婚約者の地位? 天才な妹に勝てない私は婚約破棄して自由に生きます

名無しの夜

文字の大きさ
97 / 149
連載

143 追跡

しおりを挟む
 魔法の力で可能な限り自分の存在を消しながら、木々の迷路を駆け抜ける。

 いない。ラーちゃんが茂みに消えて二分と経っていないのに、どこにも彼女の姿が見当たらない。小さな女の子が魔物が生息する森の中で行方不明。なのに自分でも驚くくらい声を上げて探す気にならなかった。

 風に揺れる木の葉が揺れて不気味な声を上げる。耳をすませば、その音の中に違和感を見つけた。

「……こっちかな?」

 常に木を使って体を隠しながら移動する。この感じ、ちょっとだけ懐かしい。魔法学校の授業では魔物に対抗する技術を習うけど、そこで重要視されるのは、相対してからの戦闘術よりも、むしろ相手を先に発見するための索敵術や追跡術、そして敵襲を受けた時の逃走術だったりする。だから音の他にも地面や茂みにできた小さな痕跡からラーちゃんの後を追うのはそう難しいことではなかった。ただ……茂みに入ってからの時間を考えると、子供の足でここまで来れるものなのかな?

「オェエエエエエ!!」
「な、何?」

 突然聞こえてきたそれは、思わず竦みそうになるような低い声。

 妖精のマントを身につけているけれど、それでも私の存在に気付かれないよう慎重に藪をかき分ける。するとーー

「オェエエエエエ!!」

 幼い女の子が木に寄り掛かって嘔吐を繰り返していた。ビチャビチャと地面を濡らすそれは胃液とは思えないほどに透明で、こちらに背を向けた少女の肩が動く度、口のあたりから煙が上がった。

 吐き出しているのは聖水? ならやっぱりーー

「誰!?」

 物凄い勢いで少女が振り向いた。

「誰かいるの?」

 幼い声音はそのままに、ラーちゃんの顔からは一切の表情が消えている。不自然なまでに大きく見開かれた瞳がキョロキョロと周囲を見回した。

「……お姉ちゃん? いるの? お姉ちゃん?」

 ダメだ。ここで見つかるのは絶対に拙い。

 私は仕掛けておいた魔法を発動させた。

「ラーちゃん。大丈夫? 遠くに行っちゃダメだからね」

 皆がいる所から私の声が飛んでくる。それにピタリと動きを止めたラーちゃんはーー

「うん。大丈夫だよ」

 と、酷く大きな声を返した。けれどもしも馬車の側で聞いたなら、すぐ近くにいるんだろうなと感じたであろう声量だ。

 この子、やっぱり魔物? でもどっちなの?

 擬態系か憑依系か。擬態系なら完全に魔物だけど、万が一、死霊に憑かれただけの子供、あるいは魔法で操られているだけの被害者なら直接攻撃するわけにはいかない。何にせよ、ガルドさんの聖水が効かない程の相手だ。私達だけで対処せずにエルフの助力を得た方が良さそうだ。

 私は慎重にその場を後にした。
しおりを挟む
感想 149

あなたにおすすめの小説

「お幸せに」と微笑んだ悪役令嬢は、二度と戻らなかった。

パリパリかぷちーの
恋愛
王太子から婚約破棄を告げられたその日、 クラリーチェ=ヴァレンティナは微笑んでこう言った。 「どうか、お幸せに」──そして姿を消した。 完璧すぎる令嬢。誰にも本心を明かさなかった彼女が、 “何も持たずに”去ったその先にあったものとは。 これは誰かのために生きることをやめ、 「私自身の幸せ」を選びなおした、 ひとりの元・悪役令嬢の再生と静かな愛の物語。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

私に姉など居ませんが?

山葵
恋愛
「ごめんよ、クリス。僕は君よりお姉さんの方が好きになってしまったんだ。だから婚約を解消して欲しい」 「婚約破棄という事で宜しいですか?では、構いませんよ」 「ありがとう」 私は婚約者スティーブと結婚破棄した。 書類にサインをし、慰謝料も請求した。 「ところでスティーブ様、私には姉はおりませんが、一体誰と婚約をするのですか?」

妹と旦那様に子供ができたので、離縁して隣国に嫁ぎます

冬月光輝
恋愛
私がベルモンド公爵家に嫁いで3年の間、夫婦に子供は出来ませんでした。 そんな中、夫のファルマンは裏切り行為を働きます。 しかも相手は妹のレナ。 最初は夫を叱っていた義両親でしたが、レナに子供が出来たと知ると私を責めだしました。 夫も婚約中から私からの愛は感じていないと口にしており、あの頃に婚約破棄していればと謝罪すらしません。 最後には、二人と子供の幸せを害する権利はないと言われて離縁させられてしまいます。 それからまもなくして、隣国の王子であるレオン殿下が我が家に現れました。 「約束どおり、私の妻になってもらうぞ」 確かにそんな約束をした覚えがあるような気がしますが、殿下はまだ5歳だったような……。 言われるがままに、隣国へ向かった私。 その頃になって、子供が出来ない理由は元旦那にあることが発覚して――。 ベルモンド公爵家ではひと悶着起こりそうらしいのですが、もう私には関係ありません。 ※ざまぁパートは第16話〜です

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。