わけありな教え子達が巣立ったので、一人で冒険者やってみた

名無しの夜

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22 ムラムラ

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 ラーズから受け取った鍵で部屋のドアを開けると、私を押し退けるようにしてピピナが中を覗き込んだ。

「へぇ、結構良さそうな部屋じゃん」
「そうね。清潔そうだし、悪くないわ」
「でしょ。……ふふ」
「なんなのかしら? その顔は」
「いや~、僕にはチューしてくれないのかなって思って」

 黒髪のショートカットを揺らしながらピピナが意地の悪い笑みを浮かべた。フローナはそんな彼女とまったく同質の笑みを浮かべる。

「あら、別に構わないわよ」
「え? 本当に? じゃあしようよ、ほら、むちゅ~」

 これ見よがしに唇を突き出すピピナ。私はそんな彼女の肩をそっと押して部屋の中へと進めた。

「わわっ!? 何するんだよ」
「こんな所でやめなさい。すみませんラーズ。それではまた後ほど」

 呆然とした護衛の方々の反応を見るに、私達の関係を完全に誤解したようだ。

「え? あ、はい。あっ、ちょっとお待ちください。これを」
「これは……鈴?」
「同じ物を持つ者に位置を教える魔法具です。それを鳴らしていただければ、どこにいよとすぐに駆けつけます。何か少しでも妙なことがあればどのような内容でも構いません。ご利用ください。こちらはお二人の分です」
「ありがとう。それではまた後ほど。ほら、ドア閉めますよ」
「はいは~い。またね、ラーズ」

 二人の背中を押して部屋の中に入る。キチンと洗たくされたシーツに泥や汚れが見当たらない床や壁。部屋の中は思ったよりもずっと清潔だった。

「冒険者用の他の宿屋にも見習わせたいよ」
「魔物が出る街の外で宿屋を経営するのは大変なんですよ。そんなことは言ってはダメです」
「リーナは相変わらず真面目だなぁ」
「あら、ベッドは二つだけなのね」

 フローナの指摘通り部屋には寝具が二つだけ。ラーズの予定ではゼニーヌを入れて四人で泊まる予定だったのだから、二人で一つを使えと言うことだろう。

「僕はこっちのベッド」

 ピピナが白いシーツの海に飛び込んだ。

「明日までやることないし、何ならさっきの続きしちゃう?」
「私は構わないわよ」

 妖艶な笑みを浮かべたフローナがピピナの上に覆い被さった。

「……貴方達、急にどうしたのですか?」

 私とのキスまでは必要な演技だとしても、それから先は明らかに過剰な行動だ。

「どうしたも何も、最近妙にムラムラするんだよね。ほら、あの夜以降」
「ム、ムラムラって、な、何を言ってるんですか、何を」
「分かるわ」
「フローナ? 貴方まで何を!?」

 友人達の唐突なカミングアウトに二の句が継げないでいると、フローナが自身の下腹部を撫でた。

「肉体の変調は多分これのせいね」
「あっ。そ、そういうことですか」
「すごいよね。まだ一度も使ってないのに、すごいエネルギーを感じる。おかげで全然眠くならないんだよね。二人も同じでしょう?」
「ええ」
「はい」

 魔術紋を得てからというもの睡眠時間が大幅に減った。せいぜいが一、二時間。一日は変わらず短いのに、夜だけが長くなった。

 ニニナが妙に勝ち誇った笑みを浮かべる。

「……なんですか?」
「別に~。ただ平気そうに見えてもやっぱりリーナもムラムラしてたんだなって」
「なっ!? そ、そんなことよりも早く寝床のチェックを始めますよ」
「ふふ。そうね。そうしましょうか」
「りょ~かい」

 私達は部屋の中に不審な点がないか調査を開始した。
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