婚約者の地位? 天才な妹に勝てない私は婚約破棄して自由に生きます

名無しの夜

文字の大きさ
114 / 149
連載

160 歓声

しおりを挟む
「月よ、良ければ私の馬に乗らないかな?」

 一眼で魔力種だと分かる立派な体躯を誇る白馬。それに跨ったガルドがアリアさんにそんな提案をした。

「…………」
「勿論、無理にとは言わないよ。望むなら君達の馬を借りてこよう」

 教会の最高幹部の馬だけあって、ガルドが乗っている白馬は一目でシロや黒帝王よりも生物として性能が上だと分かる。それはそのまま移動速度や緊急時の対応の幅へと繋がるだろう。

「……乗る」

 ヒラリ、とアリアさんが重力を感じさせない動きでガルドの馬に飛び乗った。

「ふむ。こんな形で君と触れ合えるとは、僥倖といったところかな」

 手綱を握るという大義名分の下、ガルドの両腕がアリアさんの体に回される。

 白馬に跨る絶世の美男美女。スゲー絵になる。絵になるけど、何かモヤモヤするな。ってか、あそこまで密着する必要あるのか? いや、アリアさんが嫌がってないなら別にいいんだけどさ。

「レオ・ルネラード。乗りなさい」

 黒馬の上から女従者が声を掛けてくる。

 名前は確かリリーナさん……だったか? うん。だったな。

「ありがとうございます」

 俺はリリーナさんの後ろに飛び乗った。その際、背中の大剣が馬に当たらないよう結構気を使った。

「それでは行くとしようか。全員覚悟はいいかな?」
「早く」
「ああ」
「勿論です。ガルド様」
「よろしい」

 ガルドは一つ頷くと馬を走らせた。とは言ってもまだ王都の中なので普通の馬の駆け足程度と変わらない速度だ。馬をとってくる際に話をつけたのだろう。城門前には王国軍が集結しつつあったが、兵が綺麗に左右に寄っていたので、馬を止める必要はなかった。

 なんかスゲー目立ってないか?

 通っている所を考えれば当然と言えば当然なのだが、それにしたって兵達の注目度が高すぎる気がする。普通出兵前というのはもっと忙しいものではないのだろうか? 何故こうも注目されているのか。俺が訝しんでいるとーー

「うぉおおおお!!」 

 いきなり兵達が拳を天に突き上げた。そして雄叫び、いや違う。歓声だ。歓声を上げた。よく見れば中には跪いて祈りを捧げている者までいる。

 無論、兵達の歓声も祈りも俺に対してではない。それらはたった一人の男に収束しており、この熱狂の前ではあのアリアさんですら単なる部外者でしかなかった。

 最強の聖人。ガルド・セインクリアテッド。

 魔物という人類の天敵が跋扈するこの世界で、知らぬ者を探す方が難しい、この中央大陸における人類の守護者。いや、たとえガルドのことを知らなくとも、この声援を聞けばアイツが今までどれだけの偉業をなして来たのか、容易に想像できるだろう。

「初めに言っておきますレオ・ルネラード」

 その声は兵達の声に紛れるかのように、ひっそりとしていた。

「何だよ?」
「ガルド様の御身が危険な時は命を賭してガルド様の盾になりなさい。私達三人が死んでもガルド様が生きてさえいれば、この先何千、何万という人々を救えるのですから。逆にもしもガルド様を死なせてしまえば、数万の人々を見殺しにするのと同義なのだと肝に銘じなさい。いいですね? 命を惜しまず、献身に努めるのです」
「……ガルドがスゲー奴だってことは認める。だがルネラードの人間は命を区別しない。ガルドは勿論、アンタもアリアさんも俺は見捨てない」

 リリーナさんがこちらを振り返った。炎のような色とは裏腹に、その瞳は氷のように冷ややかだ。

「これだから新兵は。……貴方が実力とは無関係のところで我々の足を引っ張らないことを祈っています」

 そして馬が速度を上げた。想像以上の速さだ。歓声はあっという間に遥か後方となった。

 足を引っ張るなだって? 上等だ。見てろよ。必ず魔物を倒してドロシーさん達を助けてみせる。勿論誰も死なせずに。

 初めて挑む国家レベルの戦闘を前に、俺の心臓はかつてない激しさで胸を叩いた。
しおりを挟む
感想 149

あなたにおすすめの小説

「お幸せに」と微笑んだ悪役令嬢は、二度と戻らなかった。

パリパリかぷちーの
恋愛
王太子から婚約破棄を告げられたその日、 クラリーチェ=ヴァレンティナは微笑んでこう言った。 「どうか、お幸せに」──そして姿を消した。 完璧すぎる令嬢。誰にも本心を明かさなかった彼女が、 “何も持たずに”去ったその先にあったものとは。 これは誰かのために生きることをやめ、 「私自身の幸せ」を選びなおした、 ひとりの元・悪役令嬢の再生と静かな愛の物語。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

私に姉など居ませんが?

山葵
恋愛
「ごめんよ、クリス。僕は君よりお姉さんの方が好きになってしまったんだ。だから婚約を解消して欲しい」 「婚約破棄という事で宜しいですか?では、構いませんよ」 「ありがとう」 私は婚約者スティーブと結婚破棄した。 書類にサインをし、慰謝料も請求した。 「ところでスティーブ様、私には姉はおりませんが、一体誰と婚約をするのですか?」

妹と旦那様に子供ができたので、離縁して隣国に嫁ぎます

冬月光輝
恋愛
私がベルモンド公爵家に嫁いで3年の間、夫婦に子供は出来ませんでした。 そんな中、夫のファルマンは裏切り行為を働きます。 しかも相手は妹のレナ。 最初は夫を叱っていた義両親でしたが、レナに子供が出来たと知ると私を責めだしました。 夫も婚約中から私からの愛は感じていないと口にしており、あの頃に婚約破棄していればと謝罪すらしません。 最後には、二人と子供の幸せを害する権利はないと言われて離縁させられてしまいます。 それからまもなくして、隣国の王子であるレオン殿下が我が家に現れました。 「約束どおり、私の妻になってもらうぞ」 確かにそんな約束をした覚えがあるような気がしますが、殿下はまだ5歳だったような……。 言われるがままに、隣国へ向かった私。 その頃になって、子供が出来ない理由は元旦那にあることが発覚して――。 ベルモンド公爵家ではひと悶着起こりそうらしいのですが、もう私には関係ありません。 ※ざまぁパートは第16話〜です

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。