【完結】聞いてない、知らないで許されると思ったら、甘いです

黒幸

文字の大きさ
21 / 29

第15話 兄弟王子相克

しおりを挟む
「この私をなめるなよ」

 一歩一歩、ゆっくりとこちらへと歩みを進めるカスペル殿下の両手に細身の優美な長剣が現れました。
 あれはもしかして、魔法剣!?

 魔力によって生み出された実体を持たない不思議な剣を使う魔法です。
 制御が難しく、一本を出現させるのでさえ、実現させた者が片手の指で足りる人数しか、いないと言われていたような……。
 それを二本、軽々と出現させるとはカスペル殿下の力は強力な魅了だけではないということでしょうか?

「ユリ。気を付けて」
「分かってるって!」

 言うや否やもう床を蹴って、ユリはあっという間にカスペル殿下の間合いに入っていました。
 彼女は小柄な体格を不利とは思わずに逆に生かして、戦う子です。
 あれは殿下の顎を狙っているのね。

 右の拳が唸りを上げて、殿下の顎だけを狙っているようです。
 全く、容赦がないんだから。
 ユリの必殺、しゃがみこんでからの加速を付けたアッパーカットでした。

「甘い!」
「やるわね?」

 残念ながら、カスペル殿下の顎は砕けなかったようです。

 ユリの金色の炎を発する拳をカスペル殿下は左の魔法剣の柄で止めるという器用な芸を見せてくれました。
 それだけではなく、動きが止まったユリを牽制するように右の魔法剣を彼女目掛けて、振っていたのです。

「待て……ユリアナ嬢。ここは俺に任せてくれないか」

 再び、間合いを取って、睨み合ったまま、動きが取れない両者に向けて、ようやく立ち上がったエドウィン殿下が放った一言に場が沈黙に包まれました。
 表情を見る限り、私の解いた魅了の呪いによる副作用でまだ、身体に違和感があると思われるのですが……。

「兄上。そんな体で何が出来るのですか? おとなしく、そこで寝たままの方が幸せだったのではないですか?」

 リューク殿下と同じ顔なのにそうとは思えないほどに醜悪で邪で歪なものがカスペル殿下の表情に浮かんでいました。
 心が影響するというのは本当なのかもしれません。

「兄として、男として、お前に負ける訳にはいかんのだ」
「ああ。そういうことですか」

 どういうことですか?
 頭の中に疑問符が浮かんでは消えていき、ユリとヨハンナ殿下に助けを求めるように視線を向けても、やれやれという表情をされます。
 何でしょうね。
 私は仲間外れなのでしょうか?
 分かっていないのはどうやら、私だけのようですし……。

「かかってこい。この脳筋め。お前の真っ直ぐなところが昔から、嫌いだったんだ」
「くっ。カスペル……お前。そうか。もう無理なんだな」

 対峙する王子殿下二人の男の勝負が始まるので、ユリもお手上げとばかりに両手を上げています。
 ユリも仲間外れになったから、私の仲間ね♪

 ですが、エルヴィン殿下の身体が心配です。
 祈るだけの私ですが祈らせていただきましょう。

 どうか、あの方に力を……。
 そして、どうか安らかな心を取り戻せますように……。

 ただ、祈るだけの私をお許しください。
しおりを挟む
感想 32

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

白い結婚を捨てた王妃は、もう二度と振り向かない ――愛さぬと言った王子が全てを失うまで』

鍛高譚
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」 華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。 王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。 そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。 レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。 「お願いだ……戻ってきてくれ……」 王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。 「もう遅いわ」 愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。 裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。 これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。

無能聖女の失敗ポーション〜働き口を探していたはずなのに、何故みんなに甘やかされているのでしょう?〜

矢口愛留
恋愛
クリスティーナは、初級ポーションすら満足に作れない無能聖女。 成人を迎えたことをきっかけに、これまでずっと暮らしていた神殿を出なくてはいけなくなった。 ポーションをどうにかお金に変えようと、冒険者ギルドに向かったクリスティーナは、自作ポーションだけでは生活できないことに気付く。 その時タイミングよく、住み込み可の依頼(ただしとても怪しい)を発見した彼女は、駆け出し冒険者のアンディと共に依頼を受ける。 依頼書に記載の館を訪れた二人を迎えるのは、正体不明の主人に仕える使用人、ジェーンだった。 そこでクリスティーナは、自作の失敗ポーションを飲んで体力を回復しながら仕事に励むのだが、どういうわけかアンディとジェーンにやたら甘やかされるように。 そして、クリスティーナの前に、館の主人、ギルバートが姿を現す。 ギルバートは、クリスティーナの失敗ポーションを必要としていて――。 「毎日、私にポーションを作ってくれないか。私には君が必要だ」 これは無能聖女として搾取され続けていたクリスティーナが、居場所を見つけ、自由を見つけ、ゆったりとした時間の中で輝いていくお話。 *カクヨム、小説家になろうにも投稿しています。

王家を追放された落ちこぼれ聖女は、小さな村で鍛冶屋の妻候補になります

cotonoha garden
恋愛
「聖女失格です。王家にも国にも、あなたはもう必要ありません」——そう告げられた日、リーネは王女でいることさえ許されなくなりました。 聖女としても王女としても半人前。婚約者の王太子には冷たく切り捨てられ、居場所を失った彼女がたどり着いたのは、森と鉄の匂いが混ざる辺境の小さな村。 そこで出会ったのは、無骨で無口なくせに、さりげなく怪我の手当てをしてくれる鍛冶屋ユリウス。 村の事情から「書類上の仮妻」として迎えられたリーネは、鍛冶場の雑用や村人の看病をこなしながら、少しずつ「誰かに必要とされる感覚」を取り戻していきます。 かつては「落ちこぼれ聖女」とさげすまれた力が、今度は村の子どもたちの笑顔を守るために使われる。 そんな新しい日々の中で、ぶっきらぼうな鍛冶屋の優しさや、村人たちのさりげない気遣いが、冷え切っていたリーネの心をゆっくりと溶かしていきます。 やがて、国難を前に王都から使者が訪れ、「再び聖女として戻ってこい」と告げられたとき—— リーネが選ぶのは、きらびやかな王宮か、それとも鉄音の響く小さな家か。 理不尽な追放と婚約破棄から始まる物語は、 「大切にされなかった記憶」を持つ読者に寄り添いながら、 自分で選び取った居場所と、静かであたたかな愛へとたどり着く物語です。

【完結】濡れ衣聖女はもう戻らない 〜ホワイトな宮廷ギルドで努力の成果が実りました

冬月光輝
恋愛
代々魔術師の名家であるローエルシュタイン侯爵家は二人の聖女を輩出した。 一人は幼き頃より神童と呼ばれた天才で、史上最年少で聖女の称号を得たエキドナ。 もう一人はエキドナの姉で、妹に遅れをとること五年目にしてようやく聖女になれた努力家、ルシリア。 ルシリアは魔力の量も生まれつき、妹のエキドナの十分の一以下でローエルシュタインの落ちこぼれだと蔑まれていた。 しかし彼女は努力を惜しまず、魔力不足を補う方法をいくつも生み出し、教会から聖女だと認められるに至ったのである。 エキドナは目立ちたがりで、国に一人しかいなかった聖女に姉がなることを良しとしなかった。 そこで、自らの家宝の杖を壊し、その罪を姉になすりつけ、彼女を実家から追放させた。 「無駄な努力」だと勝ち誇った顔のエキドナに嘲り笑われたルシリアは失意のまま隣国へと足を運ぶ。 エキドナは知らなかった。魔物が増えた昨今、彼女の働きだけでは不足だと教会にみなされて、姉が聖女になったことを。 ルシリアは隣国で偶然再会した王太子、アークハルトにその力を認められ、宮廷ギルド入りを勧められ、宮仕えとしての第二の人生を送ることとなる。 ※旧タイトル『妹が神童だと呼ばれていた聖女、「無駄な努力」だと言われ追放される〜「努力は才能を凌駕する」と隣国の宮廷ギルドで証明したので、もう戻りません』

聖女は王子たちを完全スルーして、呪われ大公に強引求婚します!

葵 すみれ
恋愛
今宵の舞踏会は、聖女シルヴィアが二人の王子のどちらに薔薇を捧げるのかで盛り上がっていた。 薔薇を捧げるのは求婚の証。彼女が選んだ王子が、王位争いの勝者となるだろうと人々は囁き交わす。 しかし、シルヴィアは薔薇を持ったまま、自信満々な第一王子も、気取った第二王子も素通りしてしまう。 彼女が薔薇を捧げたのは、呪われ大公と恐れられ、蔑まれるマテウスだった。 拒絶されるも、シルヴィアはめげない。 壁ドンで追い詰めると、強引に薔薇を握らせて宣言する。 「わたくし、絶対にあなたさまを幸せにしてみせますわ! 絶対に、絶対にです!」 ぐいぐい押していくシルヴィアと、たじたじなマテウス。 二人のラブコメディが始まる。 ※他サイトにも投稿しています

スキルなし王妃の逆転劇〜妹の策略で悪役令嬢にされ、婚約破棄された私が冷酷王の心を歌で揺らすまで〜

雪城 冴
恋愛
聖歌もファンファーレもない無音の結婚式。 「誓いの言葉は省略する」 冷酷王の宣言に、リリアナは言葉を失った。 スキル名を持たないという理由だけで“無能”と蔑まれてきたリリアナ。 妹の企みにより婚約破棄され、隣国の王・オスカーとの政略結婚が決まる。 義妹は悪魔のような笑みで言う。 「次は婚約破棄されないようにお気をつけて」 リリアナに残されたのは、自分を慰めるように歌うことだけ。 ところが、魔力が満ちるはずの王国には、舞踏会すら開かれない不気味な静寂が広がっていた。 ――ここは〈音のない国〉 冷酷王が隠している“真実”とは? そして、リリアナの本当のスキルとは――。 勇気と知性で運命を覆す、 痛快逆転ファンタジー。 ※表紙絵はAI生成

処理中です...