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1 幸せなおとぎ話
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昔々、あるところに小さな国がありました。
かつて海洋国家として、世界に名を轟かせた小さな国です。
栄光の日々は既に過去のものとなり、今や斜陽化の一途をたどる小さな国です。
とても平和な国でした。
小さな国の辺境に黒渦の森と呼ばれる恐ろしい森がありました。
またの名を妖魔が集う森。
妖魔とは人に禍を為す魔物や魔獣のことです。
そんな妖魔が多く棲む暗く恐ろしい森でした。
そんな森にいつからでしょうか。
一人の女性が庵を結んだのは……。
人々は彼女が魔女に違いないと噂しました。
魔物を操る恐ろしい力を持っているのだと……。
魔女の庵では二人の少女が暮らしていました。
二人は魔女の双子の娘です。
姉のオディールは闇夜の空を映したような漆黒の髪。
妹のオデットは日輪の輝きを映したような黄金の髪。
二人の瞳は紫水晶を思わせる薄い紫色を宿し、白磁のような肌の整った顔立ちをしています。
母親である魔女を早くに失くした二人でしたが、互いを助け合い励まし合いながら、懸命に生きていました。
そう彼らが来るまでは……。
彼らは銀の剣を掲げると「邪悪なものどもを滅せよ」と森に押し寄せました。
森が焼かれ、罪のない動物が逃げまどいます。
何も知らずに庵で過ごしていたオデットに急を報せたのは姉のオディールでした。
「オデット。あなたは早く逃げなさい」
母親の形見である杖を手にしたオディールはオデットに七体のゴーレムを託すと自らは燃え盛る森へと消えました。
オデットも姉の後を追おうとしますが、炎の勢いはあまりに激しくままなりません。
後ろ髪を引かれながらもオデットは七体のゴーレムに守られ、森を抜けます。
しかし、森を抜けた先は荒れ果てた大地でした。
荒地もまた危険に満ちた地であり、オデットを守るべくゴーレムも一体。
また一体と数を減らしていきます。
最後の一体バッシュも倒れ、迫る凶悪な獣の牙を前にオデットがまさに命の危機を迎えたその時です。
「お嬢さん、大丈夫ですか?」
白銀の刃を振るい、オデットを狙う獣を追い払ったのは偶々、荒地を旅していたとある国の王子ジークだったのです。
寄る辺のないオデットはジークと共に旅をすることになりました。
ジークは王子であることを隠し、自由気ままな風来の旅人生活を楽しんでいたのです。
オデットと出会い、彼女に心惹かれたジークは故国へ戻る決心を固めます。
旅を続ける中、互いに惹かれ合うオデットとジーク。
二人に様々な障害が襲い掛かりました。
そして、ジークが瀕死の重傷を負ってしまうのです。
姉オディールと七体のゴーレムの死。
今や大事な人となっていたジークの消えゆく命。
その時、オデットの中に眠っていた力がついに目を覚ましました。
白の聖女として、覚醒したオデットは癒しの力でジークを救ったのです。
こうしてオデットは祝福される花嫁となりました。
王太子妃となったオデットはいつまでも幸せに暮らしましたとさ。
(ねえ? 誰か、忘れているよね?)
アメジスト色の瞳が収まった猫目に憤懣やるかたない不満と憤りの色を浮かべ、握り拳に力を込める少女がいた。
彼女の髪は若々しい容貌には似合わない色をしている。
ホワイトシルバーというよりも白髪に近かった。
髪と顔を隠そうとするかのように深くフードを被っていた。
フードが付いた深紅のケープマントはあまりにも目立つ。
整った容貌よりもそちらに目が行くのだ。
彼女の拳で握りつぶされていたのは一枚の紙切れだった。
そこには幸薄い孤児の少女が苦難の果てに掴んだ幸福な結婚式の模様が仔細に描かれていた。
『お姉ちゃんが……オディールが助けてくれたから』
遠く離れた国の出来事である。
平民出身の王太子妃がそれだけ珍しかったからに他ならない。
くしゃくしゃになった紙切れを腹立たし気に放り捨てると少女は雑踏の中に消えた。
かつて海洋国家として、世界に名を轟かせた小さな国です。
栄光の日々は既に過去のものとなり、今や斜陽化の一途をたどる小さな国です。
とても平和な国でした。
小さな国の辺境に黒渦の森と呼ばれる恐ろしい森がありました。
またの名を妖魔が集う森。
妖魔とは人に禍を為す魔物や魔獣のことです。
そんな妖魔が多く棲む暗く恐ろしい森でした。
そんな森にいつからでしょうか。
一人の女性が庵を結んだのは……。
人々は彼女が魔女に違いないと噂しました。
魔物を操る恐ろしい力を持っているのだと……。
魔女の庵では二人の少女が暮らしていました。
二人は魔女の双子の娘です。
姉のオディールは闇夜の空を映したような漆黒の髪。
妹のオデットは日輪の輝きを映したような黄金の髪。
二人の瞳は紫水晶を思わせる薄い紫色を宿し、白磁のような肌の整った顔立ちをしています。
母親である魔女を早くに失くした二人でしたが、互いを助け合い励まし合いながら、懸命に生きていました。
そう彼らが来るまでは……。
彼らは銀の剣を掲げると「邪悪なものどもを滅せよ」と森に押し寄せました。
森が焼かれ、罪のない動物が逃げまどいます。
何も知らずに庵で過ごしていたオデットに急を報せたのは姉のオディールでした。
「オデット。あなたは早く逃げなさい」
母親の形見である杖を手にしたオディールはオデットに七体のゴーレムを託すと自らは燃え盛る森へと消えました。
オデットも姉の後を追おうとしますが、炎の勢いはあまりに激しくままなりません。
後ろ髪を引かれながらもオデットは七体のゴーレムに守られ、森を抜けます。
しかし、森を抜けた先は荒れ果てた大地でした。
荒地もまた危険に満ちた地であり、オデットを守るべくゴーレムも一体。
また一体と数を減らしていきます。
最後の一体バッシュも倒れ、迫る凶悪な獣の牙を前にオデットがまさに命の危機を迎えたその時です。
「お嬢さん、大丈夫ですか?」
白銀の刃を振るい、オデットを狙う獣を追い払ったのは偶々、荒地を旅していたとある国の王子ジークだったのです。
寄る辺のないオデットはジークと共に旅をすることになりました。
ジークは王子であることを隠し、自由気ままな風来の旅人生活を楽しんでいたのです。
オデットと出会い、彼女に心惹かれたジークは故国へ戻る決心を固めます。
旅を続ける中、互いに惹かれ合うオデットとジーク。
二人に様々な障害が襲い掛かりました。
そして、ジークが瀕死の重傷を負ってしまうのです。
姉オディールと七体のゴーレムの死。
今や大事な人となっていたジークの消えゆく命。
その時、オデットの中に眠っていた力がついに目を覚ましました。
白の聖女として、覚醒したオデットは癒しの力でジークを救ったのです。
こうしてオデットは祝福される花嫁となりました。
王太子妃となったオデットはいつまでも幸せに暮らしましたとさ。
(ねえ? 誰か、忘れているよね?)
アメジスト色の瞳が収まった猫目に憤懣やるかたない不満と憤りの色を浮かべ、握り拳に力を込める少女がいた。
彼女の髪は若々しい容貌には似合わない色をしている。
ホワイトシルバーというよりも白髪に近かった。
髪と顔を隠そうとするかのように深くフードを被っていた。
フードが付いた深紅のケープマントはあまりにも目立つ。
整った容貌よりもそちらに目が行くのだ。
彼女の拳で握りつぶされていたのは一枚の紙切れだった。
そこには幸薄い孤児の少女が苦難の果てに掴んだ幸福な結婚式の模様が仔細に描かれていた。
『お姉ちゃんが……オディールが助けてくれたから』
遠く離れた国の出来事である。
平民出身の王太子妃がそれだけ珍しかったからに他ならない。
くしゃくしゃになった紙切れを腹立たし気に放り捨てると少女は雑踏の中に消えた。
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