婚約者の地位? 天才な妹に勝てない私は婚約破棄して自由に生きます

名無しの夜

文字の大きさ
144 / 149
連載

190 停止

しおりを挟む
 馬車の窓から流れていく景色を何とはなしに見つめる。

 魔法隊の人も加わったから、今回は今までで最大規模のレイド……なんだけど、仕事内容自体は既に何回かやったポポルシェ王国までの護衛。

 普段は私達のクランだけでやってる仕事を、これだけの人数で行う。しかもみんな私たちよりもベテランさん。

 護衛という任務の性質以上、こんな風に思うのはあんまり良くはないんだけどーー

「なんか今回すっごい楽な感じじゃない?」
「もう、アリリアナったら。仕事中なんだから思ってても口に出しちゃダメでしょ」
「そうは言ってもさぁ、今回は魔法隊の人が先行して安全を確認してくれてるから盗賊の待ち伏せや罠の可能性に気をつけなくていいし、ポタラさん達との同乗はベテランクランの人たちが引き受けてくれたし、正直私たちやることない感じじゃない?」

 確かに今回私たちのおまけ感が強い。でもお仕事だし、頑張らないと。

「まったくアリリアナったら、リーダーがそんなことでは困りますわね。一流のプロたるもの、常にコンディションを整え、今自分に何ができるのかを考えるべきですわよ。人任せなんて言語道断ですわ」
「ドロシー、人のお金で賭け事する奴がなんか言ってる感じなんだけど」
「アリリアナは貸さないでしょう。それとイリーナ。この間貸したお金、まだ返してもらってないんだけど?」
「ふっ。それはですね……」

 イリーナは髪を優雅にかきあげるとーー

「すみません~!! も、もう少し、もう少しだけ待って欲しいですわ。この仕事の報酬でお支払いしますので、何卒! 何卒~!!」
「う、うん。それはいいんだけどさ、いつも言ってるけどその謝り方やめて欲しいんだけど」
「是非に! 是非に~!!」
「いや、だから分かったってば!」

 鎧を身に纏っているイリーナは黙っていれば、それこそ絵巻に出てきてもおかしくない凛々しくて、立派な騎士に見える。そんな人がいきなり額を床に擦り付けると、なんかこう……とにかく見ていられない。

「アハハ。コンディション整えるどころか、コミュニケーションに支障をきたしちゃった感じじゃん。アハハ」
「笑いたければ笑うがいいですわ。いつか爆勝ちするその日まで、恥を忍んで賭け事に勤しみますわ」
「えっと、恥ずかしいと感じてるならもうやめたほうが……。後、アリリアナは笑いすぎだから」
「ごめん。ごめん。よし。ここはリーダーとしてクランのコミュニケーションを円滑にするべく頑張ってみるわ」

 また唐突なことを言い出した。でもアリリアナがこういうことをするたび、クランの雰囲気が明るくなるのは確かなんだよね。

 アリリアナが床に手をついているイリーナを見た。

「まずイリーナ」
「何ですの」
「は、別にいいか」
「何ですの!?」

 不満そうなイリーナを無視して、アリリアナがロックオンしたのは、鳥の姿になったドルドさんを珍しそうに観察しているアリアだった。

「やっぱり新規加入者とは積極的にコミュニケーションを取るべきよね。そういうわけでよろしくね。妹ちゃん」
「…………」

 アリリアナが近付くと、アリアは私の隣に移動してきた。

「ちょっと、なんで逃げるし? ドロシーも何か言ってあげて」

 隣に座った妹の肩が私の肩に触れる。

 そういえば昔はこんな風に何かあるとすぐくっついて来たっけ。あの時のアリア、可愛かったなぁ。

「あの、もしもし、ドロシーさん? あっ、ダメだわ。自分の世界に入った感じ。……ねぇ、ドロシー! 貴方のレオ君が呼んでる感じなんですけど!!」
「へ? えっ!? な、なに?」
「おい、アリリアナ。適当なこと言うなよな」

 あ、なんだ。またアリリアナの冗談か。

 レオ君と目が合う。朝の件でちょっと気まずかったけど、優しく笑いかけてくれたので安心した。私も笑顔を作るけど、彼みたいに優しく笑えてる自信はない。笑顔の練習とかした方がいいのかな? そこでふと、隣からの視線に気がついた。

「なによ?」
「……別に」

 アリアはまたドルドさんの観察に戻る。軽い振動。あれ? 今のってーー

「馬車が止まった?」
「ロロルド、どうしましたの?」

 車内に緊張が走る。騎士であるイリーナと近接戦闘に強いレオ君がすぐに外に出て、馬に乗っているセンカさんと合流する。アリアはドルドさんの観察を構わず続けてる。

「さて、この位置からでは危険は確認できませんな。アリリアナ殿?」
「オッケー! あっ、待って。今アリュウさんから連絡入った感じ」

 クランのリーダー達は念話の為の魔法具をお互いに装備している。

 一応、警戒のために馬車の機能で壁を全面透過状態にしておこうかな。……うん。特に危なそうな雰囲気はない。

「なんか子供づれの女性が馬車の進路を妨害してるみたい」
「それって……」
「これはまた難しい選択になりそうな感じね」

 魔物の大量発生のせいで、今まで通りの生活が困難となった村が増えてきている。なので物資を運んでいると、何か貰えないかと声をかけられることが少なくない。

「できれば力になってあげたいけど、難しいかな?」
「食料はいつも通り多めに持ってきてるけど、百人を超える規模だと対応できない感じだし、今はレイドの最中。セオリー通りなら無視するのが最善手ね」

 ギルドの方針では輸送中に明らかな妨害行為があった場合、二回警告をして従わなければ攻撃していいことになってる。でも依頼人であるポタラさんはきっとーー

 アリリアナが魔道具に耳を傾ける。

「はい。まぁ、やっぱそんな感じになりますよね。いえいえ。私も大賛成ですよ。はい。じゃあそういう感じで。……話を聞くってさ」

 十人商人がいたら九人、ううん。ひょっとしたら十人全員が選ばない選択肢。イージーだった仕事の難易度が上がりそうだと言うのに、ポタラさんの選択にアリリアナはどこか嬉しそうだった。

 そして私たちは馬車を降りた。
しおりを挟む
感想 149

あなたにおすすめの小説

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

十六歳の妹の誕生日、私はこの世を去る。

あいみ
恋愛
碌に手入れもされていない赤毛の伯爵令嬢、スカーレット。 宝石のように澄んだ青い髪をした伯爵令嬢、ルビア。 対極のような二人は姉妹。母親の違う。 お世辞にも美しいと言えない前妻の子供であるスカーレットは誰からも愛されない。 そばかすだらけで、笑顔が苦手な醜い姉。 天使のように愛らしく、誰からも好かれる可愛い妹。 生まれつき体の弱いルビアは長くは生きられないと宣告されていた。 両親の必死に看病や、“婚約者の献身的なサポート”のおかげで、日常生活が送れるようになるまで回復した。 だが……。運命とは残酷である。 ルビアの元に死神から知らせが届く。 十六歳の誕生日、ルビアの魂は天に還る、と。 美しい愛しているルビア。 失いたくない。殺されてなるものか。 それぞれのルビアを大切に思う想いが、一つの選択をさせた。 生まれてくる価値のなかった、醜いスカーレットを代わりに殺そう、と。 これは彼女が死ぬ前と死んだ後の、少しの物語。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

私に姉など居ませんが?

山葵
恋愛
「ごめんよ、クリス。僕は君よりお姉さんの方が好きになってしまったんだ。だから婚約を解消して欲しい」 「婚約破棄という事で宜しいですか?では、構いませんよ」 「ありがとう」 私は婚約者スティーブと結婚破棄した。 書類にサインをし、慰謝料も請求した。 「ところでスティーブ様、私には姉はおりませんが、一体誰と婚約をするのですか?」

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

そんなに嫌いなら、私は消えることを選びます。

秋月一花
恋愛
「お前はいつものろまで、クズで、私の引き立て役なのよ、お姉様」  私を蔑む視線を向けて、双子の妹がそう言った。 「本当、お前と違ってジュリーは賢くて、裁縫も刺繍も天才的だよ」  愛しそうな表情を浮かべて、妹を抱きしめるお父様。 「――あなたは、この家に要らないのよ」  扇子で私の頬を叩くお母様。  ……そんなに私のことが嫌いなら、消えることを選びます。    消えた先で、私は『愛』を知ることが出来た。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。