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10.アサシン達の方針
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「これを見て欲しいニャ」
テーブルの上に置かれた写真にアサシン達の視線が集う。
「フラウダ様だわニャ。この街にいたのねニャ」
「もう発見するなんて凄いと僕は思うニャ」
「俺はリーダーを信じてたニャ」
部下達の尊敬の眼差しを受けて、闇組獣魔暗殺隊を統べる女はその生真面目な顔に満更でもなさそうな笑みを浮かべた。
「長年フラウダ様に振り回されてきた経験が役に立ったニャ。でもだからこそ分かるニャ。問題発生ニャ」
「問題? 四天王が魔王軍を離反しただけでも既に大問題だわニャ」
「そうニャ。既に問題は起こってるんだよニャ」
「俺はフラウダ様を信じてるニャ」
「いいからとりあえずこの写真を見るニャ」
テーブルに追加された写真。そこでは満面の笑みを浮かべた元四天王が二人の子供の手を引いていた。
「「「…………」」」
アサシン達は数秒の間、無言で顔を見合わせた。
「……なるほど。確かにこれは問題だわニャ」
「女性要素が強く発現してるよ。完全にこの子供達を保護対象と認識してるようだねニャ」
「リーダー、この子供は誰なんだニャ。魔族か? それともまさか……人間ニャ?」
魔力と霊力。内包する力がそれぞれ異なる魔族と人間は、ほとんど魔術や霊術を扱えない一般の者でも見間違えることがない。だがそれはあくまでも実際に見たらの話であり、写真越しでは獣人のような分かりやすい特徴でもない限り魔族と人間を見分けることは至難となる。
「魔族領で普通に行動できているのだから、魔族でいいんじゃないかしらニャ」
「それは早計だと僕は思うニャ。フラウダ様ならそれくらい幾らでも誤魔化せる手段を持っているニャ」
その戦闘能力もさることながら大地の支配者と謳われた四天王の恐ろしさは全魔族の中で最も応用力の利くと言わしめたその特異な植物だ。
アサシン達の視線が答えを求めてリーダーへと集まる。
「この子供については調査段階ニャ。ただ気になることがあるニャ」
そこでネココは金髪でお揃いの黒装束の胸元を最も大きく膨らませている部下へと顔を向けた。
「例の報告をお願いニャ」
「フラウダ様の蔓に捕まっていた帝国兵のことだわねニャ。全員は間に合わなかったのだけど、あの中の一人はジケンダ街に配属されている軍人だと判明したわニャ」
「軍犬をつれてた人達のことだねニャ」
ネココは黒髪ショートカットの部下の言葉に頷いた。
「そうニャ。明らかに誰かを追跡中にフラウダ様の妨害を食らったニャ」
「それがこの子供なのかニャ?」
「その可能性が高いニャ。もしやと思って確認したら闇組の潜入班から新着情報が支部に入ってたニャ。人間領のジケンダ街の近くに帝国の秘密基地と思われる施設が見つかったニャ」
「ジケンダ街? 兵士の一人がそこの配属という話なんだよね? でも境界線からそこそこ離れた街だし、今回の件とどういう関係があるんだニャ」
「その施設を発見できたのは何者かが内部から破壊工作を行ったかららしいんだニャ。また、未確定ながらその何者かを狙ったと思われる人間の部隊が何隊か壊滅したようなニャ。その中にはホルデ隊も入っている可能性が高いとのことニャ」
「えっ!? 猟犬部隊として悪名高いあのホルデ隊がニャ? これはめでたいと僕は思うニャ。今夜はお祝いしようよニャ」
「いいぜニャ。俺はお祝いに大賛成だニャ」
黒髪の獣人と赤髪の獣人が掌を打ち鳴らすのを横目に、金髪の獣人が真剣な瞳をリーダーへと向ける。
「……まさかリーダーはこの子供が帝国の基地をたった二人で破壊して逃走、あのホルデ隊をも壊滅させたと思ってるのかしらニャ」
「見つかった秘密基地はなんらかの実験施設の可能性が非常に高いようなんだニャ。それで子供とくれば……後は分かるニャ?」
アサシン達の視線がフラウダに手を引かれる子供達へと再度集まる。
「半人半魔の可能性が高いということなのねニャ」
「それだけじゃないと思うニャ。基本半人半魔は一般の人間よりは少し体が強いかもってくらいニャ。でもこの歳でこれだけのことが可能なのは明らかに並じゃないニャ」
「特異体。ごく稀に出てくる魔族と人間を遥かに上回る特殊個体か。人間は積極的にこういうのを作ろうとするからムカつくんだよニャ」
赤髪の獣人が吐き捨てるように言った。
「それでリーダー。私達のこの子供に対するスタンスはどうするのかしらニャ」
「絶対に手を出してはダメニャ。これは闇組のみならず魔王軍全体にも要請したニャ」
「……フラウダ様、情に流されやすい分、キレたら怖いもんねニャ」
黒髪の獣人が何かを思い出したように遠い目をした後、髪と同じ色の耳と尻尾を一度ブルリと震わせた。
「私もリーダーの考えに賛成だけど、闇組だけならともかく魔王軍全体にその要請は通るのかしらニャ?」
「全体は難しいニャ。でもスイナハ様が動いてくれるとのことなので、それなりに効果はあると思うニャ。私達も任務に支障がない範囲でこの子供達を守るニャ」
リーダーのその命令に金髪の獣人は訝しむように眉を寄せた。
「そこまでするのニャ? ひょっとしてフラウダ様を連れ戻すのにこの子供達を利用すのかしらニャ」
「それも手段の一つとして考えてるニャ。もちろん誘拐など直接の手段は使わずにあくまでも交渉材料の一つとしてニャ」
「一番最初の作戦、僕達はフラウダ様を連れ戻すのに命をかけるから戻ってきてねニャ作戦があっさり破れたもんねニャ」
獣人達は従面を作った後、一斉に顔を赤らめた。
「あ、あれは全部触手が悪いニャ。当初の作戦ではボロボロになりながらも何度も立ち上がる私達を見てフラウダ様が折れる予定だったニャ」
「感動的な構図になるはずが、ゲステンの店で出回りそうな内容になってしまったのは大変遺憾だったわニャ」
「でも、あの触手。正直僕ちょっとクセになりそうだったニャ」
「俺は触手よりも男のフラウダ様の方が断然いいニャ」
「あら、それは私もそうだわニャ」
「僕だってそうだよニャ」
部下達の視線に火花が散るのを見て、ネココはコホン! と咳をついて見せた。
「とにかく私達の方針としてはそういうことになったニャ。長期戦を覚悟することにしたので、気が変わったらいつでも言って欲しいニャ」
「リーダー? 突然どうしたのかしらニャ」
「働きすぎニャ。少し休んだ方がいいニャ」
「俺はリーダーを信じてるニャ」
部下達に気遣わしげな視線を向けられたネココはしかし、悠然と微笑んだ。
「ふっ。分からないのかニャ? 今まさにフラウダ様が私達の会話を聞いていることにニャ」
「「「な、なんだってニャ!?」」」
驚愕の顔を浮かべたネコ娘達が一斉に任務の最中とは思えぬほど豪華な宿、その一室を見回した。がーー
シーン。
返ってきたのは静寂だけだった。
「これはリーダーが読みを外したということかしらニャ」
「シッ。言葉にすると可哀想ニャ。ここはそっと会話を変えるニャ」
「俺はリーダーを信じてるニャ」
部下達の会話にドヤっとした笑みを浮かべていたネココの顔が徐々に赤くなっていく。
「そ、そんなはずないニャ。絶対フラウダ様は私達の会話を聞いてるニャ。そもそも接触する気がないのなら痕跡を消した後、こんなに早く再発見できるわけがないニャ。フラウダ様? 意地悪してないで早く返事するニャ。フラウダ様!?」
シーン。
「そ、そうだわニャ。夜食でも食べないかしらニャ」
「ナイスなアイディアだねニャ。な、なに食べようかなニャ」
「俺は断然かつお節ニャ」
「「リ、リーダーは?」」
部下達の質問に肩をブルブルと震わせたネココが口を開きかけたところでーー
クスクス、クスクス。と鈴を転がしたような笑い声が部屋の空気を揺らしたかと思えば、床や天井から生えた植物が一瞬で室内をジャングルへと変えた。
「猫の手を借りたくて来たんだけど、読まれてたとはね。ちょっと悔しいけどさすがだね、ネココ」
緑に支配された空間で紅い瞳がアサシン達を射抜く。それに魔王軍が誇る暗殺部隊の面々はーー
「うおっしゃ! どうだ、みたかニャ」
「リーダーの読み通りねニャ」
「冴えてるニャ。流石はリーダーニャ」
「俺はリーダーを信じてたニャ」
子供のようにはしゃいでいた。
テーブルの上に置かれた写真にアサシン達の視線が集う。
「フラウダ様だわニャ。この街にいたのねニャ」
「もう発見するなんて凄いと僕は思うニャ」
「俺はリーダーを信じてたニャ」
部下達の尊敬の眼差しを受けて、闇組獣魔暗殺隊を統べる女はその生真面目な顔に満更でもなさそうな笑みを浮かべた。
「長年フラウダ様に振り回されてきた経験が役に立ったニャ。でもだからこそ分かるニャ。問題発生ニャ」
「問題? 四天王が魔王軍を離反しただけでも既に大問題だわニャ」
「そうニャ。既に問題は起こってるんだよニャ」
「俺はフラウダ様を信じてるニャ」
「いいからとりあえずこの写真を見るニャ」
テーブルに追加された写真。そこでは満面の笑みを浮かべた元四天王が二人の子供の手を引いていた。
「「「…………」」」
アサシン達は数秒の間、無言で顔を見合わせた。
「……なるほど。確かにこれは問題だわニャ」
「女性要素が強く発現してるよ。完全にこの子供達を保護対象と認識してるようだねニャ」
「リーダー、この子供は誰なんだニャ。魔族か? それともまさか……人間ニャ?」
魔力と霊力。内包する力がそれぞれ異なる魔族と人間は、ほとんど魔術や霊術を扱えない一般の者でも見間違えることがない。だがそれはあくまでも実際に見たらの話であり、写真越しでは獣人のような分かりやすい特徴でもない限り魔族と人間を見分けることは至難となる。
「魔族領で普通に行動できているのだから、魔族でいいんじゃないかしらニャ」
「それは早計だと僕は思うニャ。フラウダ様ならそれくらい幾らでも誤魔化せる手段を持っているニャ」
その戦闘能力もさることながら大地の支配者と謳われた四天王の恐ろしさは全魔族の中で最も応用力の利くと言わしめたその特異な植物だ。
アサシン達の視線が答えを求めてリーダーへと集まる。
「この子供については調査段階ニャ。ただ気になることがあるニャ」
そこでネココは金髪でお揃いの黒装束の胸元を最も大きく膨らませている部下へと顔を向けた。
「例の報告をお願いニャ」
「フラウダ様の蔓に捕まっていた帝国兵のことだわねニャ。全員は間に合わなかったのだけど、あの中の一人はジケンダ街に配属されている軍人だと判明したわニャ」
「軍犬をつれてた人達のことだねニャ」
ネココは黒髪ショートカットの部下の言葉に頷いた。
「そうニャ。明らかに誰かを追跡中にフラウダ様の妨害を食らったニャ」
「それがこの子供なのかニャ?」
「その可能性が高いニャ。もしやと思って確認したら闇組の潜入班から新着情報が支部に入ってたニャ。人間領のジケンダ街の近くに帝国の秘密基地と思われる施設が見つかったニャ」
「ジケンダ街? 兵士の一人がそこの配属という話なんだよね? でも境界線からそこそこ離れた街だし、今回の件とどういう関係があるんだニャ」
「その施設を発見できたのは何者かが内部から破壊工作を行ったかららしいんだニャ。また、未確定ながらその何者かを狙ったと思われる人間の部隊が何隊か壊滅したようなニャ。その中にはホルデ隊も入っている可能性が高いとのことニャ」
「えっ!? 猟犬部隊として悪名高いあのホルデ隊がニャ? これはめでたいと僕は思うニャ。今夜はお祝いしようよニャ」
「いいぜニャ。俺はお祝いに大賛成だニャ」
黒髪の獣人と赤髪の獣人が掌を打ち鳴らすのを横目に、金髪の獣人が真剣な瞳をリーダーへと向ける。
「……まさかリーダーはこの子供が帝国の基地をたった二人で破壊して逃走、あのホルデ隊をも壊滅させたと思ってるのかしらニャ」
「見つかった秘密基地はなんらかの実験施設の可能性が非常に高いようなんだニャ。それで子供とくれば……後は分かるニャ?」
アサシン達の視線がフラウダに手を引かれる子供達へと再度集まる。
「半人半魔の可能性が高いということなのねニャ」
「それだけじゃないと思うニャ。基本半人半魔は一般の人間よりは少し体が強いかもってくらいニャ。でもこの歳でこれだけのことが可能なのは明らかに並じゃないニャ」
「特異体。ごく稀に出てくる魔族と人間を遥かに上回る特殊個体か。人間は積極的にこういうのを作ろうとするからムカつくんだよニャ」
赤髪の獣人が吐き捨てるように言った。
「それでリーダー。私達のこの子供に対するスタンスはどうするのかしらニャ」
「絶対に手を出してはダメニャ。これは闇組のみならず魔王軍全体にも要請したニャ」
「……フラウダ様、情に流されやすい分、キレたら怖いもんねニャ」
黒髪の獣人が何かを思い出したように遠い目をした後、髪と同じ色の耳と尻尾を一度ブルリと震わせた。
「私もリーダーの考えに賛成だけど、闇組だけならともかく魔王軍全体にその要請は通るのかしらニャ?」
「全体は難しいニャ。でもスイナハ様が動いてくれるとのことなので、それなりに効果はあると思うニャ。私達も任務に支障がない範囲でこの子供達を守るニャ」
リーダーのその命令に金髪の獣人は訝しむように眉を寄せた。
「そこまでするのニャ? ひょっとしてフラウダ様を連れ戻すのにこの子供達を利用すのかしらニャ」
「それも手段の一つとして考えてるニャ。もちろん誘拐など直接の手段は使わずにあくまでも交渉材料の一つとしてニャ」
「一番最初の作戦、僕達はフラウダ様を連れ戻すのに命をかけるから戻ってきてねニャ作戦があっさり破れたもんねニャ」
獣人達は従面を作った後、一斉に顔を赤らめた。
「あ、あれは全部触手が悪いニャ。当初の作戦ではボロボロになりながらも何度も立ち上がる私達を見てフラウダ様が折れる予定だったニャ」
「感動的な構図になるはずが、ゲステンの店で出回りそうな内容になってしまったのは大変遺憾だったわニャ」
「でも、あの触手。正直僕ちょっとクセになりそうだったニャ」
「俺は触手よりも男のフラウダ様の方が断然いいニャ」
「あら、それは私もそうだわニャ」
「僕だってそうだよニャ」
部下達の視線に火花が散るのを見て、ネココはコホン! と咳をついて見せた。
「とにかく私達の方針としてはそういうことになったニャ。長期戦を覚悟することにしたので、気が変わったらいつでも言って欲しいニャ」
「リーダー? 突然どうしたのかしらニャ」
「働きすぎニャ。少し休んだ方がいいニャ」
「俺はリーダーを信じてるニャ」
部下達に気遣わしげな視線を向けられたネココはしかし、悠然と微笑んだ。
「ふっ。分からないのかニャ? 今まさにフラウダ様が私達の会話を聞いていることにニャ」
「「「な、なんだってニャ!?」」」
驚愕の顔を浮かべたネコ娘達が一斉に任務の最中とは思えぬほど豪華な宿、その一室を見回した。がーー
シーン。
返ってきたのは静寂だけだった。
「これはリーダーが読みを外したということかしらニャ」
「シッ。言葉にすると可哀想ニャ。ここはそっと会話を変えるニャ」
「俺はリーダーを信じてるニャ」
部下達の会話にドヤっとした笑みを浮かべていたネココの顔が徐々に赤くなっていく。
「そ、そんなはずないニャ。絶対フラウダ様は私達の会話を聞いてるニャ。そもそも接触する気がないのなら痕跡を消した後、こんなに早く再発見できるわけがないニャ。フラウダ様? 意地悪してないで早く返事するニャ。フラウダ様!?」
シーン。
「そ、そうだわニャ。夜食でも食べないかしらニャ」
「ナイスなアイディアだねニャ。な、なに食べようかなニャ」
「俺は断然かつお節ニャ」
「「リ、リーダーは?」」
部下達の質問に肩をブルブルと震わせたネココが口を開きかけたところでーー
クスクス、クスクス。と鈴を転がしたような笑い声が部屋の空気を揺らしたかと思えば、床や天井から生えた植物が一瞬で室内をジャングルへと変えた。
「猫の手を借りたくて来たんだけど、読まれてたとはね。ちょっと悔しいけどさすがだね、ネココ」
緑に支配された空間で紅い瞳がアサシン達を射抜く。それに魔王軍が誇る暗殺部隊の面々はーー
「うおっしゃ! どうだ、みたかニャ」
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