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11 未来の悪女と婚約した不運な少年 三人称視点
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十四歳になった少年シエロはレウス辺境伯プラッツ家の傍流フェーゴ家で生まれた。
プラッツ家は代々、受け継がれてきた特別な能力で乱世を乗り越えた一族である。
傍流とはいえ、フェーゴ家にも極稀にその能力の一端を発現する者がいた。
当代において、発露したのがシエロだった。
その能力ゆえ、彼は特別な扱いを受けることになる。
当り前のように本家の跡取り娘ステラと引き合わされ、幼馴染と呼ばれる関係になった。
少なくとも幼き日のステラとシエラの関係は傍目には良好と言えるものだった。
幼少期、前世の記憶が戻る前のステラは良くも悪くもお姫様であり、シエロは我儘な姫に忠実に見えた。
魔素熱(オーディック・フィーバー)を発病する前のステラの性格はさておき見た目は純真無垢な天使そのものだったからだ。
多少の我儘は許されて当然のものだった。
それもそのはず。
プラッツ家の血統を受け継ぐ、正当な後継者がステラ以外いなかったのだから。
「シエロくん。ステラちゃんが君をパートナーにしたいと言っているんだがどう思う?」
ある日、プラッツ家の当主代行を務めるサテレスにそう問いかけられた時、シエロは九歳だった。
姪を溺愛する叔父の何とも言えない妙な圧をかけられていることにも気付かず、彼は素直に「はい。僕もなりたいです」と答えた。
将来に向け、教育を受けているとはいえ、まだ子供だったシエロはその時、何も考えていなかった。
ただ可愛いステラと一緒にいられる時間が増えれば、嬉しい。
その程度にしか考えていなかったのだ。
問いかけたサテレスはシエロの返答になぜか、不機嫌で舌打ちをしたがまだ子供だったシエロにはサテレスの不可思議な態度の意味が分からなかった。
シエロは恋愛感情の機微を察せられるほど、精神が成熟していなかったのだから仕方がない。
ともあれ、仮初の婚約関係へと進んだ幼馴染二人――ステラとシエロの関係はこの頃までは良好だったのである。
しかし、それから暫くして、ステラはオーディック・フィーバーを発症し、見た目が急激に変化していった。
天使の如くと称えられた見た目は見る影もなくなり、崩れた体型と膨張した丸い顔にかつての面影が微かに残る程度だった。
見た目の変化に伴い、ステラの言動も悪化の一途を辿る。
もはや我儘ではすまない暴虐ぶりだった。
「こんなことになるなら、はいって頷くんじゃなかった」
かつて幼き日に見た目とは関係なく、互いに心を許す間柄になったことも忘れ、そうぼやくようになったシエロはいつしか、ステラと距離を置くようになった。
居を置いていたレウス市からも離れた。
遠い親戚を頼り、各地を旅する旅団に身を寄せた。
そして、何かを忘れようとするかのように研鑽を積んだ。
幸いなことにシエロが身を寄せたのは、それなりに高い実績を誇る名うての旅団だったことだろう。
実地で鍛えられたシエロは十三の年を迎える頃には、独り立ちできるほどの実力を身に着けていた。
それは血に発露した能力に因るところも大きかったが、彼自身のたゆまぬ努力が実を結んだものだった。
そして、シエロは大いなる勘違いをする。
プラッツの名を継ぎ、レウスを治めるのはステラではなく、己の方がふさわしい。
ぶくぶくと醜く太り、努力もしない豚よりも自分のような人間こそ、上に立つべきではないのかと……。
「そうよ。シエロがなるべきだって」
「だよね。僕もそう思う」
「だから、お姉ちゃんを追い出しましょ」
「そうだね。うん。そうしよう」
シエロの隣にはステラによく似た少女が常に寄り添い、こう囁いた。
髪と瞳の色が異なるステラと瓜二つの少女の名はプレアディ。
年齢はステラと同じ十一歳だ。
そして、生まれた月が少しだけ遅い母親違いの妹だった。
プラッツの血を引くのはステラの母親ガラシアである。
プレアディは父親から微かな血を継いでいるに過ぎなかった。
容姿が似ているだけで継承権も持たなければ、能力も発現していないプラッツとは無関係の娘なのだ。
しかし、プレアディは嘯く。
自分こそがプラッツを継ぐのだと……。
その為に憐れな贄に選ばれたのが、シエロだったのである。
ステラがダイエットに成功し、かつての天使の容貌を取り戻しつつあることも知らず、プレアディに利用されていることも知らず。
憐れな少年シエロはステラに引導を渡さんとレウスへの旅路を急ぐのだった。
プラッツ家は代々、受け継がれてきた特別な能力で乱世を乗り越えた一族である。
傍流とはいえ、フェーゴ家にも極稀にその能力の一端を発現する者がいた。
当代において、発露したのがシエロだった。
その能力ゆえ、彼は特別な扱いを受けることになる。
当り前のように本家の跡取り娘ステラと引き合わされ、幼馴染と呼ばれる関係になった。
少なくとも幼き日のステラとシエラの関係は傍目には良好と言えるものだった。
幼少期、前世の記憶が戻る前のステラは良くも悪くもお姫様であり、シエロは我儘な姫に忠実に見えた。
魔素熱(オーディック・フィーバー)を発病する前のステラの性格はさておき見た目は純真無垢な天使そのものだったからだ。
多少の我儘は許されて当然のものだった。
それもそのはず。
プラッツ家の血統を受け継ぐ、正当な後継者がステラ以外いなかったのだから。
「シエロくん。ステラちゃんが君をパートナーにしたいと言っているんだがどう思う?」
ある日、プラッツ家の当主代行を務めるサテレスにそう問いかけられた時、シエロは九歳だった。
姪を溺愛する叔父の何とも言えない妙な圧をかけられていることにも気付かず、彼は素直に「はい。僕もなりたいです」と答えた。
将来に向け、教育を受けているとはいえ、まだ子供だったシエロはその時、何も考えていなかった。
ただ可愛いステラと一緒にいられる時間が増えれば、嬉しい。
その程度にしか考えていなかったのだ。
問いかけたサテレスはシエロの返答になぜか、不機嫌で舌打ちをしたがまだ子供だったシエロにはサテレスの不可思議な態度の意味が分からなかった。
シエロは恋愛感情の機微を察せられるほど、精神が成熟していなかったのだから仕方がない。
ともあれ、仮初の婚約関係へと進んだ幼馴染二人――ステラとシエロの関係はこの頃までは良好だったのである。
しかし、それから暫くして、ステラはオーディック・フィーバーを発症し、見た目が急激に変化していった。
天使の如くと称えられた見た目は見る影もなくなり、崩れた体型と膨張した丸い顔にかつての面影が微かに残る程度だった。
見た目の変化に伴い、ステラの言動も悪化の一途を辿る。
もはや我儘ではすまない暴虐ぶりだった。
「こんなことになるなら、はいって頷くんじゃなかった」
かつて幼き日に見た目とは関係なく、互いに心を許す間柄になったことも忘れ、そうぼやくようになったシエロはいつしか、ステラと距離を置くようになった。
居を置いていたレウス市からも離れた。
遠い親戚を頼り、各地を旅する旅団に身を寄せた。
そして、何かを忘れようとするかのように研鑽を積んだ。
幸いなことにシエロが身を寄せたのは、それなりに高い実績を誇る名うての旅団だったことだろう。
実地で鍛えられたシエロは十三の年を迎える頃には、独り立ちできるほどの実力を身に着けていた。
それは血に発露した能力に因るところも大きかったが、彼自身のたゆまぬ努力が実を結んだものだった。
そして、シエロは大いなる勘違いをする。
プラッツの名を継ぎ、レウスを治めるのはステラではなく、己の方がふさわしい。
ぶくぶくと醜く太り、努力もしない豚よりも自分のような人間こそ、上に立つべきではないのかと……。
「そうよ。シエロがなるべきだって」
「だよね。僕もそう思う」
「だから、お姉ちゃんを追い出しましょ」
「そうだね。うん。そうしよう」
シエロの隣にはステラによく似た少女が常に寄り添い、こう囁いた。
髪と瞳の色が異なるステラと瓜二つの少女の名はプレアディ。
年齢はステラと同じ十一歳だ。
そして、生まれた月が少しだけ遅い母親違いの妹だった。
プラッツの血を引くのはステラの母親ガラシアである。
プレアディは父親から微かな血を継いでいるに過ぎなかった。
容姿が似ているだけで継承権も持たなければ、能力も発現していないプラッツとは無関係の娘なのだ。
しかし、プレアディは嘯く。
自分こそがプラッツを継ぐのだと……。
その為に憐れな贄に選ばれたのが、シエロだったのである。
ステラがダイエットに成功し、かつての天使の容貌を取り戻しつつあることも知らず、プレアディに利用されていることも知らず。
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