された者達の話を。普段その者たちは一般のギルド職員として変わらぬ働きをしているが、一度違反者が出れば、処刑人に早変わりだとか。犯罪者によって犯罪者を罰す、ギルドのアサシン。貴様らがそうなのか?」
「何スかこいつ。何でこんな忙しい時に悠長な自己紹介みたいなことを口にするんスか?」
「落ち着いてください、エルフさん。貴方の怪我は少しばかり酷いので、ちょっとばかし変な妄想に囚われているんです。後で思い返せば、きっと恥ずかしくなると思いますから、少しばかり口を閉じていてくださいな」
「むっ……そ、そうか」
二人の失礼極まりない返しに、エルフは存外素直に頷いた。
ちょっと可愛い。この調子なら、適当な理由をつければその美しい体を堪能できるかもしれない。
「あ、またお姉様がいやらしい顔してるっす」
「待ってヒノ。シャドーデビルが動き始めたわ。おしゃべりの時間は終わり見たいよ」
シノの言う通り、一切の動きを止めていた魔物が活動を再開した。今はまだ冬眠明けの生物のようにゆっくりだが、直ぐに本格始動するだろう。
「さて、どうしますかね」
ひとまず周囲に張り巡らした糸を回収しながら考える。そこでーー
ーーます、か? きこ……え、ます、か?ーー
「……おや、これは面白い」
「お姉様? 今の魔力は念話ですか?」
「そうです。指輪を媒介に作戦を伝えてきました」
命懸けの報酬を貰うついでに渡した指輪がこんな形で役に立つとは。しかしまさか彼女達が戻って来るとは。それもギルドの援軍よりも早く。
「ふふ、良いですね。その作戦に乗ってあげましょう」
「どういうことっスか? ギルドからの援軍が来たんじゃないんスか?」
「お姉様? アリア•ドロテアですか? 彼女が来たのですか?」
「いいえ、違います。やって来たのは……」
そうして木々の合間を縫って彼女達が姿を現す。若さという怖いもの知らずな覇気に満ち満ちた三人。その先頭にいるのは夜のように艶やかな黒髪に、宝石のように美しくも強固な意思を紫色の瞳に宿したーー
「ドロシー•ドロテアです」
地面が大きく抉れ、そこいらで焼け焦げた木々が倒壊していく。絶え間ない戦闘の合間を縫うようにして作った即興の魔法陣にわりには中々の威力ではあったけれど、結果として魔力を大量に消費しただけで終わってしまった。
「お姉様、もうこれはダメっす。撤退一択っス」
「ヒノの言う通りです。撤退致しましょうお姉様」
顔も声もそっくりな双子が、口調だけはえらく差別化を果たしたいつもの調子で訴えてくる。
見れば私達の集中砲火を浴びたシャドーデビルが爆心地で佇んでいる。恐らく吸収したエネルギーを何らかの形で消化しているのだろう。しばらく動けなさそうなのが、苦労して放った魔法の成果といえば成果ではあるが、あれだけの魔法を浴びせても容量オーバーにならないところを見ると、光魔法を発動できない私達ではもう本当に打つ手がない。
「今さら逃げても無駄でしょう。交戦時間が長すぎました。聞けばシャドーデビルはえらく粘着質な性格のようで、一度獲物と定めた相手をどこまでも追いかけるようです」
「マジっスか? このエルフをポイしても、もう遅い感じっスか?」
「こら、ヒノ。何てこと言うの。すみません、バカな妹で」
「……いや、当然の意見だ。気にしなくていい」
ヒノとシノの手当を受けて随分と体力を回復できた様子のエルフが、それでも依然変わらぬ青い顔でそう言った。
「時間的に考えて、もうそろそろギルドの方で何らかの手を打ってくるでしょう。まぁ十中八九れいのドロテア家の娘をよこすのでしょうけどね」
「新たな聖女と噂の? お姉様はどう考えておられますか、本当に聖女だと?」
「話を聞いた限りでは怪しいところが多々ありましたね。ドロテア家は今代の当主になってから以前にまして見栄を張るようになりました。なのに聖女という意見を否定こそしないものの、肯定しようともしていない。十中八九聖女ではないと思います」
そこでふとエルフが何か言いたそうな顔をした。困ったことにこのエルフはアリア•ドロテアが聖女であるという噂を信じて、ノコノコ王国近くまであんな怪物を運んできたらしい。
「じゃあ、やっぱマズイっスよ。もう何もかも置いて逃げるっスよ」
「お姉様、ここはヒノの意見も一理あるかと」
「そうですね。ですが例え聖女でなくてもアリア•ドロテアが天才であることは間違いないでしょう。そんな天才があの怪物にどんな手段を用いるのか、興味がありませんか?」
「いえ、全くないっス。早く帰りたいっス」
「お姉様、本当にそれだけが目的ですか?」
シノがいやに鋭い視線を向けて来る。
「ふふ。聞くところによればアリア•ドロテアは、それはそれは美しい少女だとか。せっかくの機会ですし、せめて一眼見てみたくはありませんか?」
「お姉様、貴方って人は。今の状況が分かってるんスか? つーかそれ以前に、私達というものがいながら何考えてるんスか?」
「そうです。そもそも何故お姉様が試験官なんてしていらしたのですか? 討伐情報が極端に少ないシャドーデビルを相手取ったことといい、あまりにもお姉様らしくないじゃありませんか」
「アリア•ドロテアの姉が試験を受けに来たと聞いたので、好奇心をくすぐられたのですよ。そしたらどうですか、いや、実に可愛らしい子が来るじゃないですか。それも三人も。ついつい格好をつけたくなったのです。これはそんな私心が生んだ状況なのですよ」
エルフは美しい種族なので普段であっても危険がない範囲であれば助力したでしょうが、S指定の魔物を相手取ってまで守ることにしたのは、あの三人の存在が甚だ大きかった。
「なんスかそれ。三人? 来る時に見たヒヨッコ共のことっスか。私達というものがありながら、マジ信じられないっス」
「諦めさないヒノ。これはお姉様の悪い癖なのよ」
ああ、分かりやすい嫉妬に燃えるその表情、なんと可愛らしいのでしょうか。垂涎ものとは、まさにこのことですね。
私が陶然としていると、エルフが何やら理解したと言わんばかりに頷いた。
「ふっ、そういえば聞いたことがあるな。ギルドの法を犯した処分対象者。しかしその実力の高さ故に忠誠と引き換えに仮初の自由を許された者達の話を。普段その者たちは一般のギルド職員として変わらぬ働きをしているが、一度違反者が出れば、処刑人に早変わりだとか。犯罪者によって犯罪者を罰す、ギルドのアサシン。貴様らがそうなのか?」
「何スかこいつ。何でこんな忙しい時に悠長な自己紹介みたいなことを口にするんスか?」
「落ち着いてください、エルフさん。貴方の怪我は少しばかり酷いので、ちょっとばかし変な妄想に囚われているんです。後で思い返せば、きっと恥ずかしくなると思いますから、少しばかり口を閉じていてくださいな」
「むっ……そ、そうか」
二人の失礼極まりない返しに、エルフは存外素直に頷いた。
ちょっと可愛い。この調子なら、適当な理由をつければその美しい体を堪能できるかもしれない。
「あ、またお姉様がいやらしい顔してるっす」
「待ってヒノ。シャドーデビルが動き始めたわ。おしゃべりの時間は終わり見たいよ」
シノの言う通り、一切の動きを止めていた魔物が活動を再開した。今はまだ冬眠明けの生物のようにゆっくりだが、直ぐに本格始動するだろう。
「さて、どうしますかね」
ひとまず周囲に張り巡らした糸を回収しながら考える。そこでーー
ーーます、か? きこ……え、ます、か?ーー
「……おや、これは面白い」
「お姉様? 今の魔力は念話ですか?」
「そうです。指輪を媒介に作戦を伝えてきました」
命懸けの報酬を貰うついでに渡した指輪がこんな形で役に立つとは。しかしまさか彼女達が戻って来るとは。それもギルドの援軍よりも早く。
「ふふ、良いですね。その作戦に乗ってあげましょう」
「どういうことっスか? ギルドからの援軍が来たんじゃないんスか?」
「お姉様? アリア•ドロテアですか? 彼女が来たのですか?」
「いいえ、違います。やって来たのは……」
そうして木々の合間を縫って彼女達が姿を現す。若さという怖いもの知らずな覇気に満ち満ちた三人。その先頭にいるのは夜のように艶やかな黒髪に、宝石のように美しくも強固な意思を紫色の瞳に宿したーー
「ドロシー•ドロテアです」
0
あなたにおすすめの小説
「お幸せに」と微笑んだ悪役令嬢は、二度と戻らなかった。
パリパリかぷちーの
恋愛
王太子から婚約破棄を告げられたその日、
クラリーチェ=ヴァレンティナは微笑んでこう言った。
「どうか、お幸せに」──そして姿を消した。
完璧すぎる令嬢。誰にも本心を明かさなかった彼女が、
“何も持たずに”去ったその先にあったものとは。
これは誰かのために生きることをやめ、
「私自身の幸せ」を選びなおした、
ひとりの元・悪役令嬢の再生と静かな愛の物語。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
私に姉など居ませんが?
山葵
恋愛
「ごめんよ、クリス。僕は君よりお姉さんの方が好きになってしまったんだ。だから婚約を解消して欲しい」
「婚約破棄という事で宜しいですか?では、構いませんよ」
「ありがとう」
私は婚約者スティーブと結婚破棄した。
書類にサインをし、慰謝料も請求した。
「ところでスティーブ様、私には姉はおりませんが、一体誰と婚約をするのですか?」
妹と旦那様に子供ができたので、離縁して隣国に嫁ぎます
冬月光輝
恋愛
私がベルモンド公爵家に嫁いで3年の間、夫婦に子供は出来ませんでした。
そんな中、夫のファルマンは裏切り行為を働きます。
しかも相手は妹のレナ。
最初は夫を叱っていた義両親でしたが、レナに子供が出来たと知ると私を責めだしました。
夫も婚約中から私からの愛は感じていないと口にしており、あの頃に婚約破棄していればと謝罪すらしません。
最後には、二人と子供の幸せを害する権利はないと言われて離縁させられてしまいます。
それからまもなくして、隣国の王子であるレオン殿下が我が家に現れました。
「約束どおり、私の妻になってもらうぞ」
確かにそんな約束をした覚えがあるような気がしますが、殿下はまだ5歳だったような……。
言われるがままに、隣国へ向かった私。
その頃になって、子供が出来ない理由は元旦那にあることが発覚して――。
ベルモンド公爵家ではひと悶着起こりそうらしいのですが、もう私には関係ありません。
※ざまぁパートは第16話〜です
もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。