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23 荒野の亡霊、ウェイストランズゴーストと呼ばれた獣
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コミューン連合の本拠地マドリードには王宮オリエンテがある。
王たるオルデンが住まう地として知られるオリエンテだが、かつての威容は失われて久しい。
戦乱と混乱の中、太陽の沈まない国の象徴も次々と失われていった。
オリエンテもその例に漏れず、荒れ果てた廃墟と化していたのだ。
コミューン連合がマドリード入りを果たし、オリエンテ宮の復興に尽力したのは人心掌握を兼ねた戦術の一つでもあった。
献策したのは内務卿カストロだった。
彼もまた、人ではない。
首無しの妖精として知られる種族デュラハンなのだ。
首無しの名は伊達ではなく、彼の顔は存在しない。
その代わり、己が望むように顔を変えられる。
それがデュラハンである。
特性からか、カストロは心理戦に強い。
それゆえの献策だった。
「ふむ。何か、良い手はあるか?」
威厳に満ちた声の主はオルデン、その人だった。
落ち着き払った態度のオルデンは、巷で噂されるような老年の域に達した男ではなく、青年である。
鍛え上げられた肉体を見せつけるかの如く、敢えて薄衣を上半身に纏っていた。
しかし、その右腕は何とも痛々しい。
機械化された義手になっている。
肩の付け根から、生身が失われていたのだ。
もっともオルデンはそのことをあまり気にしていない。
対するは内務卿カストロと外務卿にして宰相ムシカだ。
現在のカストロは彫刻のように整った美男子の顔をしていた。
彼にとって、顔にそれほどの意味はない。
重要なのは顔が及ぼす影響力であり、そこにしか興味を抱いていないのだ。
オルデンにどれだけ忠義の心を見せられるか。
もっとも大切なのはそれだけなのである。
ムシカもまた、整った顔立ちをしている。
彼女の容姿は父親譲りだ。
ムシカの父親はエルフだった。
ハーフエルフとして生まれた彼女もまた、波乱万丈の半生を歩んできたのだ。
ゆえにムシカは人間を信じなかった。
憎悪ではなく、諦めは彼女を感情の起伏がない機械のようなパーソナリティを作り上げた。
「この件に関しましては私に一任していただきたく」
「ほお? カストロも同意か?」
「はい、陛下」
「ふむ」と一声唸るとオルデンは顎に手をやり、暫し瞑目した。
時間にして、僅か数秒の逡巡。
オルデンは即断即決を好む果断の人だった。
何より、カストロとムシカは信頼する部下であり、友である。
迷いが生じようはずもなかった。
「よかろう。ムシカに任せよう」
「ははっ。必ずや吉報をお届け致します」
それから、数刻後、ムシカが執務室に招聘したのは件の任務をこなせる有能な人材だった。
彼らは人の姿をしていない。
鋼鉄の板さえ貫く尖った嘴と鉤爪に闇のような翼を持つ猛禽類アギーラ。
しなやかな体に鋭い爪と牙を隠す漆黒の四足獣レオポルド。
闇よりも暗く、影を纏った不気味な翼を持つ空飛ぶ獣ムルシエラゴ。
純白の雪をその身に浴びたようにどこまでも白く、美しい尾羽を持つ鳥類パヴォ。
「当地に潜入し、標的に接触。やりたい人は?」
ムシカの問いかけに四体は互いに顔を見合わせ、首を傾げた。
彼らはムシカと魂の絆で結ばれた獣でありながらも獣ではない不可思議な存在だ。
その特性ゆえ、それぞれが潜入工作と破壊工作に長けている。
誰が引き受けても問題ない以上、彼らは立候補する必要がないと感じていた。
「なお本作戦において、人化の必要性がある。どうする?」
ムシカもそのことを理解していた。
そこで続けたのが次の言葉だったのだ。
彼らは残念ながら、人化して行動するのが得意ではない。
人として、どのように動き、何をすればいいのかを理解していない以上、非常に厳しい任務になることが予想された。
誰もが尻込みする中、前に出たのが黒き四足の獣レオポルドだった。
「その名では動きにくかろう。そうね。あなたはクロミア……いい? クロミアよ」
「イエス、マイマスター」
「堅いわね。出立までにもう少し、どうにかなさい」
「イエス……」
しかし、残念ながら、ムシカの思いはあまりクロミアに届かなかった。
己の姿にあまりに無頓着なクロミアはアギーラのサポートでレウスから程近い地に降り立った。
ただし、一糸纏わぬ姿で……。
荒れ果てた集落であったことが幸いし、それほど大きな問題は発生しなかった。
無惨にも手足をもがれ、全身を切り裂かれた無法者がいただけである……。
「了解……。人は服を着る……。学んだ」
王たるオルデンが住まう地として知られるオリエンテだが、かつての威容は失われて久しい。
戦乱と混乱の中、太陽の沈まない国の象徴も次々と失われていった。
オリエンテもその例に漏れず、荒れ果てた廃墟と化していたのだ。
コミューン連合がマドリード入りを果たし、オリエンテ宮の復興に尽力したのは人心掌握を兼ねた戦術の一つでもあった。
献策したのは内務卿カストロだった。
彼もまた、人ではない。
首無しの妖精として知られる種族デュラハンなのだ。
首無しの名は伊達ではなく、彼の顔は存在しない。
その代わり、己が望むように顔を変えられる。
それがデュラハンである。
特性からか、カストロは心理戦に強い。
それゆえの献策だった。
「ふむ。何か、良い手はあるか?」
威厳に満ちた声の主はオルデン、その人だった。
落ち着き払った態度のオルデンは、巷で噂されるような老年の域に達した男ではなく、青年である。
鍛え上げられた肉体を見せつけるかの如く、敢えて薄衣を上半身に纏っていた。
しかし、その右腕は何とも痛々しい。
機械化された義手になっている。
肩の付け根から、生身が失われていたのだ。
もっともオルデンはそのことをあまり気にしていない。
対するは内務卿カストロと外務卿にして宰相ムシカだ。
現在のカストロは彫刻のように整った美男子の顔をしていた。
彼にとって、顔にそれほどの意味はない。
重要なのは顔が及ぼす影響力であり、そこにしか興味を抱いていないのだ。
オルデンにどれだけ忠義の心を見せられるか。
もっとも大切なのはそれだけなのである。
ムシカもまた、整った顔立ちをしている。
彼女の容姿は父親譲りだ。
ムシカの父親はエルフだった。
ハーフエルフとして生まれた彼女もまた、波乱万丈の半生を歩んできたのだ。
ゆえにムシカは人間を信じなかった。
憎悪ではなく、諦めは彼女を感情の起伏がない機械のようなパーソナリティを作り上げた。
「この件に関しましては私に一任していただきたく」
「ほお? カストロも同意か?」
「はい、陛下」
「ふむ」と一声唸るとオルデンは顎に手をやり、暫し瞑目した。
時間にして、僅か数秒の逡巡。
オルデンは即断即決を好む果断の人だった。
何より、カストロとムシカは信頼する部下であり、友である。
迷いが生じようはずもなかった。
「よかろう。ムシカに任せよう」
「ははっ。必ずや吉報をお届け致します」
それから、数刻後、ムシカが執務室に招聘したのは件の任務をこなせる有能な人材だった。
彼らは人の姿をしていない。
鋼鉄の板さえ貫く尖った嘴と鉤爪に闇のような翼を持つ猛禽類アギーラ。
しなやかな体に鋭い爪と牙を隠す漆黒の四足獣レオポルド。
闇よりも暗く、影を纏った不気味な翼を持つ空飛ぶ獣ムルシエラゴ。
純白の雪をその身に浴びたようにどこまでも白く、美しい尾羽を持つ鳥類パヴォ。
「当地に潜入し、標的に接触。やりたい人は?」
ムシカの問いかけに四体は互いに顔を見合わせ、首を傾げた。
彼らはムシカと魂の絆で結ばれた獣でありながらも獣ではない不可思議な存在だ。
その特性ゆえ、それぞれが潜入工作と破壊工作に長けている。
誰が引き受けても問題ない以上、彼らは立候補する必要がないと感じていた。
「なお本作戦において、人化の必要性がある。どうする?」
ムシカもそのことを理解していた。
そこで続けたのが次の言葉だったのだ。
彼らは残念ながら、人化して行動するのが得意ではない。
人として、どのように動き、何をすればいいのかを理解していない以上、非常に厳しい任務になることが予想された。
誰もが尻込みする中、前に出たのが黒き四足の獣レオポルドだった。
「その名では動きにくかろう。そうね。あなたはクロミア……いい? クロミアよ」
「イエス、マイマスター」
「堅いわね。出立までにもう少し、どうにかなさい」
「イエス……」
しかし、残念ながら、ムシカの思いはあまりクロミアに届かなかった。
己の姿にあまりに無頓着なクロミアはアギーラのサポートでレウスから程近い地に降り立った。
ただし、一糸纏わぬ姿で……。
荒れ果てた集落であったことが幸いし、それほど大きな問題は発生しなかった。
無惨にも手足をもがれ、全身を切り裂かれた無法者がいただけである……。
「了解……。人は服を着る……。学んだ」
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