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43 聖女は思う 三人称視点
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レウス市を離れたヴィーことヴァンニ・ビスコンティが向かったのは、バルセロナの北西――ピレネーへと向かう途中に敷かれたペルフェクティオ・サンクトゥスの陣だった。
指揮するのは『鋼の聖女』リベルタ・インテンシオンである。
彼女が手勢を率い、陣を敷いたのは突如、活発に動き始めた獣人バサジュアンを牽制する為だった。
歴戦の勇士であり、副官を務めるアイゼンを始めとした神官戦士団の実力者が多数、参加している。
バサジュアンは人間よりやや大柄の亜人種に相当する獣人だ。
全身に長い毛が生えており、二足で歩行する。
毛むくじゃらで何とも恐ろしい生き物のように見えるが、性質は温厚で人に害を及ぼさない善良な種族としても知られている。
かつて存在した大型類人猿と考えられていたアメリカのビッグフットやヒマラヤのイエティなどに近い未確認生命体だった。
彼らは単独行動を好み、徒党を組むことが珍しい。
そのバサジュアンが大挙して押し寄せる。
異常事態が発生し、急遽招集され、出兵したのがリベルタの率いる鋼の師団だった。
しかし、戦線は膠着したままでどちらもが手を出さず、睨み合いが続いていた。
「ふむ。報告の通りであるならば、実に興味深い」
ヴァンニから、レウス市で起きた顛末を聞いたリベルタは顎に手をやり、頷いて見せた。
リベルタは本陣においても決して、気を緩めることがない。
目の覚めるような青のトゥニカを纏い、首には血染めのストールを巻いていた。
彼女の戦装束である。
凪いでいる時のリベルタは穏やかな淑女にしか見えない。
シルバーのメッシュが入ったマリンブルーの髪とスカイブルーの瞳は神秘的で見る者の心に安らぎを与えるものだ。
何より、彼女は美しかった。
聖女として覚醒した少女の時の姿を保っていたからだ。
もっとも彼女に近い者は、彼女が静的ではなく、動的な聖女であり、激しく苛烈なことを知っている。
リベルタは薔薇に棘ありを体現する存在だった。
「我らも考えるべき時が来たのかもしれないな」
レウス市を治めるプラッツ家の実力は決して、侮れないと考え、鈴を付けた。
もしも危険な存在であるならば、成長する前に処理するのが鈴の役目だった。
鈴がまとめた報告書に目を通し、リベルタは思案した。
そして、最大の懸念だったプラッツの暴れ姫が世界にとって害悪どころか、有益な存在ではないかと考えていた。
だが、リベルタはすぐに結論を出さない。
鈴たるヴァンニが行動を共にすることで暴れ姫に感化された可能性を否定できなかったからだ。
しかし、ヴァンニの性格を誰よりも熟知しているのがリベルタである。
その可能性はないと判断した。
リベルタの心にステラ・プラッツへの純粋な好奇心が芽生えた瞬間だった。
「しかし、インテンシオン。面倒だからよ。ばーんと派手にやっちまった方がよくないか」
「アイゼン殿。もう少し、スマートに考えた方がよくありませんか?」
膠着状態の戦線に不満を隠せない副官アイゼンは、物騒な物言いも隠さない。
アイゼンは考えるよりも先に体が動く質の男である。
細かいことはいいから、目の前の敵を粉砕すれば解決すると考えているのだ。
実際、聖者の国ではこの考えが主流派である。
やんわりとした言い方ながらも反論したのは、鋼の師団もう一人の重鎮ルースだった。
アイゼンとは対照的な長身で細身のスマートな体格の男だ。
容貌も整っており、目鼻立ちのはっきりとした美男子だった。
考え方も見た目通り、やや柔和である。
ただし、ルースの言うスマートには中身がない。
具体的にどうすればいいのかという対案は出さないのだ。
「一理ある。だが、私はこうも考えるのだ。彼らがなぜあのような行動を取ったのか……とね。もしかしたら、何か、理由があるのかもしれないだろう?」
「そうなのか?」
「さあ?」
信頼する部下二人の反応にリベルタはそれも当然だろうと思った。
そして、リベルタは考えた。
以前の自分であれば、二人と同じ反応をしただろうと。
柔軟な考え方も悪くない。
そのように考え始めたのはヴァンニの報告書に目を通してからだった。
リベルタの言葉に沈黙がその場を支配した。
ヴァンニ一人だけが涼やかに落ち着いた表情をしている。
「あちらの代表と話してみようと思う」
聖女の決定は絶対である。
アイゼンは苦虫を嚙み潰したような顔をしており、ルースも腑に落ちない表情をしていた。
しかし、リベルタの心はなぜか、澄み切った青空のように晴れやかだ。
ステラ・プラッツがどのような少女なのか、実際に目で見たい。
リベルタがそう強く、心に決意したのは実にこの時だったのである……。
リベルタの読みと判断は誤りではなかった。
バサジュアン蜂起の影に亜人種解放を掲げる危険なテロリスト『リベリオン』が絡んでいた。
バサジュアンは『リベリオン』の武装集団に集落を襲われ、逃げてきた無辜の民だったのだ。
リベルタが何も考えず、バサジュアンを殲滅していたら、ペルフェクティオ・サンクトゥスは要らぬ誹りを受けただろう。
それが『リベリオン』の狙いだった。
図らずもステラの行いが間接的とはいえ、情勢に関与していたのだ。
「くちゅん、くちゅん」
「どうしたの、お姉ちゃん」
「誰かに噂されてるのかも」
「また、何か、悪いことしたんでしょ」
「してないし」
指揮するのは『鋼の聖女』リベルタ・インテンシオンである。
彼女が手勢を率い、陣を敷いたのは突如、活発に動き始めた獣人バサジュアンを牽制する為だった。
歴戦の勇士であり、副官を務めるアイゼンを始めとした神官戦士団の実力者が多数、参加している。
バサジュアンは人間よりやや大柄の亜人種に相当する獣人だ。
全身に長い毛が生えており、二足で歩行する。
毛むくじゃらで何とも恐ろしい生き物のように見えるが、性質は温厚で人に害を及ぼさない善良な種族としても知られている。
かつて存在した大型類人猿と考えられていたアメリカのビッグフットやヒマラヤのイエティなどに近い未確認生命体だった。
彼らは単独行動を好み、徒党を組むことが珍しい。
そのバサジュアンが大挙して押し寄せる。
異常事態が発生し、急遽招集され、出兵したのがリベルタの率いる鋼の師団だった。
しかし、戦線は膠着したままでどちらもが手を出さず、睨み合いが続いていた。
「ふむ。報告の通りであるならば、実に興味深い」
ヴァンニから、レウス市で起きた顛末を聞いたリベルタは顎に手をやり、頷いて見せた。
リベルタは本陣においても決して、気を緩めることがない。
目の覚めるような青のトゥニカを纏い、首には血染めのストールを巻いていた。
彼女の戦装束である。
凪いでいる時のリベルタは穏やかな淑女にしか見えない。
シルバーのメッシュが入ったマリンブルーの髪とスカイブルーの瞳は神秘的で見る者の心に安らぎを与えるものだ。
何より、彼女は美しかった。
聖女として覚醒した少女の時の姿を保っていたからだ。
もっとも彼女に近い者は、彼女が静的ではなく、動的な聖女であり、激しく苛烈なことを知っている。
リベルタは薔薇に棘ありを体現する存在だった。
「我らも考えるべき時が来たのかもしれないな」
レウス市を治めるプラッツ家の実力は決して、侮れないと考え、鈴を付けた。
もしも危険な存在であるならば、成長する前に処理するのが鈴の役目だった。
鈴がまとめた報告書に目を通し、リベルタは思案した。
そして、最大の懸念だったプラッツの暴れ姫が世界にとって害悪どころか、有益な存在ではないかと考えていた。
だが、リベルタはすぐに結論を出さない。
鈴たるヴァンニが行動を共にすることで暴れ姫に感化された可能性を否定できなかったからだ。
しかし、ヴァンニの性格を誰よりも熟知しているのがリベルタである。
その可能性はないと判断した。
リベルタの心にステラ・プラッツへの純粋な好奇心が芽生えた瞬間だった。
「しかし、インテンシオン。面倒だからよ。ばーんと派手にやっちまった方がよくないか」
「アイゼン殿。もう少し、スマートに考えた方がよくありませんか?」
膠着状態の戦線に不満を隠せない副官アイゼンは、物騒な物言いも隠さない。
アイゼンは考えるよりも先に体が動く質の男である。
細かいことはいいから、目の前の敵を粉砕すれば解決すると考えているのだ。
実際、聖者の国ではこの考えが主流派である。
やんわりとした言い方ながらも反論したのは、鋼の師団もう一人の重鎮ルースだった。
アイゼンとは対照的な長身で細身のスマートな体格の男だ。
容貌も整っており、目鼻立ちのはっきりとした美男子だった。
考え方も見た目通り、やや柔和である。
ただし、ルースの言うスマートには中身がない。
具体的にどうすればいいのかという対案は出さないのだ。
「一理ある。だが、私はこうも考えるのだ。彼らがなぜあのような行動を取ったのか……とね。もしかしたら、何か、理由があるのかもしれないだろう?」
「そうなのか?」
「さあ?」
信頼する部下二人の反応にリベルタはそれも当然だろうと思った。
そして、リベルタは考えた。
以前の自分であれば、二人と同じ反応をしただろうと。
柔軟な考え方も悪くない。
そのように考え始めたのはヴァンニの報告書に目を通してからだった。
リベルタの言葉に沈黙がその場を支配した。
ヴァンニ一人だけが涼やかに落ち着いた表情をしている。
「あちらの代表と話してみようと思う」
聖女の決定は絶対である。
アイゼンは苦虫を嚙み潰したような顔をしており、ルースも腑に落ちない表情をしていた。
しかし、リベルタの心はなぜか、澄み切った青空のように晴れやかだ。
ステラ・プラッツがどのような少女なのか、実際に目で見たい。
リベルタがそう強く、心に決意したのは実にこの時だったのである……。
リベルタの読みと判断は誤りではなかった。
バサジュアン蜂起の影に亜人種解放を掲げる危険なテロリスト『リベリオン』が絡んでいた。
バサジュアンは『リベリオン』の武装集団に集落を襲われ、逃げてきた無辜の民だったのだ。
リベルタが何も考えず、バサジュアンを殲滅していたら、ペルフェクティオ・サンクトゥスは要らぬ誹りを受けただろう。
それが『リベリオン』の狙いだった。
図らずもステラの行いが間接的とはいえ、情勢に関与していたのだ。
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