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森林千花

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ひえひえなお話

宛なき旅のはじまり

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 あるところにアテナという少女の姿をしたドールがいました。
 金色の髪と緑色のキラキラした目を持つ、可愛らしいドールのアテナですが、今は一人ぼっちです。
 アテナの中には、持ち主だった若い女性がアテナを海に落とした記憶だけが残されていました。
 そこでアテナはかつての持ち主に会いに行こうと考えました。
 会ったらきっと、喜んでくれる。
 そしてまた、あの人と一緒に暮らすんだ。
 そんな希望を持ちながら、アテナは来る日も来る日も歩き続けました。
 ある日のこと、アテナはとうとうかつての持ち主である女性と会うことができました。
 けれども女性は喜んでくれません。それどころか恐怖に満ちた顔でこう叫んだのです。
「なんてこと!海に捨てたから怒って復讐に来たんだわ!呪いの人形よ、頼むからどこかへ行ってちょうだい!」
 その瞬間、アテナは悟りました。
 この女性は自分を海にただ落としたのではなく、要らなくなって捨てたのだと。
 アテナは悲しくなって、急いでその場から走り去りました。
 コキコキと身体のあちこちから音がしましたが、それでも走ることをやめませんでした。
 どれ程走り続けたことでしょう。気がつけば、世界は明るい色から暗い色へと変わっていました。
 これからどうすればいいのだろう、とアテナは思いました。
 帰る場所はもうありません。その上、行く宛だってないのです。
 アテナはまた悲しくなりました。けれどもドールである彼女は泣くことができませんでした。
 この夜、アテナは偶然見つけた公園のベンチの下で目を閉じました。
 それからしばらく経った後のこと、突然どこからか声が聞こえました。
「あらあら、可愛いお人形さんねぇ」
 アテナが目を開けると、そこには一人の老婆がいました。
 老婆はアテナを家に連れて帰り、窓辺に座らせました。
「懐かしいわぁ。小さな頃はこういったお人形さんに憧れていたのよ」
 それを聞いたアテナは嬉しくなりました。
 新しい自分の居場所を見つけることができた気がしたのです。
 けれども、幸せはそう長くは続きませんでした。
 ある時、アテナは日に日に老婆の元気がなくなってきていることに気がつきました。
「おかしいわねぇ、もう少したくさん生きられると思ったんだけど」
 老婆の弱々しい呟きを耳にしたアテナは、一つの悪い考えが浮かびました。
 自分がここにいるからではないか、と。
 自分さえいなければ、老婆は元気なままだったかもしれない、と。
 かつての持ち主だった女性に言われたことが頭をよぎります。
 呪いの人形。
 あの人が言ったことは正しいのだろう、とアテナは強く思いました。
 その夜、アテナは老婆が寝た隙にこっそり窓を開け、その外へ向かって飛び降りました。
 幸い壊れることはなく、アテナはそのまま歩き出しました。そして老婆の前に再び姿を現すことはありませんでした。
 アテナはたった一人で歩き続けました。
 自分がいれば、一緒にいる誰かが不幸になる。
 そう思ったアテナは、どこか一つの場所には留まらないことにしたのです。
 こうして、アテナの宛なき旅は幕を開けました。
 そしてこの小さく孤独なドールは、今もどこかで歩き続けていることでしょう。
 呪いの人形である自分が、誰かを不幸にしないために。
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