婚約者の地位? 天才な妹に勝てない私は婚約破棄して自由に生きます

名無しの夜

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147 対価

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「オオルバさんが……妖精?」

 そういえば、大人の女性の色香を強烈に身に纏っているとはいえ、オオルバさんの見た目は二十代前半でもおかしくない若々しさだ。なのにどうして俺はこの人を祖母のように歳の離れた人だと確信して疑わなかったのだろうか?

 妖精の認識操作。それはどんな魔法よりも根源的できっかけがなければきっと一生気付けなかった。

「なんだい、坊や。いくら美しいからってね、レディをそんなにジロジロ見るもんじゃないよ」
「あっ、スミマセン。でもまさかオオルバさんが妖精だなんて……」
「レオ、この話は外でしないで」
「へ? あ、ああ。分かった」

 神格種が路地裏でひっそりと店をやってると言っても信じる奴はいない気がするが……それにしてもアリアさんはオオルバさんと知り合いだったのか? 二人が一緒にいるところを見るのはこれが初めてだが、オオルバさんの事情についてやけに詳しそうだ。いや、今はそれよりもーー

「え~と、それで結局……」

 協力の件はどうなるんだ? オオルバさんが直接力を貸してくれるなら頼もしいが、何やら事情もあるみたいだし、何よりも元々ここに来たのは魔法具を貸して欲しいからだ。この際、そっちの協力を得られるならば、細かいことはどうでもよかった。

「そうだね。それじゃあ……」

 多分だが直接力を貸すのか、魔法具だけにするのか、悩んでいる様子のオオルバさん。そんな店主をアリアさんは睨むようにジッと見つめている。

 似て非なる二つの銀が暫くお互いだけを映す。

 やがてオオルバさんは苦笑すると肩をすくめた。

「これを持っていきな」

 そう言って手渡されたバックの中には、幾つかの魔法具が入っていた。

「中に入ってる妖精の粉を使えばマントと同じ効果を発揮することができる。後は透過のリングと導きの葉を上手いこと使えば王都を出ることができるだろうさ」

 透過のリングに導きの葉は品によって大きく効果が違うものだが、オオルバさんが用意してくれたものなら信用できる。

「ありがとうございます。って、アリアさん?」

 横から伸びてきた手が魔法具の入ったバックを攫う。

「対価は?」
「ドロシー嬢ちゃんの為だからね。別にそれぐらいタダであげるよ」
「ダメ。言って」
「ふふ。無頓着に見えて頑固。そういうところは本当によく似て……いや、これは余計なことだね。それにしても対価か。ふ~む。そうさね」

 吐き出された紫煙がドーナツのような形になった。灰皿の上でキセルが音を立てる。

「それじゃあアリア嬢ちゃん、うちで働いてみないかい?」
「……私が、ここで?」
「そう。何せ一人しかいない従業員であるドロシー嬢ちゃんが冒険者になったから人手が足りなくてね。もちろん時間のある時だけでいいよ。どうだい?」
「分かった。やる」

 そう答えると、彼女はバックを俺に返して来た。

「あっ、その中にローブが入ってるから使うといいさね」
「…………」

 アリアさんはバックから白いローブを取り出すと、それをドレスの上から纏った。そして髪留めを使って腰まで真っ直ぐに伸びた銀の髪を後ろで一括りにする。

「行ってくる」
「はいよ。気をつけるんだよ。それと危なくなったら遠慮なく私を呼ぶんだよ」
「…………」

 アリアさんは何も答えず、ただオオルバさんに背中を向けた。

「えっと……」

 話は終わり、か? 目的だったモノは手に入れられたのに、なんかスゲー蚊帳の外って感じだ。と言うか話の流れからしてアリアさんもついてくるのか? そんなことして、あの親父さんは何も言わないんだろうか。

「何だい? やっぱり私とお喋りしたいのかい? 気持ちは嬉しいがレディを待たせるのは感心しないよ」

 開かれたドアから早朝の空気が流れ込んでくる。アリアさんは一人さっさと店を出て行ってしまった。

 本当、スゲーマイペースな人だよな。

 俺は慌ててオオルバさんに頭を下げた。

「ありがとうございました。あの、魔法具をお借りするのは俺も同じなので、これが終わったら俺も働かせてください」
「いいとも。……ドロシー嬢ちゃんとアリア嬢ちゃんのこと、よろしく頼んだよ」
「はい!」

 俺はバックを肩に担ぐと、アリアさんの後を追いかけた。
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