運命なんて残酷なだけ

緋川真望

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3 俺のΩ

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 綺麗な頬に、綺麗な涙が流れる。
 反射的にその涙を舐め取ると、慶の口の中に甘い匂いが広がる。

「涙まで旨いんだな……」
「うる、せ……」

 顔をそむけるΩの顎をつかんで、口をふさぐように深く唇を重ねた。

「ん……んん……!」

 慶が舌をからませるとΩの舌も応えるように動いた。Ωの体はαを欲しているから、口では拒んでも本能的に動いてしまうんだろう。
 舌は熱くからんできて、互いの唾液が混ざっていくのを感じる。

(ああ、甘い……甘くて痺れる……)

 慶はキスを覚えたばかりのガキみたいに、無我夢中で何度もその口を吸った。ちゅくちゅくと唾液の音をさせながら繰り返しキスしていると、Ωがこくんと慶の唾液を飲み込んだのが分かった。

「は……あ…………あ?」

 本能と理性がケンカをしているみたいにΩの視線が揺れる。

「大丈夫、怖くない。絶対に酷くしない」

 安心させるように細い体をぎゅうっと抱きしめると、密着した体の下半身が膨らんでいるのが分かって愛おしい気持ちになる。

 慶の中心も先程から苦しいほどに高まっているから、それをズボンの上からΩの中心にコスコスとこすりつけた。

「ん、ん、」

 かくかくと腰を揺らすΩが可愛いすぎて、プチンと理性の糸が切れそうになる。

(いけない。耐えろ。本能のままに犯せば怪我をさせてしまう)

「自分で服を脱げるか」

 慶の問いかけに、Ωはいやいやというように首を振った。
 その仕草も可愛く見えて、慶はΩの頭を優しく撫でてまたキスをした。

「ふぅ……ん……」

 Ωの体が脱力していく。
 慶は体を起こし、丁寧にΩの黒いネクタイをはずし、喪服を脱がせてシャツをはだけさせた。やはり首輪はしていなかったが、首から左肩にかけて大きな火傷の跡があった。少し驚いたが、その傷について問う時間すら惜しかった。

 早くつながりたい。
 早くこのΩとひとつになりたい。
 本能がうるさいくらいに慶の中で騒いでいる。

 傷跡を避けるように白い胸に手を這わせていくと、ピンク色の突起が誘うようにぷくっと膨らんでいた。指先でくりくりと撫でるとそれだけで感じるらしく、Ωは甘い声を漏らし始める。

「あっ、あっ、んんっ……」

 通常、発情したΩに前戯は必要ない。何もせずに突っ込んでも歓喜するような生き物だ。
 でも、目の前のΩはなぜか本能に逆らおうとしていて、慶に対して怯えているようだったから、怖くないように出来るだけ気持ち良くさせてやりたかった。

 しつこいほどにキスをしながらΩのベルトをはずし、ズボンも脱がせていく。しっとりした肌を撫で、さすり、舌を這わせる。Ωはそのたびに甘い声を上げ、ぴくぴくと反応する。

「……あぁ……あっ……」
「ほら、気持ちいいだろう? 本能に抗おうとするな……。すでに発情してしまったんだ。抑えると余計につらくなるだけだ」
「……や、だ…………」
「嘘をつくな。これだけ発情していてαが欲しくないはずがない」

 強情にも、Ωは涙目で首を振った。

「あるふぁ……なんか……」

 慶はαの中のαだ。今まで拒まれたことなど一度も無い。αの男以外は、誰でも慶に抱かれたがった。時にはαの男でさえ、妙な秋波を送って来たくらいだ。

 だから慶には確信があった。
 口先で何と言おうが、このΩも本能では慶を欲しがっているのだと。

 慶は立ち上がり、手早くスーツを脱ぎ始めた。
 むりやり押さえつけるまでも無く、Ωはフラットシートの上でぐったりと横たわったままだ。その目が慶の裸体に注がれている。αの中でも長身で肩幅も広く、胸も厚く、がっしりと筋肉のついた慶の体に。

 慶はΩを見下ろしながら、意図的に濃いフェロモンを流した。
 狭い車内に充満していたΩのフェロモンに、αのフェロモンが混じっていく。

「ふぁ……は……ひぐっ……う……」

 Ωはぶるりと体を震わせ、我慢できないというように自分で自分のものをこすり始めた。潤んでいた目からぽろぽろと涙が零れていく。

「よせ」

 慶はΩの手首をつかんでやめさせた。

「ううぅ……はなせ……」
「自分でしなくていい。俺が気持ちよくさせてやるから。お前はただ俺が与える快楽だけを感じればいいんだ」

 覆いかぶさるようにキスをすると、抵抗を諦めたように受け入れて、Ωの目がやっとトロンと溶けてきた。

 優しく前を撫でてやると、泣くように素直な声を上げ始める。
 Ωの足をぐいっと開かせると、溢れた愛液で太ももまでとろとろに濡れていた。慶がそこに自分のものを押し当てただけで、迎え入れるようにひくひくと動く。

「これが欲しいか」

 焦らすように入り口でにゅるにゅると上下させる。
 慶も限界ギリギリだったが、Ωの方はもうとっくに限界を超えていたようだった。

「ほし……い……」

 さっきまであれほど慶を拒んでいたとは思えないほど甘くかすれた声が慶をねだる。

「ほしい、よぉ……」

 子供のような声にぎゅうっと心臓をつかまれた。
 慶の喉がゴクリと鳴った。

「……いい子だ。挿れるぞ」

 開いた足の間にゆっくりと腰を沈めていく。

「は……あ……」

 Ωの内側が吸い付くようにうねり、慶の大きなものをすんなりと飲み込んでいく。
 慶はΩの腰をつかんで奥までぐいっと押し込んだ。

「……あぁっ!」

 悲鳴のように歓喜の声を上げて、細い体がのけぞった。
 ぎゅうっと穴が締まり、がくがくとΩの体が震える。

(挿れただけでイったのか?)

 慶は途惑い、すぐに抽挿を始めてもいいものかとΩの顔を覗き込んだ。

 Ωの濡れた瞳が嫣然と慶を見上げてくる。

「……もっと……」

 はぁっと熱い息が慶の顔にかかった。

「もっと、ほしいよぉ……」

 Ωがぺろりと自分の唇を舐めた。
 射貫くようだった鋭い瞳は、いまや発情したメスそのものへと変わっている。
 とろけるように甘い視線が、慶をからめとっていく。

「ぜんぶ、ほしい……ぜんぶ……あなたをぜんぶ……」

 ぷつんと慶の理性が飛んだ。

「ああ、俺をお前にやる。お前に全部やる」

 怪我をさせないように、怯えさせないようにという考えは、どこか遠くへ吹き飛んでしまっていた。

 慶は獣のようにΩの体を蹂躙し始めた。
 Ωは狂ったように慶を欲しがった。
 慶も狂ったようにΩを欲しがった。
 激しく奥を突いてやると、Ωは素直に声を上げた。
 一番奥に注ぎ込むと、Ωの体は痙攣するように喜んだ。
 Ωの細い体を押さえ付け、むりやり何度も絶頂させた。
 果てても、果てても、終わりが来ない気がした。

「あぁ、あぁ、いい……! すごくいいよぉ……!」

 そこにいるのは、慶にナイフを向けたΩとはもう別人だった。
 ただただ淫乱なメスの獣が、αの精を欲しがっている。

「全部注いで! 俺のお腹の中、あなたのもので満たして!」

 幾度も中に出して貪るように抱いたのに、Ωは満足しなかった。
 その欲に引きずられ、慶も満足することができなかった。
 不思議なことに交われば交わるだけどんどん欲が増していった。
 Ωの体を自分の下に組み敷いて思うがままにしているのに、なぜか飢餓感が強くなるのだ。

 今までにも慶はΩを抱いたことはある。性欲むき出しでαを欲しがり、淫らな言葉を何度も言うのは発情Ωの特徴だ。だが、慶はこんな飢餓感を味わったことなど今まで一度も無かった。

(なんだこのΩは。なんなんだ、いったい)

 行為の最中、何度その白い首を噛もうと思ったか知れない。
 だが、そのたびにΩの首元の酷い火傷の痕が一瞬だけ慶に理性を戻した。

(だめだ、止まれ。相手の同意を得ずに番には出来ない!)

「くっ……」

(ああ、でも噛みたい。噛んでしまいたい。噛みついて俺のものにしてしまいたい。欲しい。欲しい。欲しい。このΩが欲しくてたまらない)

 会ったばかりのΩなのに。
 俺を殺そうとしたΩなのに。
 名前すら知らないΩなのに。 

「俺のものになれ。何でもしてやる。お前の望みは何でも叶えてやる。だからお前の全部を俺に寄越せ」
「うん、うん、いっぱいしてぇ! いっぱいちょうだい!」

 Ωが甘えるように両手を広げる。
 細い体をこちらに向けさせ、キスして、抱きしめて、激しく揺らしてやる。

「あ、あ、あ、これいい。これ好きだよぉ」

 両手で手首をつかみ、体重をかけるようにしてぐいぐいと押した。

「あぁ、すごい……ふかいぃ! もっとして、めちゃくちゃにして!」

 よがって乱れて叫ぶΩに煽られ、慶のものがまたむくりと力を増す。

(ああ、いつまで続くんだ。おかしくなりそうだ)

 慶は少しずつ、妙な感覚に囚われ始めていた。
 自分の意思でΩを抱いているはずが、いつのまにかΩの思い通りに動かされているような……。

 だが、発情したΩを前に、発情したαが考え事など出来るはずもない。

「ねぇもっと……もっといっぱい……一番奥に……」

 甘い囁きと共にΩの細い腕に背中を撫でられると、慶はまた何も考えられなくなって腰を動かし始めた。

 抱き上げてゆすゆすと揺らしながら、何度も何度もキスを交わす。

「ん……どうだ、奥気持ちいいか……?」
「うん、うん、すごくきもちいい……これいい……これ好き……」


 慶とこのΩは恋人ではない。
 Ωの嬌態は発情によるものだ。
 今、慶の目に見えている幸福そうな微笑みは本物ではない。
 発情したΩがαを求めているだけだというのに……。

 綺麗な指が慶の頬を撫で、Ωが自分から唇を重ねて来た。
 まるで慶を愛しているかのように。

 この行為のすべてがまやかしのようなものでしかないと分かっているのに、慶はただひたすらに目の前のΩに耽溺していった。




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