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1st Target ユリシーズ
7 化け物面
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お昼休みが終わり、殿下一行の観察は終わった。
短いようで長かった。
何よりも辛かったのは、何とも悍ましいモノが蠢く様を見続けないといけないことだ。
幸いなことに私の能力は見るだけであって。
離れた場所の声や音を聞くことはできないから、そちらの情報はハリー任せになる。
しかし、あくまで周囲に悟られないように動かないといけない。
放課後になるのを待って、ハリーと再び合流した。
「それで一体、何が見えたんだ?」
「それが……えっと、あのそれより、気になることがありまして」
聞きたかったのにずっと我慢していたのだ。
ハリーはウィステリア家に仕える家人であって、学園の生徒ではないはず。
それなのにしっかりと制服を着込んで、学生になりきっている。
むしろ、二年も通っている私より、馴染んでいるのでは?
そんな自然な振る舞いができている。
不思議で仕方なかった。
そんなどうでもいいことをと怒られそうだけど、気になって仕方がなかったのだ。
「ああ。これか? メリー。この学園の学園長、知ってるか?」
「勿論。ケリー・ウィステリア公爵閣下です。あっ……」
「そういうことだよ。学生一人がいつの間にか増えたり、減ったり。ちょちょいのちょいってな」
「それって、職権濫用では?」
「いいんだよ」
どこか諦めたような、悟りを得たような。
何とも言えない複雑な表情をしているハリーを見るとそれ以上、言えなかった。
暫くの間、ハリーは口を閉じたままだし、私も声を掛けづらくて、無言が続いた。
沈黙は金と言うけれど、軽く精神的な拷問を受けているみたいで居心地がよろしくない……。
「で何が見えたって?」
実際には五分も経ってなかったから、長く感じただけで短時間だったのだけど、永遠に続く責苦みたいで。
ハリーがそう切り出してくれたお陰で、そんな責苦は終わりを告げた。
私から、切り出せば良かったのかもしれない。
でも、勇気や度胸はどこかに置いてきたのでない……。
「え、えっと……それがゲッテンズ嬢以外の皆様が……その……あの……」
「何だよ? 歯切れの悪い言い方だな。はっきりと言っちゃいなよ」
「え、ええ。まるで化け物みたいと申しますか、その……」
「化け物ね? どんな感じなんだ?」
「鼻はこんな風に潰れていて。それで口は耳元まで裂けたみたいに大きくて。犬歯もやたらと鋭かったです」
実演を混ぜて、説明したのがまずかったのだろうか。
ハリーは口許を押さえて、笑いを堪えているようにしか見えない。
何で笑っているの? と問いかけるような強心臓ではないので、見なかったことにして続ける。
「目も白目の部分がなくて、虹彩だけでこんな風に吊り上がっていて……」
「分かった。もうそれくらいで勘弁してくれ。そうだな。こんな感じでこうか?」
笑うのを我慢するのが辛かったのか、ハリーは白旗を上げた。
そして、メモ代わりの小さな紙にさらさらと似顔絵を描き始めた。
あっという間に描き上げたにしては上手だった。
「どこかで見たような……」
「南アメリカにいる血を吸う蝙蝠に似てるな」
「そう言われると似てますね」
「だろ? そんな顔をした化け物か。まさか、あの第三王子がって、誰も信じないだろうな」
「でしょうね。殿下の評判は非常にいいですから。ハリーは何を聞いたのですか?」
「あんたが見た化け物面並みに衝撃的な内容だったよ。第二王子を蹴落として、お嬢様の婚約者に収まり、この国を支配する気でいやがった!」
ハリーは怒っている。
憎々し気に言い放った時の表情はあまりにも怖くて、別人かと思ったくらいだ。
そういえば、彼は人狼だった。
普段は抑えている狂気みたいなものがあるのだろうか。
「まあ、俺達の任務はあくまで証拠集めで情報をできるだけ、集めることだ。化け物もお嬢様がどういうヤツラなのか、調べてくれるだろうよ」
「そうですか。それと気になったのですが……」
「うん? なんだ?」
「ゲッテンズ嬢は巻き込まれただけなのかも」
「あんなゲタゲタ笑っている下品な令嬢がか?」
「ええ。笑っているけど、彼女は泣いているのです。それは決して、表に見えなくても私には見えるのです」
「そうか。まあ。その件もお嬢様の判断次第だな」
「そうですか」
男爵令嬢ヒラリー・ゲッテンズの評判は地に落ちていて。
すぐに首を突っ込み、上から目線で見当違いのアドバイスをして悦に入る。
距離感の狂った気安いボディタッチで異性同性を問わず、近付く。
よろしくない評判しか聞かない。
それは彼女が本当に望んだものなの?
それとも強要されたもの?
「さてと次の調査対象を調べに行こうか」
「はい? 殿下絡みですか?」
「勿論。噂の大公閣下さ」
「ええええ」
まだ、案件が片付いていないのに次に調べるのが、大公閣下――アイアランド大公家当主シドニーであると聞いて、大声を上げずにいられなかった……。
短いようで長かった。
何よりも辛かったのは、何とも悍ましいモノが蠢く様を見続けないといけないことだ。
幸いなことに私の能力は見るだけであって。
離れた場所の声や音を聞くことはできないから、そちらの情報はハリー任せになる。
しかし、あくまで周囲に悟られないように動かないといけない。
放課後になるのを待って、ハリーと再び合流した。
「それで一体、何が見えたんだ?」
「それが……えっと、あのそれより、気になることがありまして」
聞きたかったのにずっと我慢していたのだ。
ハリーはウィステリア家に仕える家人であって、学園の生徒ではないはず。
それなのにしっかりと制服を着込んで、学生になりきっている。
むしろ、二年も通っている私より、馴染んでいるのでは?
そんな自然な振る舞いができている。
不思議で仕方なかった。
そんなどうでもいいことをと怒られそうだけど、気になって仕方がなかったのだ。
「ああ。これか? メリー。この学園の学園長、知ってるか?」
「勿論。ケリー・ウィステリア公爵閣下です。あっ……」
「そういうことだよ。学生一人がいつの間にか増えたり、減ったり。ちょちょいのちょいってな」
「それって、職権濫用では?」
「いいんだよ」
どこか諦めたような、悟りを得たような。
何とも言えない複雑な表情をしているハリーを見るとそれ以上、言えなかった。
暫くの間、ハリーは口を閉じたままだし、私も声を掛けづらくて、無言が続いた。
沈黙は金と言うけれど、軽く精神的な拷問を受けているみたいで居心地がよろしくない……。
「で何が見えたって?」
実際には五分も経ってなかったから、長く感じただけで短時間だったのだけど、永遠に続く責苦みたいで。
ハリーがそう切り出してくれたお陰で、そんな責苦は終わりを告げた。
私から、切り出せば良かったのかもしれない。
でも、勇気や度胸はどこかに置いてきたのでない……。
「え、えっと……それがゲッテンズ嬢以外の皆様が……その……あの……」
「何だよ? 歯切れの悪い言い方だな。はっきりと言っちゃいなよ」
「え、ええ。まるで化け物みたいと申しますか、その……」
「化け物ね? どんな感じなんだ?」
「鼻はこんな風に潰れていて。それで口は耳元まで裂けたみたいに大きくて。犬歯もやたらと鋭かったです」
実演を混ぜて、説明したのがまずかったのだろうか。
ハリーは口許を押さえて、笑いを堪えているようにしか見えない。
何で笑っているの? と問いかけるような強心臓ではないので、見なかったことにして続ける。
「目も白目の部分がなくて、虹彩だけでこんな風に吊り上がっていて……」
「分かった。もうそれくらいで勘弁してくれ。そうだな。こんな感じでこうか?」
笑うのを我慢するのが辛かったのか、ハリーは白旗を上げた。
そして、メモ代わりの小さな紙にさらさらと似顔絵を描き始めた。
あっという間に描き上げたにしては上手だった。
「どこかで見たような……」
「南アメリカにいる血を吸う蝙蝠に似てるな」
「そう言われると似てますね」
「だろ? そんな顔をした化け物か。まさか、あの第三王子がって、誰も信じないだろうな」
「でしょうね。殿下の評判は非常にいいですから。ハリーは何を聞いたのですか?」
「あんたが見た化け物面並みに衝撃的な内容だったよ。第二王子を蹴落として、お嬢様の婚約者に収まり、この国を支配する気でいやがった!」
ハリーは怒っている。
憎々し気に言い放った時の表情はあまりにも怖くて、別人かと思ったくらいだ。
そういえば、彼は人狼だった。
普段は抑えている狂気みたいなものがあるのだろうか。
「まあ、俺達の任務はあくまで証拠集めで情報をできるだけ、集めることだ。化け物もお嬢様がどういうヤツラなのか、調べてくれるだろうよ」
「そうですか。それと気になったのですが……」
「うん? なんだ?」
「ゲッテンズ嬢は巻き込まれただけなのかも」
「あんなゲタゲタ笑っている下品な令嬢がか?」
「ええ。笑っているけど、彼女は泣いているのです。それは決して、表に見えなくても私には見えるのです」
「そうか。まあ。その件もお嬢様の判断次第だな」
「そうですか」
男爵令嬢ヒラリー・ゲッテンズの評判は地に落ちていて。
すぐに首を突っ込み、上から目線で見当違いのアドバイスをして悦に入る。
距離感の狂った気安いボディタッチで異性同性を問わず、近付く。
よろしくない評判しか聞かない。
それは彼女が本当に望んだものなの?
それとも強要されたもの?
「さてと次の調査対象を調べに行こうか」
「はい? 殿下絡みですか?」
「勿論。噂の大公閣下さ」
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まだ、案件が片付いていないのに次に調べるのが、大公閣下――アイアランド大公家当主シドニーであると聞いて、大声を上げずにいられなかった……。
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