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(41)時津彦 『浄玻璃鏡』前編
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時津彦は東京の下町に生まれた。
裕福ではなかったが、特に食うに困るということも無い。平凡な両親のもとで平穏な子供時代を過ごした。
6歳の頃、戦争が激しくなってきたことで田舎に疎開し、親戚の井筒家に預けられる。
一年もしない内に戦争は終わったのだが、帰る家は空襲で燃え、両親の生死も不明なまま、時津彦は井筒家に居続けることになってしまった。
傍から見れば肩身の狭い思いをしているように映ったかもしれないが、時津彦は井筒家に残れることを内心喜んでいた。ここには、東京では見たことのないような神秘的で美しい兄妹がいたからだ。
兄の篁と妹の祥子。何代か前に西洋人の血が混じったとかで、透き通るように白い肌と緑がかった瞳を持つ人形のような少年少女だ。
もしも戦時中に二人が東京にいたならば、容姿のせいで迫害を受けたことだろう。だがこの地域では、井筒家は昔ながらの名主の家だったため、二人は過保護に甘やかされて育った。
「トキ、母様が部屋を片付けろってうるさいの。トキがやっておいてよ」
「トキ、僕、裏山で帽子をなくしたみたいなんだ。トキがみつけてきてよ」
わがまま放題の兄妹に何を言われても、時津彦はニコニコと嬉しそうに従った。篁と祥子の美しい顔が微笑んでくれるだけで、時津彦は幸せだったのだ。
けれど、少年と少女は徐々に成長して、そっくりだった顔立ちに変化が表れ始める。男の篁はより冷たく鋭利な印象へ、女の祥子はほんの少し丸みを帯びて優しい印象へと変わっていった。
地域の若い男どもは誰も彼も祥子に関心を寄せるようになっていったが、時津彦は逆だった。祥子の微笑みに男への媚びが見え始めたせいで、時津彦は一気に興味を失ったのだ。
十代半ばを過ぎる頃には、時津彦の関心は完全に篁一人へ傾いていた。
17歳になった頃、性に興味を持ち始めた時津彦はやたらと篁にべたべたするようになる。
山や川へ遊びに行って二人きりになると、時津彦は篁にくっついて座ってみたり、肩に頭を置いたり膝に手を置いたりしてみた。篁はいつも通りに冷たい顔をしていたが、嫌がるそぶりを見せなかった。
だから、時津彦は勘違いをしたのだ。自分の想いが受け入れてもらえるかもしれないと……。
ある日、時津彦は篁のシャツの中にそっと手を忍ばせ胸を撫でてみた。篁はピクリとしたが、時津彦を跳ねのけはしなかった。だから時津彦は調子にのって、篁の唇に自分の唇を押し付けた。
それですべてが終わった。
篁はナメクジでも触った時のようにギャッと声をあげて時津彦を突き飛ばした。そして、手の甲でごしごしと唇をこすり、真っ赤になって時津彦を激しく罵倒した。
思いつく限りの罵詈雑言を浴びせた後、我慢ならなくなったのか、平身低頭する時津彦を足蹴にし始める。
「この親無しの居候が! 恩知らずにもその汚い欲望を僕に向けるとは……! あぁその目を見るだけで吐き気がする! 気持ち悪いんだよ! 今すぐ走って部屋に戻り、荷物をまとめて井筒家を出ていけ! そして二度と僕の前に姿を見せるな!」
時津彦は土下座して謝った。
美しい篁の顔を見られるというだけで、何があっても生きていられた。美しい篁の顔を見られなくなったら、もう生きていける気がしないのだ。
必死で取りすがり、許してもらおうとした。傷つけるつもりは毛頭なかった。だが、不幸なことに、華奢な篁よりも時津彦の方がずっと力が強かった。
足にすがられた篁はバランスを崩し、倒れ、石に頭を打ち付けた。
「た、篁……篁……! 許してくれ、そばにいさせてくれ……!」
泣きながらすがりついた時津彦は、やがて、篁が息をしていないことに気付く。
「篁……?」
篁は死んでいた。
時津彦が殺してしまっていた。
頭が真っ白になり、時津彦はその場で動けなくなったまま、篁の遺体と夜を明かした。
やがて、朝日に照らされた篁の顔を見て、時津彦は気付いた。そこにあるのはもう時津彦の恋焦がれた篁ではなかった。
死んだ篁は。
表情のない篁は。
肌の乾いた篁は。
……もうあまり美しくはなかった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「僕に触るな、汚らわしい!」
絵から生まれた篁が唾棄するように叫ぶ。
時津彦はビリビリと絵を破り、生まれたばかりの篁を消し去った。
こちら側に渡って来てから何度彼を描いただろうか。
その美しさを忠実に再現すればするほど、絵から生まれた篁は時津彦を忌み嫌う。
「当たり前か。自分を殺した男だもんな……」
時津彦はむなしい気持ちで、破いた絵を見下ろした。
あの日、遺体を山に埋めた後、時津彦は迷った末に、篁の最期の言葉に従い荷物をまとめて井筒家を出た。
その後は目的も無くふらふらとその日暮らしで各地をさまよった。いつもいつも篁の顔が恋しくてたまらなかった。
恋しさが高じて、ある日思い付きで絵を描いてみた。時津彦は驚いた。白い紙の中でこちらを見る篁があまりにも篁そのものだったのだ。自分に絵の才能があることをその時初めて知ったのだった。
それからは、暇さえあれば篁を描き、朝な夕なに篁の絵を眺めて暮らした。
その男に話しかけられたのが、どこの酒場だったのかはもう覚えていない。
安酒をちびちび舐めながら篁の冷たい顔を見つめていると、男が後ろから覗き込んできて「良い絵だな」と呟いた。
「あぁ、良い絵だろ」
酔った時津彦がうなずく。
「まるで今にも喋り出しそうだ」
「喋り出しそうだが、喋ってはくれない。これはただの絵だからな」
「もしも口が利けたら、その絵は何と言うと思う?」
「くくくっ、決まっているさ。トキ、その汚い目で僕を見るな。きっとそう言うだろう」
「へぇ……そう言って欲しいのかい?」
時津彦は酔眼を男に向けた。
「もしもこの絵が動いて喋るっていうんなら、俺の命をやってもいい」
「それじゃぁ、私についておいで。きっと君の願いが叶うだろう」
男は自分を『きさら堂』四代目の主人だと名乗った。
四代目は行く当てのない時津彦を異界に連れて行き、『きさら堂』という古い館に迎え入れて、好きに絵を描いていいとアトリエまで用意してくれた。
四代目の話に嘘はなかった。
こちら側の世界では、時津彦の描いた絵は、動き回るし言葉も話す。
だが、問題は時津彦が天才だったことだ。
あまりに才能がありすぎて、時津彦の描いた篁は本物の篁と変わりなかった。ゆえに、描かれた篁は時津彦を激しく拒んだ。
「トキ、気色の悪い目で僕を見るな」
「篁……好きなんだ……。どうか少しでいいから俺を受け入れてくれないか」
「僕が僕である限り、お前を受け入れることは無い。いっそひとおもいに殺してくれ」
幾度も篁を描き、幾度も篁を破り捨てる日々が続き、時津彦はある時、壮麗な枝垂れ桜を描いた。はらはら落ちる薄紅の花びらの下に篁を立たせてやりたかったのだが、時津彦はそこで筆を止めた。
時津彦は篁を描くことをあきらめた。
ここに篁を描けば完成するという風景画を、何枚も何枚も描いた。篁を描けずに未完成のままで、その風景画を売り払った。
時津彦の描く絵はよく『ぬけ現象』を起こす。好事家が競って買い求め、高値が付いた。
その内に四代目が病で倒れ、時津彦は『きさら堂』を受け継いだ。
時津彦は篁不在の絵を描く時と同じように、『きさら堂』もここに篁がいれば完成するという状態に仕上げていった。
篁が暮らす館は常に清潔で快適でなくてはならない。ハウスメイドとランドリーメイドを何人も作った。
篁が食べたいものを作れる料理人を作り、篁が眺める庭のために庭師を作り、篁のわがままに応えるための専属メイドまで作った。
篁を迎え入れる準備だけは完璧に仕上げたが、それでも時津彦は篁を描くことは出来なかった。
眠れないまま夜を明かすことも多く、時報のように動く鎧騎士とも顔なじみのようになっていた。
鈍く光る銀色の西洋甲冑を眺めるともなく眺めていると、四代目に教えられた言葉が浮かんできた。
この鎧騎士はすでに本当の主を守り切れずに失っている。それでも何かを守りたくて、夜ごとに警邏を続けているのだと。
「代わり、か」
時津彦はふっと笑う。
『きさら堂』は、篁を迎え入れて完成する。
だが、時津彦は篁を描けない。
『きさら堂』は永遠に完成しない。
この館を円滑に動かしていくには、仮でいいから主人が必要だ。
「『きさら堂』の、仮の主人か」
時津彦は久々に人物画を描き始めた。
「濡烏の髪、白磁の肌、翡翠の瞳……。姿かたちはもう決まっている。けれど、んー……そうだ、髪はすごく長くしよう。篁に伸ばすよう頼んだ時は断られたが、あの顔立ちには黒々とした長髪が絶対に似合う。名前は……やっぱりタカムラとはぜんぜん違う響きがいいよな。じゃぁ、瞳が翡翠色だから、名前は翡翠でいいか。どうせこれは篁じゃないんだ。おもいっきり違う性格にしてしまおう。うん。やっぱり従順なのがいいよな。俺の言うことには絶対服従だ。盲目的なくらいがいいな。それから、まぁ普段はもちろん貞淑なのがいいけど、たまには淫らな感じもいいし……。月に一度くらい発情させちゃおうか。獣みたいに」
クスクス笑いながら、時津彦は筆を滑らせていく。
「これは俺のために生まれてくる存在。俺を愛し、俺を癒し、俺に仕えるためだけに生きるモノ……」
裕福ではなかったが、特に食うに困るということも無い。平凡な両親のもとで平穏な子供時代を過ごした。
6歳の頃、戦争が激しくなってきたことで田舎に疎開し、親戚の井筒家に預けられる。
一年もしない内に戦争は終わったのだが、帰る家は空襲で燃え、両親の生死も不明なまま、時津彦は井筒家に居続けることになってしまった。
傍から見れば肩身の狭い思いをしているように映ったかもしれないが、時津彦は井筒家に残れることを内心喜んでいた。ここには、東京では見たことのないような神秘的で美しい兄妹がいたからだ。
兄の篁と妹の祥子。何代か前に西洋人の血が混じったとかで、透き通るように白い肌と緑がかった瞳を持つ人形のような少年少女だ。
もしも戦時中に二人が東京にいたならば、容姿のせいで迫害を受けたことだろう。だがこの地域では、井筒家は昔ながらの名主の家だったため、二人は過保護に甘やかされて育った。
「トキ、母様が部屋を片付けろってうるさいの。トキがやっておいてよ」
「トキ、僕、裏山で帽子をなくしたみたいなんだ。トキがみつけてきてよ」
わがまま放題の兄妹に何を言われても、時津彦はニコニコと嬉しそうに従った。篁と祥子の美しい顔が微笑んでくれるだけで、時津彦は幸せだったのだ。
けれど、少年と少女は徐々に成長して、そっくりだった顔立ちに変化が表れ始める。男の篁はより冷たく鋭利な印象へ、女の祥子はほんの少し丸みを帯びて優しい印象へと変わっていった。
地域の若い男どもは誰も彼も祥子に関心を寄せるようになっていったが、時津彦は逆だった。祥子の微笑みに男への媚びが見え始めたせいで、時津彦は一気に興味を失ったのだ。
十代半ばを過ぎる頃には、時津彦の関心は完全に篁一人へ傾いていた。
17歳になった頃、性に興味を持ち始めた時津彦はやたらと篁にべたべたするようになる。
山や川へ遊びに行って二人きりになると、時津彦は篁にくっついて座ってみたり、肩に頭を置いたり膝に手を置いたりしてみた。篁はいつも通りに冷たい顔をしていたが、嫌がるそぶりを見せなかった。
だから、時津彦は勘違いをしたのだ。自分の想いが受け入れてもらえるかもしれないと……。
ある日、時津彦は篁のシャツの中にそっと手を忍ばせ胸を撫でてみた。篁はピクリとしたが、時津彦を跳ねのけはしなかった。だから時津彦は調子にのって、篁の唇に自分の唇を押し付けた。
それですべてが終わった。
篁はナメクジでも触った時のようにギャッと声をあげて時津彦を突き飛ばした。そして、手の甲でごしごしと唇をこすり、真っ赤になって時津彦を激しく罵倒した。
思いつく限りの罵詈雑言を浴びせた後、我慢ならなくなったのか、平身低頭する時津彦を足蹴にし始める。
「この親無しの居候が! 恩知らずにもその汚い欲望を僕に向けるとは……! あぁその目を見るだけで吐き気がする! 気持ち悪いんだよ! 今すぐ走って部屋に戻り、荷物をまとめて井筒家を出ていけ! そして二度と僕の前に姿を見せるな!」
時津彦は土下座して謝った。
美しい篁の顔を見られるというだけで、何があっても生きていられた。美しい篁の顔を見られなくなったら、もう生きていける気がしないのだ。
必死で取りすがり、許してもらおうとした。傷つけるつもりは毛頭なかった。だが、不幸なことに、華奢な篁よりも時津彦の方がずっと力が強かった。
足にすがられた篁はバランスを崩し、倒れ、石に頭を打ち付けた。
「た、篁……篁……! 許してくれ、そばにいさせてくれ……!」
泣きながらすがりついた時津彦は、やがて、篁が息をしていないことに気付く。
「篁……?」
篁は死んでいた。
時津彦が殺してしまっていた。
頭が真っ白になり、時津彦はその場で動けなくなったまま、篁の遺体と夜を明かした。
やがて、朝日に照らされた篁の顔を見て、時津彦は気付いた。そこにあるのはもう時津彦の恋焦がれた篁ではなかった。
死んだ篁は。
表情のない篁は。
肌の乾いた篁は。
……もうあまり美しくはなかった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「僕に触るな、汚らわしい!」
絵から生まれた篁が唾棄するように叫ぶ。
時津彦はビリビリと絵を破り、生まれたばかりの篁を消し去った。
こちら側に渡って来てから何度彼を描いただろうか。
その美しさを忠実に再現すればするほど、絵から生まれた篁は時津彦を忌み嫌う。
「当たり前か。自分を殺した男だもんな……」
時津彦はむなしい気持ちで、破いた絵を見下ろした。
あの日、遺体を山に埋めた後、時津彦は迷った末に、篁の最期の言葉に従い荷物をまとめて井筒家を出た。
その後は目的も無くふらふらとその日暮らしで各地をさまよった。いつもいつも篁の顔が恋しくてたまらなかった。
恋しさが高じて、ある日思い付きで絵を描いてみた。時津彦は驚いた。白い紙の中でこちらを見る篁があまりにも篁そのものだったのだ。自分に絵の才能があることをその時初めて知ったのだった。
それからは、暇さえあれば篁を描き、朝な夕なに篁の絵を眺めて暮らした。
その男に話しかけられたのが、どこの酒場だったのかはもう覚えていない。
安酒をちびちび舐めながら篁の冷たい顔を見つめていると、男が後ろから覗き込んできて「良い絵だな」と呟いた。
「あぁ、良い絵だろ」
酔った時津彦がうなずく。
「まるで今にも喋り出しそうだ」
「喋り出しそうだが、喋ってはくれない。これはただの絵だからな」
「もしも口が利けたら、その絵は何と言うと思う?」
「くくくっ、決まっているさ。トキ、その汚い目で僕を見るな。きっとそう言うだろう」
「へぇ……そう言って欲しいのかい?」
時津彦は酔眼を男に向けた。
「もしもこの絵が動いて喋るっていうんなら、俺の命をやってもいい」
「それじゃぁ、私についておいで。きっと君の願いが叶うだろう」
男は自分を『きさら堂』四代目の主人だと名乗った。
四代目は行く当てのない時津彦を異界に連れて行き、『きさら堂』という古い館に迎え入れて、好きに絵を描いていいとアトリエまで用意してくれた。
四代目の話に嘘はなかった。
こちら側の世界では、時津彦の描いた絵は、動き回るし言葉も話す。
だが、問題は時津彦が天才だったことだ。
あまりに才能がありすぎて、時津彦の描いた篁は本物の篁と変わりなかった。ゆえに、描かれた篁は時津彦を激しく拒んだ。
「トキ、気色の悪い目で僕を見るな」
「篁……好きなんだ……。どうか少しでいいから俺を受け入れてくれないか」
「僕が僕である限り、お前を受け入れることは無い。いっそひとおもいに殺してくれ」
幾度も篁を描き、幾度も篁を破り捨てる日々が続き、時津彦はある時、壮麗な枝垂れ桜を描いた。はらはら落ちる薄紅の花びらの下に篁を立たせてやりたかったのだが、時津彦はそこで筆を止めた。
時津彦は篁を描くことをあきらめた。
ここに篁を描けば完成するという風景画を、何枚も何枚も描いた。篁を描けずに未完成のままで、その風景画を売り払った。
時津彦の描く絵はよく『ぬけ現象』を起こす。好事家が競って買い求め、高値が付いた。
その内に四代目が病で倒れ、時津彦は『きさら堂』を受け継いだ。
時津彦は篁不在の絵を描く時と同じように、『きさら堂』もここに篁がいれば完成するという状態に仕上げていった。
篁が暮らす館は常に清潔で快適でなくてはならない。ハウスメイドとランドリーメイドを何人も作った。
篁が食べたいものを作れる料理人を作り、篁が眺める庭のために庭師を作り、篁のわがままに応えるための専属メイドまで作った。
篁を迎え入れる準備だけは完璧に仕上げたが、それでも時津彦は篁を描くことは出来なかった。
眠れないまま夜を明かすことも多く、時報のように動く鎧騎士とも顔なじみのようになっていた。
鈍く光る銀色の西洋甲冑を眺めるともなく眺めていると、四代目に教えられた言葉が浮かんできた。
この鎧騎士はすでに本当の主を守り切れずに失っている。それでも何かを守りたくて、夜ごとに警邏を続けているのだと。
「代わり、か」
時津彦はふっと笑う。
『きさら堂』は、篁を迎え入れて完成する。
だが、時津彦は篁を描けない。
『きさら堂』は永遠に完成しない。
この館を円滑に動かしていくには、仮でいいから主人が必要だ。
「『きさら堂』の、仮の主人か」
時津彦は久々に人物画を描き始めた。
「濡烏の髪、白磁の肌、翡翠の瞳……。姿かたちはもう決まっている。けれど、んー……そうだ、髪はすごく長くしよう。篁に伸ばすよう頼んだ時は断られたが、あの顔立ちには黒々とした長髪が絶対に似合う。名前は……やっぱりタカムラとはぜんぜん違う響きがいいよな。じゃぁ、瞳が翡翠色だから、名前は翡翠でいいか。どうせこれは篁じゃないんだ。おもいっきり違う性格にしてしまおう。うん。やっぱり従順なのがいいよな。俺の言うことには絶対服従だ。盲目的なくらいがいいな。それから、まぁ普段はもちろん貞淑なのがいいけど、たまには淫らな感じもいいし……。月に一度くらい発情させちゃおうか。獣みたいに」
クスクス笑いながら、時津彦は筆を滑らせていく。
「これは俺のために生まれてくる存在。俺を愛し、俺を癒し、俺に仕えるためだけに生きるモノ……」
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