上 下
24 / 24

24 死霊の街

しおりを挟む
 一路エヴラへ。
 リジュボーの東にある古い歴史を持つ街。
 斜陽の街。
 寒村とまではいかないまでも今は相当に寂れているという話だ。
 森にいた頃よりもフェンネルで暮らし始めてから、斜陽に拍車がかかったと風の噂で聞いた。
 遠い島にまで噂が届くくらいだから、覚悟した方がいいかもしれない……。

 それでもリジュボーから定期的な乗合馬車が運行されているだけましだ。
 移動手段には事欠かないのだから。
 あまり快適とは言えない馬車の旅だけど、五日ほど我慢すれば着く。
 街道がそれほど整備されていないので、お尻と体の痛みとも戦わなければいけない。
 道中にある中継地点も宿場町とはとても言えない寂れた村落だった。
 旅の厳しさを知るいい機会と経験を与えてくれたと感謝してもいい。
 ただし、これはあくまで庶民の旅。
 王子様がしていいものかと聞かれたら、返答に困ってしまう。

 クリスティアーノは本当に変わった王子様だ。
 わざわざ苦労することが分かっている乗合馬車で行こうと考える王子。
 世界広しといえどもまずいないんじゃないだろうか。

「どうかしたかな?」
「いえ、何でも……ないです」

 しかも彼はこの旅をそれほど苦痛に思っていない。
 のんびりと景色を楽しむ余裕まであって、痛みとも無縁の涼しい顔をしているのは一体どういうことなの?
 わたしの方があちこち痛くて、辛いんだけど……。

 その遠因になっているのが隣の席に座っているオリヴェルだ。
 ノンストップなクワクワ喋りを繰り広げられるんだから、聞いているのも楽じゃない。
 彼のお喋りが単なるお喋りだったら、そうでもなかったと思う。
 妙に考えなくてはいけない重い話をしてくれやがるせいだから、余計に疲れるんだよ。
 このアヒルがっ!
 とは口が裂けても言えない。

「棘の付いたところがお星様みたいだから、明けの明星……モルゲンシュテルンでいいんじゃない?」
「クワッ! かっくわいい。それに決めた」

 彼は自分が使うトゲトゲ付き鉄球と鎖を合わせた流星錘もどきの武器にどうしても名前を付けたかったのだ。
 それでわたしを巻き込んだ。
 ほぼ一日中、横でぶつぶつくわくわと呟かれる身にもなって欲しい。
 納得してくれたから、この話も終わりってことでようやく人心地がつける……。

「…………」

 なるほど。
 出立前はわたしを疑っているのか、やる気に満ちていた護衛騎士のギャレスがまさか、車酔いする人だった。
 意外である。
 わたしが船酔いして、車酔いするのは分かる。
 でも、彼は騎士。
 体を鍛えていて、馬に乗れるのに酔いの症状はわたしよりも酷い。
 クリスティアーノとオリヴェルは全く酔わないで元気そのもの。
 わたしとギャレスは吐き気と痛みで体力を削られている。
 変なところでシンパシーを感じたのか、距離が少しだけ縮まった気がする。
 言葉こそ交わさないものの向けられる視線から、敵愾心が薄れているようだ。

 実に辛い旅だったけど、どうにか終わる……。


 
「思っていた以上に荒れているな」
「これも死霊の仕業でしょうか」

 寂れたどころか、荒れ果てて人影すらないエヴラの古い町並みを実地検分さながらの様子で事細かに観察する皇子と騎士は素人目にも実に手馴れている。
 実地検分?
 そんな言葉はこの世界になかった。
 事件や事故が起きた場合、捜査を行うのは騎士団や自警団であまり、信用できるものじゃなかった。
 薄れていく前世の記憶にあったものだけど、実際に見たことはないから合っているのかも分からない。
 そんなものだろうと薄ら、考えてしまう。

「ラビー、何かいるのくわ?」
「いるわね。そこにもここにもあそこにも。でも……」

 オリヴェルは聞かなければよかったと後悔しているみたい。
 でも、視えているモノはまだいいのだ。
 わたしが口を噤んだのには理由がある。
 視えていないモノが気になる。
 それも生半可の数ではない。
 わたし達は完全に囲まれている状況に追い込まれている……。

 車酔いで体調が芳しくなかったから、察知するのが遅れたせいだろうか。
 それだけとは思えない最悪の状況。
 それに何か、違うモノも感じる。
 この気配、フェンネルでクリスティアーノと出会った時に出てきたアレじゃないの!?
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(3件)

やっちゃん
2024.02.26 やっちゃん

投票しました!
3ヶ月ぶりのアルファ入国です。
投票できてよかった( ´›ω‹`)
応援してます!!!
取り敢えず叫びます☆
アヒルさん〜(*´艸`*)

黒幸
2024.03.02 黒幸

やっちゃん様、お久しぶりです!おかえりなさい!
私も先々月、一月はほぼなーにもしておらず、二月は二月で毎日更新しようとしてややできず!となりました(´・ω・`)
アヒルさんはあいるびーばっくで戻ってまいりました!
一応、彼らは種族としている世界設定になったのです。
これからはアヒル使い放題!?

解除
歌川ピロシキ

カクヨムコンでバタバタしていたので今になって2話目拝読してます。
「白鳥の湖」からいきなりアヴィス王家建国秘話になってびっくり。
オディールのお話はこちらで続くのかな?

黒幸
2024.02.10 黒幸

歌川先生、カクヨムコンお疲れ様でした。
Xの方で拝見しましたが何か、妙な騒動に巻き込まれたというか、変な人はどこにでもいるものだなぁと……。
「白鳥の湖」と思わせてからの急展開です。
でも、この王朝の話はあったこととないことを混ぜているので某大航海の時代ゲームの主人公が王様になっちゃっているお話だったりします(´・ω・`)
ゲームでは主人公が公爵になって、お姫様は公爵夫人なのでここはいじっているのです。
黒鳥のオディールは意外な形で妙なところから、再スタートします!

解除
ノコノコ
2024.02.06 ノコノコ

双子の妹のオデットは、もう登場しないのですか。心清い聖女になったのに姉のことは心配じゃないのかな。

物語が動き始めましたね。ラヴィニアの活躍が楽しみです。この王子とどう関わっていくのかしら。

黒幸
2024.02.07 黒幸

白の聖女と呼ばれ、シンデレラストーリーを体現したオデット。
彼女は双子の姉が自分を逃がす為に死んだと思っているようです。
普通であれば、とても助からない酷い火災だったからも大きいですね。
彼女が王太子妃となった国が地理的に離れているのでシンデレラストーリーは珍しいことなので報じられていますが、森の大火災も被害の大きさは伝えられても生存者がいたかどうかなど細かいことは伝わっていないのです。

そして、聖女は必ずしも心が清い訳ではなかったりします。
オデットは姉目線でヒロイン然としているとひいき目に見ているとも言います。

解除
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

チートなタブレットを持って快適異世界生活

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:768pt お気に入り:14,313

婚約破棄されないまま正妃になってしまった令嬢

恋愛 / 完結 24h.ポイント:603pt お気に入り:2,913

【完結】契約妻の小さな復讐

恋愛 / 完結 24h.ポイント:844pt お気に入り:5,874

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。