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森林千花

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ひえひえなお話

風船ピエロと青年と

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 ある公園に風船を配っているピエロがいました。
 ピエロは風船を渡しながら甲高い声で子供達に言います。
「向こうに大きなテントが見えるだろう?今日の夜、お父さんお母さんと一緒にサーカスを見においで」
 その姿を遠くでじっと見ている青年がいました。
 ピエロはそれに気がつくと、青年に近づいて言いました。
「キミも、サーカスに興味あるかい?」
「あるにはある、けど……」
「けど?」
「オレ、もうそんな年じゃないから」
 それを聞いたピエロはにっこり笑って言いました。
「歳なんて気にする必要はないさ。サーカスは誰でも歓迎するよ!」
 青年は少し悩んだ末に、ピエロに尋ねました。
「それじゃあ、チケットはいくらですか?」
 ピエロは笑顔のまま答えました。
「大人は1200円、子供はその半額だよ」
「ピエロでもそこは現実的なんですね」
「あはは!そりゃあ、ほら、こっちも仕事だから!」
「ずっと演じていて疲れないんですか?」
 その瞬間、ピエロはそれまでとは打って変わって低く小さな声で言いました。
「これが、私の選んだ道だから」
「……ねぇ」
「それじゃあまたね!夜テントでボク達は待ってるよ!」
 ピエロは青年にそう言うと、子供達がいる方へと戻っていってしまいました。
 場に残された青年は深いため息をつきながら、その公園をあとにしました。

 その日の夜遅く、職場で一人の女性が帰り支度をしていると、仲間が声をかけてきました。
「ねぇ、アンタ恋人でもできた?」
「えっ?恋人なんていないけど」
「じゃあ不審者かな?なんか外にいたから帰る時気をつけなよ」
「あ、うん、わかった」
 女性が身支度を終え外へ出ると、一人の青年が立っていました。彼を見た女性は驚きます。
「あれっ?どうしたのそんなところで」
「どうせなら姉さんと一緒に帰ろうかなって」
 青年の正体は女性の弟だったのです。
 夜道を二人並んで歩いていると、弟が言いました。
「さっき、サーカスを見たんだ」
「そっか。楽しめた?」
「まぁ、うん」
「はっきりしない返事だなぁ……」
「だって昼間に会った時になんか無理してそうだったしさぁ――」
「昼間?それなんの話?」
 姉の放った問いかけに、弟は足をぴたりと止めました。
「とぼけるの?」
「とぼけるって、何を?」
「昼間公園にいただろ?ピエロの格好して」
「ピエロ?なんのことだかさっぱり」
「いいよ、そんなわざとらしい演技しなくて。オレちゃんと声でわかったから」
 姉は言葉が見つけられず、黙り込んでしまいました。
「姉さん、サーカスに入団した時言ってたよな?『夢が叶った』って。本当にそうだって言える?」
「……だって本当のことじゃない。サーカスに入るのが私の夢だったんだもの」
「その役職がピエロでも?」
「あのねぇ、ピエロだって大事な存在なの」
「濃い白塗りメイクして、赤い鼻つけて、みんなの笑いものにされて――それが姉さんの願ってた夢かよ」
「それは……違う。でもね」
 姉は握った拳を胸の前にあて、宣言しました。
「私は今、サーカスのピエロであることに誇りを持っているの。わざと失敗して、お客さんに笑ってもらう。それが私達が演じるピエロなのよ」
 それを聞いた弟は目を見開きました。
「え?失敗ってわざとなの?」
「そうよ?」
「てっきり本当に失敗して、笑われてるのかと思ってた……」
 弟の言葉に姉は苦笑します。
「そんなことがあったら大問題じゃないの。サーカスは楽しい夢を見せる場所。お客さんもきちんとわかっているわ」
「そっか……」
「全く、あなたはもう少し物事を知ることが大事ね、テオ」
「うるちぇ」
 弟は口を尖らせるも、すぐ笑顔になりました。
「けどそれ聞いて安心した。楽しくないのにやってるとかじゃなくて本当に良かった」
「ええ、だからこれからも応援しててね」
「わかったよ、姉さん」
 こうして、ピエロの姉とその弟はこれまで以上に仲良くなりました。
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