「ただの経費削減ですが?」 銀河最弱の補給艦隊が、俺の「在庫管理」で最強になったようです

空木 架

文字の大きさ
14 / 19
転移と勘違いと不本意な出世

第14話 新たなる役割と綺麗なエライア

しおりを挟む
「アストラ君。予想以上に素晴らしい働きであったぞ」

 フェイスがいなくなり、静まり返った司令室で皇帝エグゼウス・ヴァーンが話しかけてきた。

「いえ、大したことはしておりません。私はただ、常識の範囲内で当然のことをしたまでです」

 実際にやったことは、使用期限切れミサイルの在庫放出だけ。それに古いものから使うというのは、経費削減においては当たり前のことだ。
 しかし、皇帝の目――いや、周囲の目にはそうは映っていなかった。
 皇帝の目に光るものが確認できた。
 え? 泣いてんの?

「素晴らしい! 自分が行った〝無傷の勝利〟は、当然の結果で、自分にとっては常識である戦術ということか! さすがはかの将軍の子孫! エライアが想いを寄せるのも当然だな」

 〝おもいをよせる〟?
 なるほど。エライアがこの〝重い〟ヘルメットを抱き〝寄せて〟オイルを塗りたくろうとしていることまでお見通しなのか。
 すごい観察眼だな。社員のことをよく見ている社長といったところか。
 経営者は優秀なんだな、この帝国は。

 俺がそう思っていたとき、カサッという音とともに、視界の端で赤と黒の何かが動いた。
 俺がそちらを見ると、切り絵で作った戦艦をゴミ箱に入れようとしているヘルディナンドがいた。

「おい待て、ヘルディナンド」

「は? 何を待つのですか?」

「それ、まだ捨てるなよ。もったいないだろう。ぼろぼろになるまで使い回すんだ。そして、その間にホログラム用の3Dデータを作成しておいてくれ」

 その様子を見ていた皇帝の顔が輝いた。

「アストラ君はコスト意識も高いな。我が国に足りていないものを全て持っている。その調子で今後も頼むぞ」

「はい。承知しました」

 俺がそう答えると同時に、皇帝は司令室全体に指示を出した。

「今これより、アストラ・アエットをクラウザーム・ヴァイロンの艦長に任命する! ヘルディナンドは副艦長だ。皆彼の知識を吸収して軍の強化と帝国の発展に尽力するように。あ、もちろん倉庫とは兼任でな」

「「「はっ!」」」

 皇帝は、俺に、「よろしく頼むぞ(人件費削減的な意味で)」とだけ言い残し、去っていった。

 俺は、頭を抱えた。
 面倒なことになった……。艦長? あれ主力艦だよな? しかも兼任?
 倉庫のアルバイトと、戦術顧問と、艦長のトリプルワークだと?
 これは完全に労働基準監督署案件だぞ?

 俺は、倉庫に帰るとすぐに部下の育成計画を立て始めた。
 できるだけ早く、俺がいなくても自ら考えて動ける、独立した組織になってもらわなければならないのだ。
 全ては、俺が平穏に暮らすため。
 俺はそこまで考えて、あることを思い出した。

 平穏に暮らすため? 待てよ? 皇帝とフェイスが使っていた転移装置。あれを使えば、地球に帰ることができるのではないか?
 灯台下暗しとはこのことだ。

 俺は、隣でいつものように服を着たままオイル風呂に入っているエライアの方を向いた。

「なぁエライア。ちょっと聞きたいことがあるんだけど……」

 俺はそこまで言ったところで、エライアの変化に目を奪われた。いつもと違って輝いて見える。言葉が止まる。
 俺は、無言でエライアに詰め寄った。

「え? ア、アストラ様?」

 あとずさりするエライアを、壁際まで追い詰める。

 ドンッ!

 俺は、エライアが逃れられないように、彼女の顔の横の壁に手を付いた。いわゆる壁ドンだ。
 突然のことに、エライアが顔を真っ赤にして声を上げた。

「な、なんですの? アストラ様? 近い! 近いですわ! ヘルメットがぶつかっていますわ!」

「綺麗だ……」

 エライアから目を逸らさずに、俺がそう囁いたとき、エライアの目が潤んだ。

「え、え? 突然何を言い出すんですの!? こ、心の準備が……!」

 頬を紅潮させて目をそっと閉じようとするエライア。その彼女の顔――いや、その彼女の表面を覆う液体を凝視したまま、俺は静かに、しかしドスを利かせて口を開いた。

「エライアお前、新品の綺麗なオイルを使っただろう」

「へ?」

「『へ?』じゃない! この透明度、そして粘度! どう見ても最高級のモリブデン入り潤滑油だろ! 高級オイルを何リットル使うつもりだ! 湯船には200リットルは入るんだ。小型機1台分だぞ! いくら掛かると思っているんだ」

 新品オイルと廃オイルの違いぐらい見ればすぐわかるのだ。まったく、帝国のやつはやはりコスト意識が足りないらしい。

「たまにはいいじゃありませんの! わたくしだって廃オイルじゃないエクストラバージンオイルに浸かりたいことだってあるんですのよ! それに、再利用できるから問題ありませんわ!」

「問題あるんだよ。見てみろ。髪の毛が一本浮いているぞ。濾さなければ使えんだろうが! 手間が増える!」

 エライアが見つめる中、「次からは自分でやるんだぞ」と言いながら袖をまくった。
 そして、追加された新たな役割と倉庫の仕事へ不安を覚えながら、日が暮れるまでキッチンペーパーでオイルを濾し続けるのであった。
 エライアの視線が若干熱を帯びていることなど気づかずに……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!

菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは 「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。  同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう  最初の武器は木の棒!?  そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。  何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら 困難に立ち向かっていく。  チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!  異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。  話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい! ****** 完結まで必ず続けます ***** ****** 毎日更新もします *****  他サイトへ重複投稿しています!

現世にダンジョンができたので冒険者になった。

盾乃あに
ファンタジー
忠野健人は帰り道に狼を倒してしまう。『レベルアップ』なにそれ?そして周りはモンスターだらけでなんとか倒して行く。

異世界召喚されたけどスキルが地味だったので、現代知識とアイテムボックスで絶品料理を作ったら大商会になっちゃいました

黒崎隼人
ファンタジー
手違いで剣も魔法もない異世界に召喚された、しがない日本のサラリーマン、湊カイリ。 彼に与えられたのは、無限に物が入る【アイテムボックス】と、物の名前が分かる【鑑定】という、あまりにも地味な二つのスキルだけだった。 戦闘能力は皆無。途方に暮れるカイリだったが、異世界の食事が絶望的に不味いことを知り、大きなチャンスに気づく。 現代日本の「当たり前」の知識は、この世界ではとんでもない「宝」なのだと! 「醤油?味噌?そんなものがあれば、この世界の食文化はひっくり返るぞ!」 ひょんなことから出会った没落貴族の美少女・リリアナと共に、カイリは現代知識と地味スキルを駆使して屋台から商売をスタート。 絶品料理で人々の胃袋を掴み、さらには便利な生活用品を次々と発明していく。 伝説の神獣の幼体「フェン」やドワーフの鍛冶師など、頼れる仲間たちも加わり、彼らが立ち上げた「サンライズ商会」は瞬く間に大躍進! 迫り来る悪徳商会や腐敗した貴族の妨害も、現代のマーケティング術と知恵で痛快に打ち破る! これは、平凡なサラリーマンが異世界の常識を覆し、食と生活に革命を起こして一代で大商会を築き上げる、痛快成り上がりファンタジー! 美味しい料理と、もふもふな相棒、そして仲間との絆。 人生、逆転できないことなんて何もない!

異世界帰りの元勇者、日本に突然ダンジョンが出現したので「俺、バイト辞めますっ!」

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
俺、結城ミサオは異世界帰りの元勇者。 異世界では強大な力を持った魔王を倒しもてはやされていたのに、こっちの世界に戻ったら平凡なコンビニバイト。 せっかく強くなったっていうのにこれじゃ宝の持ち腐れだ。 そう思っていたら突然目の前にダンジョンが現れた。 これは天啓か。 俺は一も二もなくダンジョンへと向かっていくのだった。

異世界で至った男は帰還したがファンタジーに巻き込まれていく

竹桜
ファンタジー
 神社のお参り帰りに異世界召喚に巻き込まれた主人公。  巻き込まれただけなのに、狂った姿を見たい為に何も無い真っ白な空間で閉じ込められる。  千年間も。  それなのに主人公は鍛錬をする。  1つのことだけを。  やがて、真っ白な空間から異世界に戻るが、その時に至っていたのだ。  これは異世界で至った男が帰還した現実世界でファンタジーに巻き込まれていく物語だ。  そして、主人公は至った力を存分に振るう。

地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした

有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。

学校がダンジョンに転移してしまいました

竹桜
ファンタジー
 異世界に召喚され、帰還した主人公はまた非日常に巻き込まれたのだ。  通っていた高校がダンジョンの中に転移し、街を作れるなスキルを得た。  そのスキルを使用し、唯一の後輩を守る。

処理中です...