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転移と勘違いと不本意な出世
第14話 新たなる役割と綺麗なエライア
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「アストラ君。予想以上に素晴らしい働きであったぞ」
フェイスがいなくなり、静まり返った司令室で皇帝エグゼウス・ヴァーンが話しかけてきた。
「いえ、大したことはしておりません。私はただ、常識の範囲内で当然のことをしたまでです」
実際にやったことは、使用期限切れミサイルの在庫放出だけ。それに古いものから使うというのは、経費削減においては当たり前のことだ。
しかし、皇帝の目――いや、周囲の目にはそうは映っていなかった。
皇帝の目に光るものが確認できた。
え? 泣いてんの?
「素晴らしい! 自分が行った〝無傷の勝利〟は、当然の結果で、自分にとっては常識である戦術ということか! さすがはかの将軍の子孫! エライアが想いを寄せるのも当然だな」
〝おもいをよせる〟?
なるほど。エライアがこの〝重い〟ヘルメットを抱き〝寄せて〟オイルを塗りたくろうとしていることまでお見通しなのか。
すごい観察眼だな。社員のことをよく見ている社長といったところか。
経営者は優秀なんだな、この帝国は。
俺がそう思っていたとき、カサッという音とともに、視界の端で赤と黒の何かが動いた。
俺がそちらを見ると、切り絵で作った戦艦をゴミ箱に入れようとしているヘルディナンドがいた。
「おい待て、ヘルディナンド」
「は? 何を待つのですか?」
「それ、まだ捨てるなよ。もったいないだろう。ぼろぼろになるまで使い回すんだ。そして、その間にホログラム用の3Dデータを作成しておいてくれ」
その様子を見ていた皇帝の顔が輝いた。
「アストラ君はコスト意識も高いな。我が国に足りていないものを全て持っている。その調子で今後も頼むぞ」
「はい。承知しました」
俺がそう答えると同時に、皇帝は司令室全体に指示を出した。
「今これより、アストラ・アエットをクラウザーム・ヴァイロンの艦長に任命する! ヘルディナンドは副艦長だ。皆彼の知識を吸収して軍の強化と帝国の発展に尽力するように。あ、もちろん倉庫とは兼任でな」
「「「はっ!」」」
皇帝は、俺に、「よろしく頼むぞ(人件費削減的な意味で)」とだけ言い残し、去っていった。
俺は、頭を抱えた。
面倒なことになった……。艦長? あれ主力艦だよな? しかも兼任?
倉庫のアルバイトと、戦術顧問と、艦長のトリプルワークだと?
これは完全に労働基準監督署案件だぞ?
俺は、倉庫に帰るとすぐに部下の育成計画を立て始めた。
できるだけ早く、俺がいなくても自ら考えて動ける、独立した組織になってもらわなければならないのだ。
全ては、俺が平穏に暮らすため。
俺はそこまで考えて、あることを思い出した。
平穏に暮らすため? 待てよ? 皇帝とフェイスが使っていた転移装置。あれを使えば、地球に帰ることができるのではないか?
灯台下暗しとはこのことだ。
俺は、隣でいつものように服を着たままオイル風呂に入っているエライアの方を向いた。
「なぁエライア。ちょっと聞きたいことがあるんだけど……」
俺はそこまで言ったところで、エライアの変化に目を奪われた。いつもと違って輝いて見える。言葉が止まる。
俺は、無言でエライアに詰め寄った。
「え? ア、アストラ様?」
あとずさりするエライアを、壁際まで追い詰める。
ドンッ!
俺は、エライアが逃れられないように、彼女の顔の横の壁に手を付いた。いわゆる壁ドンだ。
突然のことに、エライアが顔を真っ赤にして声を上げた。
「な、なんですの? アストラ様? 近い! 近いですわ! ヘルメットがぶつかっていますわ!」
「綺麗だ……」
エライアから目を逸らさずに、俺がそう囁いたとき、エライアの目が潤んだ。
「え、え? 突然何を言い出すんですの!? こ、心の準備が……!」
頬を紅潮させて目をそっと閉じようとするエライア。その彼女の顔――いや、その彼女の表面を覆う液体を凝視したまま、俺は静かに、しかしドスを利かせて口を開いた。
「エライアお前、新品の綺麗なオイルを使っただろう」
「へ?」
「『へ?』じゃない! この透明度、そして粘度! どう見ても最高級のモリブデン入り潤滑油だろ! 高級オイルを何リットル使うつもりだ! 湯船には200リットルは入るんだ。小型機1台分だぞ! いくら掛かると思っているんだ」
新品オイルと廃オイルの違いぐらい見ればすぐわかるのだ。まったく、帝国のやつはやはりコスト意識が足りないらしい。
「たまにはいいじゃありませんの! わたくしだって廃オイルじゃないエクストラバージンオイルに浸かりたいことだってあるんですのよ! それに、再利用できるから問題ありませんわ!」
「問題あるんだよ。見てみろ。髪の毛が一本浮いているぞ。濾さなければ使えんだろうが! 手間が増える!」
エライアが見つめる中、「次からは自分でやるんだぞ」と言いながら袖をまくった。
そして、追加された新たな役割と倉庫の仕事へ不安を覚えながら、日が暮れるまでキッチンペーパーでオイルを濾し続けるのであった。
エライアの視線が若干熱を帯びていることなど気づかずに……。
フェイスがいなくなり、静まり返った司令室で皇帝エグゼウス・ヴァーンが話しかけてきた。
「いえ、大したことはしておりません。私はただ、常識の範囲内で当然のことをしたまでです」
実際にやったことは、使用期限切れミサイルの在庫放出だけ。それに古いものから使うというのは、経費削減においては当たり前のことだ。
しかし、皇帝の目――いや、周囲の目にはそうは映っていなかった。
皇帝の目に光るものが確認できた。
え? 泣いてんの?
「素晴らしい! 自分が行った〝無傷の勝利〟は、当然の結果で、自分にとっては常識である戦術ということか! さすがはかの将軍の子孫! エライアが想いを寄せるのも当然だな」
〝おもいをよせる〟?
なるほど。エライアがこの〝重い〟ヘルメットを抱き〝寄せて〟オイルを塗りたくろうとしていることまでお見通しなのか。
すごい観察眼だな。社員のことをよく見ている社長といったところか。
経営者は優秀なんだな、この帝国は。
俺がそう思っていたとき、カサッという音とともに、視界の端で赤と黒の何かが動いた。
俺がそちらを見ると、切り絵で作った戦艦をゴミ箱に入れようとしているヘルディナンドがいた。
「おい待て、ヘルディナンド」
「は? 何を待つのですか?」
「それ、まだ捨てるなよ。もったいないだろう。ぼろぼろになるまで使い回すんだ。そして、その間にホログラム用の3Dデータを作成しておいてくれ」
その様子を見ていた皇帝の顔が輝いた。
「アストラ君はコスト意識も高いな。我が国に足りていないものを全て持っている。その調子で今後も頼むぞ」
「はい。承知しました」
俺がそう答えると同時に、皇帝は司令室全体に指示を出した。
「今これより、アストラ・アエットをクラウザーム・ヴァイロンの艦長に任命する! ヘルディナンドは副艦長だ。皆彼の知識を吸収して軍の強化と帝国の発展に尽力するように。あ、もちろん倉庫とは兼任でな」
「「「はっ!」」」
皇帝は、俺に、「よろしく頼むぞ(人件費削減的な意味で)」とだけ言い残し、去っていった。
俺は、頭を抱えた。
面倒なことになった……。艦長? あれ主力艦だよな? しかも兼任?
倉庫のアルバイトと、戦術顧問と、艦長のトリプルワークだと?
これは完全に労働基準監督署案件だぞ?
俺は、倉庫に帰るとすぐに部下の育成計画を立て始めた。
できるだけ早く、俺がいなくても自ら考えて動ける、独立した組織になってもらわなければならないのだ。
全ては、俺が平穏に暮らすため。
俺はそこまで考えて、あることを思い出した。
平穏に暮らすため? 待てよ? 皇帝とフェイスが使っていた転移装置。あれを使えば、地球に帰ることができるのではないか?
灯台下暗しとはこのことだ。
俺は、隣でいつものように服を着たままオイル風呂に入っているエライアの方を向いた。
「なぁエライア。ちょっと聞きたいことがあるんだけど……」
俺はそこまで言ったところで、エライアの変化に目を奪われた。いつもと違って輝いて見える。言葉が止まる。
俺は、無言でエライアに詰め寄った。
「え? ア、アストラ様?」
あとずさりするエライアを、壁際まで追い詰める。
ドンッ!
俺は、エライアが逃れられないように、彼女の顔の横の壁に手を付いた。いわゆる壁ドンだ。
突然のことに、エライアが顔を真っ赤にして声を上げた。
「な、なんですの? アストラ様? 近い! 近いですわ! ヘルメットがぶつかっていますわ!」
「綺麗だ……」
エライアから目を逸らさずに、俺がそう囁いたとき、エライアの目が潤んだ。
「え、え? 突然何を言い出すんですの!? こ、心の準備が……!」
頬を紅潮させて目をそっと閉じようとするエライア。その彼女の顔――いや、その彼女の表面を覆う液体を凝視したまま、俺は静かに、しかしドスを利かせて口を開いた。
「エライアお前、新品の綺麗なオイルを使っただろう」
「へ?」
「『へ?』じゃない! この透明度、そして粘度! どう見ても最高級のモリブデン入り潤滑油だろ! 高級オイルを何リットル使うつもりだ! 湯船には200リットルは入るんだ。小型機1台分だぞ! いくら掛かると思っているんだ」
新品オイルと廃オイルの違いぐらい見ればすぐわかるのだ。まったく、帝国のやつはやはりコスト意識が足りないらしい。
「たまにはいいじゃありませんの! わたくしだって廃オイルじゃないエクストラバージンオイルに浸かりたいことだってあるんですのよ! それに、再利用できるから問題ありませんわ!」
「問題あるんだよ。見てみろ。髪の毛が一本浮いているぞ。濾さなければ使えんだろうが! 手間が増える!」
エライアが見つめる中、「次からは自分でやるんだぞ」と言いながら袖をまくった。
そして、追加された新たな役割と倉庫の仕事へ不安を覚えながら、日が暮れるまでキッチンペーパーでオイルを濾し続けるのであった。
エライアの視線が若干熱を帯びていることなど気づかずに……。
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