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04 聖女とアンデッド
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目の前で跪くアンデッドたちを前にアリアロスはひたすら戸惑っていました。
「あの、待ってください。確かに私は聖女になったと思いますがでも闇の聖女という悪い聖女みたいで……えぇと、皆さんを勝手に起こしてしまったみたいでごめんなさい」
アリアロスは深々と頭を下げました。
その反応にアンデッドたちも戸惑い、ざわめきが広がります。
「全員静まれ! 聖女様、どうか頭をお上げください。貴女が謝ることなどなにもありません」
先程からアンデッドたちをまとめてくれている彼がアリアロスよりも深く頭を下げます。
「でも……」
「そもそも闇の聖女が悪い、とはどういうことでしょうか? 我々の知る闇の聖女様は他の聖女様と変わらずお役目を全うしていたはずですが……」
「私の他にも闇の聖女がいたのですか!?」
「はい。我々が死んでどれくらいの時が過ぎたか分かりませんが……そのご様子だと闇の聖女様は長らく選出されていなかったのですね」
「待ってください。そもそも聖女は風、水、火、土、光の5属性それぞれにひとりしかいないと教わっていたのですが……」
「それはおかしいですね。闇の属性は当時発現されたばかりでしたが国王自ら大々的に発表しましたが……」
話が噛み合わなくなり、アリアロスの戸惑いがさらに大きくなっていきます。
「まぁまぁ、ふたりとも落ち着きなさい」
そう言いながら跪いていたアンデッドのひとりが立ち上がりました。
他の鎧などで武装したアンデッドとは違い彼はボロボロのローブをまとっていました。
「はじめまして、聖女様。わたくしはこのマイメエント軍先遣隊の参謀役をしていたカールと申します。先ほどから会話されているその男は部隊長のレイトラです」
カールが仰々しく礼をして、レイトラもそれに倣います。
「私はアリアロス・フレクトです。当代の闇の聖女……のはずです」
「アリアロス様。どうも我々と貴女の認識に大きなズレがあるようですが……今は何年でしょうか?」
「世界歴447年の春の頃です」
「なるほど、我々が生きていた時代より100年ほど時間が経ちましたか……」
「100年……」
その事実もまたアンデッドたちを動揺させましたが、再びレイトラの一声で静まりました。
「では聖女に関する情報をすり合わせましょう。5つの属性、その力を持つ聖女が5人いることは変わらないようですが、問題は闇の属性ですね……」
カールは腕組みをして続けます。
「我々の認識では闇の属性は我々が戦死した年に新たに発現し、聖女が宿したものです。そのため知っていることは多くありませんが、少なくとも悪いものという認識はありません」
「……本当に、闇の聖女については知りません。歴史でも習わなかったし、聖女様が集まっている式典に参加したこともありますが、その時も全員出席されて5人でした」
「なるほど。ではなぜ闇が悪いと言われたのか、その原因はご存知ですか?」
「いいえ、神官長はなにも……」
「ふーむ。情報が足りませんね……推測できる範囲では我々の死後闇の聖女になにかが起こり、悪しきものとされ、民にはその存在自体をなかったものとされた……といったところでしょうか」
カールはその場をウロウロしながらブツブツと独り言を呟きます。どうやら考えるときの癖のようです。
「あの、それと私は皆さんを勝手に起こしてしまって……」
「勝手になど……ふむ、力の使い方も分かっておられぬか?」
「はい。選ばれてすぐに閉じ込められたので……」
「なるほど、それでは無理ですな」
カールは咳払いをひとつして説明をはじめました。
「まず、5つの属性の聖女の力が『浄化』ということはご存知ですね?」
「はい。風は魂を送り、水は穢れを清め、火は無念を燃やし、土は大地へと還し、光は恨みを祓う……方法は異なるそうですが浄化という意味ではすべて同じだと教わりました」
「その通りです。対して闇は声を聞く。死んだ者の心残り、無念、恨みなどマイナスのものが多いですがそれを聞き届け、仮初めの命を与え心を安らかにするために手を貸す……それが闇の聖女です」
「それは浄化とどう違うのですか?」
「浄化は一言で言ってしまえば問答無用です。どのような心残りがあろうと、無理やりこの世から送り出すのです。対してアンデッドと向き合うことになる闇の聖女を、わたくしはとても優しい存在だと思います」
そう言ってカールはアリアロスをじっと見つめます。
表情などないはずなのに、彼が柔らかく微笑んでいる気がして、アリアロスは思わず顔を背けました。
「優しいなんてそんな……でも、確かに誰かの声は聞きましたが、内容は分からなかったはずなのに……」
「それに関しては……おそらく偶然、でしょうね」
「ぐ、偶然?」
ぽかんとするアリアロスの表情がおかしかったのか、カールはカッカッと歯を鳴らしました。
「最初は各々無念を語っていたのでしょうが貴女が魔物に襲われたとき、我々は貴女を救いたいと思った。その思いに闇の聖女の力が反応して我々をアンデッド化したのでしょう」
「でもそれは私の勝手な都合を皆さんに押し付けたことに……」
「それは違います!」
それまで黙って見守っていたレイトラが立ち上がりました。
「我々は国のために戦い散りました。その後も思うのは国や民、家族のことばかりです。そして、貴女はこの国の民。それなら守ろうと思うのは当然のことです」
その言葉を肯定するように、アンデッドたちは歯を響かせます。
「今、貴女はとても大変な状況であるはずです。我々にできることは多くありません。しかし、どうか貴女を守らせてください。」
レイトラは再び跪き、カールもそれに倣い、他のアンデッドたちも従います。
「……分かりました。私は今、とても困っています。闇の聖女に選ばれて、捕らえられて、逃げ出して、どうするべきかもよく分かりません。どうか、皆さんの力をお貸しください」
「はっ!!」
こうして、闇の聖女アリアロスとアンデッドたちは正式に協力関係を結びました。
「あの、待ってください。確かに私は聖女になったと思いますがでも闇の聖女という悪い聖女みたいで……えぇと、皆さんを勝手に起こしてしまったみたいでごめんなさい」
アリアロスは深々と頭を下げました。
その反応にアンデッドたちも戸惑い、ざわめきが広がります。
「全員静まれ! 聖女様、どうか頭をお上げください。貴女が謝ることなどなにもありません」
先程からアンデッドたちをまとめてくれている彼がアリアロスよりも深く頭を下げます。
「でも……」
「そもそも闇の聖女が悪い、とはどういうことでしょうか? 我々の知る闇の聖女様は他の聖女様と変わらずお役目を全うしていたはずですが……」
「私の他にも闇の聖女がいたのですか!?」
「はい。我々が死んでどれくらいの時が過ぎたか分かりませんが……そのご様子だと闇の聖女様は長らく選出されていなかったのですね」
「待ってください。そもそも聖女は風、水、火、土、光の5属性それぞれにひとりしかいないと教わっていたのですが……」
「それはおかしいですね。闇の属性は当時発現されたばかりでしたが国王自ら大々的に発表しましたが……」
話が噛み合わなくなり、アリアロスの戸惑いがさらに大きくなっていきます。
「まぁまぁ、ふたりとも落ち着きなさい」
そう言いながら跪いていたアンデッドのひとりが立ち上がりました。
他の鎧などで武装したアンデッドとは違い彼はボロボロのローブをまとっていました。
「はじめまして、聖女様。わたくしはこのマイメエント軍先遣隊の参謀役をしていたカールと申します。先ほどから会話されているその男は部隊長のレイトラです」
カールが仰々しく礼をして、レイトラもそれに倣います。
「私はアリアロス・フレクトです。当代の闇の聖女……のはずです」
「アリアロス様。どうも我々と貴女の認識に大きなズレがあるようですが……今は何年でしょうか?」
「世界歴447年の春の頃です」
「なるほど、我々が生きていた時代より100年ほど時間が経ちましたか……」
「100年……」
その事実もまたアンデッドたちを動揺させましたが、再びレイトラの一声で静まりました。
「では聖女に関する情報をすり合わせましょう。5つの属性、その力を持つ聖女が5人いることは変わらないようですが、問題は闇の属性ですね……」
カールは腕組みをして続けます。
「我々の認識では闇の属性は我々が戦死した年に新たに発現し、聖女が宿したものです。そのため知っていることは多くありませんが、少なくとも悪いものという認識はありません」
「……本当に、闇の聖女については知りません。歴史でも習わなかったし、聖女様が集まっている式典に参加したこともありますが、その時も全員出席されて5人でした」
「なるほど。ではなぜ闇が悪いと言われたのか、その原因はご存知ですか?」
「いいえ、神官長はなにも……」
「ふーむ。情報が足りませんね……推測できる範囲では我々の死後闇の聖女になにかが起こり、悪しきものとされ、民にはその存在自体をなかったものとされた……といったところでしょうか」
カールはその場をウロウロしながらブツブツと独り言を呟きます。どうやら考えるときの癖のようです。
「あの、それと私は皆さんを勝手に起こしてしまって……」
「勝手になど……ふむ、力の使い方も分かっておられぬか?」
「はい。選ばれてすぐに閉じ込められたので……」
「なるほど、それでは無理ですな」
カールは咳払いをひとつして説明をはじめました。
「まず、5つの属性の聖女の力が『浄化』ということはご存知ですね?」
「はい。風は魂を送り、水は穢れを清め、火は無念を燃やし、土は大地へと還し、光は恨みを祓う……方法は異なるそうですが浄化という意味ではすべて同じだと教わりました」
「その通りです。対して闇は声を聞く。死んだ者の心残り、無念、恨みなどマイナスのものが多いですがそれを聞き届け、仮初めの命を与え心を安らかにするために手を貸す……それが闇の聖女です」
「それは浄化とどう違うのですか?」
「浄化は一言で言ってしまえば問答無用です。どのような心残りがあろうと、無理やりこの世から送り出すのです。対してアンデッドと向き合うことになる闇の聖女を、わたくしはとても優しい存在だと思います」
そう言ってカールはアリアロスをじっと見つめます。
表情などないはずなのに、彼が柔らかく微笑んでいる気がして、アリアロスは思わず顔を背けました。
「優しいなんてそんな……でも、確かに誰かの声は聞きましたが、内容は分からなかったはずなのに……」
「それに関しては……おそらく偶然、でしょうね」
「ぐ、偶然?」
ぽかんとするアリアロスの表情がおかしかったのか、カールはカッカッと歯を鳴らしました。
「最初は各々無念を語っていたのでしょうが貴女が魔物に襲われたとき、我々は貴女を救いたいと思った。その思いに闇の聖女の力が反応して我々をアンデッド化したのでしょう」
「でもそれは私の勝手な都合を皆さんに押し付けたことに……」
「それは違います!」
それまで黙って見守っていたレイトラが立ち上がりました。
「我々は国のために戦い散りました。その後も思うのは国や民、家族のことばかりです。そして、貴女はこの国の民。それなら守ろうと思うのは当然のことです」
その言葉を肯定するように、アンデッドたちは歯を響かせます。
「今、貴女はとても大変な状況であるはずです。我々にできることは多くありません。しかし、どうか貴女を守らせてください。」
レイトラは再び跪き、カールもそれに倣い、他のアンデッドたちも従います。
「……分かりました。私は今、とても困っています。闇の聖女に選ばれて、捕らえられて、逃げ出して、どうするべきかもよく分かりません。どうか、皆さんの力をお貸しください」
「はっ!!」
こうして、闇の聖女アリアロスとアンデッドたちは正式に協力関係を結びました。
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