くろいやつのくろいつらつらですわ～

くろいゆきと映画の話・善きサマリア人

　皆様、ごきげんようですわ～。

　サブタイトルの善きサマリア人とは聖書の一節に出てくる例えなので耳にしたことがあるのではなくて？
　善行や信仰について、深く考えさせられるお話なのですわ。
　そのサマリア人の例えを感じさせるタイトルの公開されたばかりの最新映画『サマリタン』でしてよ。

　主演はシルベスター・スタローン。
　言わずと知れた伝説のアクション俳優ですわね。
　正義とは？　悪とは？
　それが一面性の考えに過ぎないものであると教えてくれる新たなヒーロー像をレジェンドが見事に演じ切ってますのよ。

　かつて人智を超えた力を持つ双子が誕生するが、力を持て余した双子は手に負えず、町の人々は二人を憎み始めますの。
　その結果、双子の家は襲撃され、火を付けられた実家は炎上。
　双子の両親が命を失うのですけど、元凶と言うべき双子は健在。

　そもそもスーパーパワーを持つ二人を相手に火をかけただけで殺せたかどうか、非常に怪しいのですけれど……。
　それから、時が経ち、双子の片割れは正義の心に目覚め、人々を守るヒーローになったのですわ。
　それが『サマリタン』。
　もう一人の双子『ネメシス』は両親を殺した者を許さず、サマリタンと対立することになり、何者にも倒されないサマリタンを倒す為に心血を注いで鍛造したハンマー(ちょっとソーのムジョルニアに似た雰囲気。でも、両手持ちでやや禍々しさのある両手鎚)を完成させますの。

　そして、発電所を舞台に運命の双子は最終決戦を行い、爆発に巻き込まれたサマリタンとネメシスはともに死んだと思われている……というのが二十五年前に起きた過去の出来事。
　オープニングで分かりやすい紙芝居風アニメで語られますのよ。
　最近のアメコミが原作の映画やホラーではこの手法が良く使われている気がしますけど、分かりやすいのが長所ですわ～！

　ヒーローであるサマリタンとその敵・ネメシスが死んだ町は平和になったかと言えば、そんなことはありませんの。
　貧富の差が激しく、ギャングが町を闊歩する治安が悪く、政情不安な町。
　その町で母親と暮らす十三歳の少年サムがこの『サマリタン』の主人公ですわ。
　彼ら母子も町の荒廃でもろに煽りを受けてますの。
　二人が暮らすアパートの大家からは毎月のように立ち退き請求をされており、働けど働けど我が暮らしは楽にはならずという暮らしぶりですわ。
　ヒーローのサマリタンに憧れを抱き、正義感が強いサムですけどそんな家の事情もあって、心ならずもギャングの片棒を担ぐことになってしまいますの。
　でも、持ち前の正義感と勇気の強さから、ギャングに追いかけられる羽目になり、絶体絶命の危機に！
　そんなサムの危機を見かけ、救いの手を差し伸べたのがサムの部屋の向かいに住む孤独な老人ジョー・スミス。
　武器を持ったギャング相手に全く、寄せ付けない強さを見せて、サムを救うのですけど……。
　サムはジョーの強さを見て、ジョーこそ、二十五年前に死んだはずのサマリタンであると確信して、ストーキングを始め、少年と孤独な老人の不思議な交流が始まりますの。

　師弟関係に近い親密さを見せていくサムとジョーですけれど、二人の会話の端々から、感じられるのは『彼は本当にサマリタンなのか？』という疑問ですわね。
　ジョーの記憶がフラッシュバックする際に現れる映像や二十五年前の話に触れた時の動揺の激しさ。
　何だか、察せられるものがありましてよ。
　そんな中、町のギャングのカリスマ的存在であり、ネメシスを信奉するサイラスは自らが新たな『ネメシス』となって、町を解放するという野望に憑りつかれ、実行に移すのですけど……。

　ここから先は是非、御自分の目で確かめていただきたいですわ。
　ヒーロー映画であるとされながらも実はヒーローではなく、ヒーローがいたという過去形ですのよ。
　いわば、ヒーロー物の世界が平和になって、それから……というあまり、描かれることがない世界観を描いている感じかしら？
　また、サムが信じている正義のヒーロー・サマリタンも一面的な見方で捉えられているだけ。
　サイラスのように不当に虐げられ、生きてきた階層の人々からは金持ちの味方をする嫌なヤツ。
　一方、復讐に囚われ、悪の存在と言われているネメシスが実は無差別に暴れているのではなく、本当に悪いヤツを排除しているだけでそれ以外は降りかかった火の粉を払っているに過ぎないと思われている点ですわね。
　この考えを持つのはサイラスだけではなく、同じように不当な立場にいる人々が抱いているようですわ。

　ではスタローン演じるジョー・スミスはどうかというとピンチのサムを助けたり、ギャングの仕掛けた爆弾から、小さな女の子を守ったりとまるでヒーローのようでしてよ。
　でも、ジョーは静かに暮らしたいだけで人とは関わりたくないと嘯くのですけど、サムは心を見透かしたかのように「本当は人が大好きなんだよね」という一言。
　さて、ジョー・スミスは死んだはずのヒーローなのかしら？
　それとも……はい、見るしかないですわ～！