逃亡聖女はアンデッド従者たちと平穏な生活を望んでいます

時乃純之助

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07 狩人の小屋

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「小屋、ですか?」

「はい」

 アリアロスの言葉にカールは大きく頷きました。

 食後のお茶と報告も終わり、これからの予定の話になったところで無人の小屋が発見されたと聞かされました。

「残留物から数人の狩人が拠点にしていたと思われます。放置されてからかなり時間が過ぎているようなので掃除補修は必要ですが……テントよりは安心して暮らせるでしょう。現在そういう作業が得意な者たちが対応しているので夕方ごろには移れるでしょう」

「あの、ここは魔物も住む森ですよね。狩人さんは危険ではなかったのでしょうか?」

 アリアロスの疑問にカールは「お優しいですね」と笑顔を浮かべました。

「無論、危険だったはずです。しかし拠点を構えるということはそれだけ実入りもよかったのでしょう」

「そうなのですね」

 アリアロスの納得した様子にカールは内心安堵しました。

 実際は盗賊など物騒な輩の拠点だと予想を立てていたのですが余計な不安を持たせないために誤魔化したのです。

「では、わたくしは作業の確認に行ってまいります。アリアロス様はどうかこの辺りでお寛ぎください。護衛はおりますが森の中はまだ完全に安全とは言えないので近づきませんように」

「分かりました」

「はい、良い返事です」

 満足そうに頷いて、カールはその場を離れました。





 森の東側、魔の木々より通常の木の比率が比較的多い地域にその小屋はありました。

 近くには井戸も掘られてあり、中は数人が生活できる程度の広さで個室などはありませんが暮らすには不便しない程度には物が揃っていました。

 しかし、それはあくまで以前暮らしていた人たちの話です。

「いいか! 聖女様が快適に暮らせるようにするのが今の我々の使命だ!! 各員持てる力を最大限に発揮せよ!!」

 レイトラの号令にアンデッドたちは歯を鳴らして応えます。

 木を切り出す者、それを加工する者、細工をする者、取り付けたり組み立てる者、実に様々です。

「どうよ、うちの奴ら優秀だろ?」

 作業を見守るリーサが自慢げに胸を反らします。

「話には聞いていたが……ガエクムン兵のほとんどが手に職を持っているというのは本当だったのだな」

「お前さんの所と比べて小さな国だからな。普段は働いて国に貢献して有事には兵として国を守る……まぁ、戦闘できるからって傭兵を部隊長にするのはさすがにどうかと思ったけどよ」

 溜息をつくリーサをレイトラは複雑な表情で見ました。

 そもそもレイトラたちマイメエントとリーサたちガエクムンの戦争の原因はこの広大な平原でした。

 国境線の位置で双方が主張を譲らず、やむなく開戦となったのです。

 国力で有利なマイメエントに対してガエクムンのとった作戦は先手必勝の奇襲でした。

 レイトラたちが前線の準備を整えているところを少数部隊で襲い掛かり、あとはお互い動く者がいなくなるまでの戦闘でした。

「お姫様の話じゃ両国は健在。オレたちの戦闘後魔の森ができたことで停戦。国境問題は話し合いで片付いて今じゃ友好国だっていうからな……はじめからそうしてりゃよかったんだ」

「確かに、思うところはあるが……俺たちだけの犠牲で戦争が終わったのなら無駄ではなかったのだろう」

「へーへー、真面目さんは割り切れていいねぇ……」

「お前は後悔しているのか?」

「そりゃそうさ。命かけるだけの金はもらったが死ぬつもりはなかったからね……だから、こんなんなってまで起きちまったんだろうさ」

 自分の骨だけの体を見下ろし、リーサは自嘲気味に笑いました。

「はいはい。しんみりした話はそこまでにして作業をしてくださいな」

「学者か……来たのかよ」

 カールの姿を見たリーサは心底嫌そうな顔をしました。一方のカールは気にした様子がありません。

「アリアロス様には説明しましたからね。それよりも急がないと夕方までに間に合いませんよ?」

「分かってるってーの! 作業はちゃんとやらせてんだからいいだろ?」

「ならば別の仕事です。あなたには残っていたシーツなどの洗濯をお願いします。綺麗にすれば十分使えるでしょう」

「めんどくせぇな……それくらい適当な奴にやらせればいいじゃねーか」

「レベル2以上で手が空いているのはここにいる3人のみです。レイトラにはここの指揮を、わたくしは泉の調査をするので、あなたしかいません。それとも、調査を変わってくださいますか?」

「はいはい分かったよ。洗濯しといてやる」

 口では勝てないと思ったのでしょう。リーサは洗濯をするべく離れていきました。

「カール殿は相変わらず人の扱いがうまいな」

「口が達者なだけですよ。では私は泉の調査に行ってきますよ」

「頼む。水源が多いに越したことはないからな」

「はい。今晩の食材も獲れればいいのですが……まぁがんばります」

 カールはひとり小屋から離れていきました。





 夕刻。レイトラの迎えで小屋までやって来たアリアロスは驚いていました。

「すごいです! 古い小屋だと聞いていたのにまるで新しく建てられたみたいです!」

 小屋は徹底的に掃除され、傷んだ部分は補修され、足りないものは新しく作り、結果として新築同然になっていました。

 短時間でここまでできたのはアンデッドたちが疲れ知らずで、対応した技能を持っていたことが理由でした。

「お布団もフカフカ……お日様のにおいがします」

 ベッドに倒れこむアリアロスを見てリーサはまんざらでもなさそうな顔をこっそりとしています。

「キッチンもあったのでアムルコスも喜んでいました。これからも存分に腕を振るってくれますよ」

 既に調理をはじめていたアムルコスはよほど機嫌がいいのか、鼻歌……ではなく歯をリズミカルに鳴らしています。

「私のためにここまで……皆さん、本当にありがとうございます」

「いえ、当然のことをしたまでです」

 レイトラたちはその場に跪き頭を下げたのでアリアロスは慌てました。

「そ、そこまでしなくても大丈夫ですから!」

「しかし……」

「せ、聖女がいいと言うからいいのです!」

「あなたの負けですよ、レイトラ」

「カール殿……帰って来たのか」

「はい。お土産もちゃんとありますよ」

 泉の調査から戻ってきたカールの手には大きな魚がありました。

「アムルコス、こいつはメインディッシュにお願いします。さて、件の泉ですが大して大きくなく危険はなさそうです。有志の方々に潜って確認してもらったので問題はないでしょう」

 小屋の外では数人のアンデッドたちが焚火を起こして濡れた体を乾かしています。

「森の住人たちの飲み水になっているようなので警備は必要ですが、水浴びくらいはできますよ」

「水浴び……よかった」

 その言葉にアリアロスは安心しました。この数日当然ながらお風呂には入っておらず、ボロボロで汚れた体を早く洗いたかったのです。

「夜はさすがに危険なので明日になりますが……」

「だ、大丈夫です」

 正直に言ってしまえば今すぐにでも行きたかったが、キッチンから漂ってくるおいしそうなにおいの誘惑には勝てそうにないアリアロスなのでした。

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